《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》18話 和服人に會いに行こう

….……

……

〜 午前2時 メキシコ灣北部 海上プラットフォーム”エリア52”にて

「聞いたかい、アレタ? アジヤマの自由探索のことを」

施設に用意された広いプールサイドのほとり、ビーチクッションにを埋めていたアレタに、ソフィが聲をかけた。

深夜だというのに施設はまだ明々と照明に照らされ、真晝の如く明るい。

「うん? 何のことかしら? 何かあったの?」

白いセパレートタイプのビキニに短いホットパンツ姿のアレタがジュースを飲むのをやめた。

「ああ、なんでも彼に自由探索中に、指名依頼が発生したらしい」

ラフなタンクトップにサンダル履きのソフィが端末を振りながら、アレタの隣に座る。

赤い両目、プライベート用の義眼に換裝ずみだ。

「またタダヒトは厄介ごとに巻き込まれたの? オハライ、だったかしら、それ行ったほうがいいんじゃない?」

「おや、あまり心配していないんだね。アジヤマにご執心のキミのことだ、もっと焦るかと思ったよ」

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「ふふ、タダヒトがその程度のことで死ぬわけないもの。あの"耳"との戦いでも生き殘ったんだから」

「にわかには信じがたいけどねえ。アレタ、キミですら仕留めきれず、そして他の指定探索者ですら葬る存在に、アジヤマが生き殘っているなんて」

「でも、それが事実よ。ねえ、それはそうとソフィ、ここでの調整はまだ続くの? あたし、そろそろ飽きてきたのだけれど」

アレタがむくれたようにジュースをすする。青いをしたが目に見えて減っていく

「諦めたまえよ、我らが星。ストームルーラーは定期的にキミと同期しないと拗ねる。今日のぶんはもう終わりだ。また明日も頼むよ」

「ふー…… なかなか面倒ね。ま、これもあたしのやるべき事だから仕方ないのだけれど。でも、あんまりあたし達が留守にしてるときっと、タダヒトもグレンも寂しがるわ」

「ふむ、一理あるな。一応彼らにはバベル島で合衆國のマークがついてある。今、何をしているか確認させてみようか」

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「それいい考えね。ふふ、もしタダヒトが暇してるようだったら電話でもしてあげようかしら」

アレタがわかりやすく機嫌が良くなる。尾がついていたらきっとゆらゆらと揺れていることだろう。

「くく、それはいいね。星からのコールだ。アジヤマも喜ぶだろう。さて、我らが不肖の相棒たちは元気かな? ああ、ワタシだ。アレフチームの監視と繋げてくれ…… やあ、仕事の調子はどうかな? ああ、そうだ。今彼らは何をしてる?」

「ふふ、どんな指名依頼だったのかしら。あ、タダヒトきちんとご飯たべたのかな?」

アレタはアーモンド形の瞳をニヨニヨさせて、端末をくるくると玩びながらソフィの通話に耳を傾けていた。

「……ああ歓楽街か、くくく、ワタシたちがいないことで羽でものばしているのだろうさ。ああ、構わないよ、大方ベルの酒場にでも… なに? 花魁バー? ”あめりや”にウキウキしながら店した……っあ、すまない、あとでかけなおす!」

ソフィがぎぎぎと背後のアレタの様子を確認する。

癖がつき、それでも繊細な黃金の絹糸を思わせる髪、海で染め上げたような瞳に小さな顔。

アレタの貌はこれでもないほどに、にこにこしていた。

「あー…… アレーー」

「ソフィ」

ソフィのアルビノ、神的なしさが人間的に歪んだ。げっ、といわんばかりに。

英雄の顔には満面の笑み、しかし恐ろしいことにその笑顔は目だけ笑っていなかった。

「花魁バー、あめりやってなに?」

「さ、さあ? そ、それよりもアレタ、し泳がないかい? ほら、ここのプールは溫水だし」

「ソフィ、一週間分の調整をいますぐ一気に終わらせないかしら?大丈夫、安心して、あたしは大丈夫よ」

「何も安心できない!」

立ちあがるアレタをソフィが必死に止める、そこへ

「失禮いたします!! アシュフィールド特別佐、クラーク特別佐! 管理室から”ストームルーラー”とのハーモニクスがれていると通信がありました! 何かお気に召さないことがありましたでしょうか?!」

