《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》29話 遭遇戦
………
……
…
「チャーリー、クリア」
「デルタ、クリア」
大草原をガスマスクと黒い戦闘服の集団が進む。小銃を構えながら、周囲をクリアリングするその姿は、洗練されていた。
「……なあ、グレン。俺すごくやりにくいんだけども」
「我慢するっす、普段なら俺らが斥候してんのを彼らが代わりにやってくれてるんすから」
「アレタ、目的地まであともうしだ。調子はどうかな?」
「問題ないわ、ソフィ。襲撃もないし、今のところは順調ね」
混合部隊に囲まれて、アレフチームはく。1人を除いてストレスはあまりじていなかった。
「タダヒト、張してるの?」
「そりゃするわ。張と気疲れだよ。人見知りなもんでな」
「ふふ、大丈夫よ。彼らは優秀な兵士なんだから。怪種が近くなれば教えてくれるわ」
低い木がぽつぽつと生え、後はただ雄大な草原が広がり続けるその地帯を彼らは進む。
遮蔽はなく見通しは確かに良い。
「ああ、そりゃ心強いな……」
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味山はそこでふと違和を覚えた。アレタの様子にだ。
歩き方か、雰囲気か、それがなんとなくいつも見ているアレタ・アシュフィールドとは違って見えた。でもやはりそれがなんなのかがわからない。
「なあ、グレン。なんか、今日アシュフィールドの様子が違うくねえか?」
「へ? アレタさんが? ……いつもどおりオーラバリバリの人っすけど?」
「……ああ。そう、だよなあ。まあ、俺の気のせいか」
「つーかそれよりもタダ。混合部隊のみなさんの雰囲気がさっきよりも剣呑になってる気がするんすけど。さっき隊長さんとなに話したんすか?」
「そのガスマスクかっこいいね、どこで買ったのって聞いただけだ」
「おい、タダ。人の目みて話せよ。お前絶対挑発したろ」
「グレン、俺のような平和主義者がそんなーー……」
軽口を叩こうとした味山が急に黙った。
じわり。
じるのは、腰に燈る奇妙な暖かさ。
ベルトに収めた知らせ石に手を當てる、熱い。火傷するほどではないがよくんだカイロ程度には熱を持っている。
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「どうしたんすか、タダ?」
「……グレン、悪い。えーと、混合部隊の方! しいいですか!」
味山はあれほど関わるのを控えていたガスマスクの部隊へと聲を掛ける。
「………」
「いや、無視かよ。周りに本當に何もいないです? さっきクリアって言ってたけどもう一回調べてもらえません?」
味山が近くのガスマスクに聲を掛ける。しかし、隊員はこちらを見向きもしない。
まじか、こいつら。
頭にピキリと苛立ちが走る。徐々に回って來ていた酔いが怒りのハードルをし下げていた。
「ねえ、あなたたち。タダヒトの言う通りにしてみてくれないかしら」
「「「ウィルコ、アシュフィールド特別佐」」」
ぽつりとらすようなアレタの聲に、ガスマスクの部隊が一斉に反応し、散開する。
統率のとれたきで周囲を一斉にクリアリングした。
「これでいいかしら、タダヒト」
「どうも、アシュフィールド」
どことなく褒めてしそうにこちらに流し目を向けるアレタに味山は小さく禮を返す。
「……アシュフィールド特別佐、目視、スコープチェックにおいて付近に怪種の接近はありません」
ガスマスクの大男、チャールズがアレタへと報告を屆ける。
アレタは肩を竦めて味山を見ていた。
心配しすぎだったのか? それとも知らせ石の危険判斷も度があまり高くはないのだろうか。
「ああ、悪かった。し気を張り詰め過ぎてたかも知れない」
アレタに向かって味山が頭を下げる。別にいいわとばかりにアレタが手を振った。
「素人め……」
「52番目の星がいなければ……」
隠すつもりのない口をガスマスク達が囁く。
まあ、そう言われても仕方ないか。
味山は未だに腰のベルトホルスターの中で熱を帯びる知らせ石をでた。
TIPS€ 3階層に潛む人知竜は、怪種に対して実験を続けている
TIPS€人知竜は一部の怪達に明の力を與えた
TIPS€お前たちは既に狩場へと足を踏みれている
ささやき。味山だけに聞こえるダンジョン攻略のヒント。
「や、ば」
ダンジョンのヒントが味山の耳へと伝わる。瞬間、
「ぎゃっ?!」
突如、隊列がれる。ガスマスクの1人が急に地面に倒れもがいている。
「な、なんだ?! おい、どうした!!」
まるで見えない何かに押さえつけられているような。
狼狽するガスマスクの部隊、そのに割ってる者がいた。
「どけ!」
「日本人!! おい、勝手な真似をするな!」
