《【書籍化&コミカライズ2本】異世界帰りのアラフォーリーマン、17歳の頃に戻って無雙する》1章:異世界から戻ってきたと思ったら、十七歳の頃だった(5) SIDE 由依
SIDE 由依
今日の夕方、カズと並んで座ったベンチに人間の死が橫たわっている。
風に乗って生臭い匂いが鼻を突いた。
食い散らかされた臓がベンチのまわりにぶちまけられ、その傍には出度の高い鎧をにつけた、黒髪の西洋人がいた。
彼の口元にはがべっとりとつき、その瞳は紫にらんらんと輝いている。
一目で人間ではないとわかる。
神話に出てくる戦乙(ヴァルキリー)のような格好だが、黒を基調としたその裝備は、ヴァルハラからの使いではなく、魔王の手下を思わせた。
――暗黒戦乙(ダークヴァルキリー)。
我々人類の敵だ。
「そこからどきなさい!」
思い出のベンチを穢さないで!
「ぐるる……」
私の聲に反応したそれは、食事を邪魔されたのが気にらなかったのか、口から紫の煙をらしながらうなり聲を上げた。
殺気のこもった視線が私を貫く。
周囲に人の気配はない。
アレが現れる時、まれない人間は、無意識に近づくのを避ける。
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存在そのものに、人払いの魔道と同じ効果があるという。
ならば――!
「グングニル……起!」
二本の指でミニスカートからびた黒タイツを履いた太ももを、橫になぞる。
すると、そこを起點とし、ルーン文字がタイツ上にまばらに輝き、足首に収束していった文字たちがフリスビーサイズの魔法陣を形した。
ちょうど片足ずつ、魔法陣につっこんだようなじだ。
「んっ……くぅ……」
快楽と激痛が全を駆け巡る。
魔力が下半に集中していくのをじる。
タイツ型神レプリカ。
私の魔力を日々吸い続け、力を蓄えた『武』である。
母方のエメキュート家は、神の形こそ違えど、代々アレらと戦ってきた。
そして、今夜が私のデビュー戦である。
「ぐ……ぐるるぁっ!」
ダークヴァルキリーは私を敵と認識したようだ。
その手に出現させた槍を無造作にぶら下げ、まるまった背筋でこちらにゆっくり歩いてくる。
ぐらぐらと頭を揺らしながら迫り來るその様子は、さながらゾンビである。
しかし私は、アレがそれほど鈍い相手ではないことを知っている。
昔と違い、今はVRを使ったシミュレーターで訓練ができるのだ。
それにより、初陣での死亡率は格段に下がったという。
「がぁっ!」
ダークヴァルキリーが一瞬にして間合いをつめ、槍の切っ先を私の顔目がけて突きだしてきた。
プロボクサーでも反応できるか怪しいその一撃を、私は一歩橫にいて避けた。
グングニルの効果だ。
私の思考予測と視神経から得た刺激に反応して、下半を強制的にかしてくれる機能がついている。
人ならざる者との戦いは、人間がどれだけ訓練をしても勝てるものではない。
魔法でも使えれば別だが。
現代において、魔道なしで魔法を使える者は世界に數名しかいない。
そこで開発されたのが、神レプリカだ。
これに適応できれば、戦うことができる。
そして今日は私のデビュー戦。
この日のために訓練を積んできたし、覚悟もできていたはずだった。
しかし、攻撃を避けながらも、私の足はガクガクと震えていた。
あの槍を一撃でもまともにければ命はない。
その震えも、神が補正してしまう。
やらねばならない。
私がここで逃げれば、もっと多くの人が……カズが死んでしまう。
それが私の使命なのだから。
私は繰り出された槍を蹴り上げると、そのまま逆の足を腹部に叩き込んだ。
インパクトと同時に足の魔法陣が強く輝く。
――ドンッ!
ダークヴァルキリーはそのまま十メートルほど吹き飛び、木に背中を打ち付けた。
「ぐ……があぁっ!」
人間なら腹部に風が空いている威力だったはずだが、すぐに立ち上がってきた。
そして槍を前方に構え、突撃してくる。
訓練で戦ったロボットよりもずっとタフだ。
突撃はなんとか避けるも、そのまま繰り出された連続突きが、を薄く切り裂いてくる。
やはり能力は人間と違いすぎる。
神を使ってすらここまで押されるなんて……。
私は槍を避けつつ、地面を思い切り踏みつけた。
地響きと同時に、両手を広げた程度の直徑をしたクレーターができ、ダークヴァルキリーがバランスを崩した。
今!
「グングニル! エッジモード!」
私が太ももにれると、右足が蒼く輝いた。
そのままダークヴァルキリーの首に向かって回し蹴りを繰り出す。
――ヴォン。
耳障りな音と蒼い軌跡を殘し、ぼとりとダークヴァルキリーの首が落ちた。
が噴き出すべき切り口からは、紫の煙が吹き出している。
――短期決戦。
人ならざる者と戦う上での鉄則だ。
互いに高い攻撃力を持つため、長引けばケガは免れないからだ。
「ふぅ……」
『СИ……Не……』
神を解除すると、ダークヴァルキリーの死から、人間には発音不能な聲が響き――
――ドォンッ!
死を中心に発が起こった。
自魔法!?
人とは違い、人ならざる者は魔法のようなものを使う。
近くにあったブランコが吹き飛び、鉄製のパイプが飛んできた。
反的にガードするも、左腕の骨が鈍い音を立てた。
折れた……。
油斷だわ。
首を落としてもしばらく生きている種もいると事前に聞いていたのに。
でもとりあえずデビュー戦は勝利ってところかしら。
人間の死は『組織』が回収してくれるだろう。
私はその場にがくっと膝をついた。
実戦での神の使用は、やはり疲労がすごい。
ダークヴァルキリーが死んだことで、人払いの魔法が解けたはずだ。
早くここを離れなければ……。
無理矢理を起こすと、背筋をぞわりと嫌な予が駆け抜けた。
見上げた夜空には三つの影がある。
一でさえ片腕を持って行かれたダークヴァルキリーが三。
神を再起していったん逃げ――
そう判斷するころには、地面に降り立ったダークヴァルキリーに三方を囲まれていた。
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