《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》二話 境界都市ラージャ
「やっとついた……!!」
実家を旅立ち、はや一カ月。
乗合馬車を何回も乗り継ぎ、俺はとうとう境界都市ラージャへとやってきた。
大陸の西方を占める魔や魔族たちの領域、魔界。
大陸の東方を占める人間や亜人達の領域、人界。
そのちょうど境界に位置するラージャは、古くから冒険者の聖地として知られている。
実家からできるだけ離れた場所で、新たに冒険者を始めたい俺にはうってつけの土地だった。
「さすがにここまでくれば、一安心だな」
姉さんたちの力は絶大だ。
五人がまとまってけば、國全に手を回すことも容易い。
けれどここは、実家のあるウィンスター王國から國境を三つばかり越えた先。
さすがの姉さんたちでも、そう簡単には捜索の手をばせないだろう。
それでも完全に安心と言い切れないのが、姉さんたちの恐ろしいとこだけど。
「いやぁ、ジーク殿のおかげで助かりましたよ!」
乗合馬車を降りると、すぐに同道していた商人が話しかけてきた。
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彼の名はオルト。
途中の都市からここまで、一週間ほど旅を共にした仲である。
ちなみにジークと言うのは、俺の偽名だ。
その昔、竜王バディアスを倒した勇者にちなんでいる。
ノアのままだと、姉さんたちにすぐ見つかっちゃうからね。
「ジーク殿は確か、この街で冒険者になるんでしたな?」
「ええ。そうですよ」
「でしたら、これをどうぞ」
そう言って渡されたのは、蝋で閉じられた手紙だった。
「私からギルドへの紹介狀です。これでも、冒険者ギルドとは長い付き合いになりますからね。多は役に立つと思いますよ」
「いいんですか、こんなものを頂いてしまって?」
「いやいや! こちらこそ、満足なお禮が出來ず申し訳ないぐらいですよ! 今回の旅が無事に終わったのは、ジーク殿のおかげと言っても過言ではないんですから!」
別に、そこまで言うほどのことはしてないと思うんだけどなぁ……。
たぶんオルトさんは、馬車が襲われたときに俺が戦ったことを恩に著ているのだろう。
でもあの時、主力となって戦ったのは護衛に雇われていた冒険者さんたちだ。
俺は彼らのサポートとして、馬車の前で討ちらされた魔を倒していたにすぎない。
あの戦いで稱賛されるべきなのは、俺じゃなくて他の冒険者さんたち。
そのことを改めて伝えると、オルトさんはとんでもないとばかりに首を振る。
「そんなに謙遜なさらずとも。私は仕事柄、冒険者さんたちの戦いを見ることも多い。その私の眼から見て、あのとき一番活躍していたのはあなたでしたよ。むしろ護衛の冒険者たちは……。あまり悪いことは言いたくないんですが、あなたが強いとみて厄介そうな魔を押し付けていたようでした」
「は、はぁ……」
ううーん、そうだったのだろうか……?
言われてみれば、あの戦いで倒したゴブリンたちは普通よりだいぶ強かった気がする。
「では、私はこの辺で。南の商業地區に店がありますので、ポーションがご用になったらぜひお越しください。その時は勉強させてもらいますから」
「何から何まで、ありがとうございます! お店、落ち著いたらいかせてもらいます!」
こうしてオルトさんと別れた俺は、前もって聞いていた道順を頼りにギルドへ向かった。
馬車が停まる東の広場から、通りを通ってまっすぐ西へ向かって……。
しばらく歩いていると、次第に冒険者らしき武裝した人々が目に付くようになる。
さすがは境界都市ラージャ、賑わってるなぁ。
「あれか。大きいな……!」
やがて見えてきたギルドの建は、石煉瓦で出來た立派なものであった。
り口には冒険者ギルドの象徴である獅子の紋章が掲げられている。
「よし、行くぞ!」
両開きの扉を抜ければ、そこは酒場とエントランスを兼用したスペースとなっていた。
り口から見て正面の壁には、依頼書を張り出した大きな掲示板。
そして、その脇に付カウンターが備えてある。
ええっと、登録の窓口は……あそこか。
「いらっしゃいませ。新規登録の方ですか?」
「はい、そうです」
「ではこちらの書類に記をお願いします」
來るもの拒まず、去る者追わず。
そう言われる冒険者ギルドだけあって、必要事項はなかった。
俺は名前だけ「ジーク」とすると、あとは正しく申告を済ませる。
噓はない方がバレにくいからな。
「確かにいただきました。これでジーク様は、ラージャ支部所屬のFランク冒険者です」
「ありがとう」
「他に質問事項などはございますか?」
「紹介狀があるんだけど、見てもらっていいかな? あと、さっそくだけど魔の素材をいくつか買い取ってほしい」
俺がそう言うと、付嬢さんはスウッと俺の全を見渡した。
そして小さな袋しか持ってないことを確認すると、不思議そうに首を傾げる。
「もちろん構いませんが、素材の方はどちらに?」
「この袋ですけど」
「……えっ!? それもしかして、マジックバッグですか!?」
付嬢さんの眼がにわかに見開かれた。
あれ、そんなに珍しいものなのか?
「このあたりじゃ、マジックバッグってあまり見かけないんですか?」
「見かけないと言いますか、非常に高いんです」
「そうなんですか、知らなかったな」
俺のマジックバッグは、シエル姉さんの指導をけながら自分で作したものである。
姉さんは魔師を目指すならこれぐらい出來て當たり前って言ってたんだけどな。
もしかして、ラージャ周辺では魔師自がないのかもしれない。
「結構量があるんですけど、ここで大丈夫ですか?」
「でしたら、奧までお持ちいただけますか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます。その前に、紹介狀の方をお預かりしますね」
紹介狀を手渡すと、そのまま彼の案でカウンターの奧へと移する。
たどり著いたのは様々な魔の素材が置かれた倉庫のような場所だった。
解場も兼ねているのか、とても広々としたスペースになっている。
「ここなら素材がたくさんあっても大丈夫ですよ」
「はい!」
さっそくマジックバッグから素材を取り出していく。
すると付嬢さんの顔がみるみる青ざめていき――。
「あ、あなたは何者ですか!?」
凄まじい勢いで尋ねられるのだった。
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