「ふぅ～～！！　いい気分だぜ！」

翌日、俺たちはメイリンの案で山の溫泉を訪れていた。

昔は街の住民もよく利用した場所だそうだが、より便利な場所に源泉が見つかったため廃れたらしい。

そのため、街の人との接を避けたい俺たちでも人目をはばからずに利用できるとのことだった。

とはいえ、設備自はしっかりしたもので大きな湯殿はもちろん所なども完備。

おまけに山の斜面にある溫泉のため、湯船からは遙かチーアンの街を見下ろすことができる。

まさしく言うことなしの絶景溫泉だ。

「やっぱり溫泉はいいですねー」

「ああ。が疲れた時は一番だ」

ドボンッと肩までお湯に浸かるロウガさん。

眼を細めて、何とも気持ちよさそうな顔をしている。

俺も全を石鹸で洗うと、泡を流してすぐに湯船に浸かった。

白のお湯がしっとりとしたりで、全を優しく包み込まれるようだ。

そして、全の力が心地よく抜けていく。

前にラズコーの谷周辺でもったことがあるが、あの時よりもいいかもしれない。

「ふぅ……。天國ですねえ」

「ああ。惜しむらくは、ここが混浴じゃねえってことだな」

そう言うと、湯と男湯を隔てる大巖を見やるロウガさん。

高く分厚いそれは斜面に大きく迫り出していて、間違っても覗きなどできないようになっていた。

「ロウガさんはいつもそれですね……」

「まー、男なんてそんなもんだろ。むしろ、ジークはが無さすぎねーか？」

「別にそういうわけじゃないですけど」

「なら聞くが、お前はどんなが好きなんだ？　言っておくが、優しい人とかはなしだぜ」

ニヤニヤッとし嫌らしい笑みを浮かべながら、俺にすり寄ってくるロウガさん。

そう言われても、あんまり考えたこととかないんだよな……。

実家から出してもらえなかった俺は、同年代の男子との付き合いがほとんどなかった。

そのため、こういう話題にはどうにも慣れていない。

すっかり困ってしまって、逆にロウガさんに聞き返す。

「なら、ロウガさんはどんな人が好みなんですか？」

「俺か？　そうだな……。がドカンとデカくて気があって、気風のいいねーちゃんとか最高だな」

ロウガさんの言葉で、俺はヴェルヘンで出會ったラーナさんの姿を思い出した。

しなやかな肢にくびれた腰、量たっぷりに膨らんだ。

目鼻立ちはハッキリとしていて気があり、それでいて男勝りな気風の良さを伺わせる。

ロウガさんの求める條件を、十二分に満たした人であった。

「あー、それでラーナさんとペアを組んでたんですね」

「待て待て、何でそこでラーナが出てくる！」

「だって、ロウガさんの言うってまんまラーナさんじゃないですか」

「あれは違う！　見た目はそうかもしれんが、中は絶対に違う！」

いささかムキになって否定するロウガさん。

彼はそのまま、俺とし距離を取ってしまった。

……とりあえず、さっきの質問には答えなくても良さそうだな。

俺はほっとをで下ろすと、再び肩まで湯船に浸かる。

「そう言えば、このお風呂ってサウナもあるみたいですよ」

「蒸し風呂のことか？」

「ええ。地熱を利用しているとかで、すごく気持ちいいとか。それに、サウナの方は混浴らしいです」

「それを早く言え！」

急に眼のを変えて、凄い勢いで湯船から上がっていくロウガさん。

彼は手拭いでを軽く拭くと、そのままサウナのある巖の方へと向かっていく。

「ああ、ちょっと待ってください！」

「なんだ？　俺は急いでいるんだ！」

「サウナにるには、専用の服を著ないとダメです！」

「……なんだ、著なのか」

へなへなとその場に崩れ落ちてしまったロウガさん。

まったく、何を期待していたんだか……。

俺はやれやれとため息をつくと、湯船から出て所にった。

そしてメイリンから預かっていたサウナ用の白い服を手渡す。

「これです」

「ほいよ。へえ、手りがいいな」

「サウナから出たら、そこの湧き水でを流すといいとか。調子が整うらしいですよ」

「よし、んじゃるか」

こうして、服を著た俺たちはサウナの中へと足を踏みれた。

すると驚いたことに、既に先客がいた。

ライザ姉さんである。

「む、お前たちも來たのか」

「ええ、せっかくなので。姉さんこそ、何やってるんですか？」

何故か、サウナの中で胡坐をかいていたライザ姉さん。

既にかなり長い時間っていたようで、その額にはじっとりと汗が滲んでいた。

「うむ、神修養にちょうどいいと思ってな。座禪をしていたのだ」

「ざぜん？　何ですか、それ」

「メイリンに聞いた東方の修行法だ。結構いいぞ」

「へえ……。でも、やりすぎないでよ？」

サウナで倒れてしまっては、元も子もない。

俺がそう注意をすると、姉さんはわかったわかったとばかりに頷いた。

そうしていると、今度は反対側の扉が開いてクルタさんたちが中にってくる。

俺たちと同様、みんなでお揃いの白い服を著ていた。

用と男用はしデザインが違うようで、用はにぴったりとしたものになっている。

「これはなかなか……」

「む、ロウガは何を見ているんですか？」

「ははは！　人聞きが悪いな、何も見てないって」

警戒をわにするニノさんに、笑って誤魔化そうとするロウガさん。

しかし、その視線は明らかに陣の元へと注がれている。

薄手の服が汗でに張り付き、のラインがはっきりとわかるようになってしまっていた。

「……やはり一番はライザか」

やがて、ぽつりとつぶやくロウガさん。

かなり小さな聲であったが、ここは狹いサウナの中。

本人が思った以上にはっきりと皆に聞こえてしまった。

そして――。

「何が一番なのかしらね？」

「え？　いや、俺は別にシエルが小さいとは……」

「やっぱり思ってたんじゃないの！！」

たちまち炸裂する、シエル姉さんの氷魔法。

ロウガさんはそのままサウナの中で氷漬けとなったのだった。