《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》37話 Eルート

……

〜味山只人、グレン・ウォーカーが撤退戦を行っている頃、混合部隊、ハンヴィー車にて〜

「だから!! "耳"だ! 至急討伐隊を、編しろ! アレフチームの2名がまだ戦場に殘っている! 勇気ある彼らを見殺しにはできない!」

揺れく車、跳ねるシート。

遠い運転席から聞こえるのは、チャールズ隊長の聲かしら。

あたしは、薄く目を開いて車を見回す。が熱い、熱に浮かされて、考えがまとまらない。

「アレタ、起きなくて良い。目を瞑っているんだ」

ひんやりとした掌が、あたしの頰に當たる。冷たくて気持ちいい。真白な、雪が積もったような

ソフィだ。

「ソフィ…… 今、どんな狀況なの…… 」

「……落ち著いて聞いておくれ。今、我々はベースキャンプに到著し、そこから帰還ポイントへ向かっている。あと15分もしないうちに安全圏につくんだ」

その言葉を聞いて、あたしはの細胞が一斉に湧き上がる覚に襲われた。

「ま、まっ……て、ソフィ。それ、おかしいわ…… 帰還……? だって、まだ、任務は…… え……?」

ーー俺のビンタも躱せねー雑魚はいらねー。邪魔だ。

白晝夢にいるようなおぼろげな覚、でも彼の言葉だけははっきりと覚えていてーー

「あ、う、あ…… ダメ、ダメダメ…っ、タダヒト、タダヒトが、まだ殘ってる!! ねえ!! ソフィ!! タダヒトは?! 一緒なのよね?! グレンもよ!! 2人は?! 2人はどこ?!」

記憶、記憶、記憶。

夢から覚めた直後、朧げに消えかけの夢のように記憶が、瞬く。

殘ってる。そうだ、思い出した。

タダヒトとグレンだけが、殿として殘ってしまってる。

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何のために?

あたしのせいだ。

耳。そう、あの化けが現れた。だめ、タダヒトとグレンだけじゃ、絶対に勝てない。あたしがいないと、絶対に。

「お願い…… お願いよ! ソフィ、戻して!! あたしも戦う! 見捨てれない! あたしが救わないと!!」

言うことを聞かないを無理矢理にかす、痺れが手足の先に伝わる。

「ねえ!! 聞いてるの?! ソフィ!! 貴、グレンが大事じゃないの?! 貴のパートナーでしょ?! ソフィ!! ソっ……?!」

プシッ。

え?

首元に、ソフィの手がびていた。避ける事は出來ない。炭酸の気が抜ける音と、ひんやりした痛みが、首元を走る。

「アレタ…… ごめんね。それでもワタシはキミが一番大事なんだ。死なせるわけにはいかないんだよ。ワタシのを」

「あ…… ソ、フ…… タダ…… ヒ、グレ…… あたしが、た、すけ……ないと…… あたしは、じゃないと、生きて……意味が」

に走る管が冷える。麻酔だ、麻酔が、広がっていく。

なんで、こんなに早くあたしに、薬が効くわけが……

「やはり…… ストームルーラーが逆流しているね。本調子のキミがこの程度の麻酔で眠るわけがない。……グレン、アジヤマ、すまない」

ソフィのひどく、ひどく寂しそうな目だけが、あたしの視界に殘る。

中に冷たさと、倦怠が周り、そしてーー

真っ暗になった。

闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇ねえ、いいの?闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇このままじゃあ、2人とも闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇死んじゃうよ?闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇

