………

……

…

〜世界のどこか、とてもとても暗く深い部屋の中で〜

「で、どう責任を取るつもりかな、合衆國は」

暗い部屋。何も映さない部屋の中、立音響が響く。

「ストーム・ルーラーの委員會を通さない使用、およそ51秒の限定使用とは言え看過できる事でない」

暗い聲、ボイスチェンジャーで変換された機械音聲が響くたび、部屋の中にが燈る。

「聞けば、所持者であるかの星…… アレタ・アシュフィールドのの昂りと同期しているらしいな。それは由々しき事だ。"號級"は須らく國家、我々"委員會"によって管理されるべきだ」

あらゆる方向から響く聲、彼らは歴史の暗い部分にいつも存在していたモノ達。

國家、人種、思想、それらに偏らず連綿と人類の大きな転換點に必ず関わってきたモノ達。

"委員會" 今は、そう呼ばれている、この星の行く末を決める數十人のヒトだ。

「アメリカ合衆國擔當、申し開きは？　來るべきウォーゲームの前に、落するつもりかね」

部屋に赤いが瞬く、しばらくの沈黙の後、青いが返事をした。

「皆の不安も、最もだ。なんせ文字通り世界を滅ぼすポテンシャルを持った存在が、23歳のレディの気分次第で起するのだから。うちの娘のヒステリーよりも怖いものがあるとはね」

「……ふざけているのか、アメリカ合衆國擔當。事の次第の大きさがわかっていないようだ」

赤いが何度か明滅する。

「ふー、OK OK、そう熱くなるなよ、まああれだ。あんたらの気持ちはすごーくよく分かる。安心しろよ、世界を裏から牛耳るつもりのクソども。合衆國は小娘1人の気分で世界のバランスを変えたりはしない」

「相変わらずの口の悪さだ。……そこまで言うのだ。対策はあるのだろうな」

「ああ、勿論。ここまで今のところ予定通りだ。ラドン・M・クラークが消滅前に殘した"ラドン・レポート"に記載されてあったように"號級"にはそれなりのリスクがあったってことだろ」

青いが明滅するたびに、どこか軽薄な言葉の機械音聲が響く。

いつしか、その部屋の空気は青いが握りつつあった。その証拠にだれも青いの言葉を遮ろうとはしない。

「プラス思考で考えようぜ。それをたまたま合衆國が引き當てただけって事さ。いずれはお宅らのおもちゃにも同じことが起き始めるさ」

「その対策は？」

黃いが現れ、青いへと問いかける。

「おっと、それはまだ企業、いや國家だな、中國さんよ。知りたけりゃお宅お得意のスパイ大作戦でウチから持って帰れよ、得意だろ？　そういうの」

「はて、なんのことでしょうか。しかし、まあ今の言葉を記録させて頂きましょう」

「おー、しとけしとけ。だが気を付けろよ？　今のウチの大統領はバカだからな。ノリでスイッチのったケースを用意するぜ」

「それをコントロールするのが貴様の仕事だ、その能力がないと言う現れかね」

「はっ、どうした。久しぶりに會ったと思ったらイラついてんのか？　余裕がない國の擔當は大変だな、苦労察するぜ。……ウチの大統領はバカだが無能じゃあない。決斷出來る男だ。笑いながらお前らの必死に作ったバランスをぶち壊す事も躊躇わない奴だから、せいぜいバレねえように気をつけるんだな」

青いが明滅し、言葉を一気にまくし立てる。

「"52番目の星"の処遇は、貴様に一任して良いのだな。アレには、ラドンの置き土産が付いているが」

「ああ、ソフィ・M・クラークは大した事はねえよ。親父とはが違う。他人のに寄せられるような小娘に、合衆國の相手は出來ないさ。まあ、安心しろ。"星"の対応、英雄の対応にはウチの國は慣れてる。スマートに"ストームルーラー"はそのうち完全にコントロールされるさ」

「どうやって？」

白いが現れる。青いに向けてぼそりと質問をなげかけた。

「言わねえよ、バカが。だが、そうだな。合衆國は2ヶ月以にこの問題をクリアする。英雄の條件を、アレタ・アシュフィールドには履行してもらうだけさ」

「そう、分かった。"ワールドゲーム"の相手がなくなるのはつまらない。自滅しないでね」

「はっ、言ってろ、シベリア娘。ボルシチにトウフでも混ぜて食ってろ」

「あら、それ、おいしそう。試してみる」

白いが消える。もう用はないと言わんばかりに。

「おい、それよりも、だ。ウチの解決出來る問題より今大事なのは別の問題だろうが。"壁畫の魔" "L計畫の進行" "時をる號級" "はじまりの探索者の捜索" お前らが気にしないといけないのはこの辺の問題だろ」

