《婚約破棄された崖っぷち令嬢は、帝國の皇弟殿下と結ばれる【書籍化&コミカライズ】》5.守りの結界

遠ざかっていくジャスティンの歩調は力強く優雅で、落ち著き払っている。ルーファスのおかげで、いつもの自制心に満ちたジャスティンが戻ってきたようだ。

「念のため、護の結界を與えておこう」

ルーファスが小さくつぶやき、腰につけている小さな鞄から艶やかな翡翠を引っ張り出した。

ミネルバははっと息をのんで固まった。

翡翠から現出した白い霧が形をす。波打ち、広がって、三つの小さなが浮かび上がった。

ルーファスの手のひと振りで、小さなのひとつがジャスティンの背中めがけて飛んでいく。長兄の背中に合わさったを放ち、すうっと吸い込まれるように消えていった。

「次はミネルバに。フィルバートが元に抱えているセリカの護符がどんな働きをするか分からない以上、防護する結界が必要だ。必ず君を守る、絶対に傷つけないと約束したからな」

ルーファスの手がミネルバの手を握りしめる。

彼が反対の手をくるりとひねると、白いがミネルバのお腹にり付いた。それは真っ白なを放ち、あっという間に消えてしまった。

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空中に浮かんでいた最後のも、ルーファスの元へと吸収されていった。

すべてのきがあまりにも素早く、ミネルバは見逃さないようにするだけで一杯だった。

「すごく……溫かなじがします。言葉にできないくらいの安堵がの中で渦巻いて……ああルーファス様、本當にありがとうございます……」

ジャスティンに守りを與えてくれたことが、ミネルバは自分のこと以上に嬉しかった。同時にルーファスの調が心配になる。異世界人とは違って、特殊能力を使うとかなり力を消耗してしまうのだ。

ルーファスはミネルバの心を読んだかのように微笑んだ。

「何も気にすることはない。國王夫妻のときと違って、力をすべて解放したわけではないから。とはいえロアンが戻ってくるまではを守ってくれる、その點に関しては安心してくれ」

ルーファスは力強く言って、ミネルバの手を引っ張った。

「ジャスティンは私をしてくれるの家族で、もうすぐ私の家族にもなるんだ。そんな男を危険にさらすわけにはいかないからな。さあミネルバ、私たちも行こう」

「はい!」

ミネルバは空いている手でドレスの裾を持ち上げた。ルーファスはミネルバを気遣い、高いヒールを履いた足がもつれない速さで歩いてくれる。

廊下の角を曲がると、豪華な裝飾が施された扉の前にジャスティンが立っていた。彼は深呼吸をするように肩を上下にかしている。

にいるはずのフィルバートや二名の側近は、扉の外のジャスティンの気配に気づいていないようだ。

厳重な検査と荷検査をけている彼らは丸腰のはずだが、武と一緒に警戒心も捨ててしまったのだろうか。フィルバートのお喋りがいくらうるさくても、兄たちならば絶対に気づいたに違いない。

ジャスティンが小さく振り返った。まだし離れた場所にいるミネルバとルーファスは、同時にうなずいてみせた。

もう一度肩を上下させて、ジャスティンが扉に手をばす。そして次の瞬間、彼は発させた。扉を大きく開き、のようなうなりを上げる。

を低くしたジャスティンがフィルバートめがけて突進し、勢いよく當たりを食らわせた。折り重なるように倒れ込む二人の姿が、ミネルバにもはっきり見えた。

「うう、い、いい、痛いっ! な、なんだ、何が起こったんだっ!」

椅子もろとも床に叩きつけられたフィルバートが、混したび聲をあげた。

「すっかりが下手になられたようだ。この一年、の稽古をさぼっておいででしたか?」

「お、お前、お前は──……っ」

フィルバートの聲が凍り付いた。自分の上に馬乗りになっている男の顔が、聲が、存在が信じられないといった様子だ。

彫像のように固まっていた側近たちがきかけたとき、ルーファスが戸口に立った。彼のからは、見るものすべてを畏怖させる圧倒的なオーラが発せられている。「二人の間に割ってるな」という気持ちを込めた視線に抜かれて、側近たちが反的に後ずさった。

「ジャスティン、お前、お前──っ! どうして……。おおおお前、こんなことをしてただで済むと思うなよっ!?」

驚愕のためか痛みのためか、フィルバートの全の筋が痙攣している。そのにまたがったジャスティンが靜かに答えた。

「ただで済まないのはあなたのほうです。自分がどんなに危ない真似をしているか、わかっていないのでしょうが……。あなたは天使を呼び寄せたつもりでも、実際は悪魔と踴っているんですよ」

「何を……何を言う。お前、もしかしなくても頭がおかしくなったのか?」

フィルバートがあざけるような薄ら笑いを浮かべる。揺してしまったばつの悪さを隠したいのか、吐き捨てた聲はうわずっていた。

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