《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第二話 聖騎士ウェイン
「私たち二人で依頼とは、マスターも分かっているではないか……」
腕組みをしながら、妙にいい笑顔をするライザ姉さん。
その表に、本能的な危機を覚えてしまうのは何故だろうか?
何となくだけど、悪いことが起きそうな予がするんだよな……。
一方、姉さんと比べてクルタさんはひどくご機嫌斜めの様子だ。
彼は俺と姉さんの間に割ってると、すぐさま口を尖らせる。
「何で、ジークと一緒に行くのがボクじゃなくてライザさんなのかな。同じパーティじゃないのに」
「そなたでは実力不足だからだろうな」
「むぅっ! ボクだってAランクなんだよ!? そんなにはっきり言うことないじゃないか!」
「足りないものは足りないのだ。だいたい、ジークと私は姉弟だからな。同じパーティでなくとも、ペアを組むのに相応しいと判斷するのは當然だろう」
腰に手を當てて、ドーンとを張るライザ姉さん。
挑発されたクルタさんは、いよいよ悔しげな顔をする。
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「むむむむむ……!!」
「まあまあ、そんなに悔しがることねーよ。こっちだって、重要人の護衛だぜ? 立派なもんだ」
「その通りです。お姉さま、我々の仕事も重要ですよ」
「いや、そうじゃなくて……」
二人はごねるクルタさんの手を取ると、強引に俺と姉さんから距離を取った。
引き離された格好となったクルタさんは、あたふたと戸った顔をする。
しかし、これはマスター直々のメンバー指定だ。
騒いだところでどうにもならないと察したのだろう、すぐに大人しくなった。
こういう切り替えの早さは、やはり高位冒険者なだけのことはある。
「しょうがないなぁ。言っとくけど、抜け駆けしたら許さないからね?」
「わかっているさ。魔界に向かうのだからな、さすがの私も無茶はせん」
「ならいいけど……」
「さっきから、いったい何の話ですか?」
「ジークは知らなくていい!」
ライザ姉さんとクルタさんの聲が、見事に揃った。
この二人、普段はそりが合わないわりにこういう時だけは息が合うんだよな。
俺が半ば呆れていると、姉さんが気を取り直すように言う。
「……あー、今日のところはひとまず解散しよう。もうこんな時間だ」
「え? ああ、ほんとだ」
窓の外を見れば、すっかり日が落ちていた。
マスターたちと話をしているうちに、だいぶ時間が過ぎていたようだ。
そろそろ帰らないと、宿のおばちゃんに迷がかかっちゃうな。
「うし、お開きにするか。明日から大変だからな」
「そうだね。じゃあ、二人とも頑張ってよ。無事に魔界から帰ってきてね!」
「もちろん、ちゃーんと戻りますよ」
「こっちはロウガが変なことしないか見張っておく」
「おいおい、なんで俺を警戒すんだよ」
こうして俺たちは解散し、それぞれの家や宿へと戻った。
明日からの依頼、なんだかちょっと心配だな……。
宿へと戻る道中、俺は月を見上げて何だか漠然とした不安を覚えたのだった。
――〇●〇――
翌日。
俺とライザ姉さんは、ウェインさんたちとの待ち合わせのためホテルの前まで來ていた。
ラージャでも一番の高級ホテルだというそこは、宮殿さながらの豪華な造りだ。
エントランスの前には黒塗りの馬車が何臺も停められていて、舞踏會にでも行くような恰好をした人々が優雅に乗り降りをしている。
マスターの話では、ウェインさんはここに泊まっているとのことだが……。
さすが、S級だけあって相當稼いでいるようだ。
「うわぁ、すごい場所だなぁ」
「あまりキョロキョロするな、恥ずかしいだろう」
「だって……」
こんな豪華なホテルに來ることなんて、滅多にないからなぁ。
昔、アエリア姉さんの出張に同行した時以來だろうか。
あの時は、姉さんが俺の分の料金も一緒に支払ってくれた。
まだ新人冒険者である俺の稼ぎでは、とてもこんなところ利用することはできない。
おかげで、どことなく場違いなじがして落ち著かなかった。
「まったく。ジークの貧乏にも困ったものだ」
「いやいや、姉さんの方が堂々としすぎなんですって」
「私はよく來るからな。慣れている」
そう言うと、姉さんは実に堂々とした様子でホテルの中へとっていった。
さすが、剣聖として王宮にも出りしているだけのことはある。
俺はその背中に続いて、おっかなびっくりと言った様子で扉の中にる。
すると……。
「あなたがライザ殿ですか?」
白銀の鎧を纏った、金髪碧眼の青年。
それが大げさに手を広げて、芝居がかった仕草で姉さんに近づいてきた。
ひょっとしてこの人が、依頼で組むことになったウェインさんだろうか?
年の頃は二十歳前後、冒険者の割には線が細く貴族的な印象だ。
さらにその両脇にはボディラインもわなが侍っている。
「あ、ああ。その通りだが、そなたがウェイン殿か?」
妙なオーラを放っているウェインさんに、微妙に引き気味になるライザ姉さん。
だがそんなことお構いなしに、ウェインさんはさらに畳みかけてくる。
「その通り! この私が、聖騎士の稱號を持つSランク冒険者のウェインです!」
「……私はライザだ、よろしく頼む。それでこっちがおと――」
弟と言いかけた姉さんの口を、俺は慌てて押さえた。
俺が姉さんの弟だということは、クルタさんたちやマスターにしか知らせていないである。
初対面の人に、うっかり重大なことを語ろうとするんじゃないよ!
俺が必死の形相で首を橫に振ると、姉さんはすぐさまうんうんと頷いた。
「おと、男のジークだ」
「いや、言われなくてもそれはわかるのですが」
「念のためだ、余計なことは気にするな」
「……まあいいでしょう。素敵なレディにはがつきものですからね」
ウェインさんは指をパチンっと弾くと、バレリーナよろしくその場で一回転した。
そして姉さんの顔を覗き込むと、白い歯を輝かせてまばゆいばかりの笑顔を決める。
「……こりゃ、魔界以前に厄介なことになるかも」
俺は冷たさを増していく姉さんの表を見て、たまらずそうつぶやくのだった。
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