青いが語気を荒くしてぼやく。

「特に、あれだ。"壁畫の魔"ありゃなんだ一。ラドン・レポートにもあんな存在の記述はねえ。本のイレギュラーなんていらないのはここにいるクソどもなら分かっているだろう」

青い、合衆國擔當と名乗る機械音聲が苛立ちを隠そうともせずに言葉を放つ。

「現狀、委員會でも"壁畫の魔"については調査中だ。だが、これは"L計畫"を進行させる萌芽になるやもしれん」

「あ？」

赤いが數度瞬く、沈黙の積もる部屋にあの男の名前が響いた。

「アジヤマ　タダヒトの存在だ」

星に依らない、星屑の名前が唐突に。

「この人は先日、2度目の"壁畫の魔"との接を果たし、帰還した。アジヤマ　タダヒトには現在、探索者で唯一の"深度3"の可能が疑われている」

「……"L計畫"、プラン1の有力候補ですね。ダンジョンによる人類の進化…… 実際、我々の調査でも、彼は常識から外れた行、事象を起こす事が報告されています」

黃の、中華人民共和國擔當が靜かに聲を上げた。

「ああ、あいつか。拉致計畫が一時期立ち上がってたな、オイ。くくく、俺言ったよなあ？　星の小娘が健在のウチは手を出さない方がいいって。やべえ、思い出したら笑えてきたぜ。お前ら、結局アレタ・アシュフィールドに脅されて拉致計畫辭めたんだっけか」

「……口を慎め、敬意を払え。この會合に」

オレンジの、機械音聲によってごまかされてもなお、重い聲。

「敬意？　ここにいる奴誰一人として敬意をけるような奴ぁ、いねえよ。ここにいるのクソとクズだ。世界を牛耳るのが自分だと勘違いしている連中のゴミダメだ」

「その理論だと、貴様もゴミだな」

緑のが、青いに対して辛辣な言葉を吐き捨てる。

「はっ、口數ねえと思ったらようやく喋ったかよ、ソーセージ野郎。お気にりのおもちゃがふざけたデザインの化けに壊されたからって俺に當たるなよ」

「……なんだと」

「俺とてめえらの違いは１つ。自分がクソでクズなゴミだと自覚している點だ。恥を知らんお前たちと一緒にしてんじゃねえよ」

青いがずばりと言い捨てる。

「まあ、何はともあれ、だ。すべきゴミダメの同胞ども、安心しろ。合衆國はストームルーラーの問題を最大1488時間で解決する用意がある」

青いが言い切る、傲慢な言葉、口ぶり。機械音聲がそれらを隠し切れていない。

「"星"から嵐を取り上げりゃ、後はお前らの好きにしろ。アジヤマタダヒトをホルマリン漬けにするなり、伝子報を抜き取るなり、好きにすりゃいいさ」

青いが、投げやりに呟く。あ、と一言らしてから言葉を続けた。

「あ、だが日本擔當は自國の人間思いだったか？　あの、自分の擔當の國民がホルマリン漬けにされたらブチ切れるんじゃねーの？」

「……日本擔當は前回で落している。もういない」

しの沈黙、誰も話さない。

「あ…… そういやそうだったか。チッ、つまんねーの」

青いが一瞬見せた、その聲の裏にあるものはなんだったのだろうか。

「ソフィ・M・クラークは"星"へ何かしようというなら、抵抗するのでは？」

白いが瞬く。

「……さっきも言ったろ、あのイカレドレッドの親父と比べりゃ、ラドンと比べればソフィの方は大した事はない。髪とがし珍しい、頭が良いだけのガキだ。それに……」

青いが何かを言いかけ、言葉を止めた。

「なんだ、続きを」

「いや、やっぱ言わねえ。まあ今日はこの辺でお開きだ。娘のスクールバスのお迎えに行きたいんでね。後はあんたらで勝手にやってろ」

青いが、消える。現れた時と同じようにいきなり消えた。

世界のどこか、暗い暗い部屋で、が瞬いている。

「……自由の國を奴に任せたのは失敗だったな」

とりどり、が瞬く、それはまるで全員が一斉にうなずいたようだった。

……

…

"アレタ・アシュフィールドが塩塗れになり、念のため味山が神鑑定をけた翌日"

