《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》43話 トーク・トーク・トーク

「………………………」

「…………….…………」

そこにはただ、ただ、沈黙がある。

電燈のぶうんという音、島特有の呑気な海鳥の聲。

それでも、それは沈黙だった。

足音もなくいたのはアレタ。

すとん、貴崎の隣、味山が先ほどまで座っていたベッドに腰掛ける。長い腳を組みなおし、金の髪を耳にかけた。

の髪と、黒の髪が並び合う。

肩の等距離、拳3つ離れたそれが埋まる事はない。

「……味山さん、照れると口が開くんです。知ってましたか?」

口火を切ったのは黒の髪。2人を繋げる凡人の名前を告げる。

「……ああ、あの顔照れてたの? あたしと會ってる時いつもしてるから納得ね」

顔も合わせない。ふたりはまっすぐそれぞれ真正面を向いて言葉をわし合う。

「……どうして、味山さんなんですか?」

「それ、こっちのセリフ。貴こそ、タダヒトにこだわりすぎじゃないかしら? 貴なら男なんて他にもよりどりみどりでしょ?」

「ふふ、こっちのセリフ……ですね」

言葉の1つ1つ、やり取りの中に目に見えない刃がる。

怖じけたほうが、負ける。ここにも爭いがあった。

「……1度捨てたモノを他人が拾った途端に惜しくなるなんて、いとは思わない?」

アレタが切れ長の瞳をわずかに開いて呟く。

「捨ててなんていませんよ。し自由にさせてみたら、手癖の悪い人が盜っちゃったんです」

「それはご愁傷様。本當に大切なモノなら、もっと大事にしておくべきだったわね」

ふー、アレタが小さなから息をらす。アンニュイな1人の人と、1人のが決してわらない視線の中、言葉をわす。

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「……アレタ・アシュフィールド。私、貴には実のところ謝してるんです」

「しなくてもいいわ。あたし、あなたに何もしてないもの」

「いいえ、してくれました。貴は貴として振る舞ってくれた。自分の力を振りかざし、私から味山さんを奪った。……その事に実は謝してるんですよ」

「あは、なにそれ。人聞き悪いわね」

アレタがからりと、笑う。しかし、その目は一切笑っていない。嵐の前の海のように靜かに凪いでいた。

「私…… あの日から、アレタ・アシュフィールドという存在を見せつけられた日から、すごく、調子がいいんです」

「調子……?」

鈴を鳴らすような貴崎の聲、アレタがそこで問うた。

「はい、調子。貴のことを考えるだけで、刃の冴えが違うんです。今まで稽古でも、試合でも、実戦でも近づけなかった領域に、簡単に踏みれる。怪の革も、爪も、殻も、貴に刻まれた屈辱を思い起こせば、簡単に斬れる」

貴崎ががくりと首を落とす、まっすぐ向けていた視線を床に、長いポニーテールがだらりと、重力に手折られる。

「私、上級探索者になりました。どの探索者よりも早く、貴よりも、早く」

ねろり。

貴崎の言葉に混じる粘著質なもの。味山がもしこの場にいたら間違いなく逃走していただろう聲音。

「ねえ、今、私と貴にはどれほどの距離があるんです?」

貴崎の目、走り、開いた瞳孔が、星をとらえた。

その細いから放たれるのは剣気。數多の生命を斬り殺してきたモノにしか出せない殺気。

それが、星へと向けられて。

「あは」

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「っ……」

れた笑い。

ただ、れた笑い。それだけで、貴崎が本気でぶつけた殺気が霧散した。

「リン・キサキ。私、実はヒトの名前覚えるの苦手なの。すぐ忘れちゃうこと多いのよ。でも、もう多分、貴の名前は忘れないわ」

「っ…… ふふ、栄、と言っておきます。アレタ・アシュフィールド」

「あは。久しぶりに人間に本気で殺気向けられたかも知れないわ。……うん、気分が良いし、さっきの質問答えてあげる」

アレタが始めて、貴崎を見た。日に照らされた金の髪が、を湛えて、それが筋となる。

「味山さんのことですか?」

「そう、タダヒト。あの変なニホン人のこと」

アレタが天井を見上げる。

「彼は、変だわ」

「変……ですか」

「そう、変。タダヒトはね、おかしいのよ。まともで、凡人で、普通なはずなのに、っこが変なの。臆病なはずなのに、時に誰より蠻勇で、常識人のはずなのに、時に誰よりも簡単に狂う。うん、そうね、見てて飽きないわ」

