「いな！」

ライザの放った渾の斬撃。

山をも切り裂くそれをけてなお、龍の王は平然としていた。

鱗の一部に白い痕が殘ったが、せいぜいかすり傷と言ったところ。

全が金剛石で出來ているかのような、恐るべき頑強さだ。

「ならば、何度でも斬るのみ！」

一度でダメならば二度やればいい。

ライザは傷が淺いことを確認すると、同じ場所を狙ってもう一度斬撃を放った。

――キシィンッ！！

激しい金屬音、飛び散る火花。

青白い軌跡は正確無比に傷を穿つ。

これには流石の龍の王も、いくらか痛みを覚えたのだろう。

ライザを睨みつけると、忌々しげに眼を細める。

ようやく、眼の前に立つ剣士のことを自の敵であると意識したようであった。

「グオオオォッ！！」

「遅いっ！！」

放たれたブレスを、ライザは宙に飛んで回避した。

そのまま空を駆け抜けて、彼は一気に王の懐へと飛び込む。

そして三度、同じ場所を斬った。

するとそれまで攻撃に耐えていた鱗が、とうとう割れてが噴き出す。

ライザの圧倒的な技量が、龍の王の鱗に勝った瞬間であった。

しかし――。

「……まずいな」

右腕の筋が攣って、微かに震えはじめた。

剣の方にも相當な負荷が掛かっているようで、刃こぼれしてしまっている。

ライザの技量をもってしても、龍の王の鱗を斬ることはそれだけ困難なことだったのだ。

「次に賭けるしかないな」

今の狀況からして、本気の攻撃を出せるのはあと一回が限度。

ライザはそう判斷すると、の底から気を絞り出した。

全から青白いオーラが吹き上がり、王もその力に刮目した。

さらに瞳を閉じて、意識を集中させる。

最大の一撃を繰り出すため、ライザの覚が先に至るまで研ぎ澄まされる。

だがここで、予想外の出來事が起こってしまった。

「グア……？」

王の視線がふと、街の一角に注がれた。

変化を察したライザは攻撃を中斷すると、王が何を見ているのかと振り返る。

するとそこには、大きな包みを抱えたニノの姿がある。

瓦礫にうまく隠れて移していたようだが、王の眼は誤魔化せなかったようだ。

「あれは…………まさか、聖剣か！！」

ニノが抱える細長い布の包み。

形からして、中には剣がっているようであった。

ニノが必死で運ぶ剣など、この世に一振りしかない。

ラージャから修理を終えて運ばれてくるはずの聖剣だけだ。

「グオオオオォッ！！！！」

聖剣の気配に気づいたのであろうか。

王は咆哮を上げると、即座に攻撃態勢にった。

口元に魔力が集中し、たちまち燃え盛る火球が出來上がる。

――もしあれがニノに當たれば、ひとたまりもない。

ライザはやむを得ず、攻撃するタイミングを早める。

「はああああぁっ！！　天斬・滅竜撃！！！！」

三度放たれた斬撃。

鱗が裂け、とうとう刃がに食い込む。

紅いが激しく噴き出し、王が激痛にいだ。

ブレスを中斷した王は、激しくのたうち回る。

だが……。

「くっ……！！　ここまでか！」

攻撃を早めたことが、やはり仇となった。

完全に押し切ることができず、ライザはやむを得ず離を測る。

しかし、力を使い切ったは彼の予想以上にかなかった。

深く食い込んだ剣を抜くのに、しばかり手間取ってしまう。

するとそれを好機と見た王は、彼のを容赦なく手で払いのけた。

「かはっ！！」

吹き飛ばされ、近くの建に叩きつけられるライザ。

瓦が跳ね上がり、が屋にめり込む。

その衝撃で、手にしていた剣も吹っ飛んで行ってしまった。

まさしく絶絶命といった狀況だ。

「まずいな……逃げることすらできん……」

疲労したは、指一本かすだけでもやっとだった。

屋を飛び降りて逃げることなど、とてもできそうにない。

ポーションを飲むことすらできないような狀態だ。

ライザはそんな自にじわじわと距離を詰めてくる王の姿を見て、死を覚悟した。

すると自然に思考がクリアになり、不思議と晴れ晴れとした気分になる。

「最後の相手が龍の王か。格好はついたな……」

そう言って笑うライザに、王は容赦なく爪を振り下ろそうとした。

だがその瞬間、凄まじい雄びが響いてくる。

「やめろおおおおぉッ！！！！」

聲と飛來する斬撃。

それはちょうど、ライザが作った傷口に導かれるようにしてっていった。

噴き出す、轟く悲鳴、落ちる腕。

斬撃は見事に王の右腕を切り落とし、ライザを窮地から救う。

「姉さんっ！！」

こうして一時的にだが安全が確保されたところで、すぐさまノアが駆けつけてきた。

彼はライザのを抱きかかえると、急いでポーションを飲ませる。

気力を使い果たしたに、しずつ熱が戻り始めた。

「……大丈夫だ、もうける」

「良かった。もうあんな無茶しないでくださいよ」

そう言うと、ノアはライザのを抱えて地上に降りた。

そして建ので寢かせると、改めて王と対峙する。

するとここで、背後からの聲が聞こえてくる。

「ジーク、これを！！」

「……っ！！」

聲の主はニノであった。

ジークは彼から包みをけ取ると、中を見て驚愕する。

それは修理に出していたはずの聖剣であった。

「もう屆いたんですか！」

「はい。ちょうどさっき屆いて、何とかけ取ってきました」

「良かった、これがあれば……！」

剣を抜き放つジーク。

青白い刃が、を反して鮮やかにるのだった――。