《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》17話 味山は男友達と遊びにいくようです

「うお…… これ、ほんとに食えんのか?」

TIPS€ 忘れられし怪、お伽話のカケラ。伝承種の乾いた亡骸。それをに取り込みしものは息長の質を得る。忘れるなかれ、世界は決して人間のものではない

探索を終え、洗浄や、サポートセンターによる聞き取りや報酬確認、その他雑務を終わらせた味山は、そのまま直帰していた。

検査によると何も異常はないとのことで思ったより早く帰宅が葉った。

まだ19時前、晩飯の時間だ。

そんな探索終わりのひととき、味山は臺所に立ち顔をしかめていた。

まな板の上に置いたのは、パッと見傷んだ鰹節。

「お前、ほんっとにこれ食えんのか?」

TIPS€ 部位保持者はそれ以外の人間と比べて吸収率が良い

「質問にシンプルに答えろよ、てめー。えー、さすがにこれ、生はなあ……」

しかし、その傷んだ鰹節にはよく見ると顔が付いている。いや、顔だけじゃない。

足、腕、それらがに折り畳まれ備わっている。お包みに包まれた赤子にも見える。

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「いや、てかこれ、そもそもなんなんだよ。あんのインチキ中國人は河とかなんとか言ってたけどよ」

味山は、もう一度目を凝らしてその河のミイラらしいものを見る。

あれ、これよく見ると頭の上なんか平べったくね?

「うそ、皿か、これ」

つんと、ゆびさきで頭の上をでる。妙にツルツルしているそれは確かに皿に見えなくもない。

「息長の質……ねえ」

まあ、いいか。

味山は包丁を取り出す。

とりあえず刻んでレトルトカレーと一緒に食ってみるか。カレーと混ぜればなんとかなるだろ。

味山が包丁をその河のミイラにれる。

すっ。驚くほどに簡単に、刃がる。

みるみる間にミイラはざく切りにされていく。

「とりあえず火をれとくか。生はなー さすがになー」

ミイラに生があるかはさておき、味山がガスコンロに火をれ、慣れた手つきでフライパンに油を差す。

ざく切りにしたミイラをばらりとれる。

ぱちちち。気味の良い油の跳ねる音。

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そして

「あれ、うそ、思いがけないいい匂いがする」

鰹節だ。

鰹節の上品な匂いが油に混じり、ふわりと味山に屆く。

「あの中國人、マジでこれただの鰹節なんじゃねえんだろうな」

味山は脳裏に王のインチキ臭い笑顔を浮かべ、それを振り払った。

まあいい、耳は確かにこれを本だと判斷した。

試してみる価値はある。

炒めた河のミイラを事前にチンしておいたカレーに混ぜる。

うん、やっぱカレーの匂いは最強だ。怪しいミイラでも混ぜたら食えそうだもの。

香辛料の匂いと鰹節の匂いが混ざり合う。

あれ、皿に盛り付けたらこれ、普通にうまそう。

味山は冷蔵庫からスパイスりのコーラを取り出し、皿に盛り付けた河カレーをリビングの丸テーブルに運んだ。

「うそだろ、普通に食えそうじゃん」

味山は恐る恐るスプーンでカレーを掬い、口に運んだ。

香辛料のかな香り、そして鰹節のようなミイラ。

頂きます。

もぐり。

咀嚼。

「え、ヤダ。味い、シーフードじゃん」

のミイラは味い。探索者にならなければ知らなかった。

カップ麺にっている小海老に似た味、あれをさらに濃厚にしたような味。

あ、いけるいける。味いわ。

辛口のカレーが舌をひりつかせる。そこにすかさずスパイスコーラを流し込む。

脳みそにパチリと屆く閃き、コーラの風味が口の中をキパリと締める。

「決まった」

結局、味山は10分もかからずにカレーを食べ終わる。

「あー、味かった…… なんか魚介ともともつかない確かな滋味。侮ってたぜ、河

満足げに味山がゴロリと寢転がる。

TIPS€ 伝承種、キュウセンボウを摂取。肺は広く、水が妙に心地よい。お前は息長の質を得た

「ほんとかよ……」

別段に変わったことはない。味山は登ってきた眠気にを任せるべく目を瞑った。

あー…… 今日はほんとよく働いたわー……。

ピコリン、ピコリン!