アレタが楽しそうに、本人は決して気づかないが聲のトーンをいくらか上げて語る。

「思想はない。彼には守るべき正義も神もない。あるのはほんのしのプライドと、変なルールだけ。そんなちっぽけなモノで彼は戦う事を選べる人間なの。正直、イかれてるわ」

「貴よりも?」

「あは、リン・キサキ。口が悪いのね。ええ、ぶっちぎりであたしよりタダヒトの方がイかれてるわよ。あたしには守るべきモノがある。こうするべきという思想も、信じる神もいる。逆に言えば、これらがあるからあたしは戦うことができる。でも、彼にはそんなモノないの」

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アレタがすっと、自分の頬をでる。

「何もないのに、彼は戦う。殺せる。生まれた時から訓練されたわけでもない民間出。才能もない。なのに、生き殘る。死なない、殺せる。あは、彼って一なんなのかしら。見てて、飽きないわ」

「……味山さんのこと好きなんですね」

「………あはは。好き、ね。それはわからないわ。でも1つ言えるのは、貴に渡すつもりはない。彼はあたしの補佐探索者なんだから」

「ふふ、それは味山さんが決める事です。……私は、指定探索者になる。"52番目の星"だろうがなんだろうが、私の願いを邪魔するのなら、超えるだけです」

「……あは」

アレタがまた笑う。楽しくて仕方がないと言わんばかりに。

「あたしと張り合おうとしてくれる人間はないわ。リン・キサキ、貴、1ヶ月前より強くなったのね」

「強くないと、勝ち取れませんから」

あは、うふふ。の違う笑い聲、2人はまるで友人同士のように聲を鳴らす。でも、決して両者は混ざらない。

笑い聲が、止まる。

「アジヤマ タダヒトはあたしのよ。貴にはあげないわ」

「味山只人は私のです。くれなくても結構、奪いにいきますので」

2人のの視線がわる。互いに互いの瞳が移り、にいっとが吊り上がる。

「……貴がもし、酔いに呑まれたら、その時はあたしが會いにいってあげるわね」

「うふふ、それは栄です。私も貴が酔いに呑まれたら、真っ先に會いにいきますね。安心して、あとは任せてください」

「……あは」

「うふ」

病室から笑いが響く。しいの聲で。味いものが大抵に悪いように、綺麗なモノも大抵、ろくでもないモノである事が多い。

その笑い聲もそういうものだった、ただ、綺麗なものだった。

………

……

〜休憩室にて〜

「ナタデココタピオカお…… これの企畫を通す會議ってどんな連中がやってんだ?」

味山は病室から退散し、休憩室に移していた。自販機をのぞき込みぼうっと呟く。

「………まずい」

しばしの逡巡の後、結局味山は好奇心に負けて奇妙な飲みを選んでしまっていた。

「うわ、なんだこれ。混沌?」

口の中で雑る甘さの雑さに味山は首を落とす。味山以外誰もいない休憩室のソファに深く腰をかけた。

あー…… そろそろ戻ってもいいかな……。味山が恐らく恐ろしいことになっているだろう自分の病室を思い、目を瞑る。

2人とも人なんだけどなあ…… 割とマジで俺より強くて、怖いからなあ……。

味山の脳裏にしく恐ろしい笑みがうかんで、消えた。

「ああ、ここにいたのかい。アジヤマ…… 何かあったのかい?」

聞きなれた高めの聲。味山が休憩室のり口に目をやる。

「あ? クラーク?」

赤い髪に、白すぎる。ウサギのようにる紅の瞳。

ソフィ・M・クラークがそこにいた。

「やあ、アジヤマ。昨日ぶり……。うわ、それ飲んだのかい?」

ソフィが目を細める。戦闘用の小さな遠鏡のような義眼は外れ、日常用の義眼が、その顔を彩る。

「……ああ。ユニークという言葉ではフォロー出來ない劇薬だった。多分もう飲まない」

味山は空き缶をゴミ箱に捨て、またソファに座り直した。ソフィがくくくと笑いを噛み殺しながら味山の対面のソファに腰掛ける。

「くく、ここはバベル島だからね。探索者という好奇心の強い連中を新商品の実験臺にしてるのかもね」

「やめろよ、どこかのオカルト雑誌に載ってそうなこというのは」

「くく、悪かったよ。その様子だとだいぶ正気に戻ったようだ。安心したよ、昨日のキミたちの様子は、なんていうか、その……」

いいよどむソフィ、味山はため息をついた後に、

「……いかれてたか?」

「ああ、それ、それそれ。いかれてたよ。塩漬けプレイを公営の病室の中でするとはさすがに予想していなかった」

くくくと笑うソフィ。愉快げにを鳴らす笑い方は妙に似合っている。

「……々あったんだよ。割とヤバかったんだ。マジで」

「……そうか。ワタシはわからなかったんだけどね」

ふと、ソフィの視線が下がる。

「クラーク?」

「アジヤマ、アレタに聞いた。詳しくは話してくれなかったが、アレタはここ數日、""による影響を強くけていたんだろう? アレタが言うには、キミの塩漬けプレイのおかげで助かったと言っていたが」

