《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》36話 分岐點α→

グレンが怪薄する。繰り出される拳、蹴り、耳のが凹んでいくがおそらくダメージはない。

「聲紋認証、パワーグローブ出力最大!!」

「SO SO」

耳の攻撃の全てをその天才的な白兵能力で捌き、グレンが拳を大きく繰り出す。

戦闘用のグローブ、怪種の素材と最新の科學兵の融合により生み出されたその武裝は、毆りつけた対象を部から音波により崩壊させる。

き、いいいいいん。

に打ち込まれたグローブが響く、本來であれば怪種の頑強な外骨格や、ケラチンでさえも壊すその音波攻撃。

しかし、"耳"とは致命的に相が悪かった。

「OH nice」

悶えする耳、短い腕で己の肩を抱きしめて耳が悅ぶ。音波、音、それらは全てその耳に聞き吸い込まれる。

味山が"耳"の音波に干渉するように、耳がグレンのパワーグローブの機構を無効化していた。

「」

超近接戦闘での致命的な隙、耳の腕が、生命を容易く壊す剛力を湛えた腕が、グレンへとびた。

TIPS€ グレン・ウォーカーは死ぬ気だ

「グレン!!!」

味山に聞こえるヒントは仲間の真意を伝える。だが、無意識かどうか。味山はすでに攻撃の準備を始めていた。

「タダ、ためらっ……! ぐぶ……」

耳の腕が、グレンの腹に食い込む、食い破る。

ぼたぼたと垂れ落ちる赤い、腹から、グレンの口から溢れる。

「タ……ダ…… や、れ……」

「wow」

ぐ、腕を引き抜こうとした耳がきを止める。深々と腹に突き刺し、臓腑をかき混ぜた腕が引き抜けない。

「……ごぼ。待て……よ。人の腹に腕ぶち込んで…… すぐ帰れると思うなよ」

致命傷を負ったグレンが、耳を押しとどめる。

37秒。

TIPS€ 耳の大力を使用するか

「ーー馬鹿!」

手斧を握り締める。味山のに"耳"の大力が降りる。凡人の牙、仲間の生命を賭けた好機にそれが閃く。

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短い柄を両手で握り締め、大上段に構え、

「野郎が!!ーー」

ずぐ、るるるるるるるる。

手斧の刃が大耳に食い込み、食い破る。大力によって振り下ろされた刃は止まらない。赤いが噴水として噴き出し、味山とグレンを赤く染めた。

"耳"の大耳が、真っ二つに裂ける、辛うじて殘っている繋ぎ目、味山はさらに力を込め

「死ね」

それを刃で思い切り引き裂いた。すべるすべる刃がる。化けの中で、刃が削れ、そしてその大力に耐えられずに、砕けた。

「go……」

まで、引き裂かれたキノコみたいに真っ二つになった"耳"が真後ろにパタリと倒れる。反でグレンの腹を抉った腕が抜ける。

砕けた斧、捻れた柄を投げ捨てて味山がグレンを支える。

「おい、グレン!! お前! なんって事を!」

なるべくゆっくりひきずりながら味山がその場を離れる。

まずい、出が多すぎる。まずい、まずいまずいまずいまずい。

「へへ…… タダ、お前は……土壇場では、やるときはやる奴だって、信じてたっすよ」

「おま、なんで、ワザとやられたろ?!」

「それが……一番確実だったんすよ…… アレだけは……ここで、始末しとかないとヤバい…… センセイでも、多分、アレには勝てない……」

「だからってお前!! こんな致命傷……!!」

「……へへ。酔いが回ってたんすよ…… 怖かったんだ…… センセイが、アレと出會って、戦うことになるのが、怖かった……」

うわごとを続けるグレン、やばい、目の焦點が合っていない。

味山は傷を確認し、小さく唸り聲をらした。

どう見ても致命傷、手の施しようがない。ベルトに備えている希釈されたイモータル薬でも、これではもう……

味山はそれでもベルトから取り出した無針注を、グレンの腕をまくり突き刺す。ほんの一瞬、グレンがを揺らし、目に力が戻った。

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「……あ、あり、がとな…… タダ、お前がいたからきちんとアレを始末出來た…… あ、やべ…… なんか眠たくなってきたかも」

