四人が椅子に座ると、侍がお茶をテーブルに置いてくれた。

ミネルバとマーカスは、フィルバートからの接と彼が持ってきた提案について代わる代わる説明した。

ミネルバがフィルバートをやり込めた経緯、側近の前で面子を潰されたフィルバートが殘した捨て臺詞。それらを聞いたニコラスは片手を頬に當て、人差し指でとんとんと叩く。

「なんともまあ。火に油を注いで扇であおぐような男ですね」

シーリアが戦慄を覚えたように、両手で自分を抱きしめる仕草をする。

「本當にが悪くなるわ。あの王太子、考え方がとことん下品で卑しいのね。さすがのルーファス殿下も、我慢の限界を超えちゃうかも」

マーカスがうなずき、の上で両手の指を組み合わせた。

「この件に関しては、いったん屋敷に戻った長兄ジャスティンと弟のコリンが、ハルムを飛ばしてルーファス殿下に報告書を送ったはずです。その他にもうひとつ、ご報告しておきたいことがございます」

マーカスはよどみない口調で、セリカに『祝福』の力が発現したらしいことを伝えた。

「降臨の地で奇跡ですか。ふうむ、１年もたってからねえ……」

ニコラスの目がきらりとる。

「さっそく調べてみましょう。いや、私は異世界人の研究もしておりまして。アシュランに赴任することになって研究がはかどると期待していたんですが、あのセリカという人はどうも……聖と言うより、金目當ての無能にしか思えなかったんですよねえ。しかし王太子がそこまで言うからには、何らかの祝福が発現した可能はありますね」

の端をし上げて笑い、ニコラスが言葉を続ける。

「私が調べた限り、王太子の前に現れたセリカがに著けていた類や持ちは、たしかにこの世界のではありませんでした。異世界人特有の言や行も見けられる。しかしまともな王族なら、あの娘を妻にしようだなんて思うはずがありません」

ニコラスは緑の目を輝かせ、穏やかながらも斷定的な口調で言った。

「そもそも異世界人を取り込むのに『婚姻』は悪手です。過激な思想の持ち主かもしれませんし、何らかの力を使って王族をろうと目論んでいる可能もある。有益なものは取りれるにしても、しっかりとした調査研究がなされてからでないと。異世界人の能力をフル活用するためには、彼らの働きに報いる組織制や報酬制度が必要なんですよ」

ニコラスの言葉に銘を覚えたことを、ミネルバは素直に顔に出した。グレイリングほどの大國ともなると、異世界人の奇跡の力を抜け目なく利用しつつ、國家の品格を守る考え方が付いているらしい。

「さて、私は仕事に取りかかるとしましょうか。この公邸に、バートネット公爵家の皆さんのための部屋を用意してあります。シーリア、君がミネルバ嬢を案してあげてくださいね」

シーリアがにっこり笑って「はい」と答え、ミネルバを見てうなずいた。彼の表や作の端々からは、明るく親しみやすい格がうかがえる。

ニコラスが目を細めて、マーカスに視線を向けた。

「マーカス殿。よかったら、うちの兵士たちにの稽古をつけてやってくれませんか。王太子の懐刀、並み外れて優秀な側近三兄弟……それはもう過去の話とはなりましたが、勇猛で聞こえたマーカス殿と手合わせがしたいと、兵士たちがうずうずしておりまして」

「栄です。こちらこそ、を借りるつもりで挑戦させていただきます」

マーカスが禮儀正しく、でも興を隠しきれない顔で応じる。

壁にってから見かけた兵士たちは、フィルバートの新しい側近とは比べにならないほど強そうだった。正式な訓練から遠ざかっているマーカスが、わくわくするのも當然だ。

「じゃあミネルバさん、私たちは行きましょうか。ずっと乗馬服では落ち著かないでしょうし、著替えを済ませたら公邸を案するわ。服はひととおり揃えてあるから、遠慮なく使ってね」

シーリアが片方の手を大きなお腹に、もう片方の手を腰に當ててゆっくり立ち上がる。

ニコラスに一禮してから、ミネルバも立ち上がった。

「ありがとうございますシーリア様。とても親切にしていただいて、深く謝申し上げます」

「いいのよ。ここには同年代のお友達がいなくてつまらなかったの。だから、ミネルバさんがお友達になってくれたら嬉しいわ！」

明るく笑うシーリアに促され、ミネルバは廊下に出た。

「あなたたちの馬は、うちの職員がしっかり面倒を見ているから。あとで廄舎も案するわね。そうだ、自慢の図書室も見てもらわなきゃ。ミネルバさんはきっと気にると思うわ」

シーリアに案され、大使公邸の３階にあるらしい客室に向かう。

部屋の前では、ひとりのが待ち構えていた。格式のある白い制服姿の侍が、ミネルバたちを見て深々と頭を下げる。シーリアが大きくうなずいた。

「紹介するわね、ミネルバさん専屬の侍のリーザよ。細々としたことは遠慮なく、彼にお願いしてね」

「リーザです。はじめましてミネルバ様」

賢そうな顔立ちのリーザの挨拶に、ミネルバは微笑んだ。

「會えてうれしいわ、リーザ。どうぞよろしくね」

リーザが客室の扉を開く。広々とした部屋は豪華なしつらえで、居心地のいい雰囲気で満たされていた。