《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》25話 ミーティング、そのあと主人公は海釣りに行きました。

味山の奇妙な郷愁をよそにミーティングは続く。

「ええ、アリーシャ。依頼の概要はわかったわ。でもまだ聞いておかないとならない事があるわ」

「答えよう」

アレタが靜かに言葉を紡ぐ。

「どうしてあたし達、アレフチームが指名されたのかしら」

アレタの蒼い瞳が、アリーシャの黒い目に映る。

「尤もだな。普通に考えれば、いかに有な上級探索者の捜索とはいえこの依頼はお前たちに指名依頼として降りるわけもない類の依頼だ」

アリーシャが肩をすくめる。おもむろにモニターの畫面にれた。

「アレタ、ソフィ。お前達が本國へ帰國している間、バベルの大ではとあるトラブルが発生している。お前達も報告はけているだろう?」

アリーシャの言葉にアレタとソフィが顔を見合わせる。

そして、ゆっくりと2人ともが味山を見つめた。

「え、なに? まだなんかあんのか? 遊びまくっていたことは確かに悪かったよ。反省している。なあ、グレン」

「ちょっ!! タダ! てめえ、ナチュラル俺を巻き込むなよ! センセイ、違うんすよ、タダが無理やりうから!」

味山が真剣な顔でグレンを巻き込む。どこか呑気なやりとりを見て、アレタがため息をついた。

「違うわよ、アリーシャが言ってるのは多分、タダヒトのソロ探索のことを言ってるんじゃないの?」

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「あ? 俺のソロっていうとーー」

味山の脳裏につい最近行ったソロ探索、そこで起きた事件が巡る。

知らせ石、人形、ジンチリュウ。

あー、はいはい。遊び過ぎて忘れてた。ヤベ。

味山はそんないい加減さをおくびにも出さずに、神妙にうなずいた。

「ああ、あれのことーー」

「忘れてたでしょ、タダヒト」

アレタがぴしゃりと言い放つ。勘がすげえ。特別なやつは何しても特別かよ。

味山は靜かに顔を逸らす。

「こら、タダヒト。都合悪くなったからって黙らない。で、アリーシャ、それがなんの関係あるのかしら」

「ふむ、話すと長くなるのだが…… 結論から言えば、。味山君の報告で上がってきた異常現象が原因だ」

アリーシャがモニターを指差す。そこには黒いホースのようなものが映し出される。

あの日、死骸に繋がれていたアレだ。味山はモニターを眺めて目を大きく開いた。

「見覚えがあるな、味山君。キミの持ち帰った戦果だ」

「あー…… まあ、覚えてます。そういや組合が調査するって話でしたね」

あの日、帰還したあと組合からそんな話があったような…… カッパカレーや、あめりやの件ですっかり忘れていた。

「そうだ。結論から言えばきみの持ち帰ったは怪種の片だと判明した。伝子構造、殘留していたから一定のブルー因子も検知されている」

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「あら、じゃあタダヒト、また新種発見ボーナスはいるんじゃない?」

「え、マジ?」

先月の耳との接は確かに厄介ごとだったが、同時に味山は新種発見のインセンティブ報酬をけ取っていた。アレタと折半していたとはいえ、それでもとてつもない金額だ。

だがアリーシャは軽く首を振る。

「いや殘念だが、組合はまだ完全に新種発見として認定はしていないようだ。あくまでこれは片。新種の発見にはこの片の本との接を果たさなければ認定はされないだろうな」

「しってた」

まあ、そりゃそんなうまい話はないか。味山がしょんぼりと頭をさげる。

パチン。

軽快な指を鳴らす音が響く。

ソフィだ。

「ははあ、なるほど。アレタ、読めて來たぞ。教、當ててやろうか。要は人手がないのだね」

ソフィが聲を出す。薄手のレギンスに灰シャツに軽いジャケット。ユニセックス風のファッションが生える。

「その通りだ、クラーク。組合は現在、この新種の追加調査にかかりっきりだ。めぼしい上級探索者のチームのほとんどがこの怪種の調査に駆り出されている、この依頼をこなせる練度をもち、現在指名依頼がっていないチームがたまたまお前たちだけだったのさ」

