「……ううむ、まだ出られないのか？」

行き止まりで引き返してから、何時間が過ぎたのだろうか？

俺たちはまだ黒雲の中を彷徨っていた。

ドラゴンが終結した影響なのであろうか？

メイリンが案する道は、どこもかしこも塞がってしまっていたのだ。

「すいません……！　どうも、落盤が相次いでいるみたいで」

「まさか、わざとじゃないだろうな？」

「もちろん！　私だって、こんなところは早く出たいですよ！」

「本當だろうな？」

メイリンの肩に手をかけ、詰め寄るライザ姉さん。

その迫力に、たまらずメイリンは「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。

見かねたシエル姉さんが、やれやれと二人の間に割ってる。

「まあ落ち著いて。そりゃ、あれだけドラゴンが集まればおかしくもなるわよ」

「……それもそうか」

「それに、ドラゴンだけじゃないみたいだしね」

そう言うと、シエル姉さんは天井の鍾石に眼をやった。

本來なら氷柱のように長くびているはずのそれらは、途中で折れたように短くなっている。

それも一つや二つではなく、周囲の鍾石のほとんどが欠けたり折れたりしていた。

「もしかして、これもムカデの仕業？」

「恐らくはね。ここに引っかかるとなると、相當な大きさだわ」

天井の高さは、ざっと大人の背丈の二倍と言ったところであろうか。

鍾石の長さの分を考えても、人間の背丈を遙かに超える高だ。

高さでそれだけなのだから、いったい長さはどれほどになるんだ……？

想像をするだけでも、恐ろしい怪だ。

大きさだけなら、ドラゴンをも超えるかもしれない。

「……ねえ、次に広い場所に著いたら休まない？　流石にちょっと疲れてきちゃったよ」

「ええ。疲労した狀態で敵に遭遇したら危険です」

力的に厳しくなってきたのか、休憩を提案してくるクルタさんたち。

窟の地面はくてりやすく、高低差もかなり激しかった。

俺や姉さんたちはまだ余裕があるが、クルタさんたちは既にかなり疲れているようだ。

「そうね、時間ももうすぐ夕方になるし。今日のところは、ここで休むしかなさそうだわ」

「まあ、しょうがねえな。資はあるし、ゆっくり行こうぜ」

「そうですね。ゴールデンドラゴンとは萬全の態勢で戦いたいですし」

幸いなことに、野営の準備はしっかりと整えてきている。

萬が一、谷できが取れなくなった時などのためにたっぷりと食料も持ち込んでいた。

ゴールデンドラゴンのきが気になるが、余裕が全く無いわけではない。

「それなら、ここからし進んだ先に大空があります。そこで休みましょう」

「よし、さっさと行こうぜ。俺もちょっと疲れちまった」

こうして、そこからさらに歩くこと數分。

俺たちの目の前に、広大な空間が姿を現した。

地下の渓谷とでも表現すればいいのだろうか？

天井が非常に高く、地上に近づくほど壁が迫り出して細くなっている。

さらに時折、ぼんやりと淡いの揺らめきが見えた。

どうやらこの場所は、ララト山を走る龍脈からかなり近い場所にあるらしい。

「おお……これは大したものだな！」

「すごいですね、星空みたいだ」

「魔力がってるのね。こんなの、私も初めて見るわ」

揺うの靄を見ながら、興味深そうにつぶやくシエル姉さん。

窟の中ということで、辛気臭いじになってしまうのではないかと思っていたが……。

この分ならば、快適に野営することが出來そうである。

俺たちはさっそくマジックバッグの中から資材を取り出して準備を始める。

「それじゃ、テントは俺たちに任せといてくれ」

「なら、私たちは料理の準備をするわ」

「私にお任せください！　料理は得意なんです！」

ここで、メイリンが自ら料理番を買って出た。

案がうまく行っていないことに、責任をじているのだろうか？

彼は姉さんやクルタさんたちに休むように言うと、一人で料理を始める。

「私の家は、もともと小さな宿屋だったんです。白龍閣ほど高級じゃないですけど」

「へえ、それで手際がいいんだ」

「はい！　お母さんの手伝いをいっぱいしてましたから」

どこからか自前の調理を取り出し、調理を進めていくメイリン。

やがて香ばしい匂いが漂い始め、俺たちの目の前にどっさりと饅頭が積み上げられた。

ほこほこと湯気を立てるそれらは、ふっくらして何とも旨そうだ。

「どうぞ！　メイリン特製まんだよ！」

「すげえ！　窟でこんなのが食えるなんてな！」

「んんー！　が溢れる！！」

まんをかじって、心底満足げな笑みを浮かべるクルタさん。

よほどおいしいのだろう、彼は無言で二個目を口に放り込んだ。

隣のニノさんも、彼に負けじと次々とまんを食べ進める。

「焦らなくても、おかわりはたくさんありますよ！」

「おいしくってね、つい！」

「じゃあ、俺も……」

こうしてまんを食べると、たちまち旨味が口いっぱいに広がった。

おぉ……！　の洪水みたいだ……！

もっちりとした皮が旨味を良く吸い込んでいて、噛めば噛むほど溢れてくる。

白龍閣で出されたものも絶品だったが、これも決して負けていない。

むしろ、いくらか上回っているようにさえ思える。

「…………ん？」

こうしてまんをお腹いっぱいに食べると、不意に眠気が襲ってきた。

お腹が満たされたせいで、疲れが一気に出てきたのだろうか？

俺はたまらず瞼をるが、眠気が収まる気配はない。

段々とが重く、かなくなってきた。

「……やっぱりそういう手で來たわね。ノア、これを！」

ここでいきなり、シエル姉さんがポーションを投げつけてきた。

慌ててそれをけ取って口に含むと、たちどころに眠気が消えていく。

やっぱりそういう手って、まさか……！

俺が驚いていると、シエル姉さんが畳みかける様に言う。

「ぜんぶ噓だったのよね、メイリン」

「ど、どういう意味でしょう？」

「お母さんが病気だってのも、竜炎草がしいってのも全部よ」

「そんなこと、ありません！」

シエル姉さんの追及に、メイリンはフルフルと首を橫に振った。

その仕草は何とも弱々しく、本気で焦っているようであった。

しかし、姉さんは躊躇することなく言う。

「だって、あなたがしがってた竜炎草ってね。確かに高価な薬草ではあるのだけど……」

はぁっと息をつき、何やらうんざりしたような顔をするシエル姉さん。

彼はメイリンの眼をまっすぐに見據えると、改めて強い口調で告げる。

「強力な力剤に使う薬草でね。お母さんの病気の薬になんて、絶対に使わないの」

それを聞いた瞬間、メイリンの表が凍り付いた――。