《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》35話 TIPS€

「教えろ、その有効打を」

耳がフラフラしているうちに、味山は己の耳に問いかける。

できることを、やる。味山にはグレンのような白兵戦闘力はない。

グレンがを逸らす程度で躱せる攻撃も、味山は地面にをなげだしたり、転げたりしなければ躱せない。

それが能力の差というものだ。今更、味山はそれを嘆く事はない。

出來る事を、できることを、やる。

それだけしか、生き殘る道がないことを知っていた。

TIPS€ "耳"非公開報 耳への有効打、スマートランチャーによる攻撃、及び"耳の大力"による攻撃

「ああ、はいはい、やっぱりね、そうなるね」

味山は頭を回転させる。だめだ、ろくに考えがまとまらない。

シンプルに行こう。

「グレン!! スマートランチャーの撃ち方わかるか?」

「へ? ええ、一応センセイに一通りの銃火の扱いは叩き込まれてるっすけど」

「それ頼む!! お前が毆って無理ならもう無理! アレにちまちま攻撃しても無理だ!」

「了解っす、……アタッシュケースを拾う。タダ、時間稼ぎ頼めるっすか?」

「任された…… なる早で」

味山が瞬時に判斷する。"耳の大力" 、これまでの探索で何度か使った正不明の力。

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それを使えば、耳に屆く。ヒントはそう告げていた。

使い処を誤るわけには行かない。おそらく斧を大力で振るえばまた壊れる。

TIPS€ 耳の大力を使えばお前の斧は1度で砕ける。しかし、大力を以ってふるわれた斧の一撃は耳の生命すら脅かすだろう

その予想を肯定するかの如く絶妙のタイミングでヒントが聞こえる。

「そりゃいい事聞いた。……じゃあ斧は最後の切り札だ」

「タダ?」

グレンが怪訝な聲で味山の名を呼んだ。その問いかけを無視し味山が斧をホルスターにしまい込んだ。

「グレン、スマートランチャーの準備が出來たら迷いなく撃て。それまでは俺がアイツを足止めする」

「……タダ、お前の土壇場でのクソ度は信頼してる。いいんすね」

確認を促す言葉、それはフレンドリファイヤのリスクを示している。

「……大丈夫だ。作戦がある。お前はただ、やる事をやってくれ」

「了解っす」

「おう、じゃあ行くわ」

どくん、どくん、どくん。

心臓がうるさい。死地、命をなくとも2度差し出さねばそこに到達出來ない。

あの日と同じ恐怖が味山の足を鈍らせる。

ふざけるな、今かないんであれば切り捨てるぞ、あの日を擬えるように恐怖を眺め、それを超える。

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酔い酔い酔い酔い酔い酔い酔い酔い酔い酔い。

そしていつのまにか、一歩踏み出していた。

「幸運を、味山只人」

「お前もな、グレン・ウォーカー」

友人の聲を背に、味山が駆ける。同時にグレンがき出したのをじた。

走る、ホルスターにしまい込んだ手斧がガチャガチャと弾む。

"耳"が、獲を選ぶように耳を味山、グレンと順順に向ける。

「こっちだ!! クソ耳!!」

び、耳が反応し、味山を見つめた。

耳をくねらせた"耳"が、かかってこいとばかりに手のひらをくい、くいと曲げていた。

TIPS€ 耳との近接戦闘は危険だ。お前はなすもなく殺されーー

「やっかましいわ!! ボケ!!」

ぱちん。

「oh」

地面を蹴り、ひねったから繰り出された拳が耳を叩いた。

あまりにもけない音、味山にはグレンのような白兵戦闘力はない。

手に裝著している手袋もグレンのような戦闘のための機構はないただのり止め用の革手袋だ。

「かってえな! クソ!」

「coming coming coming coming」

革ごしに粘土を毆りつけたような覚、耳が近い。その耳のシワまで判別できるほどに。

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もう1発、腰をひねって拳を繰り出す、ぱしり、驚くべき速度で短い耳の手が味山の拳をけ止めた。握りつぶされる。そのおぞましい姿にめられた膂力は人間のをごみに変えることを味山は知っていた。

がまるで笑ったようにゆがむ、みしりと骨がきしむ音がして。

「CLASHーー」

耳が、味山の拳握りつぶそうとした瞬間、耳鳴りが聞こえたーー

TIPS€ ”耳”の部位保持者は”経験點100を消費することにより”耳の大力”を再現することができる。耳の大力を使用するか

「しゃす!!」

「をw」

めきり。耳の赤ん坊のような手のひらが無理やりに開かれる、味山の拳が耳の手のひらを強引に押し開けた。

「よう、どうした、そんな驚いた顔すんなよ」

「Gute Leistung」

ぐぐぐ、拮抗する力がゆっくりときしみあう。人間のを容易に引き裂く大力に味山があらがっていた。

味山が耳の手首をつかみ、その場に押しとどめようとする。振ぎり払うために振るわれる大耳、恐らくそれは食らってはいけない攻撃、しなやかで固い耳が味山のを橫薙ぎにとらえようと