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闇の中、聲が聞こえた。

その聲にたぐられるかの如く、あたしの意識は元に戻る。

眼が開いた。

「え」

あたしを見つめるソフィの赤い瞳、窓の外、車に巻き上げられ飛び散る泥、跳ねる車の振に合わせて揺れた座席のストラップ。

「なんで」

それらすべてが、止(・)ま(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

靜止した世界、まるで誰かが世界の一時停止ボタンを押したみたいに。

時がきを止めていた。

夢、じゃない。それだけはわかった。視界はく、でもかない。何が起きているの? あたしは無理やりにでもかそうとして

「ねえ、いいの?」

「っ?!」

聲。

細胞が竦む。頭の中に直接響くその聲はどこかで聞いたことがあるような。

「ねえ、いいの?」

居る、目の前に。その子はいた。

混合部隊の隊員が座っていたはずの助手席、そこにいる。ゆっくりと助手席からを乗り出し、あたしを見つめている。

「ねえ、いいの?」

の髪がしなだれる、簡素な灰のワンピースにを包んだの子だ。なんで、いつ、どうやって? さまざまな疑問が頭をめぐる、でも考えがまとまらない。

怖い。こわい。

なにこの子。いつ車に乗っていたの? いやそれより、おかしい。なんでこんな子が……

あたしはその子の顔を見て

「ひっ」

悲鳴がのどの中でくぐもる。顔、顔に、顔が見えない。初めて畫用紙をった小さな子が黒いクレヨンっでめちゃくちゃに線を引いたようなナニカに、その子の顔は塗りつぶされていた。

「まだ見えないのね。ねえ、いいの?」

「な、なにが」

「わかってるくせに」

鈴を鳴らす聲、小さな小さな妖がそれを鳴らしたように。

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「このままじゃあ、2人とも死んじゃうよ。”耳”に殺される。灰の髪の人は気絶したまま腕と足全部引き抜かれて死んじゃう。あの人も、戦って死んじゃう。貴を守るために、死んじゃうよ」

「なにを、言って……」

「ぜええんぶ、いなくなるよ。あの日のお父さんとお母さんと同じ。もう二度と會えなくなるの」

息が、苦しい。

その子の塗りつぶされた顔が、近い。

「貴はいつもそう。肝心な時に間に合わない。本當に大事なモノはいつも手にらない。貴の周りに殘るのは、貴にすがるどうでもいいモノだけだもの」

違う、違う。

「違わないよ。貴は大切なモノを選ばない。貴は自分にとっての大切なモノを選ばない。だって、貴には大切なモノなんてないんだもの」

うるさい。

「ねえ、いいの。もう會えなくなるよ。もう2度とあの人は笑わない、あの人に笑えない、あの人と會えなくなるよ」

………いいわけがない。

「だよね。あの人は貴わされない。だってあの人には自分の火があるから。貴は必要ないものね。だから、貴はあの人に価値を示し続けなければならない」

ふ、ふふふ、あなた何者なの? 悪魔? 怪がいるんだもの、悪魔がいたっておかしくないわ。

「ふふふ、悪魔、うん。それもいいかもね。ねえ、それでどうするの? 2人をこのまま放っておく?」

……いいわけがない。見捨てるわけがない。

「じゃあ、どうすればいいか、分かるよね。貴はもう、なにをすればいいのか、わかっている」

その子が、笑った気がする。

細く、白い腕が差し出された。あたしが握るのを待っている。

「さあ、始めましょう。貴のやりたい事をしてしまいましょう。貴には、その力がある」

あたしには、力がある。

あたしの手がその子の手にびる。く、いて。

ぐしぐしに塗り潰されたその子が、また笑った。

「おかえりなさい」

その子の手と、あたしの手が重なった。

嵐の音が聞こえる。

時間の止まった車に、雨が、風が、雷が、嵐が沸き起こる。

その子のと、あたしのが同時に、同じ言葉を呟いた。

イブツ、ケンゲン。

「始めて、ストームルーラー」

「さあ、始めましょう。あの人を助けなくちゃ。ねえ、あーー」

その子の顔にまとわりつく塗り潰しの線がし、薄れて、顔が見えかけた瞬間。

嵐が、世界を閉ざした。

………

……

〜大草原、嵐が通過した後〜

「う、げ…… 、痛……」

味山が地面を這いながら聲をらす。ヒントに抗い、無理矢理に"耳の大力"を利用した反を襲う。

「すー…… すー… ぐおお」

「てめえ、呑気に眠りこけやがって…… は、はは」

笑えてくる。こみ上げる笑いを味山は抑えない。やった、やったぞ。生きてる、俺も、グレンも、生き殘った。

「ざまあみろ」

それが誰へ向けた言葉かは分からない。だが、味山はグレンのそばで同じく仰向けになり、笑い続けた。

はははははははは。あー、ウケる。

しばらく自分の笑い聲を他人事のように聞いて、それから自分の端末を取り出す。

ひとまずの危機は去った、はずだ。知らせ石はひんやりと冷たいただの石ころに戻り、頭に響くヒントもない。

「救援を呼んで、グレンを運んで…… アシュフィールドに謝って、そんで、 あー、しんど」

端末の救援アプリのアイコンを親指で押す。畫面が、切り替わり短波通信が発せられた。

[emergency call emergency call]