「ふ、ふふ。あともうちょい、あともうワンターンで俺の黒火薬が誕生する…… 蠻族どもめ、絶やしにしてくれるわ」

病室、あてがわれた部屋でベッドに腰掛けながら味山がテレビ畫面に向けて笑い続ける。

手には黒いコントローラー、ベッドのそこかしこにはポテチやハニーバーの包裝紙、コーラの空き缶が散らばっていた。

「ふふ、同時並行…… 紫煙城…… 世界産まで…… 圧倒的じゃないか、我が軍は……！」

自室から屆けて貰ったゲーム機、プレイスポット5、通稱PS5の國家経営シュミレーションゲームをプレイし始めてすでに3時間が経っていた。

パパパパパウワードドン。

「え」

'アステカの指導者、モンテスマがあなたの國に宣戦布告しました'

[死ね！　死ね！　死ね！]

「ふ、ふふ、來たか、モンちゃん。高級資源の獲得を進めた時から貴様はいつかくるだろうと予想していたぜ。いいだろう、我がニホン大帝國の固有ユニット、侍の武力をーー」

パパパパパウワードドン。

'インドの指導者、チャンドラプクタがあなたの國に宣戦布告しました'

[貴公の國は私が治めた方が幸せだろう]

「インド…… 愚かな、だが今回の俺の文明はがっつり制覇勝利狙いの軍事大國、いかにインドの象が強いとはいえーー」

パパパパパウワードドン。

'フランスの指導者、ナポレオンがあなたの國に宣戦布告しました'

[貴君の國は目障りだ、戦爭の準備をするといい]

パパパパパウワードドン

パパパパパウワードドン

パパパパパウワードドン

「…………」

ポチっ。

'アプリを終了しますか？'