「はい、よいしょおお!!!!」

どぎ。

大耳がとどめられる、味山が両手で振るわれた大耳をけ止めていた。味山のブーツが草原に食い込む、三センチほど後退し、そこで止まった。

味山は賭けていた。TIPSが教えなかった自分の力の可能に。

これまで幾度か使った斧を握りつぶし、刃を砕く人外の力、しかしそれを扱った己のにはほんのしの筋痛がのこるだけ。斧は砕けても、骨ががそのあまりある力で壊れることはなかった。

だから、賭けた。大力を使用すれば一時的にその力に耐えうる頑強なにかわる、”耳”の暴威に逆うことができるのではないかと。そして味山は賭けに勝った。

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ」

「LLLLLLLLうううう」

拮抗する力、片や世界に突如現れた異形、人の姿をした理外の存在。片や只の人間、しかしそのにはとある冒険の報酬、ダンジョンのヒントを聞き、”耳”の力を模す耳くそが宿る。

化けの一撃を、人の両手が押しとどめる。味山の手の甲、管が膨張し、噛み締めた奧歯がし砕けた。

「タダ!」

味山の前方、耳の背後から聲、視界に移るのはグレンが鈍に輝く大筒、スマートランチャーを構えた姿だった。

「撃て!グレン」

ためらいのない味山のび、グレンもまたためらいなくその兵の引き金を引いた。

TIPS€0.5秒後、耳をたたきつけて、右へ飛べ

「っおら!!」

「おw」

ヒントがささやく通りに、味山は両手につかんだ耳を思い切り洗濯をはたくように地面へたたきつけ、勢いそのままに右へ飛んだ。

「HOT」

どじゅう。

HEAT弾、運エネルギーによらず化學エネルギーで作用する型炸裂弾が耳のをとらえる。白兵戦が主になる探索者との共同作戦を前提に開発された攜行歩兵兵の弾頭は発しない、著弾地點を溶かし貫く。

「HHHHOOOTTTT」

でっぷりと太った腹が溶け、向こう側が見えるほふぉの風が開く、溶けたが水あめのように地面にほろ落ちた。

「ダイエット功だな」

立ち上がりながら味山が笑う、化けが焼ける、無に焼が食べたい、味山がまた笑う。

「タダ! まだ死んでない! そこどけ!」

二発目、グレンは好機を逃がさない。照準に収めた大耳、引き金をひき、HEAT弾が出された。

死ね、死んでしまえ。味山はだめおしの有効打が耳へ直撃するのを確ーー

TIPS€ 當たらない、耳はその攻撃をすでに覚えた

「は?」

「げっ」

味山とグレン、同時に間抜けな聲がれる。

回転、腹に風があき、生として致命傷を負っているはずの耳がなんのダメージもじさせない挙を見せる。

バク転、短い手足、大きな耳が翻り、その場で耳がバク転でHEAT弾をかすめつつ避けた。當たらなかった有効打がむなしく草原の地面を焼くだけ。

耳が音もなく地面に著地し、大耳に短い手を添えた。

「やばい」

TIPSが聞こえるより先に味山は予する、なにかがやばい。グレンに注意を呼びかけようとしたが、間に合わなかった。

「あ」

無音、一瞬、靜謐が世界を染めて、それがすぐに破られた。

きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん

音、どこから、耳から。

なんの音、わからない、聞いたことがない音だ。それが世界を満たす。

人が耳を澄ますようなジェスチャーをした耳から音が再生される。味山が耳をふさいでも指の隙間から音がり込む。

音がを蝕むようだ、なんの音だ、わからない。でも味山にはその音が、なぜだろうか、聲に聞こえた。

「あ、あああああああああああああ!!!??」

耳をふさいでもたついていた味山がグレンの悲鳴を聞く。耳が再生する音が支配する世界、しかし仲間の悲鳴がそれを押しのけて聞こえた。

「おい、グレン?! どうした?!」

「あああああああああああ???!!! 音、おとおおおおお。音を、やめてくれええええ‼!!!違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うううううう! 俺は、おれはしっぱいさくじゃないっ! おれはあああああああ」

味山が地面にのたうつグレンにかけよる。スマートランチャーを放り出し、グレンが四肢を振りし頭を地面に押さえつけてのたうち回る。

「おい、グレン!! グレン! くそ、どうしたんだ急に?!」

耳を押さえながらグレンの様子を確認するも、落ち著く様子はない。

確かに耳障りで、めまいのする音だがこんなになるようなものとも思えない。効き方に個人差があるのか?