軍服の男がプールサイドに駆け込み、見事な敬禮を行う。

「キミ! すぐに、増援を呼べ! バカ星が暴走している!」

「大丈夫、あたしは大丈夫よ。なによ、花魁って。なによ、あめりやって」

裏腹にぶつぶつと言葉をらしつつ、ソフィを引きずりながら進む妙に目の座った英雄の様子を確認した兵士が、すぐさま無線で増援を呼んだ。

結局、アレタを引き止めるのに18人ほどの人員が員されていた。

………

……

「いらっしゃいませ、おや、これは鮫島の旦那。今日はご友人と一緒ですか?」

「ああ、同じ探索者だぁ、まあ素人だからよお、優しく案してやってくれよ」

歓楽街の大門を潛って、5分。バニーやら、水著やらのをかいくぐり、味山達は目的地に到著していた。

屋敷、それこそ時代劇に出てきそうなつくりの武家屋敷のような大きな家の門戸を開いた玄関に男3人はたまっていた。

ハッピ姿の狐目の男がじろりと味山とグレンを見つめ、相好を崩した。

「へえへえ! さすが鮫島の旦那のご友人だけあって、ご両人ともに男前な仁ですね」

「え、まじっすか」

「鮫島、なんか俺もう気分がよくなってきた」

「お前らの普段の周りからの扱われ方が気になるなあ…… まあいいか、今日は3人だぁ、座敷は空いてるか?」

「ええ、もちろんです。鮫島の旦那に會いたいと朝霧が申しておりました。いつも通り朝霧から鮫島の旦那への指名が出ております」

「ああ、そりゃ栄だあ」

鮫島が慣れたやり取りを番臺と続ける。味山とグレンといえば、はえーとばかりに口を開けてそのやり取りを見守っていた。

なんだか、鮫島がいつもよりかっこよく見えた。

あれ、今の會話おかしくね? 味山がふと違和に気づく。

「鮫島、今聞き間違いか? まるでの子のほうから指名があったように聞こえたぜ?」

「ああ、その辺は主人から説明をうけろや。まあ最初はお前らも俺と一緒の座敷へ行こうぜ」

鮫島が番臺に近づき、探索者端末を渡す。狐目の番臺は恭しくそれをうけとり、レジカウンターに通した。

「はい、確かに。それでは鮫島の旦那は月の間へご案させていただきます。これ、こちらの旦那を月の間へ」

「はい!」

奧の廊下から現れた若者が鮫島を案していく。

「主人、こいつらも説明が終わったら月の間に案してやってくれや。じゃあな、味山、グレン。説明けたら早く來いよ」

「お、おお」

「了解っす」

「では改めまして、この度は當店あめりやにおいでいただきありがとうございます。當店は探索者組合により営業許可を得ている探索者様用達の酒場でございます。しい花とのひと時で探索者の皆様のお疲れをいやせれば栄です」

「えーと、店長」

「どうかわたくしのことはあめりやの主人とお呼びいただければ」

「あ、はい。主人。よくこの店のシステムがわかんねーんだけど。要は和服のきれいな子がお酌してくれるキャバクラってこと?」

「大方の認識は間違いありません。ただ、普通のお店と違うのは、當店は側から男客を指名する逆指名システムを採用しております。基本的に、側から選ばれない限りは意中のと任意で遊ぶことは出來ない仕組みとなっております」

「ほ? じゃあもしかしての子に好かれないと指名すら出來ないって事っすか?」

「おっしゃる通りです。しかし、ご安心を。私の見たところご両人の旦那でしたら、うちのの子はすぐに夢中になってしまうでしょう。うちのは節度ある紳士がタイプなので」

狐目の主人が笑う。

いやらしい笑いだが、不思議と嫌悪はなかった。

「お代は座敷代が1時間で1萬円。あとは中でのご飲食代が別途です。まずはご両人の探索者端末をお借りしても?」

分の証明や、電子決済において端末の登録を要求する店は多い。

味山とグレンはとくに抵抗なくそれを渡した。

「ありがとうございます。味山只人様と、グレン・ウォーカー様ですね。それでは味山の旦那に、ウォーカーの旦那…… どうか、探索の疲れをごゆるりと、しい花との一夜の語らいでお癒しくださいませ」

狐目の案に従い、味山達が廊下を渡る。

すげえ、中には日本庭園みたいなのもあるのか。

ぴよ、ぱよ。ウグイス鳴りになっている廊下を靜かに渡る。

「こちらが月の間です。鮫島の旦那はすでに中でお待ちでございますので、どうかごゆるりと」

狐目の主人が、深く頭を下げ、襖を開ける。

「ああ、それと最後に旦那方。あくまで當店はお酒を嗜み、遊戯にふける場所です。に指名されたからと言って、どうかおりの程は厳でございますので」

狐目の冷たい目が、味山達を舐める。

すっかり張して大人しくなっていた探索者達は、コクコクと素直にうなずいた。

敷居をぐ。

部屋は広く、どこか懐かしい畳の匂いがする。

高級旅館の部屋のようだ。

「おう、來たかぁ。まあ、れよ」

「あら、鮫島さん。こちらの方々がお友達の方?」

どかりと座布団にあぐらを書き、背の低い長機の上に置いてあるお豬口を摘んだ鮫島と、その鮫島にしなだれかかっているエライ和服人がそこにいた。

その白魚のような手が、鮫島の首に這っている。

鮫島はそんなこと當たり前だと言わんばかりに、お豬口をぐっと、傾けた。

……。

味山とグレンが顔を見合わせる。

「あー…… ご主人、おりは厳じゃなかったの?」

「ええ、お客様側からのおりは厳でございます。ただ、花のが魅力的な男のれてみたくなる、ええ、ここにはなんのいやらしさもなく、ただ風流というのが組合の判斷にございますので。それでは、失禮します」

ぴしゃり。

襖が閉まる。

グレンが無言で手のひらを広げて、掲げる。

なにも言わず、味山がその手のひらにハイタッチをかました。

言葉はなくとも、男の詩がそこにあった。

イエエエエエエエエイ!!

ふウウウウウウウウウ!!

歓喜の聲を微塵もあげずに、味山とグレンは見つめ合っていた。

探索者になって、良かった。

この思いだけは噓ではない。

こんこん。

無言で、見つめ合う2人、その背後、木のふすまから小気味よいノックの音が響く。

お楽しみはこれからだ。

読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非ブクマして続きをご覧ください!

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