「シスターさん？」

どうしてシスターさんが、この部屋を訪れたのだろう？

そもそも、俺たちがこの部屋にいるということをどこで知ったのか？

俺は様々な疑問を抱きつつも、ひとまず彼を部屋に迎えれた。

背中の袋が、見ていて辛くなるほど重そうだったからだ。

「ふぅ……！　ありがとうございます」

部屋にって荷を置くと、シスターさんはそのまま一息ついた。

俺とニノさんたちはし戸いつつも、彼に尋ねる。

「どうしてここに來たんですか？　依頼だったら、ギルドを通してもらわないと」

「いえ、依頼をしに來たわけではないんです。皆さんに、お禮も兼ねたお屆けがありまして」

「お禮？」

墓地でゾンビたちと戦った件だろうか。

一応、あれについてはギルドと話がついて急依頼扱いになったんだけどな。

こんな夜更けに、わざわざお禮を言いに來るような狀態ではないはずだ。

「丁寧なのは結構だが、そんなに急いでくることないぜ？　だいたい、俺たちの居場所をどうやって知った？」

「ギルドで教えてもらったんです」

「……おいおい、冒険者のプライバシーってのはどうなってんだ？」

やれやれと頭を抱えるロウガさん。

いったい誰かは知らないが、ずいぶんと意識の低い職員がいたものである。

いくらシスターさんが元の確かな人だからといって、ほいほい個人報を流されては困る。

「まあ、私の持ってきたものがものですから。ギルドとしても、すぐに渡した方がいいと判斷したのでしょう」

「……何か、冒険の役に立つアイテムか何かですか？」

「はい！　死霊魔をる魔族が出たと聞いて、急いで準備したんです」

袋の口を開くと、ガサゴソと中を漁るシスターさん。

やがて出てきたのは、木箱に収められたガラスの小瓶であった。

無明のがったそれは、切子細工のように緻な加工が施されている。

そこらのポーションなどとは比べにならない、何か高級なのようだ。

……はて、どこかで見覚えがあるぞ。

俺が首をひねっていると、ロウガさんがひどく驚いた顔をして言う。

「おいおいおい……！　こりゃ一級聖水じゃねえか！」

「魔族との戦いに役立てていただこうと思いまして、教會の倉庫から引っ張り出してきたんです」

「ずいぶんと気張りましたね。滅多に外に出すものでもないでしょうに」

「今回の件では、ずいぶんとお世話になりましたから。私と教會からの気持ちとお考え下さい」

そういうと、シスターさんはズズイっと木箱を俺たちの前へとかす。

一級聖水。

それは、聖の祈りによって作される最高級の聖水である。

急時とはいえ、そんなものを引っ張り出してくるとは。

シスターさんはどうやら、俺たちに迷をかけたことを相當に気にしていたらしい。

「一級聖水がこれだけの量あれば、アンデッドには勝てそうだな！」

「ええ。戦力不足もこれで補えることでしょう。助かりました」

「あの、貴重なものだとは知ってますけど……一級聖水ってそんなに凄いんですか？」

興する二人に、思わず尋ねてしまう。

確かに、聖であるファム姉さんが作っているのだから効果は高いのだろう。

ブランド価値を出すために、教會も滅多なことでは使用しないとも聞いている。

けど、そこまでありがたがるほどのものなのだろうか？

あの人、割と気楽なじでお祈り捧げて聖水を作っているぞ。

「一級聖水の効果は、それ以外のの十倍以上ともされています。アンデッドの浄化はもちろんですが、傷の治療などにも効果があるんですよ」

「へぇ……」

「俺やニノみたいな近接職がアンデッドと戦うには必須だな。あらかじめ武に振りかけておくと、しぶといアンデッドでも一発さ」

「なるほど。じゃあ、その聖水はニノさんとロウガさんで使ってください。その方が効果あると思いますから」

もっともらしい理由で遠慮しておく俺。

あくまで噂にしかすぎないのだけれど……。

一級聖水には、聖のの一部がっているという説がある。

髪のとか爪とか、ほんのわずかのとか

姉のそう言うものを、俺は使いたくはなかった。

たとえそれが信憑の薄い噂にしても、姉弟でそう言うのを持つのはなぁ……。

幸い、サンクテェールが使えるから瘴気対策は問題ない。

「いいのか？　それなら、ありがたく使わせてもらうが……」

「自力での対処が困難だとじたら、遠慮なく言ってください。すぐに融通します」

「ありがとう。そうなったときはすぐに知らせるよ」

「では、私はそろそろこれで。……皆さん、くれぐれも気をつけてください。私も飛び去る魔族の姿を見ましたが、あれはとてもおぞましいものに見えました。決して油斷してはいけません。私が一級聖水をこれだけ用意したのは、皆さんに死んでほしくないからでもあるんです！」

聲を震わせながら告げるシスターさん。

額に汗を浮かべ、を紫にしたその怯えようは尋常なものではなかった。

彼のその表を見て、俺たちは緩みかけていた心を正す。

強力な資を手にれたとはいえ、敵は魔族だ。

楽に勝たせてもらえるような相手ではない。

「そうですね。もしかしたらあの魔族は……お姉さまの因縁の相手かもしれませんし」

「そう言えばクルタさん、地下水路に居たのは故郷を滅ぼした魔族かもとか言ってましたね」

「はい。お姉さまの出は、勇壯な戦士の一族だったそうです。その里を滅ぼした魔族となれば、強力なのは間違いないでしょう」

ますます油斷ならない相手だ。

俺が顔を険しくすると、ロウガさんが急に表を緩めて言う。

「ま、何にしてもだ。俺たちは魔族を倒してクルタちゃんを救出する。それ以外にねえよ」

「……ええ、そうですね！」

こうして、迎えた翌朝。

準備を整えた俺たちは、いよいよ悪霊の森へと出発するのだった。

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