ダメだ、また瞳孔が開き始めた。

焦點の合っていない軸のぶれた眼が、薄く閉じられる。

やばい。

「おいっ、グレン! 起きろ!」

ダメだ。

腹にぽっかりと開いたからどんどん、どんどんどす黒いがあふれてくる。

「死ぬな!」

味山の悲鳴に似たびが、むなしい。

大草原の草花がグレンのを吸っていく。

仰向けに倒れた灰の髪の仲間を、決死のし(・)ん(・)が(・)り(・)にともに殘った仲間が、その役目を終えて死にかけている。

「だめだ…… ダメだめだだめだ! おい、起きろ! お前こんなところで死んでる暇ねえだろうが! あめりやに行くって約束したろうが、おい!」

ひゅー、ひゅー。いのちの燈が消えかける音が、グレンの口から洩れる。うつろに開いた瞳が味山をとらえていた。

「た、だ…… もう、いいっす…… みんなと合流を」

ごぽり、グレンの口からこぼれる、が、命が。

「くそ、とまれ、とまれ、とまれとまれとまれとまれよ! 頼むからとまってくれ!」

傷口を手で押さえる。それすらも稽なほどに、抑えた指の隙間からが、あふれてくる。

「もう、いいって…… ただ、頼みが、頼みがある……っす」

「なんだ、何言って……?」

「た、だ…… せんせい……を、あの子を…… 守ってくれよ…… おれはもう、だめ……みたいだから……」

「っバカいってんじゃねえ! お前が守れ! クラークの相棒はお前だろうが! クラークに言われたんだろうが、死ぬなって!」

だめだ、グレンが死ぬ。

こんなところで、こんなことで、死ぬ。いなくなる。

冗談じゃない、こんなところで、死んでいいわけがない。

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ごぽり。

「っ!?」

奴(・)の(・)(・)か(・)ら(・)音(・)が(・)し(・)た(・)。

「お、おい。もうかよ、ふざけんな、てめえ、空気読めよ…… おい! 空気、読めよ…… 頼むから」

ごぽり、ごぽり。

があふれる。

グレンが命を懸けて奪った生命が、なんのこともないように、再生していく。

その不條理はわかっていた。

その恐怖は知っていた。

なのに、なのに。

「ずるいだろ、こっちはよお、仲間の命使いつぶしてここまで來たのに…… ずりい、ずるすぎるぞ、お前」

聲が震える。

自分の命を懸けるのには慣れていた、でも知らなかった。

仲間の命を懸けるのがこんなにも恐ろしいことだったとは、知らなかった。

「こっちは、俺たちは1つしかねえライフを使ってたたかってんのに! なんなんだよ、てめえは!」

こんな言葉になんの価値もないことはわかっている、それでも味山はばずにはいられなかった。

「ごぼ、ごぼぼぼ……」

「おいっ! グレン グレン! ダメだ! を吐いたらだめだ!」

堰が崩壊したように、グレンの口からが流れる。

「……ごめん、せん……せ…… そ……ィ」

「お、おい!」

ごぽぽぽぽ。

グレンの首がゆっくり橫に傾く。手のひらがゆっくりと開く。まるで部屋の片隅であおむけに死んでいる蟲けらの死骸のようだ。

「グレン?」

その問いかけにもう、誰も答えない。

ごぽぽ。

が沸く。

奴が再び目覚める。

味山とグレンが命を懸けて足止めしていた奴が、そのがあぶくをたてて形を取り戻そうとしていた。あの恐(・)ろ(・)し(・)い(・)怪(・)(・)が(・)。

どうすれば、いい?

