《婚約破棄された崖っぷち令嬢は、帝國の皇弟殿下と結ばれる【書籍化&コミカライズ】》1.王宮到著
ルーファスの率いる一団は爽快に馬を飛ばして、丘陵地から平地へと一気に駆け抜けた。
ミネルバもしっかりと手綱を握りしめて馬を駆った。隣ではルーファスの黒い牡馬が力強い走りを見せている。
(いまごろフィルバートは最初の面談で、私を引き渡すよう求めているかしら。アシュランの王太子たる自分には斷固とした権利があると、あざけるように言い放っている姿が目に浮かぶわ)
落とし格子の下を走り抜け、大使館関連の施設をぐるりと囲む壁の外に出る。目指すは國王夫妻が暮らす王宮東翼だ。
隊列を組んだ馬の蹄が規則正しいリズムを刻む。
ミネルバの前を走る黒い制服姿の人々は、みなルーファスの部下であり一流の騎士でもあるらしい。10人ほどの男たちの中には、以前バートネット公爵家の屋敷に贈りを屆けてくれた、穏やかな容貌のジェム・キャンベルの姿もあった。
(お父様とお母様は別の場所へ避難したから、何も心配することはない。とにかく時間との戦いだから、足手まといにならないようにしなくては)
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一団はかなり速いペースで平原を駆け抜けた。
ルーファスの鋭部隊の馬たちは、乗り手と同じように真っ黒でたくましい。
ミネルバの父がを持って育てた白のエディと兄たちの馬も、彼らにまったく引けを取らない強くしい足運びだ。
(今朝がたセリカが向かった『降臨の地』は、王都のほど近くのレノックス男爵領。のどかで小さな村だけど……)
レノックス男爵と言えば、セリカが元メイドのリリィを養にするよう頼んだ相手だ。
(どうして頻繁に降臨の地に行く必要があるのか……気にかかるけれど、そちらはニコラス様の部下が調べてくださることになっている。まずは國王様と王妃様の現狀を確認しないと)
王宮までの道を進んでいく中、ミネルバはの中で王妃オリヴィアの顔を思い浮かべた。
7歳で初めて會ったときにはもう、彼の金の髪には白髪がまじっていた。それでものつやはよく、娘時代に幾多の詩に歌われたという貌は十分に保たれていた。
細で小柄ながら、王妃としての誇りと気品が漂う腰。溫かく親切な人柄。オリヴィアがらかくほっそりした手を差し出してくれたとき、ミネルバは彼のことが大好きになった。
オリヴィアはいつもミネルバを労り、あれこれと配慮してくれた。
フィルバートは『ばあさまはなのに、理路整然としすぎていて息が詰まる』などと言っていたけれど。王妃としての役割を自覚し、それを立派にこなすオリヴィアは尊敬に値するだった。
(オリヴィア様は、王宮から見える星の名前を教えてくださった。王宮の庭に生い茂る植の名前もすべてご存じだった……)
當代隨一の學識のある教師たちは、ミネルバに未來の王妃として欠かせない知識を授けてくれたけれど。
オリヴィアが教えてくれた心をかにする雑學こそが、ミネルバの10年間を支えてくれたような気がする。正直なことを言えば、彼に會うことだけが楽しみで王宮に通っていたようなものだった。
(フィルバートを溺するあまり、あれだけ悪しざまに言っていたセリカをけれ、私に対する理不盡な行いを許したのだと思っていたけれど……)
自分はこれから、どんな現実を見ることになるのだろう。それを思うとがどきどきする。
(もうすぐ王宮の城壁が見えてくるはず)
ミネルバは注意深く前方を確認した。
前を走るルーファスの部下たちの中に、十五歳くらいの年が混じっている。
金髪と赤の混じった、いわゆるストロベリーブロンドの髪を風になびかせている彼は、ニコラスと同じく異世界人の能力を研究している『専門家』であるらしい。
ロアンと名乗った彼の姿を正面から見たとき、ミネルバはしばかり驚いた。
たちのあこがれの的になりそうな、まるでおとぎ話の王子様のようなしい顔立ちのせいでもある。そしてロアンの瞳が、左が青で右が赤だったせいでもあった。
もちろん驚きを顔に出したりはしなかったが、ただでさえ珍しいオッドアイでも、こんなの組み合わせは見たことも聞いたこともなかった。
前方に石の城壁と、壯麗な王宮が浮かび上がってきた。
一行はほとんど速度を落とさないまま、出口を守っている守衛小屋の前までやってきた。守衛の兵士たちが飛び出してくる。
「ルーファス・ヴァレンタイン・グレイリング皇弟殿下が、アシュラン國王夫妻との面談をご所だ。すみやかに門を開けよ!」
馬上からジェム・キャンベルが聲を張り上げた。
守衛たちはルーファスの予期せぬ到來に、一歩、二歩とあとずさりした。しかし彼の不興を買ったらただではすまされない。
急いで門が開かれ、一行を通すために守衛たちが両側に並ぶ。ミネルバの姿に気が付いた數人が、大きく目を見開いた。
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