《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》28 ハイレベル鈍

冒険者協會の建は三階建てのかなり大きなものだった。

「地下には闘技や魔法の訓練施設もあるという話ですね。そちらにはったことがないので詳しくは分かりませんが、先輩の話によるとかなり広かったそうです」

「その言い方からすると、冒険者協會の建にはったことがあるんですか?」

「ええ。一部の冒険者たちは騎士団(うち)や衛兵詰所の地下の常連なので……」

治安維持組織の地下ってことは留置所や牢屋が定番かな。そこの常連ということは……、なるほど、やんちゃな問題児もいるってことだね。

「はっ!?こ、これはもしや、定番の『び悩む二流冒険者が絡んでくる』という流れが発生しそうな予!?」

「勘弁してください。ただでさえスラムの一斉捜査を行っていて人手が足りない狀況なんですから。冒険者たちと喧嘩なんて起こしたりしたら、衛兵隊の上の方々から叱責されてしまいます」

クンビーラの場合、騎士団の下に衛兵隊があるのではなく、主要な任務が異なる同格の別組織という間柄のようだ。

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また、お互いに人員を融通し合うことも多いため、その関係は比較的良好ということだ。

完全に良好といえないのは、反目しあっている極一部がいるためだそうだ。どこの組織にも、おかしなエリート思考を持つ人間はいるということらしい。

「もちろんボクの方から何か仕掛けるつもりはありませんよ」

これは本音だ。例え二流であろうとも今のボクよりは強いだろうから。

里っちゃんじゃあるまいし、負けると分かっていて戦いを挑むほど酔狂な格はしていない――「優ちゃん?段々と私の扱いが酷くなっていませんか?」――のです。

詰所地下の常連さんがいないことを期待しましょうか。

「おうおう、お偉い騎士様が晝間からこんな所に何の用だ、ああ!?」

そして期待は建った直後に砕かれてしまいました。

ボクたち、というか騎士団の鎧姿のグラッツさんを目ざとく見つけた五人の男たちが、し奧の広くなった辺りからやって來たかと思えば、あっという間にボクたちを取り巻くように半円狀に散開する。

その反応速度といい、キャンキャンと喚(わめ)いている姿といい、番犬としてなら優秀かもしれないとボクは心の中で思っていたりしていた。

あ、全員悪黨面のヒューマンだったので念のため。

ちなみに、冒険者協會の職員だと思われる皆様方は「こんな所」呼ばわりされて、一様に無言のまま怒っておられました。

特に付のお姉さんたちなんて、笑顔のまま怒っているものだからすごい迫力だ。付待ちで列を作っていた人たちが怒気に當てられて退散するほどだった。

危険な魔討伐を生業にしている冒険者たちを逃亡させるなんて、実は付のお姉さま方が最強なんじゃないだろうか?

「おい、なんとか言ってみろよ」

「はっ。ビビって聲も出せなくなっちまったんじゃないか」

「ははは!そいつは傑作だ」

傑作なのはあなたたちのお頭《つむ》の出來だよ。これだけ周りから怒りだとか呆れだとかのを向けられているのに、一切気が付いた様子がない。

うーん……。鈍力はある意味最強なのかもしれない。進んでに著けたいとは思わないけど。

さてさて、それにしてもグラッツさんはこの鈍力マスターたちをどうやって追い払うつもりなのだろうか。

今後の參考に……、なるかどうかは分からないけれど、お手並み拝見なのです。

「今日の私は付き添いにしか過ぎない。お前たちと事を構えるつもりもないから、そこをどいてくれ」

まさかのこちらへの丸投げだった!?

「付き添いだあ?」

そこでようやくボクの方を見る男たち。

うひぃ!?粘っこい視線を向けられて、思わず鳥が立っちゃったよ!?

「あっはっはっはっは!天下の騎士様がガキのお守りとはな!」

「おい、でも綺麗な面してるぞ」

「酌をさせるには気が足りねえよ」

「だけどよう、たまにはこういうれていないのも良くないか」

「ひゃはは!俺たちのに染めるってか!?」

何というかオリジナリティもなければ、面白みもじられないつまらない臺詞ばかりだ。

しかし、そのまま呆れてはいられなかった。彼らの臺詞にエッ君が反応しそうになっていたのだ。

「エッ君!?」

飛び出していきそうになるエッ君を強く抱きしめることで抑え込む。

が、「どうして止めるの!?」と言わんばかりにそのきは激しさを増していった。

「ダメ!抑えなさい!」

初めての強い命令形の言葉に驚いたのか、ビクッとを跳ねさせた後、弛緩するエッ君。

はあ……。これは後でフォローをれておかないといけない。

愚か者が口を開いたのはそんな時だった。

「……面白えもん持ってるじゃねえか。見世にでもすればいい稼ぎになりそうだぜ」

ぶちん!

怒りで頭の管が切れる音って本當にするものなんだね。いやまあ、本當に切れちゃってたりしたら大慘事になるから、そういう演出なんだろうけどさ。

うん、大丈夫。こんなことを考えられるくらいにはボクは冷靜だよ。

「この子を見世にする?……ふうん。その口はそんなふざけたことも言えるようになっていたんだ」

「うっ!?」

急激に切り替わったボクの雰囲気についていけず、男たちがき聲を上げる。

漫畫や小説でよくある『気――オーラその他でも可――』をって威圧を行った、訳ではもちろんない。

リアルではごく普通の子高校生で、諸々の武道も嗜(たしな)んだことのないボクに、そんな面白素敵能力が備わっているはずがないのだ。

それでは一何をしたのか?

さっき述べた通り、急激に雰囲気を切り替えたのだ。

雰囲気というものは基本的には無意識のに作られるものだけど、意識することで多ることができるものなのです。

ほら、知らない人同士でグループになった時とか、れようと努力してくれているじとか、逆に話しかけるなと拒絶しているじとか何となく分かることってあるよね。要はあの狀態だ。

これまでボクは、らかい雰囲気となるように常に意識していた。それを急に排除するような攻撃的なものに切り替えたから男たちは戸ったという訳。

力の高い連中だったから上手くいくか不安だったけど、効果があって何よりだ。あ、昨日騎士団の変な隊長に向かってやったのもこれです。

ええ、もちろんこのことを教えてくれたのは里っちゃんだよ。彼ならきっと、き聲どころか悲鳴を上げさせるくらいのことは簡単にやってのけたことだろう。

……あれ?ボクの従姉妹って一何者なんでしょうか?

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