味山は満創痍ので、大草原の地面を踏みしめる。地面をきちんと踏めているかがわからない。

答えのないグレンをもう一度見るのが怖かった。

ここで、終わり?

噓だろ、だってまだやんねえといけねえこと山ほどあるのに……

なんで、グレンがこんな目に、なんで、なんで。

膝はつかない。でも、それが限界だった。

きいん。

ふと、耳鳴りがした。あの肝心な時に役に立たないヒントの音。

TIPS€ グレン・ウォーカーは死ぬ

うるせえ。

耳のがあぶくを立てる、戻っていく、戻っていく。

おそらく今にもき出す。

味山の頭の中で、囁く聲。

TIPS€ グレン・ウォーカーは死ぬ

だから、置いていけ。イキタイノナラココカラニゲロ。

黙ってろ。

置いていけ、置いていけ。

「黙れ、仲間は見捨てない。俺は、あいつの補佐探索者なんだ」

TIPS€グレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬグレン・ウォーカーは死ぬ

「黙れ!! 今考えてんだ!! うるせえ!!」

味山がぶ、頭の中で響き続ける聲をかき消すために。

考えろ、考えろ、考えろ。だめだ、ここでグレンを死なせたらだめだ。

それをしたら全部終わっちまう。

終わる? 何が?

唐突に現れる思考のノイズ。味山が何かの違和を覚えた。

TIPS€ グレン・ウォーカーの死は、ソフィ・M・クラークのタガを外す

TIPS€ お前は知っている。己の大切なもの全てを世界に奪われたソフィ・M・クラークが何をするかを

「ぐ…… なんだ、これ、何が……」

味山が頭を抱えてその場にうずくまる。痛い、痛い、ヒントが聞こえるたびに頭痛が現れる。

TIPS€ 分岐點αに到達 グレン・ウォーカーは死ぬ。

なんだこれ、なんだ、これ。

まただ、何か、何かいつも聞こえるヒントとこれは違う。

息をしていないグレン、悶えるようにき始めた"耳"の死骸、カオスな狀況の中、ヒントが続く。

TIPS€ 分岐點αに到達、グレン・ウォーカーと撤退戦を行う。グレン・ウォーカーは死ぬ、グレン・ウォーカーは死ぬ、グレン・グレングレングレングレングレングレングレンウォーカーウォーカーウォーカーウォーカーはシシシシシシシシヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ

「やかましい。本當のことを教えろ」

何故、その言葉が出たのかは味山にはわからなかった。

ただ、壊れたラジオのように響いていたヒントがピタリと止んで。

TIPS€ 條件達 ニ…ュduo lapウ メ 特典

TIPS€ 條件確認、アレフチーム全員が9月13日の時點で生存している。"腑分けされた部位の一部"を所持している。"神の殘りカス"を最低でも1つ以上所持している。"人知竜"との直接的接を果たしていない。"、キリヤイバ"が世界から消失している。ラドン・M・クラークが世界にいない。"L計畫"が進行している。"星雲の墮とし子"の3が世界から消失している。

「なん、だ、何が聞こえてんだ?」

TIPS€ 條件達、グレン・ウォーカーを置いて行かない事を選ぶ

「……誰だ、誰がこれを話している……?」

TIPS€ 特典解放、グレン・ウォーカーについての最深度報公開

「……あ?」

TIPS€ グレン・ウォーカーはラドン・M・クラークによって調整を施された"宿主"だ。"L計畫"のプラン2、星雲の墮とし仔との結合に最適化されるように調整されている。

TIPS€グレン・ウォーカーは現在、生命維持の為に意識を手放している。への重大なダメージの回復機構が起している。

TIPS€ グレン・ウォーカーは"宿主"として強い薬と、薬への最適化調整が施されている。再生メディカル"イモータル"原の注により、仮死狀態から復帰する事ができる。