ポチ。

味山が真顔でゲームを止める。

「はー、マジでクソ。2度とやんねー、こんなクソゲー」

コントローラーを投げ出した味山、時刻はまだ15時。

退院は明後日の予定だ。

「…………」

しばらく寢転がって目を瞑っていた味山はしかし、再び起き上がり無言でコントローラーを握りしめた。

パパパパパウワードドン。

呑気な開戦のBGMが、部屋に鳴り響く。味山は結局、この一時間後に貴崎凜が見舞いにくるまでずっと、ゲームをやり続けていた。

「文明の指導者も、楽じゃないぜ、まったく」

パパパパパウワードドン。

…………

….…

…

〜バベルの大、人類限界到達階層、三階層、大地帯にて〜

ぐしゃ。

ソレの短い足が、暗いを照らすキノコを踏みつぶした。

人間の足と同じ形をした足の裏が、緑にる。

「fuck…… mulierem」

でっぶりと突き出た腹にはまだ向こう側が見通せるほどの風が空いたまま、の至る所の皮が剝がれて赤いがこぼれている。

トレードマークの大きな耳、それすらもよれてネズミに喰われたように欠けていた。

耳。

耳の形をした化けが、大を進む。に頼らずその耳から再生される音波の反響をもとに暗闇を進んでいた。

ソレは、傷んでいた。

突如現れた意志を持つ嵐。自然の暴威の化にそのを引き裂かれ、強制的に地下深くへ引きずり込まれていた。

「…… mulierem」

ソレが気付いたのは、あの嵐の向こう側にいた存在。ソレにとっては懐かしく、しかし滅ぼすべき大敵でもあった。

「mulierem」

だが、早過ぎる。"アレ"は散り散りになっているはずなのに、あれだけの力を取り戻しているのがソレには分からない。

しかし、"耳"に考える事など出來ない。

箱庭に満ちる呪い、酔いはソレ、"耳"を酔わせる。元は聴く為にあったのに、酔った"耳"は最早もとの役割を忘れていた。

刻まれた記憶、かつて１つの"其れ"だった頃のおぼろげな記憶はまだ殘っている。だが、もう遠い。

耳のがじゅくじゅくと音を立てながら戻っていく。が沸き、が戻る。

"耳"に滅びはない。元より滅び、そして分たれ、無理やりにき出した部位の１つは同じ部位にしか滅ぼせない。

「……へ…#×$☆r」

かつて、"聴いた"あれの名前。再生することも出來ないほどにもう、遠い。戻る事は出來ない、なのに、あれは戻ろうとしている。

他の部位も同じだ。もうどうにもならないものをなんとかしようと下らない爭いを続けている。

「ジ……ま、。と」

耳のが収する。

覚えているのは、名前。覚えているのは、その強さ。

いずれ己と、なんの運命も宿命も関係なく決著をつける凡人の名前。

耳にとっては、部位の爭いも、"アレ"の帰還もどうでも良い。

びを、苦しみを、怒りを。

決著の果てに聴く、それが楽しみだ。

聴くために生まれた"耳"は長い年月の中歪み、軋み、人の負の聲を聴くのを目的にするモノとなった。

だが果たして、それは変化なのだろうか。耳は、耳となって最も単純な真実の姿になっただけなのかもしれない。

多くの人にとって、他者の苦しみの聲が娯楽となるように。

「ア……マ…。ヒ……」

録音された音ではない、耳が言葉を、名前を紡ぐ。口ではなく、耳が名前を紡ぎ始めた。

今回は良かった。"耳"は、己ではない"耳"のカケラの長にある程度満足していた。

狩りは、別のでいい。

あの凡人に願うのは、対等な殺し合い。

「ジ、ヤマ… タ……」

いずれ、耳は紡ぐだろう。

運命にも宿命にも選ばれない、特別にはなれない凡人の名前を。

その時は、きっと、近い。

「いた」

「いたぞ」

「みみだ」

「おみみだ」

「本に知らせろ、いたぞ」

暗いの中、"耳"は、音を聴いた。

囲まれている。數は7。人の聲とよく似た音。

「殺せ」

「本に近づけるな」

「役割を忘れた愚か者にし」

「et quisquilias」

ぐしゃ。

キノコを踏みつぶした時と同じ音、同じ呆気なさで、音を出していたモノの頭が潰れた。

耳が、人間を襲う。頭に振り下ろした拳骨は頭蓋骨を潰し、中を弾けとばした。

人間。

にて耳を囲んでいたのは人間だ。

みな虛な顔をして、服、探索者が好んでよくするアウトドアスタイルにみな、を包んでいる。

人の棲まう場所ではない三階層、化けたる耳を囲んで虛な人間がささやき合う。

「速いぞ」

「記録しろ」

「本に伝えろ」

「et quisquilias」

耳が、飛ぶ。

特に理由もなく、その人間達に襲いかかる。食べる為でも、逃げる為でもなく、ただ殺すために襲う。

「強い」

「かいりびゅ」

手に持っていた棒、おそらくは槍を振るった人間が耳にその一撃を躱され、顔を摑まれ、潰される。

人間達は、しかしなんの驚きも悲鳴もあげない。ただ、変わらない抑揚のない聲で、ささやきあうだけ。

違う。

これは、聲ではない。

"耳"は酷く不愉快な気持ちになる。これは、自分の好きな生ではない。

「使え、使え、分を起こせ」

「本の手が來る、引き留めろ」

「みみだ、みみだ。酔っ払った耳だ」

音。

耳が、耳を歪ませ、ブヨブヨのに力を漲らせた。

「びっ」

「ぼえ」

近づく人間を砕く。大耳を振るい、腐ったを裂く。

振るわれた腕を摑み、そのまま握りしめて潰す。腐ったトマトが弾けるように、人間の肘が破裂した。

