《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》40話 ハ!カ!タ!のソルト! そして、探索の全う。

「あは…… ぁ、あ、良い」

夕焼けに染まる病室、病に包まれたしなやかな肢が近づく。

「いや、だから質問に答えろ。お前マジで誰だ。なんでアシュフィールドの貌で笑ってんだよ。マジで怖いんだけど」

恍惚、アレタ?の整った貌が、一気に溶けるように表を崩す。

長い手指が、白い貌を覆っている。

「あ、はぁ…… ねえ、なんで、なんでえ、分かったの、この子と私、何が違うのぉ」

「黙れ、マジで誰お前。こっちの質問にまず答えろよ。やべ、ほんとに怖いんだけど」

「すごいなぁ…… 全部、同じなのに、貌も聲も仕草も言葉も、も同じなのに、ねえ、あなた、貴方によく似たあなた…… あなたにとってこの子はなんなの?」

ダメだこりゃ。

味山は一向に話の噛み合わない存在を前に本気で焦り始めていた。

ナースコール、ナースコールだ。アシュフィールドの部屋なのに、別人がアシュフィールドヅラして寢転がってやがる。

味山が後退りしながら部屋の隅にあるボタンを押そうとーー

「あは……」

「は?」

きが止まる。呼吸だけが辛うじて行える、それ以外はダメだ。足がかない。この不審者、なんかやばい。

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味山がいくらに力をれようともピクリと、ピカリと痙攣するだけだ。

「あ…? おい、お前……何した……? かないんだけど」

「あは…… ねえ、教えて、何が違ったの、私とあたし何が違うの? あなたは貴方なの?」

「話が通じねえな、この不審者! おい、アシュフィールドをどこにやった?! あんまアイツに舐めたことしないほうがいいぞ! マジで怖いんだからアイツ!」

「……あの子ならもう、いないよ」

そのの眼が味山を舐めつける。は? こいつ今なんて言った? 味山が目を見開いた。

「いないの…… あの子は誰にも気付かれなかった。だから、消えた」

「訳わかんねえことダラダラ喋りやがって…… あのヤンキー娘がそう簡単にくたばる訳ねえだろうが! ぐ、うおおおお、ナースコールウウウ!!」

「あは、無理だよ、あなたはけない。現象固定、"#〒1♪$$"」

の口が高速で何かの文言を紡ぐ。言葉、である事だけはわかった。しかし、聞き取る事も推測することも出來ない。

「ちょ、ちょちょ、お前、これ、ホント分かんない。なんで俺けねえの?」

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がベッドから立ち上がり、けない味山に近寄る。火照ったほお、みずみずしい小さな

「あは…… 似てる…… あの人もたまに同じ顔してた…… ねえ、私を見て」

「うおお、こいつホント人の話聞かねえ!! おい! アシュフィールド!」

「なあに?」

「お前じゃねえわ!ボケ! アシュフィールドを呼んでんだ!おい!アシュフィールド! お前こんなわけのわかんねえ奴に好きにされるような奴じゃないだろ!」

味山が目の前の、アレタ・アシュフィールドのに向けてぶ。

はだけた病から白い陶磁のような鎖骨が覗く。味山がそれから目を曬す。

「あは……かわいい、照れてるの?」

「怖くて目えそらしてんだよ。アシュフィールドにバレたらどんなペナルティがあるか」

「ううん、きっと、あの子は怒らない。あなたにを見られてもあの子は怒らないよ」

「それを決めるのは絶対にてめえじゃねえ。おい、俺に近づくな…… 來るな!」

味山がぶ、しかしは紅した頬を緩ませるだけだ。

「く、……來るな……」

「あは…… 似てる……その黒い髪…… 栗の瞳。短い手足に、分厚い板…… うふふ、怒った貌もかわいいなあ」

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かない。の芯、手足の先にまで鉄の棒で串を刺されて固定されたようだ。食塩の袋を抱えた間抜けな姿のまま味山は固まる。

