セイたちが師匠の工房を目指す、一方その頃。

荒野のり口の町……【イトイ】の町へと到著した、Ｓランク冒険者フィライトと人のボルス。

「ここが境界の町イトイか。前は閑散としてたイメージだが、隨分と栄えてんなぁ」

ここはゲータ・ニィガ王國の西の果て。つまり辺境の地だ。

あまり人が訪れるとは思えなかった。だが今は商人が行きい、冒険者たちが歩いている。

町の人たちには笑顔が浮かんでおり、町全に活気があふれてるようにじた。

「ボルス。黒髪の聖さまは、ここからどうエルフ國アネモスギーヴに向かったと思いますの？」

「こっからだとよぉ、船か陸路だなぁ」

船を使って、この町からまっすぐ南に降りていく方法が一つ。

そして陸路。大陸西側に広がる人外魔境《スタンピード》の地を渡る必要がある。

「てなると、船使ってるだろうなぁ。陸路はあぶねえしよ。聖さまは奴隷連れてるとはいえだし。わざわざあぶねー橋は渡らねーだろ」

フィライトは人の意見が正しいと思えた。

とはいえ、ここで選択肢をミスるわけにはいかない。彼の目的は聖にあうことだからだ。

「一応聞き込みしてみましょう。陸路を選んだ可能がゼロとは言えませんし」

フィライトたちは手分けして、町で黒髪の聖の聞き込みをする。

數時間後。

とある冒険者の一団から、話を聞くことに功した。

イトイの冒険者ギルドにて。

「なっ！？　聖さまと會った！？　しかも、人外魔境《スタンピード》でだとぉ！」

ボルス達はギルドの酒場で話を聞いていた。

パーティリーダーは神妙な顔つきでうなずく。

「ああ。黒髪のしい聖さまだろ？　おれらが荒野を護衛依頼中に出會ったぜ」

「信じらんねえ……あの過酷な人外魔境《スタンピード》を通ってエルフ國に向かおうとしてんのか……しかし、どうして……？」

危険な陸路より、絶対に航路を選んだ方がいい。

もちろん、海上ルートが絶対唖然とは保証できないが。

末端冒険者のボルスですら、人外魔境《スタンピード》の地がいかに危険かは知っている。

高ランクのモンスターがはびこるだけじゃない。

水も食料も手にらない荒れ地が延々と広がっている。日を遮るものはなく、火の霊がその地に住んでいる影響もあって、かなり気溫が高い。

旅慣れていない人間がれる場所では決してなかった。

「聖さまはキャラバンにでも參加してたのかぁ？」

「いいや。竜車に乗っていらっしゃった。お供の奴隷３人だけを連れてたな」

「なぁっ！？　そ、そんな馬鹿な！？　自殺でもするつもりなのか！？」

魔はびこる過酷な環境下で、４人での旅？

どう見ても危険すぎた。航路を選ばない理由が不明すぎる。

「なんでわざわざ陸路で、そんな人數で渡るような、馬鹿なまねしてるんだ……？」

すると今まで黙って聞いていたフィライトが「フッ……」と人を馬鹿にするように鼻で笑う。

「やれやれ……どうやらわたくしだけしか、聖さまの真意に気づけないようですわね」

「あ？　どういうこった、フィライト。真意って」

フィライトはにんまりと笑う。そこには確かな【勝者の笑み】があった。

すなわち、凡人では理解できない崇高なる理念を、信者である自分だけが理解できているという、余裕。

彼は堂々と、自分だけが気づけたという真意を口にする。

「聖さまは、巡禮の旅をなさってるのですわ」

「巡禮……？」

「ええ。その過程で、困ってる人々を助けて回っているのです」

なるほど、とリーダーがうなずく。

「確かに、聖さまは我らをお救いになられた。人外魔境《スタンピード》を単で旅していたのも、巡禮だと思うと合點がゆく」

でしょう、とフィライトが得意顔でうなずく。

「黒髪の聖さまはあえて過酷な道を選んだのです。そこで困っている多くの人たちをお救いになるために……！　ああ！　なんて素晴らしいのでしょう！」

悲しいことに、この予想は全くの的外れであった。

セイは巡禮するつもりもなければ、人助けの旅をしているつもりもない。

彼は単に気の向くまま旅しているだけだった。

そして、陸路を選んだのは、単純に師匠の工房が人外魔境《スタンピード》の地にあるからだった。

……それと加えるなら、航路の存在を知らなかったからである。無論、彼の仲間の一人ゼニスならば、エルフ國への航路を知っていたのだが。

ゼニスは奴隷という立場であるため、あくまで主の行にいちいち異を唱えたりはしない。

セイが陸路を選んだので、もっと安全で快適な海路があるとは言わなかったのだ。

ボルスは人に言う。

「まあ……それが事実かどうかはおいといてよぉ。これからどーするよ？」

「當然、後を追いかけますわ！」

「つっても陸路は危険だぜ……？　強い魔ががんがんでてくるしよぉ」

するとリーダーが「そこは問題ない」という。

「あ？　問題ないってどういうことだよ」

「聖さまが通った道に、魔除けの加護がなされていたからだ」

「はぁ？　魔除けの加護だぁ？」

「実際に行ってみるのが早いよ」

★

食料や水などを買い込み、さらにさっきの冒険者たちに同行依頼を出して、フィライト達は人外魔境《スタンピード》の地へとやってきた……。

「んなっ！？　なんじゃこりゃ！」

ボルスは目をむく。

キラキラとり輝く、１本の道ができていたからだ。

この道から離れた場所に、狼型のモンスターが群れでいた。

だが決して、狼たちはこのの道に近づこうとしないのだ。

「一全、どーなってやがる……？」

「聖さまがくださった、【聖水】のおかげです」

「聖水だぁ……？」

リーダーがうなずいて、こないだセイと出會ったときのことを語る。

「聖さまは我らに、魔除けの力を持つ聖なる水をくださったのです。そしてその効果は町に戻って、宿屋で行水するまでずっと続きました」

ボルスは目をむいて言う。

「し、しんじられねえ……魔除けのポーションは、確かに市場に出回っちゃいるが、數十分も保たないもんだぜ？　聖さまと出會って何日も経ってるのにまだ持続してるなんて……」

しかも恐ろしいことに、聖水を使った彼らが歩いた道もまた、魔除けの力が付與されいるのだ。

「素晴らしいですわ！　聖さまは人が通れるように、こうして聖なる力を配って、人を通りやすくしてくださってる！　なんと！　なんと！　素晴らしいことでしょう！」

「ああ、さすが聖さまだ。庶民であるおれらのために、無償でここまでしてくださるなんて！　本當にできたお方だぜ！」

リーダーもまた、フィライトと同じ、信者側にいってしまった。

ボルスは二人のテンションについていけない……。

「さぁ！　參りましょう！　聖さまのところへ！」

フィライトは同志とともに、黒髪の聖であるセイの後を追うのだった。