「et quisquilias」

だというのに、人間は何もばない。機能を停止したように、かなくなるだけ。

「et quisquilias」

ゴミだ。

これはゴミ。

「et quisquilias」

あの凡人と比べたら、なんとつまらないモノだろう。

耳が、數を減らしながらもなんら怯える様子のない人間の腹を貫く。

そのまま持ち上げ、勢いよく投げ捨てるように腕を振るう。

「あ」

ばちゅん。

水音ともに、の壁に叩きつけられた人間が、壁のシミに変わった。

なのに、人間達は逃げ出さない。

そして。

「本」

「a?」

どちゅ。

耳が、増えた。

「g….…a……」

２つの耳、もともと空いているそれとは別に、真ん中を貫き現れた。

の天井から突如としてびた尖った黒い手が、"耳"の耳を貫いていた。

「Brーー？！！」

ずちゅ、にぐ。

の潰れる音、今度は床から生えた手が耳の腹を貫く。

赤いがぼたぼたと溢れ、垂れたそれがじゅわっと蒸気を上げた。

天井から、床から生えた手、耳のを串刺しに貫いたそれが耳をい付けるように止める。

「本」

「解」

「耳」

「腑分けして、本へ持っていく」

「溶かせ、溶かせ」

じゅわり。

"耳"の足元、の地面が突然、ゼリーのようにたわむ。かと思えば黒いゼラチン質のブヨブヨしたものが地面から這い出て、耳のにまとわりついた。

「wo……？！　vISCーー？！」

ずちゅ。

腹を、耳を貫かれた"耳"に三本目の手が生えた。脇から橫腹に掛けて貫かれる。

だらり、大耳が垂れた。

じゅう、じゅう、じゅう。

蒸気を上げて、耳のが溶けていく。から湧き出た黒いブヨブヨした何かが、"耳"のを溶かしていく。

まるで、人間のの中、白球が、病原菌を喰らうかのように。

「解」

「腑分けせよ」

「殺せ」

ワラワラと人間がどこかから、集まってくる。それぞれ手に持った槍、剣、ナイフ、斧、刺又、さまざまな武、探索者が好んで扱う獲を耳のに無造作に突き刺す。

赤いが溢れる。力なく耳はどんどんそのの面積をへらし、溶けていく。

ピクリともかない。手が、脈する。その度に"耳"のがびくん、びくん、と痙攣していた。

まるでこのは、それが１つの生きののように、"耳"という異を消化しようとしていーー

「FUCK Brain」

「お」

「え」

びちゅ。

耳のに槍を突き刺していた人間が、消えた。かと思えば、ぼとり、天井から何かが落ちた。

腳だ。スポーツシューズを履いた腳が落ちてきた。

「ーー」

「garbage」

びじゅ。

また水音、その音がするたびに、耳に群がり武を振るっていた人間が消える。

赤い煙と、いくばくかののパーツを殘すだけ。

ぼたぼた。時間差ののち、天井からバラバラになった人間のが落ちてくる。

「FUCK monsters」

じゅちゅ、ちゅ、びじゃ。鈍い水音、"耳"を覆いつくさんと群がっていた人間が次々とバラバラになっていく。

「Beute」

を貫かれ、きの取れない耳の腕にいつのまにか何か、棒狀のものが握られる。

ひらかれた歯ブラシのように歪んだ刃、怪のが固まり、ねじれた柄。

それは、まるで斧、小さな薪割り斧のようなーー

「ば、かななななななな、本、本へみんみ」

「DIE」

耳の腕に握られたそれが振るわれる。最後に殘った人間が、水音とともに殘骸へと変わった。

「FUCK」

ねじじじじ、ぶちり。

"耳"がその場で力づくにを捻る。自分の耳を貫いている手を握り、ぶちん。自分の耳のが広がることもいとわず、手をねじり切る。

[rrrrrr]

「FUCK brain」

次々と、耳のを貫いていた手がその大力を持ってちぎられていく。斷面から耳と同じ赤いが吹き出た。

「FUCK Eingeweide」

耳のを覆うブヨブヨが、一斉に耳のから離れていく。まるで、戒めを解いた耳からのがれるように。

しかし、

「easy」

振るわれる捻れた薪割り斧、ブヨブヨした黒いゼリーがはじけて消える。、

「AAAA！！！！　FUCK FUCK FUCK FUCK」

めちゃくちゃに耳が暴れる。手を、ブヨブヨを引き裂き、潰す。

から、赤いが、手から、赤いが、そして耳のから赤いが。

數秒もせずに、この場でいているのは、大きな大きなお耳だけ。

「brain Eingeweide」

耳は理解していた。

それは同じもともと１つの其れから分かたれた部位。

耳は嗤う。その手に凡人との戦いから得た戦利品を握りしめて。

「OK leveling START」

耳が、歩き始める。

來るべき凡人との決戦、それまでに強くなるのも楽しいか。

じゅく、じゅく。削られたの面積が再生していく。

ここには化けしかいない。化けと化けが食い合う蠱毒。

自分に手を出してきた懐かしい同胞、同じ其の部位、本を現さずに立ち振舞う小賢しいそいつらを"耳"は探し始めた。

汚いびだろうが、何もないよりはマシだろう。

耳は、手に握りしめた戦利品を、どこか大事そうに、耳へと収納した。

この日以降、接止指定怪種"耳"の目撃報はパタリと激減する。

耳の行方は誰も知らない。

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