TIPS€ オプション條件達、"神の殘りカス、清水晶"を所持している。

「……救えるのか」

TIPS€グレン・ウォーカー生存ルート、條件開示、イモータル原の注、および"清水晶"の使用。清水晶を所持している、"耳"の片を利用する必要はない

「っ、グレン! 勝手に使うぞ!!」

味山の行は早かった。そのヒントの真偽、聞いた事のない言葉にわされることはない。

イモータル原の注、そして自分がなんとなく持って來ていた王龍で購していた欠けた水晶。

それを使えばグレンは助かる。味山の頭の中にあるのはその2つだけだ。

「くそ、男のまさぐるのは趣味じゃねえのに!」

グレンのジャケット型戦闘服をまさぐり、ベルトをあらわにする。

どれだ、どれだ。

上級探索者であるグレンにはイモータル原の所持が義務付けられている。ずぼらなコイツでも絶対にそれは持っている筈だ。

味山はグレンのベルトホルダーに目をやる。救援信號、末栄養剤、剝ぎ取り小型ナイフ、そして、青白くる薬った小さな筒。

「イモータル原…」

味山が、グレンの首元に筒を、無針注の先端を押し當てボタンを押す。

プシっ、炭酸の栓が抜けたような音が鳴り、薬がグレンのに染み込む。

「起きろ、起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ」

グレンはぴくりともかない。戦闘の興とはまた別の悸が味山の心臓を襲う。

「なんで…… くそ!」

味山が無針注を地面に叩きつける。

起きない、グレンが目を覚ます事はない。

クソ耳、いい加減な事言いやがってーー

TIPS€ グレン・ウォーカー最深度報公開、仮死狀態からの復帰には、ラドン・M・クラークが調整した再生機構の起が必要。再生機構のパスワードはーー

味山は目を剝いて、ヒントに耳を傾ける。

そして、その耳のTIPSを呟いた。

「……タイプ、プロメテウス」

どば。

反応はすぐにあった。

「うわ」

グレンの口からが噴き出る。吐の煙になり、味山の黒い髪を濡らした。

「あ、あああ…… ああああああア……ああああああ!!??」

バタバタとグレンの手足が痙攣する。これ、大丈夫なやつか? やばくね。

味山がその反応にまごついていると

TIPS€ グレン・ウォーカーは結合を果たしていない。だがそのには"星雲の墮とし仔"との結合に耐える為の再生機構が調整されている。

「うお、まじかよ」

そして味山はそれに気付いた。

グレンの腹に空いた傷、傷口からまろび出たが、踴っている。

アツアツのお好み焼きの上に振りかけたカツオ節みてーだ。味山はこんな時にふと呑気な事を考えた。

グレンが白目を剝き、手足をばたつかせる。腹の周りのが蠢き、それがまるで傷口を埋めるように集まっていく。

「はは…… おい、グレン、お前もやっぱり、とんでもねえ奴じゃねえか」

半笑いになった味山が、ベルトから取り出したのは、ジップロックにれていた欠けた水晶。

TIPS€ "清水晶"、失われたお伽話のカケラ。神の殘りカス。最後の皇帝が臣下に送った水晶のカケラ、それは滅びゆく國へ最後まで盡くした忠に報いる為のものか、それとも気まぐれに贈られたものか。今はもう、誰も知らない。強く握りしめ使用すれば一度だけ、賦活の奇跡を得る。