瞳だけはく、アレタの白い貌、切れ長の瞳に浮かぶ暗い海の瞳。それが熱に浮かされているように緩む、味山を見る。

「はあ…… ァ」

深いの匂い、脳の芯を麻痺させる花か果に似た匂いが味山の脳に満ちる。

が、熱い。アレタ・アシュフィールドの貌で、そのは、の貌をしていた。

「あは…… この子のほうが長が高いのね…… 抱きしめてあげれるね」

「くるな……ったら、殺す……」

見下ろす、見上げる味山。

れたくなる玉のような白いが、ピンクに表す。

薄い病が、しっとりした汗で張り付き、アレタのしなやかな肢のラインを映した。

互いの吐息がかかる距離で、と凡人が見つめ合う。はどこまでもけた貌で、男にを向ける。男は、殺意を込めた目で仲間のの中に巣食うを睨んだ。

「誰も気付かなかったこの子に、あなただけが気付いた。なんで? ねえ、なんで……私とこの子、何が違うの……?」

「へ、そんなもん簡単だ……」

味山の臺詞に、が首を傾げる。その仕草もアシュフィールドのものだ。

味山はそのが、アシュフィールドの仕草をすることが許さなかった。

「アシュフィールドのほうが100萬倍人なんだよ、ブス」

「………あは…… かわいい」

それが、凡人の一杯の抵抗だった。けそうな脳みそを頰の側のを噛みちぎって気付けで堪える。

口の中はもうだらけになっていた。

長い手指が、味山の頬をでる。そのれられた部分が熱を持つ、溶けてしまうような錯覚を覚えた。

まるで、皮を通じて、もっと、もっとその奧、の奧底にあるものにられている覚。

やばい、やばい。これ、ヤバい。ダメになる奴だ。

アレタの超絶人顔が、惚けてこちらに向けられている。くそ、これだから無駄に顔の良いヤツはダメなんだ。

の目が閉じられる。貌が、味山に近づく。顔を逸らそうとしても、その両手に頬を固定されていて、けない。

魂にれられそうな魅了。凡人にそれに抗えるようなはなくーー

アレタのが、味山の寢起きでカサカサのに重なろうとーーして。

「……タダヒト……」

「っ!?」

止まる。止めた。止まった。

夕焼けの中、重なる男の影のきが止まる。

向けられたが、一瞬止まり、味山を見た。

味山は聞いた、仲間の必死のびを。

いる、間違いなく、この中にアシュフィールドはいる。

味山にはとても抗えようのない大いなる存在の、しかし、仲間の聲を聞いた。

アシュフィールドも戦っている。そりゃそうだ、あいつが好き勝手にされるだけの訳がねえ。

義務がある。

仲間の助けの聲を聞いたからには、言い訳は出來なかった。

「了解、アシュフィールド」

味山は確かにアレタの聲に返事をした。安心するかのようにアレタの瞳が閉じられ、またすぐにを映した瞳が開かれる。

「……あは…… 邪魔者がったね。すごい、まだを取り戻そうとしてるんだ…… あなたがあの子に気付いたから、あの子も頑張ったんだーー」

「おい、ブス」

「……あは、口悪ぅい…… そんなはふさいじゃお……」

再び近づくれればきっとらかいそれに向けて、味山は嗤った。

「言ったよな、ったら殺すって」

「あは、やれるもんなら、やってみてよ……」

「了解、ブス」

「えっ」

余裕としか映していなかったの瞳が、今日初めて驚きを映した。

「う、ふごおおおお、ぬぎいいいい!! おい! クソ耳!! 仕事の時間だ、起きろオオオオオオ!!」

「うそ…… なんで……」

ぷるぷると震えながらも、味山の腕がき始めていた。

が、一歩、後ずさる。

それをみて、味山が口角を吊り上げた。探索の時に良くする人の悪い笑い、人相悪く嗤った。

「あっはぁ!! お前、びびったな!! おい、お前え! びびったよなぁ?!!」

の端からが流れる、噛み潰した頬の側、唾が染みる。

「クソ耳!! 仕事の時間だ!! 俺に、使われろ!!」

TIPS#//€ "耳no大#@Riキを使用……!

