《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》三十四話 姉の決戦前夜

ラージャの街の中心部。

大通りに面した一等地に、そのホテルは建っている。

創業百年を誇る老舗『レ・ルクセント』。

王侯貴族も贔屓にするこの名門のスウィートルームに、ライザは昨日から宿泊していた。

宿を紹介してほしいとギルドに申し出たところ、ここを案されたのだ。

「……気を利かせ過ぎだろう。まったく」

一泊で五十萬は取られるであろう豪奢な部屋。

いくら剣聖とはいえ、このクラスの客室へ泊めるとは々過剰な待遇である。

しでも心証をよくして、いずれは冒険者になってもらいたい。

そんな冒険者ギルドの思が、けて見えるようであった。

駆け引きにはとんと疎いライザであるが、こうまで骨だとさすがに気付く。

「まあ、気持ちはわからないでもないがな」

最近、どうにも魔族の活が活発になってきている。

それに対抗するため、冒険者ギルドも戦力が必要なのであろう。

ライザへの勧が執拗になるのも、ある意味では當然だった。

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もっとも、彼には冒険者になる気などさらさらない。

次から次へと仕事が舞い込んできて、首が回らなくなるのが間違いないからだ。

冒険者が依頼をけるかどうかは、一応本人の自由である。

しかし、國や貴族からの依頼を斷り続けるのは難しいのが現実だ。

ギルドからそれとなく強制されたりもするという。

ライザに渉技があればまた別なのだろうが、あいにくそのようなものはない。

できないものはできないと、スパンと言ってしまうのが落ちである。

「一応、ファムに知らせておくか」

という職業柄、ファムは魔族について詳しかった。

教會にとっては不倶戴天の仇ということで、徹底的に調べつくしているからである。

ある意味で専門家の彼ならば、魔族対策の何かいい知恵を出せるかもしれない。

何だかんだと言って、ライザと冒険者ギルドとはそれなりに長い付き合いである。

所屬するつもりはないが、まったく義理やがないわけでもなかった。

人を紹介するぐらいならばしてやっても良い。

「……それよりも、だな」

にわかにライザの顔が険しくなった。

額の端に、ヒクヒクと青筋が浮かぶ。

先ほどまでの冷靜さとは打って変わって、個人的なが思い切りにじみ出ていた。

「まさかノアが、たったひと月であんなことになっていたとは……!」

ノアの手を引き、ライザから引き離した

名前は確か、クルタと言ったか。

の顔を思い浮かべながら、ライザは忌々しげにつぶやく。

二人の関係がどこまで進んでいるのかは、まだよくわからない。

あのクルタというが、一方的に言い寄っているだけの可能もある。

けれど、ノアも何だかんだで男の子だ。

ライザやほかの姉妹がラフな服裝をしていると、それとなく目を向けてくるぐらいのはある。

『そこそこかわいい程度』のクルタでも、熱心に言い寄ってきたら悪い気はしないだろう。

そう、ライザからすれば『そこそこかわいい程度』のクルタでも。

「私だって、私だって……! それをそれを……!」

つぶやく言葉にますます力が籠っていく。

才能は間違いなくある。

実力もすでに、並の剣客よりもはるかに上。

しかし、剣士として重要な気合とに欠けている。

それがライザのノアに対する評価だった。

なまじ頭が良いせいか、あきらめの早すぎるところがあると彼は認識していたのだ。

だからこそ、ライザはそれを克服させるためにノアへきつく當たってきた。

神を鍛えるには、厳しい修行を課すのが一番だと考えたのだ。

本當はノアのことが大好きで、甘えてほしくて仕方ないのを押し殺して。

こうして長年溜め込まれた思いがいま、一気に溢れ出しそうになっていた。

放っておけば、今すぐノアへと會いに行ってしまいそうなほどだ。

「ええい、こうしてはいられない!」

ライザは木刀を手にすると、素振りを始めた。

神をしでも落ち著かせるべく、神経を研ぎ澄まして。

たちまち冴えわたる剣閃が、心地よい風切音を響かせる。

「絶対に勝つ! 勝ってノアを家に戻す! そして……私に甘えさせてみせる! お姉ちゃん大好きって言わせてやるぅ!!!!」

思いのたけを反映してか、次第に早まっていく剣速。

切っ先の奏でる音が、徐々に高音へと変わっていく。

やがて音の速さに近づいた剣は、僅かではあるが風の刃を飛ばすようになっていた。

しかし心ここにあらずと言った様子のライザは、それになかなか気づかない。

そして――。

「あっ!」

剣から飛び出した風の刃が、ホテルの壁を切り裂いた。

分厚い石の壁に、いともたやすくが空く。

ライザはハッとした顔をするものの、もはや手遅れ。

人が出りできるほどのサイズのは、誰がどう見ても修理が必要であった。

し気持ちがりすぎたか……。ま、まあいい! 何が何でも勝つ!」

無理やりに気を取り直すライザ。

こうしていよいよ、ライザとノアの決闘が始まる――。

【読者の皆様へ】

いよいよ次回、ジークとライザの決闘です!

ご期待ください!

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