ゴブリンマスターは俺達の気配に気付き、ゆっくりと立ち上がった。

「ＧＵＯＯＯＯＯ！」

ゴブリンマスターの雄びが窟に響き渡る。

窟が僅かに震える。がピリピリするような。

間違いない。

「どうやらこいつが親玉のようだな」

みんなが構え、戦闘態勢を取る。

「アリエル」

「は、はい！」

先日本で読んだ容を思い出しながら、俺はアリエルに質問した。

「ゴブリンマスター……ってのは、確かゴブリンキングの突然変異なんだっけな？」

「そ、そうです！　まさかこんなものが、ノワールの森にいただなんて……！」

アリエルが焦りを含んだ聲で答える。

他のみんなも戦う姿勢は見せているものの、どこか逃げ腰で、ゴブリンマスターに臆しているようであった。

だが。

「問題ない。この程度の魔だったら、みんなと力を合わせればすぐに倒せるだろう」

と俺は告げた。

そりゃあ、他の魔に比べたら結(・)構(・)強そうだが、まだ俺の敵ではない。

何気ない言葉であったが、

「そうだ……！　オレ達にはゴブリンキラーのブリスがいる！」

「ブリスだって怖いはずなのに、みんなをい立たせてくれるんだ！」

「こんなところで逃げてられねえよ！」

とみんなの戦意を取り戻すことに功したらしい。

「ふふふ、絶的な狀況ですが、あなたといればなんでも出來そうな気がしてきますわね」

アリエルにいたっては、笑みをこぼすまでになっている。

そんなに深く考えて言ったわけでもないんだが……。

「はあっ！」

一人の冒険者が勇気を振り絞り、ゴブリンマスターに襲いかかった。

キンッ！

しかしその剣はゴブリンマスターの固い皮に阻まれ、本から折れてしまった。

「ＧＵＯＯＯＯＯ！」

怒りの咆哮。

ヤツは棒を振り回し、俺達に攻撃を仕掛けてきた。

それを俺達はなんとか躱（かわ）していく。

「うーん……さすがに固そうだな」

負けることはないと思うが、時間がかかってしまいそうだ。

こんなヤツを倒すのに時間をかけてしまえば、

『え……ブリスって、実は大したことないんじゃね？』

と他の調査隊メンバーに揺が広がるかもしれない。

なにかいい手はないものか……。

「ん？」

そんな時。

落ち著いてゴブリンマスターを観察していると、ヤツの額になにか赤い寶石のようなものが埋め込まれていることを俺は発見した。

「あれはもしかして魔石か……？」

なんであんなものがヤツに埋め込まれているんだ？

「エドラ」

エドラを呼びかけると、彼が俺の方を向く。

「あの魔石、なんだか分かるか？」

「ん。あれは……」

質問するとエドラもそこで初めて気が付いたのか、目を細めてゴブリンマスターの額を見やる。

「魔石……多分あれでゴブリンマスターの全に魔力を行き渡らせている」

「なんのために？」

「なんであんなものがあるのかは分からない。でも……魔石によってゴブリンマスターが強化されている。付與されている魔力は『耐』。あれを破壊すればゴブリンマスターを弱化させることが出來る……かも」

