《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》十八話 地下水路調査隊
バーグさんの工房からの帰り道。
俺たち三人は、さっそくギルドに立ち寄ってパーティ結の申請を出した。
ロックタイタスの討伐依頼を、皆で一緒にけるためである。
明日、依頼をける時に申請を出しても別に問題はなかったのだけれど。
基本的に、ギルドって朝の時間は混雑するからね。
「不備は…………ありませんね。承りました」
書類のチェックを済ませると、付嬢さんはご機嫌な笑みを浮かべた。
なんだろう、いいことでもあったのかな?
いつも以上に笑顔が輝いて見える。
「やけにいい顔してますね。何かあったんですか?」
「わかります? 懸案事項が片付いて、今夜はたっぷり寢られそうなんですよ。六時間ぐらい!」
へえ、六時間か……。
若干短い気もするけれど、気のせいだろうか?
人間は一日八時間ほど眠ると良いとか、聞いたことがあるようなないような……。
まあ、本人がすごく幸せそうだから何も言わないけれども。
冒険者ギルドって、営業時間も長いし仕事も多いからきっと大変なんだろうなぁ。
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「懸案事項って言うと……もしかして、地下水路の件か?」
聲を潛めつつも、ロウガさんが尋ねる。
すると付嬢さんは「ええ、まあ」と若干ぼかしつつもうなずく。
「調査隊の手配が完了しましてね。優秀なAランク冒険者が集結してくれたんです」
「そうそう、僕も參加するんだよ」
「ええ、クルタさんも……って!?」
いつの間にか、俺たちの背後にクルタさんが立っていた。
彼はにやぁッといたずらっぽい笑みを浮かべると、こちらに近づいてくる。
「クルタさん! 聞いてたんですか?」
「まあね。ダメじゃないか、調査隊については公表してないんだろう?」
「いえ、その。この方たちが例の魔を発見したパーティなんですよ」
正確には、もう一名いたのですがと付け加える付嬢さん。
それを聞いたクルタさんは、俺の顔を見ると何やら納得したようにうなずく。
「ふぅん。新人がやったって聞いて、もしかしてと思っていたけど……やっぱり君だったか」
「あはは……期待してもらってたようで」
「期待と言うか、不安かな? 君は絶対に何かやらかすと思ったからね」
不安って、俺そんなに危ない人に見えるのかな?
今回の件にしても、俺はあくまで第一発見者だからね。
事件を起こしたわけじゃないぞ。
「そんなことよりお姉さま! 調査隊に參加するというのは本當ですか!?」
急に、ニノさんがクルタさんと俺の間に割り込んできた。
その勢いときたら、いつもローテンションなニノさんとは思えないほどだ。
そう言えば、ニノさんはクルタさんのファンだって最初に會った時に言ってたなぁ……。
「ああ、そうだよ」
「気をつけてくださいね。あの地下水路の奧には、かなり危険な魔がいると思いますから。お姉さまに萬が一のことがあったら、私は――」
「大丈夫だよ、僕はこれでもAランクだからね。何かあっても簡単にやられたりしないさ」
「もちろん存じています。ですが、地下水路にいる脅威は得が知れません」
「わかってるわかってる。けど、今回は僕としても因縁がありそうでね。どうしても行きたいのさ」
クルタさんの顔が、にわかに険しくなった。
先ほどまでの飄々とした気配はなくなり、かなり深刻な雰囲気だ。
そう言えばクルタさんについて、何か事ありげなことを前に付嬢さんが言ってたな。
それに関わる話であろうか。
「因縁……ですか」
「なに、よくある話さ。僕は昔から、故郷を滅ぼしたとある魔族を追っていてね。そいつの得意としている魔が死霊魔なのさ」
「なるほど。それで今回の事件を聞いて、その魔族と関わり合いがあるかもしれないと」
「ああ。とはいっても、死霊魔を扱う魔族なんて多いからね。ハズレかもしれない」
口ではそうは言いつつも、クルタさんの眼は確信に満ちていた。
冒険者の勘とでもいうべきであろうか。
理由は定かではないが、関連を信じるに足りるだけの何かがあるようだ。
「……そういうことでしたら、ぜひこれを」
俺は懐から手のひらサイズの小袋を取り出すと、クルタさんに差し出した。
たちまち、彼は興味深そうに目を細める。
「なんだい、これは?」
「お守りですよ。中にってる魔石に魔法が仕込んでありまして。瘴気をしですけど防いでくれるんです」
「へえ、それはなかなか便利だね」
「ジークにしては気が利くではありませんか。お姉さま、ぜひ持って行きましょう!」
そう言うと、なぜかニノさんがお守りをひったくっていった。
そして何か呪文のようなものをブツブツとつぶやいてから、改めてクルタさんにそれ手渡す。
……いま、明らかに何か仕掛けたよな?
ほんのわずかにだが、魔力の揺らぎのようなものをじたぞ。
「……ニノ、お前いま何か仕掛けなかったか?」
「な、なにを言っているのですかロウガ。何もしていませんよ!」
「そうか?」
「僕は構わないよ。ニノが僕にとって悪いことをするはずもないし」
そう言って笑うと、クルタさんはお守りを懐にしまい込んだ。
そして「じゃあね」と手を上げると、そのまま歩き去っていく。
「さて、俺たちも帰るか」
「そうですね、早く帰って明日に備えましょう」
「しかし、調査隊ですか。何事もないといいんですけど……」
「お姉さまがいるのです。何があってもうまく行くに決まっています」
よほどクルタさんを信頼しているのか、きっぱりと言い切るニノさん。
まあ、ここで俺たちが出來ることは特にないしなぁ。
せいぜい、自分たちの方でもしっかり仕事を功させるぐらいか。
こうして俺たちは、明日の依頼に備えて、ひとまず宿に戻ったのだった。
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