「はは…… 王さん、あんた凄え店主だな」

味山がばたつくグレンの右手を押さえ、手のひらにその水晶のカケラを握らせる。

「頼むぜ、オカルトグッズ。現代ダンジョンなんてもんがあるんだ。化けだっている、ならよお、エリクサーや世界樹の葉みてえな水晶だってあるよなあ!!」

ぽう。グレンの手のひらから淡い紫れた。

ーー努、忘れるな。清は終わる。だが、我らに終わりはない。いつかこの水晶のもと再び集まり、なくしたもの全てを取り戻すのだ。

ふと、聞こえた聲、耳に屆いた聲は誰のものだろうか。水晶から聞こえた聲はしかし、幻の如く二度と聞こえなかった。

「あ……… ラド…… 博士…… ソ、センセ、俺は、オレは…ああああ……」

「グレン!! 気合れろ!! ここまでやったんだ! 還ってこい!! グレン・ウォーカー!!」

「あああああああああああ」

破壊と再生、死と生。その両極を今、グレンは行き來している。

歪めたのは運命、本來ならばここで終わっている筈の生命を味山は貪に拾おうとしている。

決められた宿命、変えてはならない結末、そんなもの知った事か。

味山はグレンのを押さえつけ、強に貪に世界へ対して反逆する。

TIPS€ 変えてはならない、救ってはならない。生かしてはならない。

「うるせえ、うるせえ、うるせえ、うるせえ!!」

グレンの傷がで塞がる。暴れるしづつ作が落ち著いて來てーー

熱。

知らせ石が、燃えるように熱を持った。

「i.m coming」

どろり、をいつのまにか繋げていた、耳が倒れ伏すグレン、味山の元に現れその大耳を振るわんとーー

TIPS€ 警告、耳の大力のクールダウンが終わっていない。無理に使用すればお前のはーー

「今いいとこなんだよ!っ!! クソ耳が!!」

ガン無視。

振るわれた耳より先に、"耳の大力"により振るわれた味山のアッパーが大耳のに吸い込まれた。

「飛んでけ!!」

みしり、みしり。無理矢理に振るわれた拳、腰がねじ切れかけ、足の爪が砕ける。

耳のを持ち上げて、なお、その拳の勢いは止まらない。

「うw」

ボン。

音が遅れる。

大耳が、味山の拳で吹き飛んだ。ロケットのように吹っ飛ぶ大耳、スーパーボールのように何度も草原の地面をバウンドしながら転がる。

ぼちゃん。

沈殿現象により、狀化した地面、湖になったそこに耳が落ちた。

溶けた地面に波紋が広がり、靜寂が広がる。

「う、げ」

膝が砕ける、背骨が痛い、折れてないこれ。

酔いの中にいても、けなくなるほどの激痛が味山の全を走る。

その場にうずくまる味山、そして

「スー…… スー……」

「っは、 てめえ、帰ったらマジで奢れよ」

安定したグレンの寢息、振り返ればそこには何の問題もなくを上下しながら呼吸するグレンの姿がある。

腹に空いた傷は、がブヨブヨのゼリーになって固まっている。それ以上の流はない。

も戻り、呼吸も安定していた。

「は、はは…… 生きてる…… お前も、俺も」

痛むをひきずり、グレンのもとへ這いずる味山、端末だ、端末ですぐに救援を。

TIPS€ 第二形態

「え」

どぱん。

大瀑布。

溶けた地面が、膨らみ、弾けた。

大海原の海面から鯨のが噴き出したごとく、溶けた地面が噴き出す。

べた、ぼと。

味山達のもとに、弾けた地面の飛沫がとんだ。

「……そういやそんな姿もあったよな」

味山がどっこらせと、あぐらをかく。もういいや、まじでけない。

そして、その溶けた地面から現れた怪を見た。

「ラアアアアウンドオオオオオ痛ううううううううううううううううううううううううう」

馬鹿でかい。

膨らんだボンレスハムみたいな、至るところから歪にびる人間と昆蟲の特徴が混じったような沢山の足。

そして、その先端に雄々しく掲げられた大耳。

耳の化け、その2つ目の姿。

TIPS€ 耳は歓喜している。この姿になるまで追い詰められたのは1ヶ月ぶりだと。

