《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》三十六話 勝負の行方(改)
勝負の容について、一部変更をくわえました。
結果自は変わっておりませんが、流れが変わっております。
「はああぁっ!」
赤熱し、炎を噴き上げる黒剣。
振るわれるたびに火のが舞い、轟轟と音を響かせる。
その猛攻を、姉さんはただの木刀で見事に防ぎ切っていた。
さすがは剣聖、武の差を技量で完全に埋めている。
木刀をへし折られないために、こちらの力のほとんどをうまくけ流しているのだ。
しかし、攻め手がないのもまた事実のようだった。
最初の一撃以降は、ほとんどけに徹している。
どうやら、俺がまだ何か仕込んでいるのではないかと警戒しているようだ。
――よし! 上手いこと姉さんの一撃必殺を封じている!
姉さんを攻略するうえで最も厄介なのは、超神速での踏み込み攻撃だ。
東方の抜刀を參考にしたというその技は、俺の対応可能な速度をはるかに上回る。
最初の仕掛けでこれを出してこないように導できたのは、非常に大きかった。
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それ以外ならば、どうにか俺でも対応はできるのだ。
「けど……!」
こちらとしても、予想以上の技量を発揮する姉さんを相手に攻めきれなかった。
炎の魔法剣で木刀の消耗を狙っているが、真空を纏うことで上手く熱を防がれている。
このままだと、木刀が焼け折れる前に俺の力の方が盡きてしまいそうだ。
剣の熱が顔に伝わってきて、額から汗が噴き出してくる。
「が溫まって來たか、ノア!」
「……ああ、十分に!」
「ならば、これに耐えて見せろ!」
姉さんのきが、一段速くなった。
――ズゥンッ、ズゥン!!
お、重い!
攻撃の鋭さと威力が大幅に増して、けているだけで手が痺れそうになってくる。
おいおい……あの細い腕の一どこにそんな力があるんだ!?
巨人の拳でもけ止めているかのような覚に、たまらず抗議したくなってくる。
この人、本當に俺たちと同じの構造をしているのか?
「ぐっ!」
「このまま押し切ってやろう!」
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堪え切れず、徐々にではあるが後退していく俺。
やがて背中に闘技場の壁が迫ってきた。
まずいな、このままだと逃げ場がなくなる……!
「ジーク!!」
「踏ん張れ! 負けるんじゃねえぞ!」
「頑張ってください!」
俺の危機を察知して、観客席から次々と聲援が飛んでくる。
みんなのためにも、ここは負けられない!
俺はとっさに炎の魔力を引っ込めると、代わりにの魔力を剣に流し込んだ。
そして――。
「ブランシェ!!」
あえて大きな聲を出し、姉さんの聴覚を一瞬だが弱める。
それとほぼ同時に、黒い剣がにわかに白い閃を放った。
俺は目を瞑って視界が奪われるのを回避すると、あえて後退して闘技場の壁を蹴る。
――ひらり。
軽業師よろしく空中へと飛び出し、姉さんを頭上から斬りつけようとする。
「甘いっ!」
しかし、さすがは剣聖。
姉さんは一瞬で元の狀態へと復帰を果たすと、斬撃を軽々とけ止めた。
俺はそのまま空中で一回転すると、姉さんの後方へと著地する。
「ああ、惜しい!」
「やっぱりただもんじゃねえな、あの姉ちゃん」
「視覚と聴覚を奪っても、気配だけで反応できるようですね……」
姉さんの驚異的な能力に驚愕するクルタさんたち。
けれどこの程度は、十分予想の範囲である。
こんな方法で倒せるぐらいなら、俺だって苦労はしないからな。
「……さすが姉さん。やっぱりすごいや」
「私の剣を止めたいなら、五の全てをいきなり奪うぐらいしてみせろ」
「そりゃ、いくらなんでも無理だよ」
軽口をたたき合いながら、互いに距離を取って剣を構えなおす。
迫した空気が、地下闘技場に満ちた。
覚が研ぎ澄まされ、産をなでるわずかな空気の揺らぎさえじ取れる。
「……ねえ、姉さん。あの技を出してくれない?」
「ん?」
「前に見せてくれた奧義だよ。俺もここまで頑張ったんだ、出すに値しないとは言わせない」
