《婚約破棄された崖っぷち令嬢は、帝國の皇弟殿下と結ばれる【書籍化&コミカライズ】》1.祝いの宴
大聖堂の外では、ミネルバとルーファスの婚約を祝う人々がお祭り気分に包まれていた。
二人がバルコニーに姿を現すと、建を揺るがすほどの歓喜の聲が上がった。皇族というものが、國民からどれほど敬われているかを、ミネルバは改めて思い知った。
「私……これほど素晴らしいものを見たことがないわ。これからたくさん、グレイリングの人々と流したい。この國をもっと知りたい」
「結婚式までに各地を回れる。私の婚約者として國民に紹介されながら、あちこちを旅して歩くんだ。皆、心から歓迎してくれるよ」
ミネルバたちが手を振ると、人々は熱狂的な拍手喝采で応えてくれる。
ミネルバは何年もグレイリングの文化や歴史を勉強してきた。屬國アシュランの王妃として、宗主國グレイリングを訪問することを想定して。
(ルーファスが選んだ婚約者として、國民の視線を一に浴びることになるなんて、思ってもいなかった。本當に、新しい私が誕生したんだわ)
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夜のとばりが下りるころ、翡翠殿で婚約披パーティーが行われた。だけの小さな集まりだ。社界の人々がひとり殘らず集まる大舞踏會は、日を改めて行われる予定になっている。
ルーファスを慈しんできた翡翠殿の人々だって、婚約式を何としても見守りたかったに違いない。
婚約式のクライマックスは、神聖な瞬間に立ち會えなかった使用人たちに埋め合わせをする──それが昔からの伝統なのだそうだ。伝統裝にを包んだルーファスとミネルバの姿に、翡翠殿の人たちは大喜びだ。
「いままで生きてきた中で最高の日でございますうぅ。ルーファス坊ちゃま、パリッシュは嬉しくて嬉しくて。長年願ってきたことがようやく、ようやく……」
「このメラニー、お坊ちゃまの幸せ以外にしいものはございませんでした。ずっと夢見てきたものが現実になって、涙が止まりませんわ」
主賓であるミネルバとルーファスのために祝福の杯が掲げられ、翡翠殿はくつろいだ雰囲気に満ちていた。目の前でむせび泣いている執事のパリッシュと、侍頭のメラニーの意気込みのおかげだ。
料理はどれも凝っており、磨き抜かれた銀食が輝いている。たくさんの楽が運び込まれ、副執事のダンカンや庭師のトビー、古株の侍のダナやゾーイが腕前を披していた。とても親で、穏やかな気持ちになれるパーティーだ。
護衛たちもいたって楽しそうにしている。ロアンは満面の笑みで料理を頬張り、エヴァンも心底嬉しそうな顔をしていた。
「本當に素敵でしたわ。ルーファス殿下がミネルバのことを、我が以上に大切に思っていることが、ひしひしと伝わってきて……」
ソフィーがの前で指を組み、うっとりとした表になる。マーカスが微笑みながら、大きくうなずいた。
「ああ。殿下がミネルバを守ろうとする姿にを打たれた。屬國出のミネルバのことを軽々しく考えず、心から大切にしてくださる。心底嬉しいよ。俺もあの二人みたいに、素晴らしいパートナーを見つけたい……なんて思ったりして」
「マーカス様……」
マーカスからじっと見つめられていることに気づいて、ソフィーが顔を赤らめた。
パーティーはどんどん素晴らしいものになっていく。室は人々の笑い聲で溢れ、ミネルバとルーファスに祝福の雨が降る。どこかで打ち上げられた花火が、夜空で弾ける音が聞こえた。
「見事だったぞミネルバ。お前はいつも最善を盡くすが……今日は最善以上だった」
ミネルバの父、サイラスがしみじみと言った。
「あなたの幸せが嬉しいわ。ルーファス殿下と一緒なら、実り多き人生が過ごせる。もう何も心配いらないわね」
涙もろい母、アグネスがハンカチで涙を拭っている。そんな両親を見ながら、グレンヴィルとエヴァンジェリンが微笑んだ。
「妹よ、お前は私たちの誇りだ」
ジャスティンが晴れやかな笑みを浮かべる。
「でもミネルバ、これからもたゆまぬ努力を続けなくちゃね。僕たちはアシュランから応援しているから」
コリンがさらりと言い、それからミネルバの手をぎゅっと握り締めた。
