《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第七話 勝負の行方
「ふぅ……何とか倒せたな」
焼け焦げて真っ黒になったグラスゴブリンキング。
その亡骸を見下ろしながら、俺は額に浮いた汗を拭った。
やれやれ、思った以上に手ごわい相手だったな。
いくらキングとはいえ、これほどに強いゴブリンがいるとは予想外だった。
「……っと! 急いで他のを倒さなきゃ!」
俺はここで、ウェインさんとの勝負のことを思い出した。
すっかり忘れてしまっていたが、勝負の行方は倒したゴブリンの數で決まる。
キングだろうとノーマルだろうと、一匹は一匹。
うっかり、キングに時間を使っている場合じゃなかった……!!
「どりゃああっ!!」
俺は周囲を見渡すと、まだ殘っていたゴブリンの群れに向かっていった。
しでも倒しておかないと、このままじゃウェインさんに負けちゃうぞ……!
こうして俺が剣を振り上げ、ゴブリンを両斷しようとしたその瞬間。
どこからか飛んできた白い衝撃波が、群れをこそぎ吹き飛ばしてしまった。
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「ははは、獲はいただいたよ!」
高笑いと共に、悠々とこちらに歩いてくるウェインさん。
あちゃー、もう殘りは全部倒されちゃったか!
俺がしまったとばかりに額を抑えると、ウェインさんはすっかりご機嫌な調子で言う。
「どうやらこの勝負、私の勝ちのようだね。だが気にしなくていい、私はSランクなんだから!」
「……ま、まだわかりませんよ。ライザさんのところに戻って、數を數えるまでは!」
「君もなかなか強だねえ。ま、私も若い頃はそうだったよ」
いや、若い頃ってまだ二十歳そこそこだろうに。
俺はここぞとばかりにベテランを出してくるウェインさんに、たまらず突っ込みたくなった。
が、ここはひとまずグッとこらえておく。
數えるまでわからないと言ったけれど、実際のところウェインさんのほぼ勝ちだろう。
ここで下手に噛みついても、傷口を広げてしまうだけだ。
「さあ、丘の上に戻ろう! ライザ殿が首を長くして待っているぞ!」
「……はい!」
こうして俺たちは、壊滅した集落を出てライザ姉さんの待つ丘へと戻るのだった。
――〇●〇――
「先ほどとんでもない音がしたが、平気か?」
俺たちが丘に戻ると、すぐさま姉さんが近づいて來た。
どうやら、先ほどの音がここまで屆いていたようだ。
ウェインさんの仲間のたちも、揃って心配そうな顔をしている。
「大丈夫だ、二人ともピンピンしているよ」
「良かった~! 心配したんですよ、ウェイン様!」
「なに、この私がグラスゴブリン如きにやられるわけないだろう」
そう言うと、ウェインさんは腰につけていたマジックバッグを開いた。
たちまち中からゴブリンたちの魔石が溢れ出す。
うわ、わかっちゃいたけど凄い數だな……!!
どさどさどさッとうず高く積まれた山を見て、俺は思わず息を呑んだ。
こりゃ、こっちの二倍……いや、三倍ぐらいはあるぞ!
「すごい、さすがはウェイン様!!」
「たったあれだけの時間で、こんなに倒してきちゃうなんて!」
「ま、これぐらいできなければSランクは務まらないからね」
白い歯を見せながら、自信たっぷりに笑うウェインさん。
メンバーのたちも、一緒になって彼と共に盛り上がる。
もはや完全に祝勝ムードと言った様子だ。
だが一方で、魔石の山を見下ろした姉さんは何やら渋い顔をした。
彼はそっと手をばすと、魔石をいくつか掌に載せる。
「どれも小さいな。ひょっとして、すべてノーマルか?」
「ええ、この勝負は數で決まるんですから。當然でしょう?」
「だが、集落の中には當然上位種もいただろう? それらはどうしたんだ?」
「そちらはジーク君が倒してくれたようです」
「……ということは、ウェイン殿は上位種を無視して雑魚狩りをしていたということか?」
呆れたような顔で尋ねるライザ姉さん。
そのキツイ言いに、ウェインさんは面食らったような表をした。
だがすぐに気を取り直すと、髪をかき上げながら言う。
「それも勝負の駆け引きのうちさ。そういう要素がなければ、私が勝つに決まっているだろうしね」
「そ、そうよ! そっちのやり方が悪かっただけよ!」
「ウェイン様を悪く言わないで!」
「まあいい。ではジーク、そちらの魔石を見せてくれ」
「わかった」
俺はそう言うと、マジックバッグを広げて中の魔石を取り出した。
ウェインさんと比べると、その數は格段にない。
できた山の大きさを見比べると、大人と子どもほどの差が出來てしまっていた。
だが……。
「これは……デカいな!」
魔石の山に手を空仕れた姉さんは、中でも最も大きな石を手にした。
掌からはみ出すほどの大きさがあるそれは、を反し翡翠に輝いている。
さらにその側では、青白い魔力が渦を巻いていた。
「それはキング……いや、それよりもっと大きい……?」
ウェインさんの顔つきが、にわかに険しくなった。
キングがいることは予想されていたのに、何をそこまで驚いているのだろう?
を青くして、何やら尋常でない様子だ。
「そんなにすごいんですか、それ? キングの魔石ですよね?」
「違うな。これはキングの上位種、エンペラーのものだろう」
「エンペラー? そんなの聞いたことないですけど」
「無理もなかろう。私でもまだ二回目だからな。もっとも、ウェイン殿の方は知っていたようだが」
そう言うと、姉さんは改めてウェインさんの顔を見た。
すると先ほどまでの余裕はどこへやら。
ウェインさんは冷や汗をかきながら、ぽつぽつと語り始める。
「エンペラーはゴブリン種の最上位。その力は通常のゴブリンでもSランク相當だ。まして亜種のグラスゴブリンのエンペラーともなれば……」
「Sランク冒険者でも、単獨討伐はまず不可能だろうな。最低でも五人はいる」
「くっ……! あり得ない、こんなことあり得るはずがない! ジーク君はDランクなんだぞ!」
「だから言っただろう、強さにランクなど関係ないと」
姉さんにそう言われて、ウェインさんの顔がみるみる赤くなった。
額に青筋が浮かび、凄まじい形相である。
俺に実力で負けたという事実が、よっぽどプライドを傷つけたらしい。
もはや、余裕を取り繕う余裕がないといった狀況だ。
「だ、だが!! 勝負の容はあくまでも數だ! たとえエンペラーだとしても、一は一なんだ」
「ああ。だが、そなたはそれでいいのか?」
「ぐぬぬぬぬ……! もういい、ここまでだ! 集落は全滅させたんだ、帰るぞ!!」
そう吐き捨てるように言うと、ウェインさんは仲間を連れて足早に歩いて行ってしまった。
ありゃま……予想以上に怒らせちゃったみたいだな。
別にそこまでするつもりはなかったのだけども。
俺が困ったような顔をしていると、姉さんが高らかに言う。
「ははは、試合に負けて勝負に勝ったってやつだな!」
ううーん、とりあえずはそういうことでいいのかな。
何だか俺以上に喜んでいる姉さんを見て、俺はしばかりがすっとしたのだった。
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