ついに本編開始です。改めてよろしくお願いします。

カポッカポッという蹄(ひづめ)が地面を蹴る音と、ゴロゴロという木製の車が進む音が聞こえてくる。

同時に瞼(まぶた)を通して明るいお日様のをじた。

「ん……、ここは……？」

「お、やっと起きたか」

ボクの呟きに足元の方から聲が掛かる。慌てて上半を起こすと、ニカッと笑ったおじさんが振り向くようにしてこちらを見ていた。

「隨分と気持ちよさそうに眠っていたから、起こしそびれてしまっていたんだ」

「あ、いえいえ。こちらこそ乗せてもらっていたのに眠ってしまって……」

言いながら、開始直後に説明された設定を思い出す。確か……、冒険者となるために田舎の村から一番近い中核都市へとやって來た、というものだったはず。

ちなみにこの初期設定はいくつかあって、覇王として大陸の制覇を目指すものや、勇者様として異界から召喚された、なんていうぶっ飛んだものもあったりします。

「はっはっは。魔の一匹も出てこなかったんだから、まあ良しとしようや。それよりも、ほら。お前さんの目的地である『自由易都市クンビーラ』が見えているぞ」

「うわあ……」

おじさんの指さした右斜め前へと視線を向けてみると、そこには巨大な壁と口らしき大きな門、そしてその前に並ぶ人や荷馬車の列が見えた。

「なんだ、田舎から出てきたと言っていたからもっと驚くかと思ったんだが？」

「いや、驚いてはいるよ。驚いてはいるんだけど……、壁しか見えないじゃん！」

もっとこう、綺麗な街並みだとか、しいお城だとか素直に嘆の聲を上げられる何かがしかった。

「まあ、クンビーラは平地にある都市だからなあ。しかもほんの百年前までは『三國戦爭』のど真ん中で、常に戦禍に曬されていたって話だ。周りを囲む壁も高く分厚くなっているのは當然ってことだな」

「そうだね。街並みの方は門をくぐった時の楽しみに取っておくよ」

さて、ここで『ＯＡＷ』の世界についてしお話ししておこう。

冒険の舞臺となるのは『アンクゥワー大陸』。名前の通りというかなんというか、港を示す錨(いかり)形の地図記號をもっと太く丸っこくしたような形をしている。

現在隆盛を誇っているのは、大陸最大の湖のほとりに首都を置いて中央北部を支配する『水卿公國アキューエリオス』と、西方の高山地域を支配圏としている『土卿王國ジオグランド』だ。

実は同じくらいの領土を持つ國がもう一つあるのだけれど、さっきおじさんが言っていた『三國戦爭』で大きく國力を減衰してしまったのだとか。

絶対君主だった皇帝の力が低下した東の大國、『火卿帝國フレイムタン』は現在各地の有力貴族が抗爭を繰り広げる戦の地となっているらしい。

そして大陸の中央部分は三國の緩衝地帯としていくつもの都市國家が建設されている。ボクが向かっている『自由易都市クンビーラ』もその一つだ。

三國から何度も攻められたのに獨立を保ち続けたという経緯から近隣の中核都市であり、都市國家群の盟主的な扱いをされているのだそうだ。

三國にそれぞれ『卿』の文字がっていることについてや、細かい地形その他のことはまた後日説明するということで。

他もない話をしている間にも荷馬車は進み、城門前の列の最後尾へと到著した。

「ひのふのみっちゃんよっちゃんと……六組か。今日はまだない方だな」

総勢で三十人以上は並んでいたけれど、荷馬車で近隣の村々とクンビーラを行きっているおじさんから見れば、何人かごとにグループになっていたのが一目瞭然だったようだ。

それにしてもあの數え方はいかがなものか。ファンタジーな世界観が一気に失われてしまったようにじられてしまったよ。

「アイテムボックス、オープン」

自分たちの順番が回ってくまでの間、特にすることがなかったのでアイテムボックスを確認してみることにした。

「さてさて、何がっているのかなー？」

キーワードによって目の前に現れた布袋の中をガサゴソと漁ってみると……。

「初心者用の回復薬が五個に、安ビスケットが三個。後は……、初心者用武換チケットが一枚ね」

武換チケットは好きなタイプの武と換してもらえるという優れモノだ。まあ、今回は初心者用と名前に付いたものとしか換できないようになっているみたいだけど。

ボクの場合だと〔槍技〕を取得しているので槍一択だね。だけどプレイヤーの全員が武を扱う技能を取得している訳ではない。

それなら実際にってみて、自分に合うものを手にする方が良いだろうという運営側の配慮なのだとか。

それまで丸腰というのも危ないので、初期裝備の武として初心者用ナイフも支給されているのだけど、こちらはどちらかというと採取や魔の解に使用するためのという扱いとなっている。

