《【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです》第二十九話 誕生

「まずいわね……!!」

不気味に蠢き、膨れ上がっていくドラゴンの腹。

そのきの激しさは、胎児がいているなどという生易しいものではない。

さながら、側にいる何者かが母を食らって大しているようだ。

邪悪な魔族の意志が腹の中の王を汚染し、一気に孵化しようとしている。

「グオァ……! 卵が、暴れている……!!」

苦しげな聲を上げ、地面に倒れるゴールデンドラゴン。

やがてその口からぬるりとしたがこぼれ始めた。

それと同時に、大きな魔力がドラゴンの腹から首へと移を始める。

まさか、もう産まれるのか……!?

予想外の展開に、俺たちは顔険しくする。

「シエル姉さん、これは……」

「やるしかないわ。生まれた直後なら、流石の王もき取れないはずよ」

「…………くっ」

俺に加護を與え、勝利を手助けしてくれたゴールデンドラゴン。

魔族の意志に汚染されたとはいえ、その子を俺たちが殺すのか……?

これまでにないが、俺の中で激しく渦を巻く。

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理屈の上では、そうするのが最も確実だということはわかる。

ゴールデンドラゴンも俺たちを責めるようなことはしないだろう。

しかし、だからと言って……そんなことしていいのか?

「グオオアアァ……!!」

ゴールデンドラゴンのが、小刻みに痙攣を始めた。

魔力がさらに膨れ上がり、異様なオーラとなって噴出する。

……産まれる!

俺たちがそう察した瞬間、ドラゴンの口から卵が吐き出された。

黒く艶のあるそれは、寒気がするほどの禍々しい気配を放っている。

「蒼天に登りし紅鏡。森羅萬象を照らすもの。我が元に集い――」

卵が地面に落ちると同時に、姉さんが呪文を紡ぎ始めた。

噓だろ、超級魔法じゃないか!!

しかも、普段はあまり使うことのない炎の魔法である。

一切の容赦のない本気の一撃だ。

「グラン・ヴォルガン!!!!」

たちまち形される巨大な火球。

を思わせるそれは、炎というよりはの球に近い有様であった。

その圧倒的な熱量に、近くにいるだけでもが焼けてしまいそうだ。

それが轟音を立てて、卵に迫る。

「うおっ!?」

炎が炸裂し、巨大な火柱が天に昇った。

熱風が駆け抜けて、眼も開けていられない。

こんなものをけたら、いくら龍の王と言えどもひとたまりもなさそうだな……!!

俺と姉さんは近くの巖に避難すると、どうにか熱風をやり過ごす。

そして數十秒後。

俺たちが外に出て様子を伺ってみると、そこには――。

「噓っ!? そんなことって……!!」

驚きのあまり、瞼を何度もるシエル姉さん。

俺も、自分の眼を思わず疑ってしまった。

あれだけの攻撃をけたにもかかわらず、卵の表面には傷一つついていなかったのだ。

周囲の巖が溶けてしまったにもかかわらず、平然とその場に立っている。

「ええい、こうなったら……!」

「ね、姉さん!?」

俺が制止するのも聞かず、姉さんは勢いよく飛び出して行った。

そして杖を高く掲げると、それに風の魔力を纏わせる。

たちまち暴風が吹き荒れ、杖を中心として小さな竜巻が出來上がった。

どうやら、竜巻の力で卵を砕しようとしているようだ。

しかし――。

「なっ!?」

飛び上がって、大きく杖を振り下ろしたシエル姉さん。

だがその瞬間、卵が割れて黒い腕のようなものが外に出てきた。

細く頼りなげなそれであったが、見た目に反してあっさりと姉さんの攻撃を弾き返す。

その衝撃で、姉さんは俺のすぐそばまで吹き飛ばされてきた。

「あぅっ!?」

「姉さん!!」

慌てて姉さんのけ止める俺。

そうしている間にも、卵の割れ目は大きくなっていく。

そして中から、黒く細のドラゴンが姿を現した。

金屬質な黒い鱗に、骨格の目立つ痩せた

その眼は落ちくぼみ、赤い瞳が炯々と輝いていた。

「これが……龍の王……!!」

まだに過ぎないというのに、周囲を押しつぶすような覇気がじられた。

対峙しているだけで、全から汗が溢れ出してくる。

こんな生が、この世界に存在したのか……!?

俺たちが驚いている間にも、王のしずつ長していった。

そのに蓄えた膨大な魔力を、一気にへと変換しているようである。

「ノアッ!! もうやるしかないわ、早く!!」

「…………はいっ!!」

ここでようやく、俺は覚悟を決めた。

――この生を活かしておくわけにはいかない。

頭の中で、自らの本能がそうんだのだ。

俺は改めて黒剣を構えると、ためらうことなく踏み込む。

黒剣の表面を魔力が流れ、淡いを帯びた。

既に加護の力は失われているが、それでも鉄ぐらいならば軽々と切り裂く一撃だ。

しかし――。

「なっ!?」

――ガキィンッ!!

凄まじい衝撃音と共に、火花が飛び散る。

信じがたいことに、王の鱗は刃を完全に弾き返してしまった。

をもろに食らってしまい、手が痺れる。

くそ、一発でダメならもう一発!!

俺は即座に勢を立て直すと、もう一度攻撃を試みた。

だが次の瞬間――。

「くはっ!?」

何の気なしに振るわれたドラゴンの爪。

しかしそれは、音をも置き去りにするほどの速さで俺に襲い掛かってきた。

それを剣でけた俺は、衝撃を殺しきれずに吹っ飛ばされてしまう。

そして――。

「折れた……!?」

恐ろしいほどの頑丈さを誇っていた黒剣。

それが見事にぽっきりと折れてしまっていた。

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