「ところでロアン、あっちでマーカス兄さんとソフィーさんがいい雰囲気になっているけど。いつものようにからかいに行かなくていいのかい?」
コリンから悪戯っぽい目を向けられ、ロアンは手に持っていたパンをぱくりと頬張った。急いで咀嚼してから、彼は妙に大人っぽい表を浮かべる。
「こう見えても僕、邪魔しちゃいけないタイミングってやつを、ちゃーんと心得てるんですよ。マーカスさんのこともソフィーさんのことも大好きなんで、ここでしゃしゃり出ると一生後悔しそうだし」
ロアンのオッドアイが、し離れた場所でもじもじしているマーカスとソフィーに向けられる。しい赤と青の瞳が、喜びに溢れたきらめきを放った。
「翡翠殿の使用人たちは、すっかりミネルバの虜になったようだな。ルーファスの婚約者だからという理由だけじゃなさそうだ。このパーティーを見ていれば、ミネルバ自が格別に好かれていることがわかる」
トリスタンが室をぐるりと見渡しながら言った。セラフィーナの側にいたレジナルドが走ってきて、ミネルバのに抱きつく。
「なあルーファス、テイラー夫人の目を盜むのは大変だろう? 私もセラフィーナも苦労したよ」
トリスタンがにやりと笑う。ミネルバとルーファスは同時に首をひねった。セラフィーナがなぜかうっとりした表になる。
「そうそう、懐かしいわあ。婚約者時代は、いかにして夫人の目をかいくぐるか、そればかりを考えていたものよ。トリスタンとに隠れて、ひそやかな口づけや抱擁をしたわ」
ルーファスの顔が急激に赤くなった。ミネルバの顔も同じことになっているだろう。
室の目という目が、一斉に二人の方を向く。さっきまで使用人たちと談笑していたテイラー夫人は眉を寄せているが、他の面々は興味津々といった顔つきだ。
「い、いや、私たちはそんな、ど、道徳的によろしくないことは、その。ま、まだ婚約中のですし、そういったことは結婚してから……」
ルーファスがしどろもどろになる。トリスタンは聲をあげて笑った。
「最にして唯一の弟よ。お前はミネルバのおかげで、何もかもいい方に変わったが。奧手なところだけは全然変わっていないな。婚約式も無事終わったのだから、しくらい羽目を外しても許されるんだぞ?」
「いや兄上、それは……」
ルーファスは反論しかけたが、思い直したように口をつぐみ、真っ赤な顔をミネルバに向けてきた。
ミネルバも恥ずかしさでがいっぱいになって、彼の目をただ見返すことしかできない。ロアンが小さく息を吐いた。
「ルーファス殿下もミネルバ様も、純を蕓の域まで高めちゃってますからねえ……。うん、ここはひとつ、僕が盛大に発破をかけてやらないと」
ロアンがに手を當てて、聲を潛めて不穏なことを言う。ミネルバとルーファスを見つめる人々の顔がほころんでいた。
それからも幸せな満足に溢れた時間が続き、宴もたけなわになったころ、翡翠殿にギルガレン辺境伯が到著した。
「おおソフィー、お前が宮殿で安全に過ごせていることで、どれだけ救われたことか……」
辺境伯は臣下としての丁寧なあいさつを済ませ、次にのこもった目でソフィーを見た。ソフィーの顔に優しい笑みが浮かぶ。
「ミネルバが側にいてくれなかったら、とても乗り越えられなかったわ。そしてマーカス様も……いつだって側にいてめ、勵ましてくださったの」
辺境伯は「ほう」とつぶやき、視線を巡らせてマーカスを見た。そして直立不になっているマーカスに、顔をくしゃくしゃにして「ありがとうございます」と禮を言った。
ルーファスとトリスタンが視線をわす。ルーファスは手にしていたグラスをテーブルに置き、ほんのつかの間目をつむった。
「ようやくき出すときがきた。ロバートに正義がくだされるまで、心が休まらないからな」
目を開けたルーファスが、威厳に満ちた聲で言う。ミネルバは高揚が全を駆け巡るのをじた。
ぎっくり腰に學級閉鎖が重なり、かなりヘビーな日々を過ごしております。マイペースに更新してまいりますので、第二章あとしお付き合いください。
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