《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》15話 酔い

「あー、もしもし、池さん。とりあえずなんかセーフハウスの前で待ち伏せしてた怪しいヤツを捕縛しました」

[……マジ?]

「マジ」

味山は端末で話しながら、仰向けになってピクリ、ぴくりと痙攣ているの手足をセーフハウスに常備しているロープで縛る。

[……ごほん、失禮致しました。そのの寫真を送って頂いてもよろしいですか? 通話しながらカメラアプリを起していただければ]

「あいっす」

70萬円、70萬円。

酔いにより外されたタガ。目の前の恐怖の存在もこうして見ればただの獲だ。

味山は端末のカメラを倒れたに向ける。

黒髪に探索者風のアウトドアスタイル。顔立ちはニホン人。

特徴的に裂けた口がだらりと垂れ下がっていた。

[ありがとうございます、すぐに人の照合と解析を行います。味山さん、この人に心當たりはありますか?]

「ないっすね、初対面です。多分こいつがインターホン鳴らし続けてたヤローでしょうね」

[……狀況から考えてこの人はこの事態となんらかの関わりがあると考えても良さそうですね、何か聞き出せそうですか?]

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「あー…… こいつ、同じ言葉を繰り返すだけなんすよ。バービー人形みてえなんです。目が覚めたら尋問してみますよ」

[すみません、味山さん。貴方にばかり負擔を…… なに? どういう事だい、それは…… 味山さん、しお電話一度失禮致します、その人はこちらから回収の探索者か自衛軍を回してもらいますので]

端末の反応が切れる。

味山は拘束したの観察を始めた。

目立った外傷はない。外見の異常もあの裂けた口ぐらいだ。不気味ではあるがそれくらいだ。

「あ……?」

違う、なんだこりゃ。

の頭、仰向けに倒れているからすぐには気づかなかった。

後頭部に何かが付いている。

味山がの後頭部に手をばし、わずかに頭を起こした。

「……ホース?」

それは黒いホース。

植木に水をやる時に使うビニールのホースのようなものがの後頭部に繋がっている。

ホースの行く末を味山が無意識に探す。

それは、地面に繋がっている。

地面と、の後頭部がホースによって繋がれていた。

ピピピ、ピピピ。

「味山です」

端末からの通信、応答する。

[……その味山さん…… あまり、いい知らせではないし、私も未だににわかには信じられないのですが……]

「えー、またそのじの話ですか?」

[はい、そのじです。一応確認させて頂きたいのですが、本當に彼が味山さんに向けて話しかけて來たのですよね?]

「ええ、インターホン越しに。壊れたラジオよりポンコツな事しか言ってませんでしたけど」

端末の向こう、沈黙が溜まるのがわかる。

[……彼の名前は、樹原希(きはらのぞみ)、日本人探索者です。……データによると2ヶ月、探索中行方不明、そして今月には死亡判定が出ている探索者です……]

「……ワオ、なるほど」

池の言葉を、言葉として認識するのにし時間がかかった。

しかし思ったより驚きはない。

TIPSとして伝わったヒントを思い出す。

死骸、コレクション、人形。

ロクなヒントじゃないが、しづつパズルのピースがハマっていく。

いことにこのヒントを自分以外と共有出來ないのが難しいが。

ああ、嫌な予が半端ない。

そして。

「アバブブブブブブ、べべべ」

じゅう。

が白目を剝き、あぶくを吹き出し、そして懐の知らせ石が熱を持つ。

それらが同時に起きた。

「はいはい、それね、そっちのパターンね」

[味山さん? どうしました? 味山さん!]

「ベろろろろろろ」

黒いホースがを持ち上げる。どくん、どくんとホースが脈していた。何かが地面からホースを通じて送られているようだ。

みるみるうちには起き上がり、ついにはその足が地面から離れた。

吊られた。ホースに。

ジャラジャラつけられたキーホルダーのように黒いホースにが吊られていた。

[もしもし!! 味山さん!! 聞こえますか?]

「あー、池さん。すいません、今急事態でして。拘束していたその死んでるはずの樹原さんが起き上がりました。いや、起き上がるってよりは、吊られてる?」

[え、あの、仰る意味が…… ご無事なのですか?!]

「いやー、ご無事かどうかは今からわかるっていうか…… まあいいや、池さん、現時刻を以って、探索者、味山只人、怪種との戦闘に移りまーす」

[え、味ーー]

端末を切り、ポケットに仕舞い込む。

地面から生えたホースに吊られ、首吊りのようにプラプラと揺れる樹原からはもう、正気の雰囲気はじられない。

「ドドドうして、キヅイタ、気づいた、気づいた」

「うるせー、おい、あんた、樹原のぞみだな。一度だけ質問する。まだ意識はあるのか?」

「ドドドどうして、気づいた、なぜわかった、わかった、わかった」

味山の問いかけに、後頭部からホースを生やした樹原はまともに答えない。

白目を向き、にへらにへと笑いながら同じ言葉を繰り返す。

「……殘念だ。介錯はしてやるから安心しろ」

味山は息を吐く。

己のの中にある火を見つめた。

アシュフィールドが、クラークが、グレンが居ればまた別のやり方があるかも知れない。

上手く無力化し、事を収める方法もあるかもしれない。

「クソ耳、教えろ。アレはどうやったら殺せる」

でも、ここには味山しかいない。できる事の限られた、何にも選ばれることのなかった凡人しかいない。

なればこそ、耳は唄う。

TIPS 3階層に潛む人知竜は、寢床から管をばしている。仮初の命を與えるその管を斷てば、人形はそのきを止めるだろう、しかし、心せよ、それは人形にとって2回目の落命となる

「はいどうも。……じゃあな、探索者」

「アババババ、オバべべ。知りたい、シリタイ、なぜわかった、なぜなぜなぜ」

どくん、どくん、どくん。

樹原に繋がっているホースがびくりと脈し、次の瞬間、そのまま繋がっている樹原を振り回し始めた。

「は? いやいやいや、そういう戦闘スタイル? 雑すぎない?」

普通そういうのってり人形みたいなじで戦わせない?

味山があまりにもな樹原の扱いに驚愕していると

「オシえて、人を、あなたを、シリたいいいいいいい」

「うお!!?」

ホースがたわみ、繋がった樹原を、人間をそのまま味山に向けて叩きつける。

間一髪でその場から飛び退く味山、すぐさま態勢を立て直し相対する。

ぐしゃりと潰れたがまたぶらりとホースに吊られる。

ゆっくりそれはホースによって振られ始めた。

ぶんぶんぶんぶん。

扱いの雑なキャラもののキーホルダーみたいだ。

コイツも、またロクな化けじゃないな。

味山とは何の関係もない人だが、こうまでぞんざいに扱われているのを見ていると來るものがあった。

「……人間様を舐め腐りやがって」

味山が手斧を掲げる。

はまぐり刃が鈍くった。

探索者、味山只人、2028年9月5日、午後14時25分。詳細不明怪種、及び探索者 樹原希……のれの果てとの戦を開始。

読んで頂きありがとうございます!

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