プシっ、味山の耳たぶが裂けて、赤いが夕焼けに染まる病室に飛び散る。

関係ねえ。味山はんだ。その力の名前を。己の探索者道の1つを。

「"耳の大力"を使用する!!」

ぶちぶち!! の中で何かが引きちぎれる、その瞬間、味山のきを縛り付けていた見えないナニカがはじけた。

ける。味山が腰を落とし、を傾けながらおんなをにらみつけた。

「うそ…… あ、ああ……すごい、貴方……そのにいるの?」

「おい、お前…… アシュフィールドから出て行け、アシュフィールドを返せ」

「あは…… いいよ、やってみてよ…… でもこのを傷付ければどうなるか、わかってるよねえ……」

が笑う。余裕綽綽のその貌に味山は唾を飛ばしながらんだ。

「うるせえエエエエ!! をのっとる系の能力者のあるあるをドヤ顔で言ってんじゃねえええ! ドブスが!!」

パン!!

味山が両腕を大力を持って振るう。

戒めの解けたその、その腕が向かう先は、……

「え?」

ではなく、祖父からの仕送り、TIPSとガス男が持って行けと伝えていた食塩の袋。

ハカタソルトの袋を味山が勢いよく潰し、開いた。

「え?」

目を丸くして、味山の奇行を見る、そしてその目はさらに驚愕によって大きく見開かれる。

味山が、破けた袋に手を突っ込み、握り込んで、

「悪霊退散じゃァァァァ!! オラぁ!!」

「ッキャアアアア?!!」

サァン!!! 勢いよく振りかぶられた腕、握り込まれた塩が夕焼けに反して煌めいた。

「ッイタ!?! イタイ!! 目!! 目にった!!」

「オラ!! 塩食らえ! 塩!! 出て行けええ!! この悪霊があああああ!!」

味山がに向けて握り込んだ塩を投げつける。サァン!! サァン!! 大力によって投げ振られるその塩が床に散らばりパチパチと音を立てる。

「ちょっ?! あなた?! これ、何、イッタアアアい!!や、やめて!」

「うるせえエエエエ!! このニセフィールドがあああああ!! よくアシュフィールドを殺ってくれたなあああ!? 弔いじゃあああ!! あっくりょうたいっさん!!」

「い、いや!! まだ……まだ、死んでなーー」

「ぐちゃぐちゃ喧しいんじゃこの、ドグサレがああ!! 人のに乗り移るとかややこしい事してんじゃねえ!! 理で來い、理で!!」

サァン!! サァン!

味山がひたすらにに向けて塩を撒き、いや投げつけ続ける。

が思わずしりもちをつき、勢を崩した。

「オラぁ!! さっさと滅べ!! アマ公!!俺にを!! 悪霊を、妖怪を滅ぼす力を!!」

「イタっ?! 待って、なんかほんとに変、が…… 私のが……小さく……? なんで」

が塩をぶつけられながら、呆然と呟く。何かに気づきハッとして顔を上げた、そこにーー

「グダグタうるせえエエエエ!!」

「ぺっ?!」

しゃあああん!! 振りかぶった味山の腕から放られた塩が顔面に直撃する。

がその勢いに後ろにこけた。

「あ、はは、あはははは!! そうだね! 思い出した!! 日本!撒き塩! 貴方言ってたね!! よくないモノに撒いたりするって!! あはは、面白い! ニホンでも同じなんだ!! あは! 置塩とかもあるんだよーー」

「はよ消えろやあああ、悪霊があああ!! ナニダラダラ喋っとんのじゃ!! ゴラ!」

「あーー」

スパァン!!