「……塩漬けプレイじゃねえよ。……信じるのか? かなりお花畑な容だと思うが」

味山が目を細めてソフィに問う。ニセフィールドの存在、いや、そもそもアレがなんだったか、結局味山にもわかっていない。

それをどう説明すればいいものか、味山が考えているとーー

「信じるさ」

「え?」

短い言葉、ソフィの紅い目が真っ直ぐ味山を捉える。

「アレタ・アシュフィールドが言うことならワタシは信じる。ワタシにとって彼とはそういう存在なんだ」

聲量は大きくない。しかし、その言葉は何かの力をめているのでないかと思うほどに、重たく、伝わる言葉だった。

「ま、まあ、凄いヤツってのは認めるけどよ」

味山がソフィのノリについていけず、よくわからない返事をして、

「アジヤマ、謝を」

ふと立ち上がったソフィ。すぐさまそこで深く、深く、頭を下げていた。

誰に、俺か。

味山が目を剝く。あのソフィ・M・クラークが頭を下げている。

「いや、待て待て待て。お前、なに、なんだ急に」

「禮を盡くそうとしているのさ。ワタシは彼が苦しんでいることにすら気づかなかった。すんでのところでワタシは彼を喪うところだった。でも、キミがいた。キミがワタシの大切なものを守ってくれた」

頭を下げたまま、ソフィが話す。赤い髪に隠れた表は見えない。

「あ、ああ、はい、てかもう、頭上げてくんね」

味山の言葉にソフィが顔を上げる。真っ直ぐな目でこちらを見つめていた。

「あの時もそうだ。耳と遭遇した瞬間、キミは真っ先に命を投げ捨てた。アレタを守るために、キミは自分の役割をし遂げ、あまつさえ帰還した。すごいヤツだよ、アジヤマ」

「"史"に褒められるってことは、俺も捨てたもんじゃないのか?」

し調子を取り戻した味山が努めておどけてみせる。ソフィがその意を汲んだように、らかく微笑んだ。

「……くく、誇っていいよ。ワタシが本心から心することは多くない。そして、助手…… 重ねてグレン・ウォーカーを連れ帰ってくれたことにも謝を」

「ありがとう、アジヤマタダヒト」

そして、もう一度下げられる頭。味山は思わず一緒に頭を下げていた。

「あ、え、こりゃ、どういたしまして……」

「くく、味山、キミが頭を下げてどうする? ニホン人は禮儀正しいというが、それはどうなんだい?」

「あ、ああ、悪い。癖みたいなもんだ」

「癖! くく、そうか、なら仕方ないな。癖、ときたか、はははは!」

ソフィが形の整った顔で笑う。その笑いがひと段落ついた後、味山はわずかに唾を飲み込んだ後に、ソフィに向けて話しかけた。

「なあ、クラーク一ついいか?」

「なんだい? 今なら大抵の事は話すと思うが」

に溜まった涙をぬぐいながら、ソフィが答える。どういう笑いのツボしてんだ、こいつ。味山は言葉には出さない。

聞きたいことだけを、聞いた。

「お前にとって、あいつ。アシュフィールドはなんなんだ?」

難しい質問だろう。

だが、気になった。どれだけ難解な答えが返ってこようと、頑張って理解しようとしてーー

「全て」

「す」

予想以上の答えに思わず間抜けな一言がれる。

「全てさ。味山。ワタシは彼がいるから世界を見ていられる。こんなクソに満ちた世界でも生きていこうという気になる。キミはアレタを救ってくれた。つまり、ワタシを救ってくれたんだ」

