《僕の妹は〇〇ですが何か問題ありますか?》

バイトが終わると、僕はいつものようにすぐ帰宅した。

い妹が僕の帰りを待っている可能が高いからだ。

なんとか日付が変わる前には帰れそうだ。

僕がそんなことを考えながら早足で家に帰っていると公園のベンチに誰かが座っているのに気づいた。

こんな夜遅くにいったい何をしているのだろう。

仕方ない、警察に補導される前に聲をかけてやろう。

僕の小さな親切心が僕の足を止めさせた。

僕はその人のところに行き、聲をかけようとした。

しかし、僕がその人のところに到著する前にその人は最初からそこにいなかったかのように消え失せていた。

「見間違いかな?」

僕は目をゴシゴシと《こす》ったあと、周りに誰もいないのを確認してから早足で家に帰り始めた。

「ただいまー」

僕が帰宅すると、妹の黒い長髪が僕のに巻きついた。

僕は為《な》す《すべ》もなく、二階の妹の部屋まで運ばれた。

「あーれー」

僕は妹のベッドまで導された。

どうやら添い寢をご所のようだ。

「夏樹《なつき》。ただいま」

僕がそう言うと、妹の後頭部にあるもう一つの口がしゃべり始めた。

「侵者だ! 侵者がいる!」

妹は『二口《ふたくちおんな》』であるため、寢ている時にもう一つの口が無意識にいてしまうことがある。

それはほとんど寢言やいびきなのだが、今回は違った。

「何? 侵者?」

僕は鬼の力で家中に意識を張り巡らせた。

すると、微《かす》かに妖怪の気配がじられた。

「どうやら侵者は気配を殺すのがうまいみたいだな。さて、どうしたものかな」

僕がそう言うと、夏樹《なつき》は僕の手をギュッと握《にぎ》った。

その手は微《かす》かに震えている。不安なのは分かる。

しかし、僕は長男として、この家を守る義務がある。だから、今妹のそばにいてやることはできない。

「……お兄ちゃん……怖いよ……。そばにいて」

前言撤回。妹はなんとしてでも守り抜いてみせる!

僕の命に変えてでも!

「分かった。じゃあ、一緒に侵者をとっちめに行こう」

「うん……分かった……」

妹はコクリと頷《うなず》くと、僕の背中に乗った。

その時、先ほどまで一階でじられた妖気が妹の部屋の前までやってきた。

「……マジかよ」

僕はを小刻みに震わせている妹の頭をでるために関節を外してから、事に及んだ。

「夏樹《なつき》、怖かったら目を閉じてていいぞ」

妹は首を橫に振る。

「大丈夫……お兄ちゃんと一緒……だから」

怖くて仕方ないはずなのに、妹はそう言った。

「そうか。じゃあ、しっかり摑《つか》まってろよ?」

「うん……分かった」

僕は足音を立てないように扉の前まで歩み寄ると、扉を躊躇《ちゅうちょ》なく開いた。

果たして、侵者とはいったい誰のことなのか。それはまだ闇の中である。

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