姉さんの眼をまっすぐに見て、告げる。
すると彼は、ふむと頷いてしばし逡巡した。
そして、今日一番の笑みを浮かべて言う。
「良かろう。我が奧義で散るがいい」
剣を高く構える姉さん。
それと同時に、から青白い炎のようなものが溢れ出した。
剣気だ。
極限まで練り上げられた気が、実化しているのである。
「……來た」
姉さんのから溢れ出した気が、三の人型を形作った。
やがて人型の造形は緻になり、姉さんと見分けがつかないほどそっくりに変化していく。
――四神の剣陣。
姉さんがここぞというときにのみ使う、対人戦において最強の奧義だ。
剣気を用いて四人に分し、手數で敵を圧倒するのである。
しかも、恐ろしく厄介なことに四人に対して同時に攻撃しなければまともにダメージがらない。
「栄に思うといいぞ、ノア! 私がこの技を出すことはほとんどないからな!」
「そうだね。見せてくれてありがとう、姉さん」
「謝するのはいいが、この技を出した以上は私に負けはないぞ。四人の私に同時攻撃をすることなど、一人では不可能なのだからな」
そう言うと、四人同時に高笑いをする姉さん。
彼は再び剣を構えると、俺の周りをゆっくりと回り始めた。
そして一気に攻撃を仕掛けてくる。
「これで終わりだ!」
四人になったことで、攻撃の速度や度はかなり落ちていた。
だが當然のことながら、四方からの同時攻撃など一人でけきれるものではない。
……そう、一人では。
「みんな!!」
「おう!!」
――ドォン!!
俺が聲をかけると同時に、客席の三人が大砲の弾のようなを投げた。
これもまた、バーグさんが造ったアイテムである。
威力は大したことないが、誰でも使える手投げ式の弾だ。
しかしこれでも、四人に分したことで大幅に能力の落ちている姉さんにならば効果はある。
「はああぁっ!!」
三人の攻撃に合わせて、俺は正面に來ていた姉さんの像に斬撃を放った。
思わぬ攻撃に揺していたのか、姉さんはこれをけ止め切れず勢がれる。
それと同時に、姉さんの分たちが霧と消えた。
――今だ、今しかない!!
再び一人になった姉さんのが、直する。
四神の剣陣は、超人的な力を持つ姉さんをもってしても消耗が激しい。
そのためを解いた際に、ほんのわずかの間だがけないのだ。
前に見せてもらった時も、息を荒くしてバランスをしていたからね。
「これで……終わりっ!!」
俺は全全霊を振り絞り、可能な限りの速さで踏み込む。
そして姉さんの元に、黒剣を突き付けた。
ほんの一瞬、時間にすれば一秒にも満たない間。
そのわずかな隙を突かれた姉さんは、目元をゆがめて渋い顔をする。
「一本です」
「……くっ! まさか品行方正なノアがこんな方法を取るとはな……」
「そうでもしなきゃ、姉さんには勝てないからね。一人の力じゃどうしても無理だった」
そう言うと、俺は改めてクルタさんたち三人を見た。
ラージャで見つけた俺の心強い仲間。
彼たちの力がなければ、無雙の剣士である姉さんにはとても勝てなかった。
さらに言うならば、家に居た頃の俺ではこういう「下品な手」は思いつかなかっただろう。
そもそも姉さんには敵わないって、自分で決めつけてたし。
「ぐぐぐぐぐ……! ヤダ、嫌だ!」
「え?」
「確かに一本取ったことは認めよう。だが、ノアが帰ってこないなんて……絶対に嫌だ!!」
「いや……勝ったのを認めたなら、ここに居ることも認めてくださいよ」
「ダメなものはダメなんだ! だいたい、勝ち方がしくない! もっと華麗に勝て!」
「急にそんなこと言われても。戦いにおいては泥臭くても勝つことが大事って、姉さんもいつも言ってたじゃないか」
「そ、それでもだな……!」
戦闘中の威厳ある姿はどこへやら。
姉さんは駄々っ子のようになって、盛大にごね始めた。
行がまるっきりお子様である。
……姉さん、そんなに俺と一緒に帰りたかったのか?
剣聖の稱號におよそ似つかわしくないその姿に、俺はたまらず首を傾げる。
しかし、何はともあれ――。
「勝てて良かった、本當に。みんなもありがとう!」
俺は心底ほっとして、そう言うのだった――。
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