[emergency call emergency call]

畫面が真っ赤に切り替わる。キュイン、キュインと焦りを促す警告音とともに、端末から音聲が鳴り響いた。

「これ……、まさか」

[Precipitation now Precipitation now]

[Precipitation now Precipitation now]

アレフチームに支給された端末は指定探索者が持つモノと同じ、ある特殊な機能がついた端末だ。

味山の端末が、グレンの端末が同時に同じ警告を発する。

この警告音の意味するもの、それは。

[Please immediately away from this place]

[Please immediately away from this place]

「沈殿現象……!」

どぷり。

気付いた時にはすでにそれは始まっていた。味山達が寢そべっていた地面が突如、固からへと変化し始めていた。

「ちょ、おまえ、うそおおお?! それ、そんなりありか?!」

やべえ!! べっちょべちょじゃん! 地面。

味山が立ち上がろうと手を支えにすれば、ずぼりと腕が地面に沈み込む。

「は?! マジ?!! いや、ほんと、やめて、まじで」

的にを寢返りを打つように反転させる。が沈みながらも態勢がれ替わる。

だめだ、これ。支えにした手とか足が全部沈み込んでいってる。

底無し沼にはまってしまったように、味山はけない。こんな狀況で沈殿現象に巻き込まれて、沈んだらどうなってしまうのか。

そんな事予想しなくても分かる。

「やべえ、やべえやべえ、これはマジでやべえ。考えろ、考えろ、なんか手がないかー…… ああ!! もう!! くそ! あともうちょいだったのに!! くそ!」

やけになりながら味山がぶ。勢いよく肺を上下させた為さらにまたが沈んでいく。

辺りを見回せば、目測50メートルほど先の低木や、嵐にさらわれなかった怪の死骸、それら全てが傾き、地面に飲み込まれるように沈んでいく。

俺も、このままじゃあ、沈む。

「ぐおおおお…… すー…… ……ふがっ? んん? っあー……」

寢息のリズムが変わる。そうだ、忘れてた! グレン!