「結構最近じゃねえか」

味山が息を吐く。痛むに鞭をうち、どっこいせと立ち上がる。

背には呑気に響く友の寢息をけながら、味山はふらふらと立ち上がった。

「お耳くん、お耳くん。これは流石にもう死ぬかね」

やけぱちに、己の中に有る耳糞に語りかける。

TIPS€ お前は死ぬ。グレン・ウォーカーを置いて逃げれば、ここまで耳を追い詰める事はなかった。お前は死ぬ。結末を変えた事で、お前は死ぬ。

「あっそ。で、本當は?」

死の覚、死の宣告に顔を変えずにただ、味山は語りかける。

TIPS€ 條件、未達。経験點の不足、神のカケラの不足。"耳の化"は使用出來ない。

「本當は?」

TIPS€ お前の存在全てを犠牲にすることにより、経験點、條件を無視してお前は"耳"を開放出來る。"耳"を使用するか

存在全て。ろくなもんじゃないな。でも、もう考えるのもめんどくさいな。

溶けた地面の上を、全てをまき散らし、足を振りして、ボンレスハムか芋蟲みたいなをひきずりながら、"耳"が突っ込んでくる。

何もしなけりゃ、仲良く挽か。

もう、いいや。

ぐにぃ。

味山は気付かない。自分の頰のがよじれる。よじれて現れたの歪み、それはまるで、耳のようなーー

味山は、靜かに、特にあんまり深く考えずに、頷き

TIPS€ 分岐點α突破。"ストームルーラー"の限定使用、発生。

風が、吹いた。

「え」

轟音、轟音、轟音。遠くから吹いた風の音、それが音だと気付いた時にはもう、味山の目の前にそれは現れていた。

嵐。

草原の草花を、低い木を、銃弾に倒れた數多の怪の死骸を。

全てを巻き込んだ嵐が、味山とグレンの前に現れた。何故か、2人を避けるように吹く風、この空間、全ての風が。

世界が、嵐を創り出す。

嵐が、石から濯ぐすら飲み込む。

味山は嵐の中にいる。臺風の日だ。臺風の景の中にいる。

「ONE!! HERええU U?!!む」

大耳が、嵐に揺れる。その嵐に威嚇するようにその醜く歪なを震わした。

嵐、嵐、嵐。

「……アシュフィールド?」

気付けば、味山は彼の名を呼んだ。

嵐がそれに応えるごとく勢いを増し、そして、耳の巨に襲いかかった。

「うお」

味山はそのまま後ろ倒しに転げる。吹き飛ばされそうになりながらも草原の土を摑んで、うつ伏せでその様子を見た。

「まじかよ」

嵐が、耳に絡みつく。嵐? 違う、あれは、龍だ。

龍の姿を象った嵐が、大耳のに噛み付く。耳がそのを震わし、それを振り払おうともがく。

TIPS€ 耳はお前との戦いで、"腕"から奪った腕を失っている

「あ、そうなん」

風の音、嵐の中、味山は神話の戦いを見た。

耳の巨が、浮いた。嵐の龍のアギトに囚われた耳の巨が空を舞う。大耳から響く聲は、悲鳴やびのそれだ。

「ONE ONE ONE ONE ONE ONE ONE!!!」

嵐が大耳を引きずり。振り回し、そして、

「MMMMMWMMMMMMMMMMW」

そのびの中、溶けた地面、湖のに耳を押し付け、落ちていく。

大耳が、一度、沈殿現象の湖から浮かびあがり、その溶けた地面に波紋を起こして、それからまた沈んだ。

うつ伏せになったまま、味山はしばらくけなかった。

草花の剝げた地面、綺麗に消えた怪の死骸、それ以外はもうなにもかもが元通り。

嵐が、耳を沈めて消えた。

「なんじゃ、そりゃ」

味山は忘れていたの痛みが戻ったと同時に、ばたりと顔を地面に伏せて、の力を抜いた。

が、痛い。

生きてる。

味山の背後、グレンの呑気な寢息が、穏やかなの降り注ぐ草原に流れていた。

読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非ブクマして続きをご覧くださいませ!

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