「あ?」

部屋著パーカーのポケットにれていた端末から軽快な音がする。

端末を取り出すとそこには。

[時は來た。我らは今日、新たなる楽園へと向かう]

簡素なメッセージ、差出人は……

「グレン? あいつ何はしゃいで」

ピコりん。

メッセージ。

[というわけで! 和服人と遊びたくないすか? 行こうぜ、花魁バーに!! 20時に、歓楽街のり口に集合!!]

「……花魁バー?」

味山は怪訝な顔で畫面を見つめる。

でも、もう飯食ったし、めんどくせえな。

味山は大きく息を吸って、吐く。

しかしは勝手にく。

次の瞬間には立ち上がり、いそいそと出掛ける準備を進めていた。

和服、好き。

5分もかからずに、味山は自宅の玄関のドアを勢いよく閉めていた。

和服、好きだもの。

味山の足取りはこれでもかと言うほどに軽かった。

………

……

「來たか、タダ」

「來たなぁ、味山ぁ」

味山が歓楽街のり口に到著する。時刻はもう20時前、夜風が火照ったを冷やす。

煌びやかなネオンが眩しい。

デコレーションされた大門の前でそいつらは待っていた。

「あれ、鮫島じゃん。久しぶりだな」

「おお、そういや味山と會うのは1ヶ月ぶりくらいかぁ? お前がアレタ・アシュフィールドと組むって聞いた時以來だよなあ」

三白眼が兇暴な男が顎に手を當ててぼやいた。

ジェルで整えられた髪に、八重歯がる。

鮫島竜樹。

味山と同じタイミングで探索者になった元銀行員だ。探索者となった時期も、そして同じ民間人上がりの探索者ということで2人は友人となっていた。

「もうそんな前になんのか?まあいいや、元気そうで何よりだ」

「おお、お前もなあ。同期の探索者はだいぶ減ったからよお。たまにはつるんで遊ぼうぜえ」

鮫島がカラカラと笑う。味山も釣られて相好を崩した。

「さっきたまたまタツキと會って飲んでたんすよ。んで話の流れで花魁バーに行こうと」

「そういうことだあ。俺ぁ、何度か遊びに行ってるがよお、なかなか面白いぜえ」

「へえ…… 俺も気にはなってたんだけどな。なかなか行けてなかった。あ、でもグレンこの時間から遊んで大丈夫か? 明日にはアシュフィールドもクラークも帰ってくるんだろ?」

「ふっふっふ。ぬかりはないっすよ、タダ。センセイとアレタさんはその用事が長引くみたいなんで今日から1週間、バベル島を離れるみたいっす。そーいや、タダにはまだ伝えてなかったすね」

「え、そうなのか。特にそんな連絡なかったけどよ」

「いやー、悪いっす。タダに伝言しとけって言われてたのに、テンション上がりすぎで忘れてた!」

「お前は…… ん、でもということはあれか

? 圧倒的にの発言力が高い我がチームだが、今日はもしかして歓楽街のの子のいる店に行っても大丈夫ということか?」

味山の脳裏に閃きが渡る。

「そうっす! そうっすよ! タダ! あのウジ蟲かゴキブリをみるような目で睨まれることも、本當に関心のないゴミを見つけた目で見られることも……ない」

「あの鬼のようなワン切りや、一言メッセージに悩まされるわけも……ない」

「グレン!!」

「タダ!!」

2人がはしゃぎ出す。ひしりと灰の髪の丈夫と肩幅の広い黒髪の男が抱きしめ合う。

あまり、見られたものではなかったがそれでも當人たちは本気だった。

「なんかよお…… お前ら、苦労してんなあ」

鮫島が鼻くそをほじりながら呟く。

歓楽街のネオンは赤々と闇を照らし続けている。

鼻息を荒くしたグレンが、大門の前で思い切り両手を広げた。

「さあ!! 今日はあっそぶぞー!! 探索の始まりっす!」

「男には引けない時がある。味山只人、歓楽街における自由探索を始める」

「はしゃぎすぎだろお…… 頼むから店に著くまでにはテンション戻せよお」

ガッハッハー

味山とグレンは上機嫌で肩を組みながら、歓楽街の大門を潛った。鮫島はその様子を見て、ギザ歯をわずかに覗かせながら小さく笑う。

ま、こいつらと居れば退屈しないからいいか、とばかりに。

「おい! 俺を置いてくんじゃねぇ!」

慌てて、思ったよりも早い2人を追いかけた。

さながら小うるさい教師がいない自習時間に騒ぐ子どものように、男たちははしゃいでいた。

バベル島の夜が始まった。

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