味山だ。地面に倒れもがいているガスマスクに向かい、なんの躊躇いもなく手斧を振りかぶっていた。
「ばっ、何を?!」
「イかれたか?! ど素人め!」
向けられる無數の銃口、しかし味山の目にそれは映らなかった。
「アシュフィールド!」
味山は自分を狙う銃口に目もくれず、仲間の名をんだ。それだけで伝わる。
「っ! 撃つな!!!」
アレタの聲、響く。ガスマスクたちは銃口を一斉に下げる。
けっ、よくしつけられてやんの。
「ナイス!! そして、1匹目え!!」
「ひっ?!」
両手に持ち替えた手斧を、そのまま振り下ろす。躊躇いのない行に、ガスマスクの部隊が悲鳴を上げた。
どちゃ。
手斧が、振り下ろされる。手斧が、に食い込む。
「な、…… どういうことだ?」
もがくガスマスクに手斧の刃が食い込むことはなかった。
その手前、何も無い空間に斧は食い込み、そして。
「けけげ、ゲア………」
「はっはー、一つ目ソウゲンオオザル、目ん玉が確か5萬円の買取額だったなあ、おい」
空間にが燈る、何もない空間から化けのゴワゴワした皮が浮かび上がった。
「怪我はないですか? ガスマスクの兵隊さん」
「ひ、……あ、ああ…… ありがとう」
味山が頭に斧を生やした化けの死骸を蹴り転がす。どうやら、急襲されたガスマスクに負傷はないらしい。
「頑丈な戦闘服でよかったな、おい」
ぐぐっと、力を込めて化けの頭から手斧を引き抜く。甘い、青いの匂いが鼻にまとわりつく。
「タダヒト!! 大丈夫?」
「おーう、アシュフィールド、見ての通りだ。それとよ」
味山の脳がゆだる、戦闘の興、殺傷の昏い歓びが酔いの呼び水となる。
TIPS€ 奴らはお前達と同じ人間を探している。一族を脅かした槌と、轟音と、見えない牙をる人間を
「もう、囲まれてるぜ、これ。」
「ホホホホホホホホホ!!」
「けげげげげげけ!!」
「ギャギギかけかけか!!」
泡立つ、れそうな殺気。
先ほどまで靜かだった大草原が一気に湧く。
「ば、ばかな?! 囲まれている?!! 怪種だ!」
「そ、そんな、クリアリングしても何もいなかったのに」
訓練をけ、実戦を経験している兵士と言えども予想外の怪の接近に浮き足立つ。
ぶわり、ぶわ。
我をみよ、我を見よ、といわんばかりに一斉に怪達がその姿を表す。
明な帳をぎ捨て、その醜悪な姿を見せつけるように。
「う、ち、近い…… 明になる怪種なんて、聞いたことないぞ」
驚き、恐怖、興、それらは人の歩みを止める。
怪はそれをよく知っていた。事実、銃火を揃えた混合部隊の誰もが、銃口すら引き起こせない。
額にあしらえた大きな一つ目が走り、武裝した人間を囲んだ。
怪種の、狩りが始まーー
「け……げ?」
固まる武裝集団、その隙間から一番貧相な裝備の味山がなんの躊躇いもなしに投げた。
「お、やりぃ。當たった、2匹目!」
手斧、唯一の自分の武を味山はなんの躊躇いもなくふりかぶり、一番近くで威嚇していた怪に向けた投げつけた。
「げ、げ……」
ビンっ! くるくると回転した斧が怪の頭に突き立つ。
呆気なく怪が、その単眼をひっくり返し白目を剝いて倒れた。
「………」
「…………」
怪とガスマスクの混合部隊の誰もが沈黙した。
そのあまりにも呆気なく、考えもなしに行われた行に。
「え? 何この空気、さっさと駆除しようぜ、駆除! あ、極力目ん玉は傷つけんなよ! 高く売れるから!」
拳を突き上げて怪の集団を指し示す味山、沈黙を、星の笑い聲が終わらした。
「……アハッ! あはははははは!! ホント、タダヒトってバカね! 斧投げてどーすんのよ、アナタの獲でしょ!」
「あ、やべ。なんかニヤニヤしてるサルがムカついてよ。てかまさか當たるとは思わなかったわ。アシュフィールドみてえに投擲練習するべきか、こりゃ」
「ふふ、タダヒトには向いてないと思うわ、手足短いもの」
「うわ、ナチュラルにひでえ。これだから自分が手足長いスタイルいい奴は嫌いだ」
「ふふ、アタシは手足短いのでも嫌いじゃないけどね。さて、と」
コホン、小さくアシュフィールドが咳払いをする。
その背後ではソフィが目を押さえて肩を震わせ、グレンは大きくため息をついていた。
「さあ、みんな。タダヒトのおバカさんに先を越されてしまったわ。頑張って取り返しましょう。……総員、戦闘開始」
「「「YES! mam!!」」」
がちゃり。
呆然としていたガスマスク達が一斉に統率を取り戻した。
あーあ、化けども。お前たちは選択を間違えた。
さっさと突撃してくりゃよかったものを。
味山は円形の隊列を組むガスマスクの部隊に囲まれながら怪達の先を哀れんだ。
「捜索任務のはずだったよなあ……」
大草原に渡る溫い風に、味山の呟きは流されていった。
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