味山がグレンの方へ視界を傾ける。

「おい!! グレン!! 起きろ! マジでそろそろいい加減起きて! やばいから!」

「っふあああ…… あれ、俺…… 生きてら…… ん、タダ……? なんで、お前地面に寢転がってんの?」

「はい、おはよう!! 寢転がってるように見える?! 寢起きで悪いけど周りの狀況見てくれるかな?!」

「あー……… え、タダ、おまえ…… なんか沈んでない?………なんじゃあああ、こりゃああああああ?!!!」

「腹刺された時にしろ!! そういう反応は!! ジーパン!! 沈殿現象だ!! このままじゃあ沈む!!」

「誰がジーパンっすか! はあああああ?! 沈殿現象?! なんで?! 耳は?! え、てかなんで俺生きてんすか?!」

「耳はもういねえ!! お前はなんか知らんけど腹の風が塞がった! はい、説明終わり!!」

「説明になってねえっすよ!! いや、てかこれ俺生き帰ったのに、これ、死ぬくね?」

男が2人、ドロドロになっだ地面の上もがきながらギャーギャーと喚き続ける。

余裕もなにもない。ダンジョンの自然現象に人はあまりにも無力だった。

いや、やべえでしょ、これ。

味山は沈みゆく中、端末を必死にいじり救援信號を発信し続ける。

回線が重い。通話がまったく繋がらない。

「グレン!! 端末!! 救援を!!」

「もうベルトが全部沈んでるんすよ!! ほら、べっちょべちょ!! 水浸しで使えないんす!!」

グレンが沈みながら、端末を振りかざす。溶けた地面がこびりつき、その端末の電子畫面は暗転していた。

「耐水!! なんで、肝心な時に使えねえかな! ほんと!」

「うわ…… ああ…… タダ……、やべえ、が冷えてきた。しずむ、くそ、ドロドロして泳ぐこともできねえっ……す。あ、やべ、腹の傷開きそう……」

くな、死に損ない!! 暴れたらその分早く沈むぞ」

ずぶ、ぐ。

また、が沈んでいく。沈殿現象にハマるのはこれで2度目だがおそらくこの前のように生き殘る事は期待しない方がいいだろう。

きがとれない。なのに、は沈んでいく。

あれ、これ詰んでね、本格的に。

やばい、やばい、耳もやばかったけど、これもやばい。こういう地形ギミックはハマったらもう打つ手がない。

味山はいよいよ、死が現実的になってきたことをじつつーー

ずぶぶ。また、が沈んだ。

いつのまにか重たい下半がほとんど沈んでいる、カーゴパンツにになりかけの地面が染み込む。

それは、ひんやりと、冷たかった。

「ん?」

何かが、引っかかった。それは無意識が探した走馬燈か、それともひんやりと冷たい覚か。

「あ」

TIPS€

味山が気付いたと同時に、ヒントがきこえた。

「キュウセンボウ!!!」

TIPSーー キュキュキュー!!!

ヒントを遮り、聞こえたのは呑気な甲高い生きの鳴き聲。

味山の中に潛むのは、"耳"だけではない。それは運命でも、宿命によるものでもない。

水は、冷たく、気持ちよい。

それは、まだ世界に神が殘っていた時代の殘りカス。

だが例え殘りカスであろうとも、人はそれを喰らい力とすることが出來る。

あの日、あの時、あの場所で、味山が選び、食した選択による力。味山只人の取得により、この窮地に対する活路が見出された。

TIPS€ 水は冷たく心地よい。キュウセンボウの大海渡りを経験點20を消費し、使用するか。

「キュウセンボウの大海渡り、はっつどう!!」

TIPS キュキュキュー!! キュー!!

耳を通じ、キュウセンボウの聲が聞こえる。その言葉の意味はわからないが、力を貸してやる、味山にはそう聞こえた。

とぷん。

ドロドロとした地面は、水だ。

味山は瞬時に、その水の中に沈んだ。

闇、冷たい。

しかし、今の味山にはそれはとても怖いものとは思えない。

水は、冷たく、心地よい。

「うそ?! タダ!!?」

グレンの聲、溶けた地面、水のような地面の中味山は追いかけてきたその聲を見つめる。

水の中、味山は態勢をくるりとれ替え、水面のような地表を眺めた。

そこには闇などない。

あるのは、圧倒的な

溶けて水のようになりつつある地面に、石のが刺す。複雑な、屈折を経てその目に映る景、くねり、揺れるのカーテンがとてもしい。

「すげえ…… これが、現代ダンジョン……」

呟く味山のに変化が訪れる。

TIPS キュキュッ! キュ!

手袋に包まれた手のひらがい。溶けた地面の中、用にそれをぎ捨てる。

ぎち、ぎちちちち。

それは、水かきだ。味山の両方の手のひらに水かきが現れる。

息苦しさはまったくない。

味山はしばらく、その水の冷たさにを委ね、そして一気に水かきを掻いて、水面へと跳ね上がった。

「サンキュー!! キュウセンボウ!!」

TIPS キュー!!!

自由だ。

味山は溶けた地面を自由にき回る。

「グレン!! 帰るぞ!!」

「は?! タダお前どうやっていてっ?! うえっ!!?」

もがくグレンを引っ摑み、味山が沈殿現象の中を泳ぐ。

TIPS€ キュウセンボウの大海渡り、殘り10秒

TIPS キュキュキュ!! キュキュキューキュキュキュー!!

