「みんなこっち！　急いで！！」

「早く、建の影に隠れるんだ！」

街の上空を旋回し、次々にブレスを放つドラゴン。

炸裂する炎によって家々は焼き払われ、街を風が吹き抜ける。

平和な街に舞い降りた絶。

なすすべもなく逃げう子どもたちを、ロウガとクルタはしでも安全な場所へ逃がそうとする。

「まずいな、このままだと街が焼け野原になっちまう」

「早くジークが戻ってきてくれるといいんだけど……」

「こりゃ、それまで持たないかもしれねえ」

ロウガがそうつぶやいた瞬間であった。

彼らの宿でもあった白龍閣にブレスがぶつかり、瞬く間に炎に包まれる。

そして巨大な樓閣が、火のを巻き上げながらゆっくりと崩落していった。

街の中でもひときわ大きな建の崩壊に、たちまち彼らの顔つきが険しくなる。

ロウガたちの避難した建も、いつ攻撃をけるか分からなかった。

「ちっ！　こうなったら仕方ねえ、街を出るぞ！」

「でも、子どもたちが……」

保護した子どもたちへと目を向けるクルタ。

ロウガと彼だけならば、この狀況でもどうにか逃げだすことはできるだろう。

だが、子どもたちを連れて行くとなると話は別だ。

どうしても目立つことになる上に、子どもの足では移も遅くなる。

建のから出るのは、ある種の賭けだった。

生き殘るか、全滅するか。

その二択しか存在しない。

「リスクはある、だがここにいてもじり貧だ」

「もうし待てないの？」

「ダメだ、こういう時に判斷を遅らせるとろくなことにならねえ」

「それはわかるよ。冒険者だけなら、ボクだってそうする。でもここにいるのは……」

「ペルちゃん！！」

不意に、二人の背後にいたがんだ。

急いで振り返ってみれば、小さな柴犬が道の真ん中を歩いている。

どこかの飼い犬だったようで、首には赤い首が巻かれていた。

足に怪我をしているようで、その歩き方がどこかぎこちない。

「大丈夫、ペルちゃん！！」

「こら、ちょっと待て！！」

「いきなり出たら危ないよ！！」

ロウガとクルタの制止も無視して、は道に飛び出して行ってしまった。

そして犬を抱きかかえると、満面の笑みを浮かべる。

「ペルちゃん、良かった……！！」

犬を見つけて安心したのか、はそのまま座り込んでしまった。

犬もする飼い主と再會できたのがうれしいのだろう、の頬を舐めて尾を振る。

だがここで――。

「グルァ？」

翼を休めるため地上に降りていたドラゴン。

それがいきなり、建のから顔を出した。

錯する視線。

不運にもドラゴンと目が合ってしまったは、たちまちを強張らせる。

恐怖の中で靜止する時間。

が息を呑む音だけが、燃え盛る炎の中でもはっきりと響いた。

まさしく恐怖と絶の瞬間であった。

「クソッ！　間に合えッ！！」

「そりゃああッ！！」

を邪魔だと思ったのだろう。

を膨らませ、息を吸い込むドラゴン。

ロウガはを庇うべく走り出し、クルタはしでも攻撃を遅らせようとナイフを投げた。

しかし、間に合わない。

ドラゴンは巨大な火球を吐き出し、と犬が炎に呑まれる。

「クソがァ！！！！」

「な、な……」

目の前でを焼かれた。

その事実に、ロウガとクルタは打ちのめされそうになった。

二人とも冒険者として、修羅場を経験したのは一度や二度ではない。

だが、これほどまでに子どもが死ぬのを見るのは初めてだった。

心の奧底から、無力と自分への怒りが込み上げてくる。

だが次の瞬間――。

「安心しろ、子どもは無事だ」

立ち上る炎が割れて、見慣れた赤髪の剣士が姿を現した。

その手にはと犬がまとめて抱かれている。

ブレスが著弾するまでのごくわずかな間に、と犬を保護したのだ。

まさしく神業としか言いようのない速さである。

そんなことができるのは、剣聖である彼ぐらいのものだろう。

「ライザ……！！　戻ってきたのか」

「し遅くなった。まさか、街がこんなことになっているとは……」

空を舞う龍を睨み、忌々しげな顔をするライザ。

彼はと犬をロウガたちに任せると、改めて剣を抜く。

その顔つきはいつになく厳しく、眼は強い決意に燃えていた。

「あのドラゴンは私が何とかする。その間にお前たちは街の人を連れて逃げろ」

「何とかするって無茶だよ！　ジークが時間を稼いだ時とは狀況が違う！」

「そうだ！　あの時はドラゴンどももここまで殺気立っちゃいなかったからな」

慌ててライザを止めようとするロウガとクルタ。

以前、ジークがドラゴンの群れを足止めした時よりも狀況は遙かに困難。

群れ全が殺気に満ちているうえに、街ではあの時にジークが使ったような手は使えない。

いくら剣聖と言えども、無事で済むとは思えなかった。

しかしライザは、二人に対して笑いながら言う。

「私を誰だと思っている？　負けるものか」

そう告げると、ライザは大きく息を吸い込んだ。

そして自らの気を高めると、全に行き渡らせていく。

彼のがぼんやりと青白いを放ち始めた。

そして――。

「はああぁっ！！」

空気を蹴り、宙に駆け上るライザ。

彼はそのままドラゴンの肩に達すると、巨大な首を一撃で切り飛ばすのだった。