《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》14 最初のテイム
自由易都市クンビーラの路地裏でー、ドラゴンの卵にー、出會ったー……。
うん。意味不明です。
しかもインフォメーションの通りであるとすれば、この子はただの卵じゃなくてドラゴンパピーとかいうものに分類されるらしい。
ちなみに、インフォメーションの言葉は、何をしても消えることがなく、今でも視界のど真ん中に表示されたままとなっていた。
ところで初歩的な質問なんだけど、ドラゴンパピーって何?
自慢じゃないけれど、ゲームをするのは隨分と久しぶりなこととなる。ガイドにゃんこさんのおでキャラクターメイキングをこなす事はできたものの、ファンタジーな専門用語ともなると、知らないことが山盛りてんこ盛りなのだ。
「えっと、こういう時はヘルプ機能を使うのが一番手っ取り早いかな」
謎の卵を抱いているため両手が塞がっており、どうしようかと悩んだのも束の間、どうやら頭の中で考えるだけで良いようになっているようだ。
すぐに『OAW用語辭典』なる分厚い本が浮かびあがって來たかと思えば、目的のページが開かれた。
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『ドラゴンパピー。ドラゴン種を分類するための型の一つとして用いられるのが一般的で、ドラゴンにおける最弱の者たちを指す言葉でもある』
ほうほう。つまり、「くっくっく。パピーは我ら竜族の中でも最弱!」ということのようだ。
あれ?まだ説明が続いている。
『しかし、それはあくまでもドラゴンという種における差しであるから注意が必要である。大きさで例えると、彼らは十メートルを超える巨となることがざらにある。そのため、パピーといえども數メートルはあるということが往々にして発生してしまうのだ』
數メートル!?
確かリアルに存在する世界最大のトカゲがそのくらいの大きさだったような気がする。この子もいつかそんな巨になってしまうのだろうか?
不安に駆られて腕の中の卵に視線を向けると、遊んでもらえるとでも思ったのか、卵から飛び出した足をワチャワチャと振っていた。
ま、まあ、そんな仕草は可いと言えなくはないかな。
「……う、ぐ」
き聲にハッと顔を上げると、卵君の攻撃によって昏倒していたはずの男たちがぎをしていた。
いけない。調べものに夢中になっているに、目を覚ましそうになっている。同じように上手くいくなんていう保証がない以上、この場に留まるのは危険だ。
突然目の前に突き付けられた難問を先送りにするべく、ボクは卵――足と尾が飛び出しているけど――を抱きかかえたまま、スタコラサッサと逃げることにしたのだった。
まあ、インフォメーションの文字はデカデカと表示されたままだから、目を背けることも忘れる事もできないんだけどね。
さてさて、そうして裏道を走り回ること十數分、気が付くとボクは街の外、正確に言うとクンビーラの分厚い壁の外に立っていた。
「なんで!?」
マップを表示してみても、すでに街の外という扱いになってしまっているのか、ボクがさ迷い歩いた痕跡を知る事はできなくなっていた。
ただ、振り返ってみると末な作りの建らしきがいくつも壁に張り付くようにして建てられているのが見える。
後から聞いた話なのだけど、これらの建は『三國戦爭』の時に行き場をなくした難民たちが建てたものだったそうだ。
大半は撤去されたり、自然に朽ちてしまったりしたらしいのだけど、なぜかあの一角だけはいつまで経ってもそれなりの形を殘していたらしい。
何とも怪しい裏のある話だと思わない?
答えを言ってしまうと、実はこれ、ボクが迷い込んでしまっていたスラム地區を中心にクンビーラの裏稼業を取り仕切っている連中が作った、非合法な町への出り口、を隠すためのものだったのだ。
外敵から街を守るための壁にを開けるなんて大馬鹿にもほどがある話なんだけど、この後、これがあったおで、クンビーラとそこに住む人たちは九死に一生を得ることになる。
「まさか街の外に放り出されることになるとは……。この展開は想像もしていなかったよ」
どっと押し寄せてきた疲れに抗う事もできず、ボクは地面へと腰を下ろした。
ゲームということで的な疲労はかなり軽減されるようだけど、一方で神的な疲労はその範疇外ということになるようだ。
そうしたことで自然の匂いを強くじることができたのだろう、腕の中の卵がジタバタともがき始めた。
「はいはい。別にいつまでも君を捕まえておくつもりはないよ」
両腕へと込めていた力をそっと緩めてやると、ぴょんと軽やかに飛び出す卵君。
どことなく巣立ちをじさせる作にしばかりの寂しさが飛來する。まあ、その気持ちに免じて、ボクののあたりをったことは今回だけは特別に不問にしてあげるとしよう。
「仲間になりたそうって言っていたけど、このまま自然に帰るっていう手もあるんだよ」
地面を覆い盡くすほどの勢いで生えている草のを確かめようとしているのか、ゴロゴロと転がって遊んでいる卵君に告げる。
すると慌てたようにボクの元へと帰って來たかと思えば、先ほどと同じようにボクの腕の中へと飛び込んで來たのだった。
「うわっと!?」
さらに甘えるようにすりすりとボクのへと縋り付く。その姿を見ながら、人型だったら確実にセクハラ案件だったねと、らちもないことを考えていたのだった。
「……甘えんぼさんだね」
しばらくして落ち著いてきたところで、背中――尾の上に當たるから間違いないと思う……――を軽くポンポンと叩いてやる。
テイマーというよりは新米の保育士さんにでもなったような気分だ。
だけど、まあ、うん。悪い気はしないかな。
正直、どうしてこの子がこんなにもボクのことを慕ってくれるのかは分からないままだ。
それでもこんな風にストレートに好きだという気持ちを表現してくれている子に対して、邪険にするなんてことができるはずもない。
「いいよ。君のことをテイムしてあげる」
そう言うと、全で喜びを表そうとしているのか、今まで以上に激しいきでワチャワチャと暴れ回る。
「こらこら、大人しくしなさいな。それじゃあ始めるよ?〔調教(テイム)〕!」
ふわりとらかいがボクの頭から飛び出していったかと思うと、卵君へと吸い込まれて行った。
《エッグ狀態のドラゴンパピーをテイムしました。これよりリュカリュカ・ミミルのテイムモンスターとして扱われるようになります》
インフォメーションを聞いて「ふぅ……」と息をもらす。容的にも特におかしな點はないようだったので一安心だ。
「ようやく見つけたぞ!我らに連なる子を連れ去った盜人めが!」
突如、お腹の底にまで響いてきそうな重低音が辺りに響き渡り、上空を強大な何かが通り過ぎていく。
……前言撤回。
どうやらまだまだ安心することはできないみたい。
という訳で、最初のテイムモンスターはあちらでもお馴染みのこの子となりました。
名前は次回に持ち越しです。はてさて、同じになるのか、それとも別の名前になるのか?
次回投稿は本日夕方18:00の予定です。
ひねくれ領主の幸福譚 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】
【書籍第2巻が2022年8月25日にオーバーラップノベルス様より発売予定です!】 ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あの親のように卑劣で空虛な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め稱える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これは少し歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※カクヨム様にも掲載させていただいています
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