ついでに言うと、防の方は上半と下半、そして靴の三つが初期裝備品だ。

先ほどの初心者用のナイフと合わせて、これら四つは売買ができなくなっている。それというのも、これ以外の武や防には耐久度が設定されていて、使い続けていると壊れてしまうからだ。

その時に素っになってしまわないように、これらの裝備品は常に攜帯しておかなくてはいけないようになっているのだった。

さて、殘るアイテムのうち、初心者用回復薬の方だけど、これは五レベルまでの間なら五十ものＨＰを回復してくれるというありがたいものだった。

しかし、六レベル以上になるとその回復量はわずか十にまで減ってしまう。要するに、ピンチだと思ったら迷わずに使えということだね。

安ビスケットはというと、こちらは空腹度を解消するためのアイテムのようだ。

『ＯＡＷ』は時間の経過と共に空腹度が増加していくというシステムとなっており、これが百になってしまうと『飢』という能力がマイナスされる狀態異常となってしまう。

空腹度は食べを食べることで解消されるため、安ビスケットもまた料理系のアイテムに分類されることになるのだろう。

「どちらかといえば不味いっていうこの解説が気になる」

ちょうど空腹度が三十を超えていたので一つ食べてみました。

「……堅い。そして味がない。うん、これは味しいとは言えない味だわ」

「おいおい、ボリボリと何を食っているんだ？」

「あ、おじさんも食べます？安ビスケットだけど。どちらかといえば不味いけど」

「そう言われると貰わない方がいい気がしてくるな……」

「まあまあ、そう言わずに」

と、半ば無理矢理安ビスケットの一つをおじさんに押し付ける。

「……間違っても味いとは言えねえ味だなあ」

ぼやくおじさんの聲を聞いた周りに並んでいる人たちが一様に苦笑いを浮かべている。どうやら安ビスケットを食べた時のことを思い出しているご様子。

ボクはといえばＮＰＣのもプレイヤーとほぼ変わらないようにできていると分かって、しほっとしていた。

《初期ステータス》

名　前　：　リュカリュカ・ミミル

種　族　：　ヒューマン

職　業　：　テイマー

レベル　：　１

ＨＰ　５０

ＭＰ　３０

〈筋力〉　５　＋１（裝備品攻撃力）

〈力〉　５　＋３（裝備品防力）

〈敏捷〉　６

〈知〉　６

〈魔力〉　６

〈運〉 ５

理攻撃力　６ 理防力　８

魔法攻撃力　６ 魔法防力　６

〇技能

〔調教〕〔槍技〕〔水屬魔法〕〔風屬魔法〕〔調薬〕

〔生活魔法〕〔鑑定〕〔警戒〕〔気配遮斷〕〔軽業〕

〇裝備　手

・初心者用ナイフ（耐久値無限）　：　理攻撃力＋１

備考…売買不可。野草の採取から倒した魔の解までできる多機能ナイフ。

〇裝備　防

・初心者の服　上（耐久値無限）　：　理防力＋１

備考…売買不可。上半の裝備品が破壊された時には、強制的に著替えさせられる。

・初心者の服　下（耐久値無限）　：　理防力＋１

備考…売買不可。下半の裝備品が破壊された時には、強制的に著替えさせられる。

・初心者の靴（耐久値無限）　：　理防力＋１

備考…売買不可。腳部裝備品が破壊された時には、強制的に著替えさせられる。

〇アイテム

・初心者用回復薬　×５　ＨＰを５０回復。ただし６レベル以上は１０に激減する。

・安ビスケット　×３　空腹度を３０減させる。どちらかというと、不味い。

・初心者用武換チケット　×１　名前に初心者用と付いた武と換できる。

〇所持金

・１５００　デナー

次回投稿は明日の朝6：00の予定です。