《「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった 〜最強の四天王に育てられた俺は、冒険者となり無雙する〜【書籍化】》26・子達のバナ

(アリエル視點)

浴場。

(本當に……お父様ったら……)

アリエルは自分のを洗いながら、先ほどのことを思い出していた。

(ブリスにあんなことを言って……)

そもそもブリスをこの家に連れてくることは嫌だった。

だが父がどうしてもって言うから……付いてきてもらったのだ。

ブリスと父が話している景を思い出して、もやもやした気持ちを消化しきれないでいた。

(ブリスもブリスです。わたくしのことを『友(・)達(・)』って……わたくしは友達なんかじゃなく、もっと親しい……)

そう思いかけて、ぶんぶんと首を橫に振る。

(わ、わたくしはなにを考えていたんですか!? そ、そうです。ブリスとはただの友達。カッコよくて強くてわたくしだけの王子様なだけの、ただの友達……)

しかし何故だろう。

ブリスが「友達ですね」と口にした場面を思い出すと、もやもやした気持ちがさらに加速する。

あれからブリスがいなくなった後、父に嫌なことを言われたが、それよりもブリスが言ったことに対してアリエルは腹が立っていた。

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どうして?

分からない。

こんな気持ちは初めてだ。

アリエルは自分の気持ちに戸っていた。

「わたくし、どうしてしまったんでしょう……」

「なにがどうしたんですか?」

「ひっ!」

急に後ろから聲をかけられて、変な聲を出してしまう。

「なんだ……シェリルですか」

「シェリルです。おはようからおやすみまで、いつもあなたと一緒のシェリルです……よいしょっと」

シェリルは表一つ変えず、アリエルの隣に座る。

「シェリルとお風呂をるなんて、いつぶりでしょうか」

「一年と三十二日前ですね」

「どうしてそんなに、ぴったり覚えているんですか……」

「なにを言ってるんですか。私はここの筆頭メイドですよ? お嬢様との思い出くらい、鮮明に覚えていても不思議ではありません」

淡々とした口調で言い、シェリルも自分のを洗い出した。

初対面の人は、よくシェリルのことを『つかみどころのない』と言うことがある。

しかしアリエルは知っている。

表現が苦手なだけで、実はシェリルは誰よりも『腹黒』なことを。

「で……どうしたんですか。なにか浮かない顔をしていますが」

シェリルが問いかけてくる。

「……お父様のことですよ」

「ご主人様ですか? ですが、こうやって家に呼び出されるということは、大なにを言われるか想像ついていたでしょう?」

「それはそうですが……」

「ははーん」

悪い顔になるシェリル。

「ブリス様のことですね」

「!!」

この時、アリエルは自分でも「しまった!」と思えるほど揺してしまった。

「そ、そんなことありませんわ! どうしてわたくしがブリスのことで慌てなければ……」

「図星のようですね」

シェリルがじーっとアリエルの瞳を見てくる。

この目だ。こんな風に見られると、なんだかシェリルになんでも見かされているような気分になるのである。

ここは浴場。當たり前だが、二人とも一糸まとわぬ姿だ。

言葉の通り『まるで心のまで丸にされている』とアリエルはじた。

「…………」

「それはそうですよね。だって『友達』と言われましたもんね」

「やはりシェリルには隠し事は出來ませんね……」

「當然です。だってシェリルはこの家の筆頭メイドですもの」

えっへんとを張るシェリル。

「シェリルの言う通りです。ブリスのあの『友達』発言について、もやもやしておりました」

「ほう? それはどうして?」

「分かりません。どうしてこんなにもやもやするのか……」

アリエルが自分のに手を當てる。

その時、シェリルの眼が鋭くったようにじた。

「お嬢様。それはですね」

「こ、!? な、なにを言っていますのですか!」

思わず立ち上がってしまうアリエル。

『言っていますのですか』となんだか変な言葉遣いにもなってしまった。

ですよ、。お嬢様はブリス様と友達になりたいわけではないのですね。つまり……『人』になりたいわけです!」

「そ、そんなこと……」

「ブリス様、カッコいいですもんね〜。優しそうですし。しかもあれで強かったら、なら全員惚れてしまっても無理はありません」

確かに、ブリスはカッコいい。

さらさらとした髪。適度に引き締まった。ブリスが不意に笑顔を浮かべると、ついついドキッとしてしま……ってわたくしはなにを考えて!?

顔が真っ赤なアリエルを、シェリルが愉しげに見つめていた。

「ふふふ、安心してください。ご主人様には緒にしておきますから。バレたらどうなっちゃうか分からないですものね」

「〜〜〜〜〜〜〜! シェリル〜!」

ポコポコとシェリルの肩を叩くアリエル。

その楽しげな聲は、浴場に響き渡っていた。

◆ ◆

俺はなにを聞かされているのだろうか……。

「幸か不幸か。なにを言ってるかまでは、あんまり聞き取れないが……」

俺は浴槽につかりながら、隣の浴場から聞こえてくるアリエル達の聲を聞いていた。

どうやら浴場は隣にあるらしい。

それはいいのだが……問題は壁が薄いのか、所々隣の聲が聞こえてしまうことだ。

「確かにいい湯なんだが……これじゃあ落ち著かん」

風呂は好きだ。

だからバイロンさんに風呂のことを聞かされて、部屋に荷を置いてすぐにここまで來た。

浴場は広く他に誰もいないため、ほぼ貸し切り狀態となっていたのだ。

そのせいで気持ちよくて、ついつい長湯してしまっていたが……。

「まあいい。邪念を消さなければ……」

頭まで湯の下まで浸かる。こうすれば隣の聲は聞こえてこないはずだ。

どうやらアリエル達は「友達」とか「」だとかについて話しているみたいだが……肝心の容までは聞こえない。

いや、これはこれで良かったのかもしれない。

人のバナを聞くなんて、男としてもってのほかだ。聞こえない振りをするのが一番なのだ。

しかし……どうしてだろう。

アリエルの好きな人とは誰なんだろう?

それを考えると、頭を掻きむしりたくなる衝に駆られるのであった。

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