《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第十二話 境界の森

「あれが境界の森……なんだか、ずいぶんと禍々しい気配をじますね」

ランドドラゴンを走らせること三時間ほど。

俺たちはいよいよ、境界の森の目の前までやってきた。

まだ日も高いというのに、森の向こうには仄暗い空が広がっている。

魔界はの差さない土地だと聞いたことがあるが、その影響がこちらにまで及んでいるらしい。

「嫌な風だな、微かにだが瘴気を孕んでいる」

「ええ。だが安心してくれ、こんなこともあろうかと聖石を用意してもらっている」

そう言うと、ウェインさんは懐から白く輝く小さな結晶を取り出した。

瘴気避けとして、よく用いられる聖石である。

かなり貴重なで、効果範囲も限られているのだけれど……。

驚いたことに、ウェインさんはそれを掌から溢れるほどに持ち込んでいた。

ギルドの伝手を使って、大量に確保していたようだ。

「おお……。すごいですね」

「これだけあれば、魔界の瘴気にも対抗できるだろう」

「でも、そんなにもったいないですよ! 高かったですよね?」

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俺がそう尋ねると、ウェインさんは「そうだな」と顎をった。

そして、何故だか得意げな顔をして答える。

「百萬ゴールドほどはかかったかな」

「ひゃ、百萬! やっぱりもったいないですって!」

「パーティの安全のためには仕方ないだろう。なーに、そのぐらい私がその気になれば――」

「聖石の代わりに、俺がサンクテェールを使いますよ。そっちの方が効果も高いですし」

「な、なに!? キミはそんな魔法まで使えるのかい?」

やけに大げさな仕草で驚くウェインさん。

聖騎士ならば、別にそう珍しい魔法でもないだろうに。

そもそも、ウェインさん自は使えないのだろうか?

俺が疑問に思っていると、やがて彼は気を取り直すように咳払いをする。

「……まあ、そういうことなら素直に世話になろう。私ももちろん使えるが、魔力を溫存しておきたかったのでね」

「なるほど、そうだったんですね!」

「たったそれだけのために、聖石をこれほど大量に用意したのか?」

むむむっと怪訝な顔をするライザ姉さん。

するとウェインさんは、一瞬困ったような顔をしつつもすぐに切り返す。

「なにせ、我々が行くのは魔界ですよ。いつどこで何が起きたっておかしくはない。力はできるだけ溫存しておかねば、いざという時に困る!」

「そ、その通りです! ウェイン様の言う通り!」

「ライザさんは、魔法を使わないのでわからないだけですわ!」

ウェインさんをフォローするように、彼の仲間たちが口々に聲を上げた。

しかし、こうも一斉に行されるとかえって胡散臭さが増してしまう。

彼はやっぱり、サンクテェールを使えないんじゃないか?

姉さんもそう思ったのか、眉間の皺が一層深くなった。

「……いやだな、そんなに怖い顔をしないでくれ。さ、ジーク君頼むよ」

「は、はい!」

ウェインさんに促され、俺はすぐにサンクテェールを掛けた。

白いが生じて、聖域が周囲に漂う瘴気を押し出す。

「ふぅ、ちょっとすっきりしましたね」

「これなら、この森も快適に切り抜けられそうだな。さすがだな、ジーク!」

「いや、そんな褒められるほどのことはしてないよ!」

姉さんに褒められて、俺は何とも照れ臭い気分になった。

ラージャに來てからというもの、ライザ姉さんの態度は確実にらかくなっている。

特にここ數日、ウェインさんと行をするようになってからは妙に褒められることが多かった。

理由はよくわからないのだけれど……。

まあ、ちょっと変なじだけど機嫌がいい分には害はないので良しとするか。

一方で、ウェインさんの方は怒りを誤魔化すように笑顔を引き攣らせていた。

「……まあ、これで瘴気は凌げるとしてもです。襲い掛かってくる魔までは防げませんからね。もし何か來た時は、私が仕留めましょう!」

そう言うと、ウェインさんは自信ありげな表で剣の柄をった。

Sランク冒険者だけあって、その姿はとても様になっているのだが……。

言った相手が剣聖の姉さんでは、あまり締まらなかった。

「わかった、頼りにしておくとしよう」

「ええ、大いに頼ってください。ついでに言っておくと、注意すべきなのは魔だけではありませんよ」

「ほう?」

「何でも、境界の森の木の中には人を食べてしまう食人樹もあるのだとか」

へえ、そんなのがいるのか……。

さすがは魔界へと通じる森、植まで人を襲ってくるとはシャレにならないな。

この話には、さすがの姉さんもし険しい顔をした。

いくら何でも、森中の木々を切り倒しながら進むわけにもいかないしな。

「それは厄介だな。見分け方などはあるのか?」

「簡単です。奴らは火を怖がるそうですから、近づければ一発です」

腰のマジックバッグを漁ると、ウェインさんは松明を取り出した。

そしてそれを俺と姉さんに手渡すと、パチンッと指を弾いて自のそれに火を點ける。

ボウッと空気の揺れる音がして、たちまちほのかな熱気が伝わってきた。

すると……何やら急に森がざわめき始める。

「なんだろう? 風?」

「いや、そんなの吹いてないぞ……」

「やだ……怖い……!」

急に騒がしくなる森に、揺する一同。

それに呼応するようにランドドラゴンが首をもたげた。

そして、何かを威嚇するように低い唸りを上げる。

間違いない、モンスターが俺たちに近づいてきているんだ。

それも、ドラゴンが警戒するほどの何かが!

「うわ、森の木が!」

「噂をすれば影というが……。さっそく當たりを引いたようだな」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! この數は……!」

次々とき出す森の木々。

その様はまるで、緑の津波のようだった……!!

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