《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第十一話 ランドドラゴン

「これでよし! ふぅ、間に合った!」

魔界へ出立する當日の朝。

早起きして旅の準備を整えた俺は、額に浮いた汗を拭った。

必要と思われるものは、すべてマジックバッグに詰め込んだ。

あとは、宿の人たちに旅立つことを伝えるだけ。

俺は早々に部屋を出ると、食堂で朝食の支度をしていた將さんに聲をかける。

將さん!」

「ジーク君かい? 今日はまた、ずいぶんと早起きだね?」

「これから依頼に出かけるんです。なので、しばらく宿を留守にします」

「おや、そうなのかい。気を付けて行っておいで」

「はい! えっと、その間の料金は……」

俺が財布を取り出すと、將さんはガハハっと豪快に笑った。

はそんなものいらないよ、と笑いながら手を振る。

「贔屓にしてもらってるんだ、別にいいよ」

「でも、部屋を取っておいてもらうわけですし」

「うちはこの時期空いてるから、一部屋ぐらい空けといても問題ないさ」

そう言うと、將さんは廚房の奧にいた旦那さんに聲をかけた。

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するとすぐさま、威勢のいい返事が返ってくる。

「ああ、構わない。気になるんだったら、今後もうちの宿を使ってくれや」

「そうだねえ。誰か仲間とか連れて來てくれたら助かるよ」

「はい! 紹介しておきます!」

家のある姉さんとクルタさんはともかく、ロウガさんとニノさんにはしっかり勧めておこう。

二人が泊まっている宿よりもランクは落ちるけれど、ここはサービスがいいしご飯も味しいんだよな。

場所がちょっとばかり奧まったところにあるせいで、あんまり知られていないのだけども。

機會があれば、みんなで泊まってみるのもいいかもしれない。

「じゃあ、行ってきます!」

こうして宿を出た俺は、まっすぐに集合場所であるギルドの前まで向かった。

するとそこには姉さんとウェインさん、そしてウェインさんの仲間が集っていた。

さらにそれを取り巻くようにして、道にちょっとした人だかりができている。

どうやら、Sランク冒険者であるウェインさんに惹かれて人が集まってしまったらしい。

これから任務に行くというのに、こんなに目立ってしまっていいのだろうか?

俺がおいおいと周囲を見回していると、ウェインさんが話しかけてくる。

「ようやく來たのかい? こっちは待ちくたびれて、サインを10枚も書いちゃったよ」

夜のうちに、すっかり気を取り直したのだろうか?

ウェインさんはやけに調子が良さそうであった。

昨日はあれだけ不機嫌そうだったのに、いったいどういう風の吹き回しだろう。

俺が不思議に思って首を傾げると、姉さんが呆れたような顔をして言う。

「理由はよくわからんが、今日はご機嫌なようだぞ」

「ははは、辛辣だね。私はただ、素敵なレディと旅を共にできるのを喜んでいるだけさ」

「……そのレディとか言う呼び方をやめてくれ。私はそういう柄じゃない」

姉さんはうんざりしたような顔をすると、ウェインさんからし距離を取った。

するとそれに対抗するかのように、ウェインさんはスススッとすり足で姉さんに近づく。

離れては近づき、近づいては離れ。

二人はその場で円を描くように、何とも奇妙な追いかけっこを演じた。

それがしばらく続いたところで、付き合ってられないとばかりに姉さんが足を止める。

「……あー、さっさと行くぞ! 油を売っている暇など我々にはないのだから!」

そう言うと、姉さんはウェインさんを振り切ってさっさと歩き始めた。

するとウェインさんは姉さんの肩を摑み、ノンノンと指を振る。

「まさか、歩いていくつもりかい?」

「そのつもりだが?」

「ついて來たまえ、いいものがある」

ずいぶんと自信満々な様子のウェインさん。

意気揚々と歩きだした彼に、俺と姉さんは半信半疑ながらもついていった。

こうしてギルドの裏手に回ると、そこには――。

「ほう……ランドドラゴンか!」

「すごい、初めて見ましたよ!」

裏通りを塞ぐかのように、どっしりと佇む巨大なモンスター。

その大きさは、ちょっとした小屋ほどもあるだろうか。

姿形はトカゲによく似ているが、角の生えた頭と大きな顎は紛れもなく竜族のもの。

鈍くる鱗からは、歴戦の猛者と言った風格がじられる。

――ランドドラゴン。

翼の退化した竜族の一種で、馬の代わりとして用いられる種である。

竜族だけあって力が強く、どんな悪路だろうと走破できる便利な騎獣だ。

もっとも飼いならすことは難しく、大食漢であるため維持費もべらぼうに高い。

そのため、通常は一部の貴族や王族しか使うことはないものだ。

「ギルドから借りたんですか?」

「いや、私の所有するドラゴンだ。どうだい、素晴らしいだろう?」

「ああ。いい格をしているな、強そうだ」

「こいつはもともと、森で暴れていたのを私が直接捕まえたんだ。気をつけたまえ、こいつはとにかく気が荒くてね。力を認めた主にしか従わないんだ」

そう言うと、ウェインさんはゆっくりとドラゴンに近づきその頭をでた。

ドラゴンはグルルルとを鳴らすと、満足げに目を細める。

へえ、結構懐いているんだなぁ……。

俺が心していると、姉さんが興味津々と言った様子で前に出て行く。

「私にもやらせてくれ。ドラゴンは好きなんだ」

「やめておいた方がいい。さっきも言ったが、こいつは基本的に気が荒いんだ。私に対して大人しいのは、あくまで私が強いからであって…………へっ?」

姉さんが前に立つと、ドラゴンはすぐさま深々と頭を垂れた。

野生の勘で、姉さんの力量を見抜いたのだろうか?

その態度の恭しいことときたら、哀愁すらじさせる。

やっぱり、絶対に戦っちゃいけない相手だってわかるんだな。

「なんだ、大人しいじゃないか」

「え? ……あはは、こいつはしっかりとしつけてありますからね! 當然でしょう!」

「さっきと言ってることが、全然違いません?」

「細かいことを気にするんじゃない! 早く行くぞ!」

「あ、待ってウェイン様!!」

取り巻きを引き連れて、そそくさとドラゴンの背中に乗るウェインさん。

背中には鐙の代わりに大きな升のようなものが置かれていて、なかなか快適そうであった。

こうしてみんながドラゴンに乗り込んだところで、ウェインさんが勇ましく號令をかける。

「さあ、いざ行くぞ!!」

「グルルルゥ!!」

咆哮を上げて、走り始めたランドドラゴン。

こうして俺たちは、一路魔界へと向かうのであった――。

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