そう語るソフィの目に味山は映っていない。ここにはいない星を見ている目だ。

「なんか…… すげえな」

想はそれしかなかった。1人の人間、他人に生きる理由を見出すという価値観を味山は持ち合わせていない。

だから、その言葉しか出てこない。

「くく、聞かないのかい? 何故ワタシがここまでアレタに想いを寄せる理由とか」

「ああー…… まあ気になるけどよお、回想とかダれるからまた時間があるときでいいや。そういや、グレンはもう大丈夫なのか? なんだかんだで、まだ見舞いに行けてねえ」

だから、これは心からの言葉だった。

一瞬キョトンとソフィが表を忘れて、それから笑う。面白くて仕方がないと言わんばかりに。

「くく、キミ…… ああ、アレタがキミをそばに置きたがる理由がし分かった気がする。なんか、キミ、アジヤマ。楽だね」

「え、微妙にディスられた?」

「いいや、褒めたのさ。……アジヤマ、ワタシからも1つキミに質問をいいかな」

「なんだよ、改まってからに」

味山はつぶやき、そして息を呑んだ。

ソフィの瞳、赤く輝くその紅玉の目。それが味山を貫くように見つめる。

「ふふ、そんな構えないでくれよ。他無い仲間のテキトーな話さ。ゴジラとキングギドラどっちが好き、とかそんなレベルのね」

いや、そんな顔じゃねえだろ、それ。味山は無粋なツッコミを押さえて、ただ、ソフィのことばをまつ。

電燈のぶうんという音だけが聞こえる沈黙の中、ソフィの聲がふと現れた。

「キミはアレタの味方でいてくれるかい?」

「あ? なんだそりゃ」

「言葉通りの意味さ。アレタ・アシュフィールドになにが起きても、キミは味方でいてくれるのかい?」

味山はすぐには答えることが出來なかった。なんでもないくだらない話、そのはずなのに、ソフィの顔が、あまりにも。

穏やかな笑顔、アルビノに彩られた貌。それが何故か味山には、今にも泣き出しそうな小さなこどもに見えた。

続く沈黙、味山は赤い瞳の視線から目を曬し、磨かれた床をぼうっと見つめながら、言葉を紡ぐ。

「……探索者法5條、補佐探索者従事義務」

「え」

訥々とれた味山の言葉、ソフィが赤い瞳を大きく開いた。

「全ての補佐探索者は、己の補佐するべき指定探索者、これの保全を最大限目指すものとする。指定探索者の意思、目的の保全、探索の完遂こそを目的とするべきである」

つらつらと語られる味山の言葉、そして

「というわけだ。クラーク。俺が補佐探索者である限り、俺にはアシュフイールドをいいじに助ける義務がある。常識とルールの範囲で、きちんとアイツの味方をするさ」

「ああ、なるほど。くく、それは口約束よりも固いものだ。うん、キミは信用出來そうだね。ありがとう、アジヤマ、真面目に答えてくれて」

満足したようにソフィが頷く。思い出したように指を振りながら口を開いた。

「ああ、そうだ。グレン。この時間ならグレンも暇しているだろう。顔を見せてあげておくれよ。助手にはワタシが伝えておく」

「おお、どうも。まだ病室には戻れそうにねえしな。じゃあし行ってくるわ」

「ああ、行ってらっしゃい」

「アジヤマ」

「あい?」

「……いや、すまない。なんでもない。近いうちにまたキミと話がしたいな。アレタの快気祝いついでにね」

「おお、了解」

味山は席を離れる。そういえばチームを組んでからクラークと2人で話すのはこれが始めてだったかもしれない。

「じゃあまたな、クラーク。アシュフィールドの退院の日が分かったら教えてくれ」

「ああ、わかった。またね、アジヤマ」

ソフィに手を振り、味山が休憩室を出て行く。確かグレンの病室は近い。様子だけでも見にいっておこう。

清潔な廊下を、醫療関係者に會釈しながら味山が進んでいく。グレンの病室はすぐ、近くだ。

……

「アジヤマ…… キミから話してくれるのをワタシは期待しているよ。ワタシにはキミのように出來の良い"耳"はないのだからね」

1人、休憩室に殘ったソフィが機に突っ伏しながら、小さく呟く。

その言葉は休憩室の外には決して屆かない聲量だった。

………

……

「いやー!! そうなんすよー!! うん、でも、もうだーいぶ回復したし! 特別手當も出そうだから今度遊びに行くときは発しちゃうっす!」

「うわあ……」

そいつはそこにいた。

味山よりし広い病室。ベッドに腰掛け、満面の笑みで通話中のグレンがいた。

には所々まだ包帯やガーゼが巻かれている。外傷がおおかったのだろう。

「っおっと!! うん、じゃあそういう事で! え、ダイジョーブ、ダイジョーブ!! その辺はなんとかするっすから。え、すげえ、なんで分かったんすか? うんうん、オッケー! タダもきちんと連れてくっすから、うん、楽しみにしてるっす!」

