《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第二十五話 大いなる翼

「グオオオオォ……!!」

霧の広がる谷底。

切り立った斷崖が迫り、も差し込まない薄暗い空間。

そこに神々しいほどの輝きを放つ巨大な生がいた。

これがゴールデンドラゴン……!!

その存在に、俺たちはたまらず息を呑んだ。

チーアンの人々がこのドラゴンを崇めた理由が、今ならはっきりと理解できる。

それほどまでに、超越的な存在に思えた。

「聖龍様……!!」

「何と素晴らしい……!!」

ゴールデンドラゴンの姿を見て、嘆しきりと言った様子の人々。

中には、その場で膝を折って深々と跪く者までいた。

一方で、先頭に立つ導師は周囲と比べるとずいぶん落ち著いた様子だ。

やがて彼はトンっと杖を突くと、こちらに振り返って言う。

「さあ、儀式を始めよう! 皆の者、我が前へと集まるのだ!」

微かに魔力の込められた導師の聲。

それに導されて、人々が一か所に固まっていく。

俺たちは何だか嫌な予がしたが、ひとまずはその指示に従った。

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こうして全員を集めたところで、導師はそれを囲むように杖で大きく円を描く。

「これでよし。さあ、跪いて聖龍様に祈りを捧げよ!!」

大地に膝をつき、一斉に頭を垂れる人々。

俺たちもそれに習って、ドラゴンに向かって頭を下げる。

大勢の人々が同じ作を繰り返す様は、ある種、異様な景であった。

周囲に獨特の宗教的な熱狂とでもいうべきものが満ちる。

「……どうしますか、姉さん」

ここで俺は、隣にいたシエル姉さんに小聲で呼びかけた。

いつ行を起こすのか、その判斷を仰ぐためである。

すると姉さんは、周囲の様子を伺って渋い顔をする。

「これじゃ、すぐにはけないわね。街の人を巻き込んじゃう」

「ですね。ドラゴンがブレスを吐いたらひとたまりもない」

「……そう言えばあのドラゴンはずいぶんと大人しいな」

俺たちの後ろから、ライザ姉さんの聲が聞こえた。

確かに、俺たちを発見すると即座に襲い掛かってきた谷のドラゴンとはし様子が違う。

これだけの人數が集まっているというのに、唸るだけで襲ってくるような素振りはまったくない。

その青い眼は理知的で、ドラゴンらしからぬ穏やかさだ。

「苦しんでる?」

出産を間近に控えているせいであろうか?

ドラゴンの表は、どうにも苦しげであった。

そして、俺たちに向って何かを訴えようとしているようである。

やがてその視線は、ドラゴンの足元で祈り続ける導師へと向けられた。

「やっぱりあの男、怪しいわね……。ノア、やるわよ!」

「今ですか?」

「ええ! ここでかないと手遅れになるわ!」

そう言って、勢い良く立ち上がるシエル姉さん。

はそのまま、導師の顔をビシッと指さして言う。

「そこのアンタ、いったい何者? うまく誤魔化してるようだけど、人間じゃないわよね!」

シエル姉さんの思いもよらない言葉に、どよめきがおきた。

そうか、妙な違和はそれが原因だったのか!

音聲に魔力をれ込むのも、主に魔族などが得意とする技だったはずである。

するとシエルの言葉を聞いた導師は、口を大きく開いて高笑いを始める。

出した歯は牙のように尖っていて、人間のものとは明らかに異なっていた。

「かっかっか、邪魔者がおったか! だが、もうすでに遅いわ!」

「どういうことよ?」

「これを見るが良い!」

そう言うと、導師は杖を大きく振りかざした。

途端に突風が吹いて、周囲の霧が吹き飛ばされていく。

それに合わせて、さながら蜃気樓のように景が歪んだ。

やがて何もなかった場所に、家ほどもある巨大な結晶が姿を現す。

「何という大きさだ……!」

「もしかして、これが王立魔法研究所から強奪された……」

「ええ、間違いないわ!!」

魔結晶の部では、今にも発しそうなほどの膨大な魔力が渦巻いていた。

しかも、闇に染まったような不気味な暗をしている。

紫と赤のが、捻じれて歪み渦を巻く。

見ているだけで、そら恐ろしいような気分になる景だ。

「こいつには、人間どもの祈りを魔力に替えて蓄えてある。これだけあれば、龍の王をるにも十分よ」

「祈りを魔力に……? 龍の王をる……?」

「さよう。そのために人間どもを數百年に渡って欺き、信仰をさせてきたのだ」

導師の口から発せられた、恐るべき真実。

街の人々は怒りを通り越して、ただただ茫然としていた。

自分たちの信じていたものが、一瞬にして崩れ去る。

いかなる気分なのか想像することすらできないが、相當なショックであったことは間違いない。

他の人々と比べて信仰が薄いはずのメイリンですら、顔を引き攣らせて小刻みに震えている。

「ははは! いいぞ、もっと絶するのだ。それもまた良い糧となる」

「あんた、魔族でしょ? 流石に格が悪いわね」

「ふん、ワシはただの魔族ではない! 真の魔族だ!」

「……真の魔族? 普通の魔族とは違うわけ?」

あえて挑発的な口調で尋ねるシエル姉さん。

すると導師はそれが気にらなかったのか、いささか興したような口調で言う。

「そうだ、我ら真の魔族は現代の腑抜けた連中とは違う! 魔界出の者のことを言う!」

「魔界って言うと、この大陸の西側のこと?」

「違う! この世界の裏側にある世界のことだ」

これは……何だか話が大きくなってきたぞ……!!

魔族の語り始めた話の容に、俺は得の知れない恐怖を覚えるのだった。

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