「どこの業界も人手不足ってことね。ダンジョンバブルに沸いてても世知辛いものだわ」

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アレタが深くソファに座り直しため息をついた。

「そういうな、アレタ。事実確認の最中だが味山君の報告同様に、ここ最近ダンジョン通信に大量のノイズが発生しているという報告が多數上がっている。同時に、探索者の未帰還率も上がってきていてな。組合はこの事態を割と深刻視しているわけだ」

アリーシャが長い髪をかき上げ同じくため息をつく。疲れがたまっているのが見けられた。

「まあそういうわけだ。報酬規程は、上級探索者、遠山鳴人の安否確認ののち場合によっては救出、または留品の回収だ。功報酬としてチーム単位で300萬円が組合から支給される、どうだ?」

「うーん、あたしたちへの窓口にアリーシャを用意したっていうところから、組合もどうしてもこの依頼をけさせたいみたいね。チームの治療費や経費も組合持ちならけてもいいと思うけど、みんなはどう?」

アレタが目を鋭くして部屋を見回す。

「ワタシはアレタがいいならいいさ。ちょうど長いオフだったからね。肩慣らしにはちょうどいいんじゃないかい?」

「俺もセンセイがいいなら問題ないっす。てか300萬ってかなり組合もふとっぱらすね。あめりやへの軍資金に……」

ソフィとグレンは二つ返事でうなずく。ぽろりとつぶやいたグレンをソフィがなにも言わずにじっと見つめていた。

「タダヒトは?」

アレタが流し目を味山にむける。

いやこの雰囲気で斷ることが日本人にできるわけねえだろうが。味山はうなずきつつも、アリーシャに対して手を挙げた。それは味山の役割だ。

「ブルームーンさん、話の容は理解できました。うちのリーダーも賛してるし問題ないです」

「そうかい、ありがとう、ではさっそくーー」

「でもその前に一つ聞かせてください」

アリーシャの言葉を遮り、味山が靜かに言葉を紡いだ。

「ああ、なんでも聞いてくれ」

アリーシャがじっと味山を見下ろす。その眼はアレタがたまにする他人を値踏みするときの冷たい目とよく似ていた。

「遠山鳴人がロストする寸前の狀況が知りたいです。組合が確認できているところまででいいので、なるべく詳しく」

「ああ、これはすまない。どうもアレタやソフィを基準にして依頼を扱い慣れていてな。だめだな。直さなければいけないな」

アレフチームにおいて味山の役割はストッパーだ。

排気量の馬鹿でかいエンジンでありチームの主力であるアレタに、ブレーン役のソフィ、ムードメーカーのグレン。チームの全員が味山を除き単純に強い。

普通の探索者が命の勘定を味して依頼をけるのにたいして、アレフチームのメンバーは単純な強さによりその覚がどうにも麻痺している部分があった。

「いえ、うちのメンツはその辺いい加減なんで。この依頼における予想される障害、あとはロスト地點付近の怪種の生息データをいただければ」

「ああ、もちろん用意してあるとも。モニターに映し出そう。遠山鳴人はチームでの依頼活中に行方を絶った。依頼容は調査任務、二階層、大草原地帯での怪種のグループの追跡だ」

モニターにマップが反映される。バベルの大二階層に位置する大草原地帯のマップだ。

島の地下にモンゴルの草原みたいな地域があることにもだいぶ慣れてきた。

「生還したメンバーからの報告によれば、組合からの事前報よりもはるかに多數の怪種の群れを発見。同時に知されてしまった。遠山鳴人はその場に殿として殘り、稼いだ時間でチームメンバーはそのまま離したようだな」

