《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》二十三話 賢者と黒雲
「ふぅ……やっとラージャの近くまで來たわね!」
大河ロナウを越えて、西へ進むことはや數日。
シエルはようやく、ラージャにほど近い宿場町へとたどり著いていた。
かなりの強行軍であったが、ここを出てしまえば目的地まではあと一日か二日。
そこはかとない達からか、自然と笑みがこぼれてくる。
「さすがに汗をかいちゃったわね。お風呂にらないと……」
浄化の魔法で誤魔化してはいたが、さすがに何日も風呂にらないのは気分が悪い。
ここはお金を惜しまず、街で一番良い宿を取ろう。
そう決意したシエルは、パッと目についた大きなホテルへと向かった。
するとここで、彼の視界がにわかにちらつく。
「あれ? 疲れてるのかしらね……」
目をごしごしとるシエル。
思えばここ數日は、睡眠時間もかなり削っていた。
さすがに無理をし過ぎたかと反省していると、遠くから小さな発音のようなものが聞こえてくる。
「雷? またえらく時期外れね」
Advertisement
ラージャ周辺で雷雨が発生するのは、主として夏である。
それ以外の時期では、非常に珍しい現象だった。
こりゃまたついてない……。
シエルがやれやれとため息をつくと、それに合わせるかのように大粒の雨が降ってくる。
バラバラと落ちてくるそれは、に直接あたると痛いほどであった。
「やばっ!」
慌てて近くの軒下へと避難するシエル。
びしょ濡れになってしまった彼は、そのままうんざりしたように空を見上げた。
すると雷に照らされて、人影のようなものが一瞬だが浮かび上がる。
「……何かしら、あれ?」
どことなく、嫌な予がした。
シエルは軒先から外へと出ると、すぐさま人影が見えた方角に向かって魔法を放つ。
完全無詠唱の探査魔法。
魔力の波を相手にぶつけて、その反響を確認するという単純なものだ。
しかしその効果は絶大で、鳥などの見間違いであればすぐにわかるはずであった。
すると――。
「魔力波が消えた? 小賢しいことするわね!」
魔力波の反応が、途中で綺麗に消失した。
これは明らかに人為的な反応だ。
正を探られたくない何者かが、シエルの魔力波を打ち消すようにを使ったのだ。
「はんッ! そんなのがこの私に通用するもんですかッと! ジニア・エクレール!!」
即座に展開される三重の魔法陣。
青白い雷撃が指先から迸り、天へと駆け上った。
上級雷魔法ジニア・エクレール。
巨大な魔をも一撃で打ち倒す攻撃魔法である。
いきなり撃つような威力のものではないが、これでも平気だとシエルは確信していた。
先ほどの魔力波を誤魔化した手際の良さからして、相手もかなりの達者だと判斷したのだ。
「結界魔法か!」
案の定、シエルの放った雷を敵は結界で防いだ。
ガラスが砕けるような獨特の音が響き渡る。
「だったらこれでどうよ! トロワ・エクレール!!」
雷の三連撃。
稲が宙を切り裂き、夜空を白く染め上げる。
共鳴し、天を揺さぶる雷鳴。
その様子に、近くに居た街の人々までもが空を見上げた。
すると、雲に隠れる何者かは彼らの視線をうっとおしく思ったのだろうか。
雨が人々を追い払うかのように勢いを増す。
「わっ! 目を開けてらんないわね!」
風圧すら伴っているような豪雨。
さすがのシエルもたまらず軒下へと避難した。
そうしている間にも、空を覆っていた黒雲がゆっくりと流れていく。
「こら、逃げるな!! 私にビビってるわけ!?」
すぐさま相手を挑発するシエルであったが、反応はなかった。
それどころか、心なしか雲の進む速度が速くなる。
敵は完全にシエルからの逃亡を選択したようであった。
「……何だったのかしらね?」
十分ほどが過ぎた頃。
雷雲は遙か彼方へと通り過ぎ、平穏な夜空が戻ってきた。
シエルは避難していた軒先から通りへと出ると、雷雲が向かっていった方角を見やる。
「向こうに何かある……? ねえちょっと、いいかしら?」
そう言って、シエルはたまたま通りがかった男を呼び止めた。
彼はそのまま雲が飛び去った方角を指さして、尋ねる。
「あっちの方角に何かない?」
「あっち? ラージャとはし違うし……何もないはずだがな」
「小さなものでもいいのよ。山とか森とか」
「そうだなぁ……しいて言うなら、ラズコーの谷があるな」
ラズコーの谷?