仰向けになり笑うの貌に叩きつけられた塩、ハカタソルトが今日一番の良い音を奏でた。

「ーーは…… アジ…山只人…… 見つけた…… あなた……貴方な……」

「喋んな!ドブスが! 悪霊退散!!」

ズサあああ。

袋に殘った塩、袋をひっくり返し直に笑うの貌に降り積もる。

「……ァ」

けた表、それが何か別の表に変わる瞬間、塩がそれを隠した。

かぁー、かぁー。

窓の外、海ガラスの聲が呑気に響く。沈む夕日が顔面を塩で埋められたと、食塩の空袋を握りしめ、肩で息をする男をオレンジに染め上げた。

「はあ、はあっ、はあっ…… これがハカタソルトの力だ」

「……ケホっ……… ケホっ」

「っ、この野郎!! まーだ息があるか!!」

味山は床に散らばった塩を掬おうと、しゃがみ込みーー

「ストップ!! ストッープ! タダヒト!! ストップよ! ケホっ あたし! あたしよ」

「あ?」

起き上がる。塩の山が崩れて、整った白磁の、蒼い瞳に飾られた小さな顔か左右に振られた。

「ぺっ! ぺっ! カラっ!! うぺっ、ああ、當分…… 塩分の強い食事は控えないといけないわね…… 半年分の塩を味わった気分だわ」

が…… いや、違う。

味山は塩を掬うのをやめて、その聲を見つめた。

「アシュフィールド?」

「ぺっ、ぺっ…… なあに、タダヒト」

「あ、アシュフィールド……お前、お前なんだよな?」

「うえ、カラっ、にもまぶりついてる…… ええ、そうよ、正真正銘、あたし。……よく気づいたわ…… いや、違う、気付いてくれたわね」

が、アシュフィールドが笑った。と、いつもの顔で、彼にしか出來ない照れ笑いのような、安心したような、顔で笑った。

に変わる夕日が2人を照らす。

海ガラスはどこにいくのだろうか、遠く遠くから、その聲だけが病室に屆く。

回る世界の中、味山とアレタが2人しかいない病室で見つめ合う。

そして、アレタが頬をかきながら一度味山を見て、一度、目を曬して、そしてまたもう一度こちらを見て、笑った。

「ただいま、タダヒト」

その聲、その聲こそ、味山がたどり著いたものだった。

數多の選択、出會いを経てようやく摑んだその言葉。

味山は知らない、このにこみ上げてくる安心、安堵、後悔、それら全てが混じり合ったの出所を。知る由も、なかった。

でも、この言葉をようやく言えた。

ようやく、言えたのだ。

「おかえり、アシュフィールド」

そして、床に座ったままのアレタに手を貸そうとーー

「アレタ!! 悲鳴が!! 何があったんだ……い……?」

「センセイ!! 病院走っちゃダメっす……よ……?」

ガタン!!

ドアを力づくて開いたソフィとグレンがびながら言葉を詰まらせた。

「あ」

「あら」

部屋に広がる無數の小さな白い粒、投げ捨てられたハカタソルトと書かれたビニール袋。

夕焼けに染まる部屋の中、はだけた病姿で塩塗れになっていると、肩で息をしながらに手を差し出している男。

空気が止まり、誰もかなかった。

だが、しかし、ソフィとグレンは同時に全く同じ言葉を。

「「どういうプレイ?」」

味山はうんと頷いて、とりあえずクスクス笑い始めたアレタに手を引いた。

手のひらを握る。思ったよりもらかい。

それに驚きながらも、部屋を見廻し、この慘狀をどう説明すればいいのかを考えて、2秒くらいで諦めた。

もうめんどくさいからアシュフィールドに任せよ。

味山は諦めたように笑って、ソフィとグレンを迎えれるようにドアを振り向く。

「何はともあれ、これでアレフチーム全員帰還だな」

ソフィとグレンは、何かやばいモノを見たように味山から顔を背ける。

「ふふ、タダヒト、バカね」

手を繋いだまま、アレタが背後で笑う。

まあ、もうそれだけでいいか。

味山は細かい説明を諦めて、投げ捨てていた食塩の袋を拾い、ゴミ箱にきちんとれた。

ハカタソルト、そう書かれた明なビニール袋が夕日を照らし返す。

それはとても、綺麗なものに味山には見えていた。

読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非ブクマして続きを午後午後が午後から午後午後#//#$$$€$$

見つけた。

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