「勇敢ね。彼が命を懸けなければ全滅かもしれなかったわ」

アレタが靜かに目をつむって十字を切る。

だからまだ死んだとは決まってないっつうの。味山はアレタの手をつかんで強引に祈りを止めさせた。

思ったよりも素直にアレタがきを止めて、もじもじしながら押し黙る。

「その怪種の種類は?」

「ふむ、記録によれば…… 怪種43號、一ツ目草原オオザルだな」

「……サル系か。まずいな」

味山は顔をくしゃくしゃに曇らせる。

ソロ探索の時に遭遇したアレチ猿しかり、二足歩行で猿系の怪種は大抵、人間をいたぶる傾向が強い。

それは殘ゆえか、はたまた彼らなりの調理のつもりなのかはわからないがどのみち奴らに敗北した探索者の末路はひどいものだ。

おそらく、遠山がその怪種との戦闘に敗北していた場合は、人間としては死ねなかった可能が高い。

「ふむ、教。離したメンバーのその後の行は判明しているかい?」

ソフィがアリーシャに質問する。

「生還したメンバーは運よく巡回していた自衛軍と合流、臨時に救援チームを発足し返す刀で現場に駆け付けたらしいが、殘念ながら間に合わなかったようだ。周囲を探索しようにも、の匂いに寄ってきた怪種により探索は中斷、遠山はそのまま未帰還認定されたというのが今回のあらましだな」

「ああ。それを聞いてし安心したよ。てっきり遠山はスケープゴートにされたのかと。いやはや、仕事にはモチベーションが大事だからねえ」

ソフィが薄いをなでおろし眼をつむった。

グレンが信じられないものを見たような目をしたがどうやらそれには気づかなかったらしい。

「日頃の素行調査によれば遠山のチームは比較的、バランスよくチーム仲も良好だったようだ。男2人に1人のチームは大抵もめるんだがな。特にそういったこともなかったらしい」

ふと急にアリーシャがモニターにむき直る。

畫面が切り替わり、草原の景が映し出された。

「えっ」

「へえ」

「あれっ」

「……まじかよ」

アレフチーム全員が息をのむ。

「すまない、これも依頼の最終諾判斷の時に伝えようとしていたのだが、もっと早くに伝えるべきだったな。これは救援チームにより記録されたロスト地點の映像だ」

緑の広がる草原、しかしその風景には異常がわかりやすく存在していた。

地面がほぐれてとけたように、地りでほぐれた舗裝道路のように草原の一部にぽっかりとが開いていた。

「沈殿現象…… ねえ、アリーシャ。組合は本當にトオヤマナルヒトが生きているって思ってるのかしら」

アレタがあきれたといわんばかりに力の抜けた言葉をらす。

無理もない。端末反応がロストしたのが沈殿現象で沈んだことが原因だとしたのならもう……

「一か月前なら、組合はとうに遠山に対し死亡判定を出していただろうな。しかし今は違う。この部屋に前例がいるだろう。沈殿現象に巻き込まれたのちに生還を果たした人間が2人も」

「ああ、なるほど。ここでこういう風につながるのね。らしいわよ、タダヒト」

「あー…… まあ、うん。そういうことか。そっちのパターンね」

味山とアレタ、1か月前、8月における耳との戦闘時に沈殿現象に巻き込まれた凡人探索者と、その凡人探索者を救いにいくために、沈殿現象の中に飛び込んだ指定探索者がそろって腕組みをして、うんうんとうなづく。

うん、それは組合に文句いえねえわ。前例があるものね、沈殿現象から帰還したっていうね。

味山は自分にできて相手には出來ないといえるほど傲慢な格をしていなかった。

「さて、話をまとめると今回の依頼における危険は2つ、遠山鳴人たちが、発見した怪種の大グループとの接の可能があること、沈殿現象のおきた區域での調査となることだ。一般的に考えれば確かに危険ではあるが、どうだろうか。アレフチーム、この指名依頼をけてくれないか」