自信なさげにエドラは答えた。

しかし……やってみる価値はありそうだな。

「んっ……！」

こうしている間にもゴブリンマスターは棒を振るい、エドラ目掛けて攻撃を仕掛けてきた。

「鬱陶しいな、こいつ……！」

俺は剣でそれをけ止め、エドラを守る。

ゴブリンマスターと一旦距離を取りつつ、エドラにこう口にする。

「エドラ、一つ考えがある。あの魔石を破壊……は出來なくても、一時的に魔力の供給を止めたい。そこでエドラに手伝ってしいんだ」

「私？」

エドラが目を丸くする。

「エドラが魔石に魔法を放つ。そうすればゴブリンマスターに供給されている魔力を止められると思う。そしてその間に、俺がヤツにトドメを刺す」

「良い考え。でもダメ……」

表を暗くするエドラ。

「どうして？」

「私の魔法じゃ魔石に屆く著く前に、きっとゴブリンマスターに弾かれる。魔石に傷一つ付けることも出來ない」

「それなら心配ない。エドラの魔法は一級品だ。きっとヤツに屆く」

現にここまで辿り著くまでの間、エドラの魔法によって俺達調査隊は助かってきた。

「俺を信じてくれ……出來るか？」

「う、うん。ブリスが言うなら」

「決まりだな」

ポンとエドラの肩を軽く叩く。

よし……これで完(・)了(・)だ。

「頼んだぞ、エドラ！」

「うん！」

エドラは先ほどよりも強く返事をした。

そしてゴブリンマスターに手をかざし、

「ライトニングアロー！」

魔法を発する。

「え……なに？　こんな威力が出せたのは初めて……」

雷の矢が手の平から発され、ゴブリンマスターに襲いかかっていった。

ゴブリンマスターは咄嗟に腕を額の前に持っていき、魔法を防ごうとする。

「ＧＵＯＯＯＯＯ！」

しかし……矢は腕を貫通。

そのまま額の魔石に直撃し、眩いを放った。

「でかした、エドラ！」

俺はその場で跳躍し、ゴブリンマスターの頭上から斬りつける。

緑の飛沫が辺りに飛んだ。

よし！

どうやら攻撃は通ったようだ。

「ＧＵＯＯＯＯＯ！！！」

頭を斬り裂かれたゴブリンマスターは悲鳴のような聲を上げ、ゆっくりとその巨が傾いていく。

地面に倒れ伏せるゴブリンマスター。

「終わったか」

微だにしない。

こうしてゴブリンマスターは生命活を停止させた。

（チャド視點）

窟の奧でゴブリンマスターを見た瞬間、恥ずかしながらチャドは腰が抜けそうになった。

「か、勝てるわけねえ……」

ただそこにいるだけで災厄。ヤツに睨まれるだけで、チャドはがかなくなっていた。

今すぐにでも逃げ出したかった。

だが。

「問題ない。この程度の魔だったら、みんなと力を合わせればすぐに倒せるだろう」

ブリスが自信に満ちあふれた口調でそう言った。

今の自分はなんて愚かなことを考えていたんだ？

彼だって怖いに違いない。

しかしここで退いてしまっては、そう遠くないうちにノワールに被害が及ぶ。

ブリスは街の平和を願って、ゴブリンマスターに必死の覚悟で立ち向かおうとしているのだ。

それなのに自分は……！

そう考えると戦意が再び湧いてきた。彼のおかげだ。

しかしやはりゴブリンマスターは強い。

一人の冒険者が剣を振るったが、厚い皮に阻まれ、しのダメージを與えることも出來なかった。

こんな怪、どうすりゃ倒せるんだ！？

だが、ここでもブリスは冷靜だった。

「あれはもしかして魔石……？」

そう。

この狀況下で、彼はゴブリンマスターの額に魔石が埋め込まれていることを発見したのだ！

なくても、そんな余裕は自分には一切なかった。

それなのに彼は落ち著いて魔を観察していたのだ。

「頼んだぞ、エドラ！」

「うん！」

エドラの魔法にも驚いた。

ライトニングアロー……とエドラは唱えていたが、あんな強力なライトニングアローは存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)。

間違いない。

あれは上級魔法の神の雷槍(グングニル)だ。

昔、一度だけ大魔導士のグノワースが使用した……そんな記録を本で読んだことがある。

その証拠に神の雷槍(グングニル)はゴブリンマスターの手を貫き、魔石に多大なるダメージを與えた。

「でかした、エドラ！」

そこからはよく覚えていない。

いや……言葉を換えよう。

よく見(・)え(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)のだ。

ブリスが地面を蹴ってジャンプしたかと思うと、次の瞬間にはゴブリンマスターの頭部を斬り裂いていた。

は、早すぎて見えねえ……。

自分も腕には自信があった。しかしブリスとは比べるのもおこがましいほど、格が違う。

チャドはこの時、改めて思うのであった。

世界は広い……と。

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