「終わったか?」

味山は病室にり、スツールに腰かけた。

「ふふふ、終わったっす。いよう!! タダ! 面向かって話すのは久しぶりっすね。お互い、生き汚いようで何よりっす」

「はっ、お前もたいがい頑丈だな。生きててよかったよ、グレン」

どちらからともなくあげた手のひら、パチンと小気味良い音が鳴り響く。

へらへらと笑う男2人、その笑顔は怪と相対した時と同じものだった。

「まあ座れよ、タダ! つーか、お前昨日のアレなんすか? アレタさんに塩ぶっかけてたヤツ!! ヤバイっしょ!」

「ああ、さっきクラークにも言われたよ。神鑑定もけさせられたしな」

「イッヒ!! 神鑑定!! アッハハハ! そりゃそーすよね! アレタ・アシュフィールドに塩ぶっかけりゃそりゃそーなるっすよ!! やべえ、バカがいる、バカが」

「うるせえ、切羽詰まってたんだよ。それよりグレン、さっきの電話は?」

味山の問いかけ、瞬間、グレンが目を見開き辺りを見回した後、にたりと口角を吊り上げた。

うわ、人相悪。

「ふ、ふふふ、タダ。その答えを聞いた後のお前のセリフはもう決まってるっす。"マジかよ!! グレン様すげえ!"お前は必ずこう言う」

「うわ、めんどくさ。で、なんの電話だったんだ? 俺の名前も上がってたけどーー」

「あめりやのの子たちとの仕事抜きでの飲み會、合コンのセッティングの話っす」

「マジかよ!! グレン様すげえ!!」

がたん! スツールを倒す勢いで味山が立ち上がる。やっほう!! 人との合コン! しかもあのあめりやのの子。

約束された勝利の宴じゃん!!

味山のテンションが急に上昇する。

「はっはっは!! 転んでもタダでは起きない。探索で死にかけしかし生還する、軍団との合コンもセッティングする、これを同時にやるのが上級探索者ってもんすよ!」

「やべえ、上級…… 一味違うな」

ごくり、味山が唾を飲み込み、笑う。グレンも釣られて笑った。

防音の部屋の中で、男2人が遠慮なく笑い合う。腹の底から響く笑い聲、しかし片方の笑い聲は小さくなる。

「あっはっはっは…… は…… なあ、タダ」

笑いを止めたのはグレンだ。しんと、靜まり返った表を味山へと向ける。

「あ? 何だ」

「……聞かねえんすか? 俺のの話」

し詰まった後、それでもグレンはことばを絞り出した。

「あー……」

"グレン・ウォーカーはラドン・M・クラークによって調整を施された"宿主"だ"

味山はあの時、TIPSがささやいた容を思い起こした。的なことは分からないが、どうやらグレンにも々事があるらしい。

まっすぐこちらを見つめるグレンの顔を味山は眺める。何張した顔してんだか。味山は一度目を瞑って、それからグレンの顔を見た。

「っ……」

グレンが追求を覚悟したように、を噛んでーー

「グレン、俺のの中にはよお、クソ耳の耳糞が埋め込まれてんのよ。おまけに夢の中には真っ暗なしゃべる人影、通稱ガス男に、この前カレーにして食べたカッパのミイラ、キュウセンボウが棲みついてる」

「は? タダ?」

突如始まった味山のぶっちゃけ話にグレンが目を白黒させる。

味山は構わずベラベラと話し続ける。

「クソ耳の耳クソは相変わらず役に立つかどうか微妙なヒントしかよこさねえし、ガス男も俺の夢の中で魚釣りばっかしてやがる。キュウセンボウは…… まあ、可いからいいか」

「いや、タダ、お前何言って……」

「あー…… つまりだな、その、グレン。お前いちいち男のそんなの上話っつーか、隠し事みたいな話聞きたいタイプか?」

「あ……」

「そう言うことだ。悪いがグレン。キョーミねえよ。……だから、聞かねえし、説明もいらねえ、頑丈で良かったな」

「……ははっ、なんだよ、こっちは々……考えてたんすけど」

「キョーミねえよ、だから。つーか今はそれよりも! 重要なことがあるだろ」

ニヤリと味山が笑う。その笑顔にグレンも釣られて笑う。

「「どうやってあの2人にバレずに合コン行くか!!」」

「ぶはっ!」

「ひひっ!」

2人が笑い合う。下品に、大口開いてそれぞれの傷口が痛むのも構わずに笑う。

死地より戻りし、2人の男。互いの事を全て知らなくても2人は友達、悪友だった。

「てか、マジな話。どうやって合コンいく?」

「タイミングを間違うわけには行かないっすからね。アレフチーム全員が退院してわちゃわちゃしてる時を見計らうのはどうっすか?」

「ふむ……」

味山とグレンは互いに首を捻り、頭を回転させる。その表は、探索の時よりもよほど深刻なものだった。

読んで頂きありがとうございます!よろしければ是非ブクマして続きをご覧ください!

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