「魔の巣……こんな奧にそんなものがあったなんて……」

アリエルは驚いた様子だ。

「知らなかったのか？」

「ええ。ノワールの森は広大ですからね。わたくしでも全てを把握しているわけでもありませんわ」

調査隊のメンバーを見ると、他も似たような反応であった。

「まあ仕方ないか。見つけにくいところだったしな。だが……比較的新しい魔の巣のように思える」

魔の巣にあたっては、あの四天王の連中から一通りレクチャーをけていた。

魔王からも、

『魔の巣に近付いたらダメだぞ！　危ないからな！　その……ブラッドちゃんには怪我をしてもらいたくない！』

と散々言われていた。

なかなか過保護な魔王だったのだ。

「どれくらいの規模の巣なんだろう？　外から見るだけでは分からないが……」

チャドが悩む素振りを見せる。

「ブリス。あなたならもしかしたら分かるのではないですか？」

「分かるぞ」

アリエルに言われて俺は集中して《探索（リサーチ）》を開始した。

……うん。あまり広くないな。これだったら……。

「魔の數は百ほどといったところか」

「え……ブリス、今の短時間で《探索（リサーチ）》を済ませたのか？」

「まあな」

チャドが「……なんて規格外なんだ」と目を丸くした。

「ですが……百ほどでしたら、魔の巣にしてはあまり大規模ではありませんね」

大規模な魔の巣は、時のよっては一萬以上の魔が棲んでいる可能がある。

それを思えば、これは比較的小規模な巣とも言えるだろう。

しかし。

「中にはゴブリンキングが數いる。おそらく、こいつ等が配を繰り返していき、數を増やしていったんだろうな」

元々魔は人間のように配する個がない。

しかしその中でもゴブリン種は、人間ような繁方法をとる魔だ。

とはいえその繁力を侮ってはいけない。人が一回の出産で生む子供の數は、１〜２人ほどのパターンが多いが、ゴブリンは時に１０以上の子供を産む。

だからこそ、短期間で數を増やすことも出來たのだろう。

「ゴブリンキングですか……ブリスの見立てでは、どれくらいの數がいそうですか？」

アリエルが質問する。

「うーん……正確な數はつかめないが、二十は超えると思う」

「に、二十！？」

「あと……一だけ一際強い反応がある。ゴブリンキング以上のな」

他の冒険者もざわつき出す。

俺はみんなを安心させるように、

「心配しないでくれ。二十ほどだったら、問題なく狩れる。それにいたっては大した問題ではない。一際強い魔についても、俺とみんなだったら十分勝てる」

と口にした。

「さ、さすがゴブリンキングキラー……！　自信に満ちあふれている！」

「ブリスがいたらなんとかしてくれる！」

「すぐ魔の巣を壊滅させるか？」

するとみんなは勇気が出てきたのか、瞳にやる気がみなぎった。

「ブリス。どうしましょう」

「うーん……」

腕を組んで考える。

「なんかアリエルが隊長のはずなのに、俺が仕切ってるみたいになっているな。別にいいが」

「ふふふ。だってあなたはこの調査隊のメイン戦力でありながら、參謀役ですもの。頼りにしていますよ」

參謀役か……言い得て妙だな。

まあカッコいい響きだし、悪い気はしない。

「ゴブリンキングにいたっては問題ない。しかし……俺はこういうことには不慣れだ。だからこそみんなの意見を聞いてみたいな」

俺が他のメンバーに意見を求める。

「いいか？」

真っ先に手を挙げて発言したのはチャドであった。

「もちろんだ」

「ありがとう。百程度の魔の巣なら、問題なく進めると思う。ゴブリンキングがネックだったが、ブリスが言うならそれも問題ないだろう。後は……この魔の巣の地形を把握出來ればいいんだが……」

魔の巣というのは、言うなれば相手のテリトリーだ。中が迷路のようにり組んで、容易に帰還出來なくなる恐れもある。

チャドはそう言いたいのだろう。

だが。

「なんだ、そんなことか。それについても問題ない。《探索（リサーチ）》で部の地図化（マッピング）は済ませたからな」

「……マジか？」

「マジだ」

ゆえに道に迷うこともない。

中に仕掛けられている罠も把握したので、チャドの心配は杞憂（きゆう）とも言えるだろう。

「全く……君ってヤツはとんでもないね。だったら今すぐにでも巣に突してもいいと思う。あまり放置してしまって、巣がこれ以上強固なものになってしまっても困るからな」

よし、意見が固まってきたな。

ちなみに窟型の巣なので、り口で火を焚いて炙（あぶ）り殺しにする……という手段も一瞬考えたが、それは愚策であろう。

火につられて、森にいる他の魔が寄ってこないとも限らない。

巣の部にいる魔の數は減らせるかもしれれない。だが寄ってくる魔と合わせて総數は増えてしまうのだ。そうなっては本末転倒であろう。

それに……ゴブリンキングは火や煙に強い特を持つ。直接ぶち當てるならともかく、間接的に火炙（あぶ）りにするだけでは倒せないのだ。

「じゃあ隊形を決めるか。今までアリエルが先頭だったが……今回は俺が先頭に立とう。巣の地形を把握しているのは俺だからな。そしてチャドは真ん中、アリエルが最後尾……エドラは俺の近くに……」

と俺はみんなに指示を出す。

「アリエル。これでいいかな？」

「問題ないと思いますわ。それにしてもあなた、もしかして指揮のようなことをやったことあります？」

「ないぞ」

「初めてでこれだけ仕切れるとは……本當にあなたはなんでも出來るんですね」

相変わらず褒めすぎだ。しかし作戦については問題なさそうなので、さっさと巣を片付けてしまおう。

「ではみなさん行きましょう！　油斷はですわよ」

アリエルが一聲発し、俺達は魔の巣にっていくのであった。

◆　◆

巣の奧へどんどん進んでいく。

途中、何か魔に遭遇したが問題なく狩ることが出來た。

やはりＣランク以上の冒険者を集めたとあって、戦力的には大分心強い。ここまでほとんどフリーパスで進むことが出來た。

「……ブリス。本當にゴブリンキングを紙くずみたいに倒すんだね」

魔の數も落ち著いてきたところで、エドラが俺に話しかけてきた。

「だから言っただろ。ゴブリンキングについては問題ないって」

「うん……正直ビックリした。ここまでとは思ってなかった」

彼の言う通り、ここに來るまでゴブリンキングに何回か遭遇したが、全て俺の敵ではなかった。

「そういうエドラも大活躍だったじゃないか。頼りにしてるぞ」

「……ありがと」

エドラが恥ずかしそうに顔を赤らめた。

なんだかこの短期間で、エドラと隨分打ち解けた気がする。

最初は表が乏しいと思っていたが、今となっては彼のがすぐに分かる……そんな気がした。

「……みんな。もうしだ」

俺が聲を発する。

歩きながら説明は済ませていたので、みんなは警戒心を強める。

「ブリスの言ってた、奧にいる強い魔の反応？」

「ああ」

そもそも魔というのは基本的に群れない。

そこまでの知がないためだ。

それなのに巣を形しているということは……強烈なカリスマ力や実力を持った魔が一いる。

俺はそう考えたのだ。

ならばその一を倒せば、魔達は散り散りになり、結果的に巣が壊滅する可能が高い。

「いたぞ」

さらに進んでいくと、し開けた場所に出た。

その魔を見て、後方からアリエルの聲を発した。

「ゴ、ゴブリンマスター……！」