「この世界の自然から生まれたトパーズが、ミネルバの味方になってくれる。この指に神が宿っていると信じるんだ。まずは、手を前に出して」

「は、はい」

ミネルバは言われた通りに左手を突き出した。ルーファスが真後ろに移し、寄り添うように立つ。

「ミネルバが安心できるよう、私が支える」

そう言ってルーファスは後ろから手をばし、下からすくうようにミネルバの手首をぎゅっと握りしめた。

（み、著しているせいで、じゅうが熱くじる。まるでの中で、熱い火花が散っているみたい……）

ミネルバはがこわばるのをじた。

ルーファスとこれほどぴったりとをれ合わせたのは、あのお茶會の日に抱きかかえられて以來だ。

筋質で引き締まった彼のを意識せずにはいられない。心臓が早鐘を打ち、どきどきする音が聞こえる気がする。

「まずは、セリカの魔力を思い出して。あのどす黒い、ねっとりした影のような……東翼に隠されているものからは、あれと同じ悪意が発せられているはずだ。だが、むき出しの悪意ではない。ひとつひとつは恐らく、小さな波紋のようなものだろう」

耳に息がかかるほど近くから、ルーファスの深みのある男らしい聲が染み込んでくる。

「怖がらないで大丈夫だ。君はたったひとりで立ち向かっているんじゃない。私たちは異世界人ではないけれど、それぞれに力を授けられている。ひとつひとつは小さくても、集まれば強い。私たちは互いに忠実で、偽りのない仲間だ」

後ろでルーファスが微笑む気配をじた。

「私はその指に『どんなときでもミネルバを守ってくれ』という強い願いをこめた。かつての持ち主だった私の母や祖母も、君を守ってくれるはずだ」

ミネルバは自分の左手を見つめた。ルーファスの大きな手からびる、し骨ばった長い指が視界にる。守られている、包まれているという気持ちで満たされて、心臓のきが落ち著いてきた。

まだルーファスとダンスを踴ったことはないけれど、彼にリードされたらすばらしく上手に踴れる気がする。中をで満たされて、自分に自信を持つことができるに違いない。

視界の端で、ロアンが固唾をのんで見守っている。その姿が可らしくて、いっそう穏やかな気分になった。

「頭の中でじたこと、わかったことは記憶しておいてもいいし、すぐに口にしてもいい。ミネルバのやりやすい方でいいから」

「はい」

「それでは指を真っすぐに見つめて、意識を集中させてみよう。すべてのが、ロアンのときのように派手な反応を返すわけではない。いつもの自分のやり方で大丈夫だ」

ミネルバはを引き結んだ。そして、やらなければならないことだけに意識を集中する。

赤みの強い、大粒のトパーズがきらりとった気がした。見間違いかと思ったが、トパーズは再びを放った。それは心が溫かくなるような橙のだった。

やがては玉となり、繋がっているミネルバとルーファスの左手を包み込む。ミネルバは呆然として、明るさを増していくの玉を見つめた。

「初めてで、これほど大きな反応が返ってくるとは……」

ルーファスの驚いたような聲が耳をくすぐる。しくまばゆいを放つ指に、ミネルバは心を開いて呼びかけた。

（セリカが隠したものがどこにあるのか知りたいの。この世界に危険を及ぼすものを、すべて取り除きたい）

まばゆいの玉が回転を始める。ミネルバは自分の中に、いままでじたことのない力が湧き上がるのをじた。

全に鳥が立ち、うなじがざわつく。も心も揺さぶられるような衝撃が襲ってきた次の瞬間、視覚的には見えないはずのものがミネルバには『見えて』いた。

意識がシャンパンのコルク栓のように飛び出し、部屋の壁をすり抜けていく。信じられないスピードで、王宮東翼のさまざまな場所を通過する。

いまの東翼は活気に満ちていた。聲や音が聞こえないので詳しいことはわからないが、國王夫妻の健康狀態が改善したことを喜んでいる様子だ。

使用人たちは誰もが笑みを浮かべて、元気よく仕事を片付けている。

（あそこから何かをじる……）

ミネルバの意識がリネン室に引き寄せられた。

小奇麗な紺のスカートとブラウスを著て、室帽で髪を覆った若い娘がいる。彼はまぶしいほど白いシーツやタオルを棚にしまっていた。

ミネルバは間違いなく邪悪な気配をじ取った。さらに意識を研ぎ澄ませて、忌まわしいのありかを探す。

「ひとつ目を見つけました。リネン室、右端の棚の裏」

ひとつ見つけたことで、セリカの力に波長を合わせる方法を覚えた。ミネルバの意識は次の場所へと駆けだした。

導かれるように飛び込んだのは、三方が書架に囲まれた部屋だ。膨大な數の本が収められている。

「ふたつ目、オリヴィア様専用の図書室。真ん中の棚の上から三段目、ランズダウン侯爵から進呈された詩集に挾まれています」

猛スピードで白い大理石の廊下を抜けたら、東翼の使用人たちがプライベートで使っているエリアに出た。

一番手前にある部屋から、自分を引き寄せる力をじた。大きなマホガニー製の機の上に郵便の山ができている。でっぷりと太った中年男が、うんざりした顔で郵便の仕分けをしていた。

「みっつ目、使用人區畫のメール室。機の天板の裏にりつけてあります」

あまりにも目まぐるしく風景が変わるので、途中で何かを考えるゆとりはまったくなかった。ミネルバはそれからしばらくの間、セリカが殘していったのありかを探し出すことに沒頭した。