ヒントに混じり、応援しているようなキュウセンボウの鳴き聲が味山を押す。

今度あの夢見たときは、きゅうりの報酬が必要だな。

味山は、かっぱカレーの味を思い出しながら、溶けた地面を進む。

あと數十メートル。

TIPS€ 殘り7秒

TIPS キュ!!!

時間がない。

多分間に合わない。味山の決斷は早かった。

「グレン!! 歯ぁ食いしばって、腹に力をれとけ!!」

「は?! 何する気っすか!? タダ!?」

TIPS€ "耳の大力"クールダウン終了

「アシュフィールドに、ぶん毆って悪かったって伝えてくれ!! “耳の大力"!! ほんのちょび、っとおおおおお!!」

ひっつかんだグレンを勢いそのまま、味山は投げた。

耳の大力をほんのし宿したが、180センチ以上のグレンの大柄なを水面、になった地面から引き抜き、宙に放り出した。

「ターー」

「あばよ」

殘り10數メートル、弧を描いたグレンがふわりと投げられ、地面に落ちた。

岸辺となったそこに、グレンがバウンドしてたどり著く。雑に扱われたものの、腹の傷は開いていなかった。

「ぐうえ、…… いって…… タダ!? おい、タダヒト?!!」

かぶりを振るったグレンが、岸辺から化した向こうへ聲をかける。

己をひっぱり、放り投げた仲間の姿は、ない。

沈殿現象に、沈んでーー

「タダ!!!」

腹の傷が、開くのもかまわないとばかりにグレンがぶ。

返事はなく。

こぽり。

こぽぽぽ。

「え」

岸辺からすぐそこの地面から、泡が湧き上がった。

「キュキュキュー!! オラァあああああああああああああ!!」

どっばー。溶けた地面が、膨らみ、撒き散らし、味山が沈んだ地面から飛び上がった。

手には水かき、首にはエラ。水に生きる神の姿の殘滓をに宿し。

どっちゃ!!

中に溶けた地面をまばらつかせた味山が、地面に著地した。

瞬く間に、水かきやエラは消えていく。まるで、それが夢だったのではないかとばかりに。

「シャアオラァアア!! 見たか、ゴラアああえあ!! これがかっぱカレー!! キュウセンボウの実力じゃああああ!! ドグサレダンジョンがああああああ!!」

味山が、固化した地面の上に立つ。

大きく、両手を振り上げ、歓喜のびを上げた。

「タダアア!!」

「見たかあああ!! グレン!! 生き殘ったぞおおおお!! 金じゃああああ!! 飯じゃあああああ!! っ……は、許可を得てからじゃああああ!!」

グレンが味山に駆け寄る、突き出した腕をお互いクロスさせ、互いの生存を稱え合う。

2人はび、そして大笑いし始めた。

「ふ、ふっふふふふ、は、はははははははっ!!」

「ぐふ、ひひひ、あはは、あっはっはっはっ!!」

大草原に、男2人の笑い聲が響く。緩い風がそれを拐い、広げていく。

「ーーっあ……」

「あ、もう無理」

同時に仰向けに倒れ込む2人。

力の限界、の限界を容易に超えていた2人の探索者はどちらからともなく、この危険な現代ダンジョンの中で寢息を立て始めた。

……

30分後、駆け付けた救援チームと、討伐チームにより味山 只人、グレンウォーカーは無事回収される。

アレフチームは結局、チームにて誰1人の死亡者を出さずに接止指定怪種"耳"との遭遇を切り抜けた。

味山只人、グレン・ウォーカーの急搬送後、ソフィ・M・クラークから探索者組合へ、上級探索者"遠山鳴人"の捜索任務の打ち切りが報告される。

結果は、生存の可能極めて低い。留品は現場の沈殿現象の進行合から全てが逸失。探索者組合へ、死亡報告が提出された。

アレフチーム、味山 只人、グレン・ウォーカー。重傷者2名。

検査院、1名。

任務より、1日が経ち、グレン・ウォーカーが意識を取り戻す。

そして、それから3日間が経っても、味山只人は意識を戻さなかった。

"上級探索者、遠山鳴人捜索任務" 完了。

……

あーあ。

やっちゃった。

読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非ブクマして続きをご覧くださいませ!

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