味山が”耳”をにらみつける。

くそ、アレを殺すのには絶対にグレンの力が必要だ。

おい、おいおいおい、こんな時のためのヒントだろうが。いつもロクなこと言わねえんだからたまには役に立て。

味山は”耳”が鳴らし続ける音波の中、ひとりごちた。

やべえ、マジで怖い。

鳴り続ける心臓を理解する、しびれ始めた手足を理解する、自分の恐怖を見つめる。

1人だ、自分の恐怖は自分でなんとかするしかない、誰も助けちゃくれない、今までそうだった、これからもそれは変わらない。

それを味山は知っていた。

恐怖は自分が殺すしかないことを。

「聞かせろ」

仲間の悲鳴、化けの音、聲。

その中で、味山は自分にだけ聞こえるそれを求める。

「ダンジョンの」

それが味山のできることだ。

「化けを殺す、ヒントを」

TIPS€ ”耳”非公開攻略報 耳の部位保持者は、”耳”の音波を録音、再生することでそれを打ち消すことができる

ヒントが、味山の耳に屆いた。

「そう、そういうのがしかった」

TIPS€ 耳の部位保持者は経験點50を消費することにより”耳の業”を再現できる

「録音音聲」

無意識、味山が自分の耳に手を添える。その所作は”耳”と瓜二つ。

TIPS€ ”耳の業”を使用するか

「再生開始」

それは通り雨がすぎたように、薄い雪が朝日にさらわれ溶けるように、”耳から響く音を味山の耳から鳴る音が打ち消した。

ーーワすrNe obいscariでs

なにかが聞こえた。TIPSではない、何かのささやき、それは耳かられ出ていた音のようななにか。

同じ音、まったく同じ音が互いに互いを食い合い消える。世界に只の靜寂が戻る。

”耳”が、味山を見つめている。

「あ…… ああ…… おと、おとが、やんだ…… タダ、お前が?」

「起きたか、グレン、悪いがまだ終わってない。お前がいなきゃ勝てない、やべえマジでどーしよほんと」

味山が妙なテンションで首を傾げた。もう非常に疲れた、帰って寢たい。

「は、はは、ほんっとお前、それ、帰ったら説明してくれるんすよね」

「ああ、生きて帰ったらな、……あれの音は俺が消せる、それときさえ止めればたぶん、殺せる」

淡々と味山が事実だけを、TIPSのヒントを共有する。味山はグレンがし昏い笑みをたたえたのに気づかない。

「……タダ、お前アレの音聞いてなんもなかったんすか」

「あ? 立ち眩みしたけど」

「……へっ、そうっすか……」

グレンがふらつきながらも立ち上がる。まだその眼からは闘志は消えていない。

味山が仕切り直そうとしたその時、聞きたくないヒントが響く。

TIPS€ ”耳”はし飽きてきた。お前たちのびはどこかつまらない、そうだ、遠くへ逃げようとしている聲を引き裂き、ばせてみよう

「は? やばい、それはやばいって。グレン、やばい、アイツここから逃げようとしてる」

「それ撃退功ってことじゃないんすか、てかなんでそんなことわかるんすか」

「聞け、あいつ、アシュフィールドとクラーク達に気づいてる、そっちに行こうとしてんぞ」

味山の言葉にグレンがを震わせた。

「……だめだ。それは、それだけはだめっす。アレを、あんなのをセンセイに近づけるわけにはいかない。あれだけは、センセイに會わせちゃだめだ……」

「まあ、あの化けは大抵のやつが會ったらまずいよな」

うわごとをつぶやくようにらすグレンへ味山が腕を組んでうなづく。

「タダ…… 方法は? アレをここでぶっ殺す方法が知りたいっす」

「あー……きさえ止まればな…… 躱されなけりゃたぶん、大ダメージは確実なんだけど」

「…わかった、タダ、お前を信じる。きを止めればいいんすね」

「どうする気だ? たぶんお前の力でもアレを押さえんのは無理くさいぞ」

「……さっきのやりあいで理解してるっすよ。アレにダメージ與えれんのは兵ぐらいっす。でも、タダ、お前ならできるんだろ?」

グレンが味山に視線を向ける。草がこびりついた悍な顔立ちが味山を見つめる。

味山は靜かに答える、”耳”が味山たちの背後、アレタたちの退卻していったベースキャンプの方角にを向けていた。

「やる。ぶちのめしてやるよ。……止めれんのか?」

「俺はお前を信じる、だからタダも俺を信じてくれよ」

グレンの靜かな言葉に、味山は返事をせずにただうなづいた。

グレンがやると、できるといった。ならもう、任せるほかない。

味山が黙って、ホルスターにしまった手斧を引き抜いた。それを見てグレンが小さく笑い、耳へ駆け出す。

「ためらうなよ、タダ」

「ああ、グレン」

背中を見送る。仲間に任せる。

味山は、TIPSを聞く。わずかに手斧を握る手が震えた。

TIPS€ グレン・ウォーカーは死ぬ気だ。グレン・ウォーカーの決死の行は”耳”のきを51秒止めるだろう

だから、探索者はイかれてる。味山はしかし、引き留めはしない。

グレンに遅れて、斧を構えて駆け出した。

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