《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》15 エッ君とドラゴン、後、空気を読まないインフォメーション
さて困った。
いきなり現れた巨大な影は、どうやら卵君の関係者、つまりドラゴンであるらしい。しかも言葉を話せるというオプションをセット済みときた。
どんなに低く見積もっても中位以上の実力者であることは間違いないだろう。
ゲームを開始して數時間のレベル一プレイヤーに本のドラゴンをぶつけてくるとか、鬼畜以上に頭がおかしいとしか思えない。
この瞬間、運営さんへの記念すべき一回目の報告書は、恨みの度合いを當社比百二十パーセント増しで送ってやろうと心に決めたのだった。
しかし、しかしだ。なんと同時にそれ以上に困ったことがボクを襲っていた。
ドラゴンの襲來をける以上の困ったことなんてそうそうはないと思っているね?だけど世の中は不條理というかなんというか、面倒事が起きている時に限って、さらなる面倒事が舞い込むようになっているらしい。
それはリアルであってもゲームである『OAW』の中であっても変わりがなかった。
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《テイムしたドラゴンパピーに名前を付けてください》
インフォメーションさん、空気読んで!
というかそれ、今じゃなくても良いんじゃないかな!?なにゆえ、がおーでぐおーなドラゴンがやって來ている時にそれを聞くかな!?
そんなボクの心のびは屆くことなく、再び視界の中央には『名前を付けろ』的な言葉がでかでかと表示されることになったのだった。
下手をすればドラゴンと一戦えなくちゃいけないかもしれないというのに、邪魔になって仕方がない!
そりゃあ、まともな戦いになるとはボクだって思ってはいない。
前足でペチッとされるか、尾でビターンとされるか、ブレスでボッとされるかというのが関の山だろう。
それでも卵君拐犯といういわれのない罪を著せられようとしている今、気を強く持って、毅然とした態度で挑まなくてはいけないのだ。
……例え、腰が抜けて立てなくても。
《テイムしたドラゴンパピーに名前を付けてください》
「あー、もう!分かったよ!名前を付ければいいんでしょ!」
再度聞こえてきたインフォメーションの言葉に対して、キレ気味にぶボク。
だって、表示されていた言葉がこれ見よがしに七に輝きだしたんだよ。何という質の悪い嫌がらせ!こんなのを放置したままドラゴンに挑めるはずがないってば!
「うにゅううう……。決めた!君の名前は『エッ君』!そしてちゃんとしたドラゴンになった時には、また改めてステキな名前を付けてあげる!」
エッグ狀態だからエッ君。安直ここに極まりけりというじだけど、すぐ後にドラゴンとの対峙が待っていたこの時のボクに、それ以上の余裕はなかった。
ただ、正式なドラゴンパピーになった時には改めて名前を付ける、と付け加えたのは我ながらナイス機転だったと今でも思うね。
《名前が『エッ君』で仮登録されました。後日正式な名前を付けてください》
その言葉を最後にボクの視界がクリアになっていく。
まあ、直後に旋回して戻って來たドラゴンの大きなによって太のを遮られてしまったけれど。
そのドラゴンだけど、姿は西洋風のドラゴンを思い浮かべてもらえれば問題ない。強靭そうな四本の足に尾、背中には翼がある。
そして普段は理知的なを湛えているのだろうその瞳は怒りに染まっていた。
だけど、そのドラゴンを特徴づけている部分は他にあった。
黒いのだ。角の天辺から尾の先に至るまで、全真っ黒。
「ブラックドラゴン?」
「ふん!盜人風が、いや、盜人だからこそか。しは我らの理(ことわり)を知っているようだな」
理も何も見たまんまじゃん!という突っ込みの言葉を我慢したボクは偉いと思います。
「だが、それならば我がわざわざここまでやって來た理由も理解していることだろう。さあ、お前が連れ去った子を返せ!」
言葉を口にしただけでゴウッと風が渦巻く。
これがブラックドラゴン……。とんでもない迫力だ。
「も、もしもだよ、例えばの話だけど、この子を返したら何もせずに帰ってくれる?」
腕の中のエッ君が離れたくないとぐずる。
もちろん彼が自分から帰りたいと言うのならそうさせてあげるつもりだけど、そうじゃなければ手放すつもりはない。
一際強くぎゅっと抱きしめてあげると、安心したのか力を抜くエッ君。
一方、ブラックドラゴンはというと、逃げようとするエッ君を無理矢理押さえつけたようにでも捉えたのか、不機嫌さが増していた。
「ふざけるなよ盜人。ドラゴンに手を出すことがいかに不遜なことか、お前の後ろにいる人間どもの命を持って知らしめるに決まっている!そして當然お前には死んだ方がマシだと思えるだけの苦役を與え、自らの行いを償わせることになるだろう」
は?
ボクの後ろにいる人間?
もしやさっきの男たちが追いついてきたのかと恐るおそる振り返って見たけれど、そこには外敵を寄せ付けない巨大な壁がそびえ立っているだけだった。
……ちょっと待って。
それじゃあ、その壁の向こうにあるものは何?
……決まっている、『自由易都市クンビーラ』だ。
「クンビーラの街を襲うつもり!?」
「街一つで終わらせてやろうというのだ。子に命があったことを謝するがいい」
本気だ。
ブラックドラゴンは間違いなくクンビーラを破壊するつもりでいる。
そして恐らく、それができるだけの力も持っているのだろう。
ここまで話してみて分かったことだけど、このブラックドラゴンはかなり思い込みが激しいようだ。いまさら「ボクは巻き込まれただけ」だと言っても聞きれたりはしないだろう。
それに何よりクンビーラの破壊は、エッ君の拐という既に起きてしまった事件に対しての報復措置のつもりだから、ボクが犯人であろうともなかろうとも関係なく引き起こすはずだ。
「さあ、子を離せ!」
言うだけで実力行使に出ないのは、エッ君を巻き込んでしまうのを恐れているからだろう。皮にもその強過ぎる力によって、ボクやクンビーラの街は生きながらえることができていたのだった。
だけど、このままだといずれ均衡は崩れてしまう。その前に何とかしてブラックドラゴンを止める方法を探し出さないと!
でもでも、どうすればいい?
どうすれば止められるの?
焦りと恐怖から思考が空回りしているのが分かるほどだ。せめて相談相手として里っちゃんがいてくれれば……。
次回投稿は明日の朝6:00の予定です。
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***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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