《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第三十四話 いざ勝負!
「……やれやれ、何とか事態が片付いたな!」
翌日。
俺たちは事件解決のお祝いも兼ねて、食堂でし豪華なブランチを取っていた。
似たようなことを考える人も多かったのか、既に食堂の席は埋まっていて騒ぐ人たちまでいる。
これまで抑圧されていた分、発散するエネルギーも大きいのだろう。
まだ晝前だというのに、完全にお祭りムードだ。
「結局、エルマールの街はしばらくヴァルデマールの分家が治めることになったんですよね?」
「ああ。レオニーダ殿の処分は後日決まるそうだ」
「極刑は免れるだろうが、十年は修道院で過ごすだろうなぁ」
腕組みをしながら、つぶやくロウガさん。
位の高い貴族が犯罪を起こした場合、投獄されることはめったにない。
代わりに、彼らは僻地の修道院で長く厳しい修行生活を送るのだ。
事件の重大さからして、レオニーダ様も恐らくはそうなることだろう。
「テイルはどうなるのでしょう?」
コクンと首を傾げながら、ニノさんがロウガさんに尋ねた。
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すると彼は、うーんと困ったように眉間に皺を寄せる。
「そうだなぁ……。ひとまずはどこかの貴族の養子にって、そのあと領主の座を継ぐんじゃないか」
「今回の件に関して、テイルはまったくの無関係だって主張してたもんねえ」
全面的に自の責任を認めたレオニーダ様であったが、テイルさんの責任だけは強く否定した。
何もかも自分が命令して強制させたことであると、一人ですべての責任を負ったのだ。
母親として、何かしら思うところがあったのであろう。
最後に親らしいことでもしてやりたかったのかもしれない。
「ま、ここから先はボクたちの立ちる問題じゃないか」
「そうだな。にしても、する男のためにあそこまでするなんて。の念は恐ろしいぜ……」
「その言い方、ちょっとどうかと思うけどなー」
しみじみと語るロウガさんに、ぷうっと頬を膨らませて噛みつくクルタさん。
一方で、ライザ姉さんは大人らしくいくらか落ち著いた態度で言う。
「とにかく、これで街の活気も戻るだろう。重稅も廃止されるという話だしな」
「ええ。人魚さんたちも、これからはたまに街を訪れるとか」
「これからは街の人々とも穏當な関係を築けるといいですね」
俺がそう言うと、ライザ姉さんは深々と頷いた。
これまでの経緯を超えて、ぜひとも仲良くしてほしいものだ。
今回の事件で協力したことが、そのきっかけとなってくれるといいのだが。
「ひとまず、これで用も済みましたし。ラージャへ帰りましょうか」
「ああ。いろいろとあって、私も流石に疲れてしまった」
「そうだねー。さっさと帰って、聖剣を修理してもらおうよ!」
「はい!」
こうして俺が頷いたところで、ニノさんがあっと聲を上げた。
彼は時計を見ると、青ざめた顔をして言う。
「ジーク、大変ですよ!」
「え?」
「エクレシアさんとの勝負まで、あと十分しかありません!!」
「ああっ!! 忘れてた!!」
いけない、昨日の件で勝負のことがすっ飛んでた!!
やばいやばいやばい、ここからだと全力で走らないと間に合わないぞ!
「……ごちそうさま! 後のことは頼みます!」
「あ、ちょっとちょっと!!」
俺は急いでスープの殘りを飲み干すと、慌てて席を立った。
そしてそのまま、取るものもとりあえず約束の広場に向かって走り出す。
活気の戻ったエルマールの街は、人通りがずいぶんと増えていた。
俺は行きう人々の合間をすり抜けながら、るように進んでいく。
やがて広場が見えてくると、そこには既にギャラリーを引き連れ待ち構える姉さんの姿があった。
ちょっと怒っているのだろうか、タンタンッと足でリズムを刻んでいる。
「遅い、五分前集合するべき」
「すいません、うっかりしてて」
「……もしかして、約束を忘れてた?」
ムッとした顔でそう問いかけられた俺は、思わず顔をこわばらせた。
エクレシア姉さんってこういう時の勘は本當に鋭いんだよな……。
しかし、ここで素直に答えると話がややこしくなる。
俺は渾の笑みを作ると、どうにか誤魔化そうとする。
「そ、そんなわけないよ! ただちょっと、ギリギリまで修正してたら遅くなっちゃって」
「怪しい」
「ほ、本當だって!!」
俺が懸命に取り繕うと、やがてエクレシア姉さんは「まあいい」とそっけなく言った。
そして気を取り直すように咳ばらいをすると、俺の額をビシッと指さす。
「では、勝負開始。絶対に勝つ!」
「俺だって、負けませんよ!」
忘れていたのは事実だが、俺だって懸命に仕上げてきた作品がある。
みんなの力を借りて作り上げた、自慢の絵だ。
俺は姉さんに負けじと大きくを張ると、絵のっているマジックバッグを取り出す。
すると姉さんもまた、余裕たっぷりに絵に掛けられていた布を外した。
「おおお……!!」
「何と素晴らしい……!!」
絵が見えた瞬間、ギャラリーがどよめいた。
それは、題材としてはありきたりともいえる風景畫。
輝くラミア湖をバックに、整然と広がるエルマールの街並みが描かれている。
しかし、完度が尋常なものではなかった。
景をそのまま切り出したような寫実はもちろん、そこへ虛構を織り込むことで雰囲気が増している。
虛実を巧みに使い分ける姉さんの技量の高さが、これでもかと言うほどに現れていた。
「むぐぐ……!!」
やはり、実力では俺の方が不利だ。
そう実せざるを得ず、たまらず冷や汗を流す。
これは勝てないかもしれない。
俺の心の中で、ムクムクと弱気が頭をもたげた。
しかし、それをどうにかこうにか振り払う。
せっかく、サマンさんにも協力を仰いで仕上げたのだ。
たとえ姉さんが相手だろうと、退くわけにはいかない……!!
「これが、俺の絵です」
こうして俺は、マジックバッグから取り出した絵をその場にいた全員に見せるのだった。
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