アリーシャが靜かに告げる。それは提案のようでいて、提案などではないことをこの部屋にいる全員が理解していた。

アレタが味山に目配せする。

味山が今度はうなずいた。危険ではある、命を失うかもしれない。

だが、それが探索者の仕事だ。

味山は凡人ではあるが、仕事に対しては真面目だった。

「ええ、了解したわ。アレフチームのリーダーとして組合からの依頼を了承、みんなもいいかしら?」

「ソフィ・M・クラーク、依頼を諾しよう」

「グレン・ウォーカー、オッケーっす!」

「味山只人、了解」

アレフチームが全員、命を懸けることを了承した。

部屋に設置された収音裝置が全員の聲紋を認識、組合の管理システムに彼らが免責事項を理解したうえで、命がけの任務を了承したことを記録される。

これにより、組合、國は超法規的手続きにより彼らがダンジョンで負う一切の不利益に対しなんの賠償責任も負わないことを確定させた。

「でもアリーシャ、さっきの約束は守ってよね」

「ああ、わかっているさ。経費はこちらでもとう」

「ちょっと、治療費もよ、上限はなし、培養層やメディカルマシンも利用可能にして」

「はあ、わかった、わかったよ。収音裝置に記録させる。おい、聞いているか、約款に組合からの出資を確約させておいてくれ」

アリーシャが部屋の天井にむけて言葉を向ける。照明が緑に変化し、すぐにもとの白にもどった。

「これで手続きは完了だ。準備ができ次第ダンジョンへの侵を開始してくれ。なお、本任務においては、組合がアメリカ本國へ掛け合い、混合部隊がサポートに回る。アレタ、お前のファン達だ」

「ああ、彼らなの? じゃあやりやすいわね。頼りにしてるって伝えてちょうだい」

アレタが目をクリクリと広げて笑う。反対に味山はじとりとした目で床を見た。

うわ、連中が一緒なのか…… めんどくせえ。

「じゃあ話は決まったことだし、そうね。明日には出発するわ。アリーシャ、手続きはもうこれでいいかしら?」

「ああ、後の手配はこちらでしておく。明日だな。午前中にはフロアへ集合しておいてくれ。ちょうど11時に次の下降予定だ」

「了解、みんな聞いたわね、夜遊びはリーダー権限で今日は止にします! 準備して、食べて、書書いてから早く寢ること! じゃあ、解散!」

味山とグレンはその言葉にうえーいと気の抜けた返事をしながら立ち上がる。

ソフィもゆっくりと立ち上がり、アレタと並んで出口へと向かう。

「ああ、待て。アレタとソフィはもうしここに殘ってくれないか。本國の…… いや、軍の同窓會について話がしておきたい」

アレタ達がアリーシャに呼び止められる。

「……ええ、わかったわ。タダヒト、グレン。先に行っててちょうだい。細かい打ち合わせはそうね、夕方、組合の酒場で待ち合わせにしましょう」

「助手、くれぐれもあめりやに行ったりはするなよ」

「ん、了解、アシュフィールド。行こうぜ、グレン」

「センセ、信用してくださいよ、さすがの俺も今日は行かないっす。タダ、待ち合わせまでどっかで時間潰さないっすか?」

「あー、じゃあよ、この近く、バベル港の埠頭で釣りでもしようぜ。あそこは晝でもわりと釣れるらしいぜ」

「いーっすね。決まりっす」

「おっけ、鮫島もってみるか? アシュフィールド、釣りしてくるわ。終わったら連絡してくれ」

「ええ、わかったわ。きちんと返信してよね」

ぺろりと小さく舌を出してアレタが手を振った。味山が苦笑しながら部屋を出る。

それにしても、同窓會? 軍人もそんなのするんだな。

味山は呑気なことを考えつつ、組合の豪華な建の中を歩いていった。

データベース閲覧………

〜沈殿現象について〜

バベルの大では時たまに地面が溶けて消失する現象が確認されている。原因は不明、探索者組合はこの現象を"沈殿現象"と呼稱している。

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