《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》三十二話 勝負のカギ

比べは五日後ということで。二人とも、しっかり準備してきてね」

「ええ、期待して待っていてほしいわ」

「……わかりました、頑張ります!」

マリーンさんの言葉に深々と頷くと、俺は改めてシエル姉さんの方を見た。

すると彼は余裕たっぷりの表をして、俺に笑い返してくる。

勝負は五日後。

それまでにこの笑みを崩せる何かを見つけなければ……。

「じゃあ、ひとまず別れましょうか」

「そうだね。五日後にまた」

「ふふふ、せいぜい頑張りなさいよ。どんな魔法で來るか、私も楽しみにしてるわ」

そう言うと、シエル姉さんは歩き去っていった。

勝つ気満々というか、俺が何かを思いつかなければ間違いなく勝つだろう。

さて、どうしたものか……。

俺が顎に手を押し當てて悩み始めると、すかさずライザ姉さんが近づいてくる。

「大丈夫か? 顔し悪いぞ?」

「……これからどうしようかと思って」

「僕の作戦、使えそうにないからねえ」

「こうなったら正面から行くしかないだろう。この五日間で修業し、シエルに負けぬほどの魔力をに著けるのだ!」

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腕まくりをしながら、高らかに宣言するライザ姉さん。

いや、そんなこと言われても無理だろ!

たった五日で賢者を超えられるようなら誰も苦労はしないぞ!

する俺をよそに、姉さんは目をキラキラと輝かせながらずいぶんと張り切った様子を見せる。

どうやらシエル姉さんに負けたくないという思いを、そのまま俺にぶつけてきているようだ。

「平気だ、私は一週間で奧義を習得したからな。ノアにもできる!」

「それは姉さんが天才だからだよ! 普通の人間には無理だって!」

「ジークが普通とは言い難い気もしますけれどね……」

「そうだな、俺たちから見れば天才もいいとこに見えるが」

腕組みをしながら、うんうんと頷くロウガさんとニノさん。

別にそんなことはないんだけどなぁ……。

俺なんて、たまたま英才教育をけただけの凡才だと思うぞ?

の天才である姉さんたちと比較すれば、まだまだ全然だ。

「とりあえず、今日のところはゆっくりと休もうか。まだ、冒険の疲れが殘ってるだろう?」

「……それもそうですね、疲れた頭じゃ考えもまとまりませんし」

「じゃ、僕の家においで」

自宅の玄関へと向かうと、くいくいッと手招きをするクルタさん。

今日のところは宿も決まっていないし、お呼ばれするのもありか。

俺は改めてマリーンさんの方を見ると、軽くお辭儀をする。

「では、俺も失禮します」

「ええ、魔法を楽しみにしているわ。研究とかしたかったら、またうちの工房を使いなさい」

「じゃあ、お言葉に甘えて明日にでも」

らかに微笑むマリーンさん。

そのまま彼に見送られながら、俺たちはクルタさんの家へとる。

「とりあえずは、ご飯にでもしようか。私が作るよ」

「私もやるぞ」

「では、私もお手伝いを……」

「それはいい」

みんなの聲が揃った。

ニノさんの料理は、もはや料理と言っていいのかどうかすら怪しい代だからな……!

あれをもう一度食べるのは、さすがに勘弁願いたい。

「そこまで避けられると、さすがの私もショックなのですが……ええ。気持ちは込めたんですよ?」

「気持ちと言っても、あれはつらいだろ」

「……ロウガはそういうことを言うから、にモテないのですよ」

「そういう問題か?」

「とにかく、大事なのはまごころです。頑張ればきっと伝わります!」

拳をぐっと握りながら、何やら力説するニノさん。

頑張れば伝わる……か。

俺もひとまず、努力をしてみるしかないな。

「そうだな、何はともあれ頑張るしかないな」

「うむ、その意気だ! えらいぞノア!」

「でも、ガムシャラになってやるだけだとうまくは行かないよ。きちんと方向を見極めないと」

適當に突っ走るだけでは、何事もうまくはいかない。

ニノさんの料理がいい例だ、やる気だけではおいしくはならない。

何事もきちんとした方法論があってこそだ。

そのためには……まず、相手のことを知らなくては。

俺たちの審査をするマリーンさんについて、十分な調査が必要だ。

そうと決まれば……!

「よし! クルタさん、マリーンさんのことについてできるだけたくさん教えてくれませんか?」

「今から?」

「ええ、食事は後回しでもいいですから!」

「わかった。なら、食事は配達でも頼もうか」

「私が注文に行って來よう」

「ついていきます」

連れ立って家を出ていく姉さんたち。

こうして俺と二人になったクルタさんは、ソファに深々と腰を下ろした。

そして窓からお隣さんの家を見ながら、軽く腕組みをしてあれこれと思い返す。

「そうだねえ、何から話したらいいのかな。なんだかんだお隣さんだから、知ってることは多いよ」

「べたに家族構からとか」

「家族かー。そういえばマリーンさんの家、前は息子さんがよく來てたね」

「へえ、そうなんですか」

「でも最近は、全然姿を見てないかな。私も忙しくて、理由は聞いてなかったんだけど……」

そういえば、あの人はどうしてるんだろうと首を傾げるクルタさん。

マリーンさんの息子さんか……。

こいつはもしかして、比べのカギになるかもしれない。

俺はすぐさま、ぼんやりしているクルタさんの肩を揺さぶり、彼の報を聞き出すのだった。

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