「私の推測、驚くほど當たってしまったみたい」

ミネルバはおどけたような口調で困った顔をしてみせた。

「ごめんなさい兄さまたち。フィルバートのあの様子だと、やっかいな事態になってしまうかもしれない」

をゆがめ、目に怒りをたぎらせていたフィルバートの顔が思い出される。あの表は悪い兆しだ。きっと仕返しをたくらんでいるに違いない。

でもこっちだって、さすがに腹に據えかねた。

フィルバートの思いつきには何度も傷つけられてきたけれど、あの提案はこれまででも一二を爭うひどさだ。絶対に許されるものではない。

「気にするなミネルバ。いや、実に爽快だった」

ジャスティンがにやりと笑う。

「ルーファス様ばりの正論だったぞ。聞いていてすっきりしたし、場を完全に掌握していたな。本當に見事だった、私はお前を誇りに思う」

「ジャスティン兄さんの言う通りだ。お前に比べて、フィルバートは馬鹿を曬しただけだったな。『我がアシュランは自國の文化に誇りを持っている』だったか？　あれは傑作だった、文化を率先して壊しているのはセリカだろうに！」

マーカスが腹を抱えて笑い出す。

コリンが笑みを浮かべながらうなずいた。

「セリカは『郷にっては郷に従え』という言葉を知らないみたいだからね。どんな世界で育ったのかは知らないが、自分の文化が何よりも優れていると思っているらしい。ミネルバが斷った以上、フィルバートは他の教育係を探すしかないが──誰を連れてきても、あのを淑に変させるなんて奇跡はまず起こせないさ」

ジャスティンが意地の悪そうな顔でふんと鼻を鳴らす。

「二、三日で辭めていった教師たちをいくら口止めしても、セリカの異常さはれ伝わるだろう。どれだけ金を積んでも次は見つからないに決まっている。あのをたしなめたり、自制することを教えるのは命がけだ。誰がそんな無駄で無鉄砲なことをしたいものか」

ミネルバは深く息を吸った。よく３か月も教育係ができたものだと、いまさらながらに思う。ミネルバだって、もうしで心の健康を害するところだった。

「一度は切って捨てた私に、再び教育係を頼むだなんて。単に切迫しているだけなのか、それともセリカが主張した『め』が事実無だと気づいたのか……まあ、いまとなってはどうでもいいけれど。どのみちフィルバートは『謝』とか『謝罪』という言葉を知らないんだし」

ミネルバは小さく肩を回した。こんなに肩が軽くなったのは生まれて初めてと思うくらいに、心ももすっきりしていた。

コリンが「さて」と気を取り直したような聲を出す。

「そろそろ移しよう。あの頭の空っぽなフィルバートが仕返しをしに來る前に、ミネルバを危険から遠ざけておかなくちゃ。あの馬鹿男の事だから、次はかなりの頭數をそろえて脅しに來るだろうからね」

ジャスティンの表が和らいだ。

「そうだな。ルーファス様からも、しかと言いつけられていることだし。マーカス、お前がミネルバを連れて走れ。私とコリンはいったん屋敷に戻る。父上と母上に事を説明する必要があるし、あの例の鳥でルーファス様に連絡しなければならないからな」

ミネルバは思わず首をひねった。

「走るって……どこへ？　距離的にグレイリングということはないだろうし……うちの領地は王都のすぐ近くだけど……」

マーカスが肩を揺らして豪快に笑う。

「急に察しが悪くなったじゃないかミネルバ。國にひとつあるだろう、アシュランでありながらアシュランではない場所が！」

數秒考えて、ミネルバははっとした

「グレイリング帝國の大使館……っ！　でもあそこは治外法権で、大使館の責任者の許可がなければ、アシュランの人間は立ちることができないはず……もしかして、ルーファス様が？」

「正解だ。ルーファス様が我が家を訪れた際に、俺たち３人に許可証をくださったんだ。俺たちはミネルバの兄であると同時に護衛だからな。あのお方は、フィルバートとセリカはもちろん國王夫妻も信用していない。お前にしでも危害が及ぶ可能があれば、すぐに駆け込めと指示をけた。もちろん、大使館側にも指示が通っているらしい」

「そうだったの……」

ミネルバの心の中に、なんとも言えない甘い覚が広がっていく。

唐突な求婚をけたあの日、ミネルバは神狀態が不安定だった。だからルーファスは兄たちにだけ指示を殘したのだろう。

ルーファスの思慮深さと気配りに、ミネルバは改めてを味わった。必ず助けになる、守ってやるという彼の言葉を思い出す。

ミネルバは両手でを抑えた。

ルーファスが耳元で「厚かましいかもしれないなんて遠慮せずに、堂々と私を頼れ」と言ってくれた気がした。