《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第二十二話 導師

チーアンの街を見下ろす崖の上。

そこにひっそりと佇む小さな社がある。

龍の信仰を司る導師は、ここで俗世から離れた生活を送っていた。

「いよいよ儀式も近い。準備に抜かりはないか?」

黃金で造られた龍の像。

それに祈りを捧げながら、導師は背後に控える男たちに尋ねた。

すると男の一人が、顔を伏せながらも前に出て言う。

「はい、萬事整っております」

「うむ。明日の儀式は我らにとって最も重要な儀式だからな」

「もちろん、わかっておりますとも」

「して、例の冒険者どもはどうだ?」

先ほどと比べて、いくらか強い口調で問いかける導師。

例の冒険者どもとは、ゴールデンドラゴンの討伐に來たシエルやジークたちのことである。

忌々しいことに、さまざまな妨害を仕掛けたにもかかわらず彼たちはいまだ街に滯在し続けていた。

「白龍閣に逗留を続けているようです。ただ、宿に潛らせている者によると仲間割れをしているとか」

「ほう? それはどういうことだ?」

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「仲間の何人かが、討伐を諦めて帰ろうと言っているとか。食堂で激しく言い爭っていたようです」

「無理もない。冒険者どもとしても、あれだけ龍が集まっているのは想定外だっただろう」

「それで明日の朝、何人かが街に帰るようです」

男の報告を聞いて、導師は満足げに頷いた。

その様子では、もうまともに依頼を遂行することはできないだろう。

殘った方もいずれは無謀な突撃をして、無慘に撤退するのが関の山に思えた。

「そうかそうか、それは素晴らしい。あの裏切りの一族もしは役に立ったか」

「そのようで」

「まぁ、あの者たちの罪狀を考えればこの程度では足りぬがな」

突き放すように告げる導師。

一族の汚名を雪ごうといたメイリンであったが、何をしようと導師は許すつもりなどなかった。

彼にとってメイリンは、汚れ仕事も率先して行う都合のいい存在にすぎなかったのである。

その弱みを自分から手放すことなど、するはずがない。

「ではそろそろ、お前たちは下がって良いぞ」

「はっ! 失禮いたします!」

キビキビとしたきで社を後にする男たち。

一人殘された導師は、不意に姿勢を崩して言う。

「単純なよ。あとしで、我らのみが果たされる……」

そうつぶやく導師の口からは、人にはない牙が覗いていた――。

――〇●〇――

儀式當日の朝。

俺たちは白龍閣の前で激しい言い爭いをしていた。

討伐は無理だと判斷した俺たちとあくまで続行を支持するクルタさんたちの爭いである。

「じゃ、俺たちは先に帰りますからね!」

「どうぞどうぞ、勝手にしなよ。ボクたちは意地でもゴールデンドラゴンを倒すんだからね!」

俺に向かって、あっかんべーと舌を出すクルタさん。

それに対して、ライザ姉さんが挑発的な笑みを浮かべる。

「ははは! お前たちだけでゴールデンドラゴンを倒せるものか! バカも休み休み言え!」

「む、言ったな!? 必ず倒すんだからね!」

「無理無理、だいたい依頼主の私が帰るって言うのにどうするのよ?」

ここへさらに、シエル姉さんまでもが參戦した。

腰に手を當てて、小姑さながらに厭味ったらしい笑みを浮かべている。

普段は掛けない眼鏡なんてして、ここぞとばかりに賢者のエリート意識をむき出しにしていた。

「ま、所詮は頭の足りない冒険者の考えることねえ」

「……お姉さまを馬鹿にしないでいただけますか?」

「何よ。私は事実を言っているだけよ?」

「聞き捨てなりませんね」

スッとクナイを手にするクルタさん。

シエル姉さんもまた、負けじと杖を握り締めた。

おいおい、まさかこんな街の真ん中で喧嘩を始めるつもりか……!?

ひやりとした俺は、慌てて二人の間に割ってる。

「こんなところでやめてくださいよ! とにかく、さっさと帰りましょう」

「……それもそうね」

「ええ、本當に手が出るところでした」

そう言うと、微かに口元を緩めるニノさん。

こうして爭いが収まったところで、俺たちは白龍閣を後にする。

そして、ラージャに続く街道をゆっくりと歩き始めた。

「……まだいますか?」

「もういないな」

「ええ、私の魔力探知にも引っかからないわね」

道なりに進むこと十五分ほど。

俺たちは監視がいなくなったことを確認して、ようやく足を止めた。

そう、先ほどのやり取りは全て監視を欺くための噓。

喧嘩別れしてラージャに帰ったように見せかけて、儀式に忍び込みやすくするための策である。

「あとは、街の人に見つからないように戻ればオッケーですね」

「ええ。道はメイリンに調べてもらってるわ」

そう言って、懐から地図を取り出すシエル姉さん。

俺たちはそれを頼りに、川に沿うようにして街の方へと戻っていく。

すると橋の下でメイリンが俺たちを待っていた。

は俺たちの姿に気づくと、無言で手を振って導を始める。

それに従ってさらに進んでいくと、やがてはメイリンの家のすぐ近くへと出た。

「ここまでくれば安心ですよ!」

「ふぅ、うまく行ったわね!」

「あとはうちで著替えを済ませて、街に戻りましょう!」

こうして、俺たちは手早く著替えを済ませて街に戻っていった。

さあ、儀式はもうすぐだぞ……!

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