シエルの眼が、にわかに細くなった。
彼は男との距離をズイっと詰めると、さながら尋問でもするように言う。
「そのラズコーの谷で、最近変わったことが起きたりしてない? どんな小さなことでもいいのよ?」
「そう言われても、俺は別に――」
「細かいことでいいから、教えなさい!」
有無を言わせぬ強い態度。
そのらしからぬ威圧に、男の方がビクリと震えた。
弾戦を得意としない賢者ではあるが、強化魔法を用いればこの男を文字通り潰すぐらいは容易いのだ。
そのことを察したのか、男は青い顔をしながら早口で言う。
「そ、そう言えば! 冒険者の連中が言ってたな、ギルドが谷を封鎖したって!」
「ギルドって、冒険者ギルド?」
「ああ、詳しいことは知らされてないそうだがな。地りか何かでもあったんじゃねえかって話だ」
男の話を聞いて、ふむと考えこむシエル。
彼が言うようにただの地りなどであれば、間違いなく理由を公表するだろう。
わざわざ非公開にしているということは、表に出しがたい何かがあったに違いない。
「なるほど、これは行くしかないわね。……よし、あいつにするか」
道の端に止められていた一頭の馬。
それにまたがると、シエルは即座に強化魔法を掛ける。
彼のを覆いつくした魔法のオーラは、そのまま乗っていた馬までも覆っていく。
本來ならば人間に用いる強化魔法。
それをシエルは、にまで応用することに功していたのだ。
「いくわよっ! とりゃっ!」
「あっ! 馬泥棒!!」
「これで足りるでしょ!!」
慌てて走り寄ってきた持ち主に、金貨のった財布を投げてよこす。
馬の代金の軽く十倍近い金額がっていたはずだが、構いはしなかった。
今は何よりも、急いでラズコーの谷へと向かわねばならない。
どことなくではあるが、シエルは嫌な予がしたのだ。
このラズコーの谷と言う場所に――。
「まさかいないでしょうね、ノア!!」
【読者の皆様へ】
「面白い・続きが気になる・早く更新してしい!」
と思った方は、ぜひぜひ評価・ブックマークをいただけると嬉しいです!
評価欄は広告の下にある「☆☆☆☆☆」です!
スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜
空に浮かぶ世界《スカイフォール》に暮らす少年ナトリは生まれながらに「飛ぶ」ことができないという致命的な欠陥を抱えていた。 王都で配達をこなす変わり映えのしない日常から、ある事件をきっかけに知り合った記憶喪失の少女と共に、少年は彼女の家族を探し出す旅に出る。 偶然に手にしたどんなものでも貫く特別な杖をきっかけに、彼は少女と自らをのみ込まんとする抗いようのない運命への叛逆を決意する。 やがて彼等の道行きは、世界に散らばる七つの迷宮に巣食う《影の軍勢》との世界の存亡を懸けた熾烈な戦いへと拡大していくのであった。 チートあり魔法ありダンジョンありたまにグロありの王道冒険ファンタジー、の予定です。 ※三部構成第一部完結済み
8 183闇墮ち聖女の戀物語~病んだ聖女はどんな手を使ってでも黒騎士を己のモノにすると決めました~
闇墮ちした聖女の(ヤンデレ)戀物語______ 世界の半分が瘴気に染まる。瘴気に囚われたが最後、人を狂わせ死へと追いやる呪いの霧。霧は徐々に殘りの大陸へと拡大していく。しかし魔力量の高い者だけが瘴気に抗える事が可能であった。聖女は霧の原因を突き止めるべく瘴気內部へと調査に出るが_______ 『私は.....抗って見せます...世界に安寧を齎すまではッ...!』 _______________聖女もまた瘴気に苛まれてしまう。そして黒騎士へと募る想いが瘴気による後押しで爆発してしまい_____ 『あぁ.....死んでしまうとは情けない.....逃しませんよ?』
8 69桜雲學園の正體不明《アンノウン》
「桜雲」それは近年政府の主導により、 急速な発展を遂げた都市である。 特徴的なのは、 全校生徒が3000人を越える桜雲學園であろう。 學園では未來科學というカリキュラムを學び、 それにより與えられたタレントを駆使して、 生徒同士で切磋琢磨しようという develop one's potential 通稱DOPが毎週開かれている。 そんな學園に通うこととなった石崎景は 平穏な學園生活を願うものの天真爛漫な少女、 明日原陽奈に誘われ、ある部活に入ることとなる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。 いいね、フォロー、よろしくお願いします。
8 161【嫌われ體質】自覚したら最強?かも
主人公『五色 大輔』は生まれ持っての【嫌われ體質】、幼馴染みが居ない、小さい頃から回りの者に嫌われる、友達も居ない、ペットも犬、貓、鳥、金魚にも嫌われる。生き物から嫌われ、病気にも嫌われ、死んだら神にも嫌われていた…。ネタバレ注意、主人公以外にも迷い子(転生者)複數登場。
8 53転生して3分でボスバトル!〜ボスを倒したら邪神になったので異世界の學校に通う〜
2025年人類は完全なVR空間を作ることに成功し、50年には日常的に使われるようになっていった。 VRを使った娯楽といえばVRゲームと言われ、中でも"VRMMORPGジェネシス"は世界中で人気のゲームとして有名だった。 ジェネシス最強プレイヤーのシンがある日正體不明の何かにクラスまるごと異世界に転移してもらうなどと言われ、文句を心の中で言った その何かは心が読めシンのことを不快に思い殺した… 殺されたと思ったら何故か目の前にはドラゴンがいて!? ジェネシスゲーム內の力が使えたシンはドラゴンを殺した。 そしたら何故か邪神になって!?銀髪の幼女が懐いて!? 當分の目標を決めたシンは異世界の學校に通うことになり…
8 71僕の日常生活は終わってる。
土田端町に住む平凡な高校生、原野守。その家に突如、美少女のルナがやってきた! その日から僕の平凡な生活が少しづつ変化していき… 平凡な生活がしたい守、楽しく日常を過ごしたいルナの2人による少しHで愉快なラブコメが今始まる!
8 99