《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》44話 集え! あじやまのゆめ!

「あー、疲れた…… 寢よ」

グレンとの合コンの段取りを終え、時間を潰した味山はその後、アレフチームの全員で軽い夕食を取った後、自室に戻っていた。

目覚めてからの経過も順調、味山は明日退院の予定だ。

「アシュフィールドやグレンが退院した後に、祝勝會か。今回の幹事はクラークだし、丸投げしてよかろ」

枕に後頭部を預け、うつら、うつらと船を漕ぐ。時刻はまもなく21時半、部屋の照明もまもなく消える。

ねむ…… 味山は眠気にを任せて目を瞑る。

意識が遠のくと同時に、いつもの、河の音が耳に蘇っていた。

………

……

ちちちち、サー。

河の音、水がはじけて、あぶくになる。

林の奧、鳥たちが小さく鳴いている。

涼しい風がここちよい。森林の匂いが、味山の鼻をくすぐった。

いつもの、夢の中だ。

「いやはや、キミもなかなかに引きが強いというか、なんというか」

「うお! ガス男、近え、ちけえよ」

目を開く。眼前に現れたのは渦巻く黒いガス。ガス男が、仰向けに眠る味山を覗き込んでいた。

飛び退くように起き上がった味山が慣れたように近くの切り株に腰をかける。

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足元から鳥でも、獣でもないモノの聲が聞こえた。

「きゅ!」

「おう、キュウセンボウ、昨日ぶり。毎夜會ってるからそうでもないのか?」

「きゅきゅっきゅ!」

味山の膝に登ろうとする小さな河。キュウセンボウを抱えて膝に乗せる。満足げにキュウセンボウが鳴いた。ひんやりしてて、気持ちいい。

「ふふ、キミの時間のじ方と我々ではし差があるからね。まあ、かけたまえ、人間。今回はお疲れだったね、塩はよく効いたかい?」

ガス男が味山と向かい合うように切り株のイスに座る。うわ、こいつ、俺より足なげえ。じ悪。

味山がガス男の意外なプロポーションの良さに舌打ちした。

「あー…… そういやお前も塩持っていけって言ってたな。お前、ほんと何を知ってるんだ」

「キミはキミの夢の中の住人の言葉を真にけるのかい?」

「やかましい。事ここに至って、つーかキュウセンボウが俺のに影響を與える時點で、お前らは俺の脳の中だけの存在じゃねえだろうが。キュウセンボウはいいとして、ガス男、 てめえはほんとに何者だ」

キュウセンボウが味山の膝を離れ、ガス男の膝を登る。しかし、って登れないらしい。ガス男は味山と話しつつ、キュウセンボウを抱き上げた。

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「私は私だ。それはそうと人間、なかなかにやるじゃないか。まさか本當に、"彼"を追い払ってしまうとはね」

。その言葉に味山はため息をついた。

「ニセフィールドな。はあ、アレについてもお前、俺に教える気はないんだろ」

「ははは、そうふてくされるなよ。ふむ、"彼"については、そうだね、語るのが難しいのさ。長い時間が経っている、もはや"彼"は私の知るところの彼ではないし、私も彼の知る私ではないからね」

「またそういう重要そうなことを分かりにくい表現しやがって…… はあ、もういい。ひとまずはお前のアドバイスのおかげでアシュフィールドを取り戻せた。そう考えることにするわ」

「良い心がけだね、人間。なかなかに自分が今持っているものの確認とは難しいものだよ。その點、キミは心得ているようだ」

「ないものねだりの多い人生でな。諦める方がラクってのがにしみてるだけさ」

ちちち。林の上、小鳥が唄う。長閑な景の中、味山は一度深呼吸した。

「きゅ」

「キュウセンボウ、あまり遠くへ行くのではないよ。そら、気をつけて泳いできなさい」

キュウセンボウがガス男の膝からぺちょんと降りて河へ向かう。やっぱカッパだから水が好きなのか。

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味山はキュウセンボウを橫目で確認しつつ、ガス男にぼやいた。

「……でたらめだなあ。でも、あの時、エラとか生えたのもキュウセンボウのおかげなんだよな」

「その通りさ。キュウセンボウの大海渡り。彼の偉業がキミのに一時の変質をもたらした。素晴らしいじゃないか、キミはこの現代において、滅びた神を再現することに功したのだから」

「滅びた神……ねえ。お前この前の夢で、その神とやらを集めろって言ったよな。キュウセンボウみたいなのがまだいるってことか」

「ああ、その通り。人の世において駆逐された神、その殘り滓はキミに箱庭の化けと戦うための力を與えるだろう。それは元よりこの世界にあったものだ。"腑分けされた部位"や"彼"にすら屆き得るかもしれない牙だよ」

「……あれが?」

味山がふと、河を指差す。キュウセンボウが涙目になりながらもがくように岸辺に向けて泳いでいた。

「きゅ、きゅーー!!?」

「いかん! キュウセンボウが魚に追われている!!」

「牙はどうした!! 牙は?!」

味山とガス男が同時に切り株の椅子から飛び上がり河へと駆け寄る。

魚に追われていたキュウセンボウをガス男がキャッチし、味山が河辺に置いてあった棒で魚を追い払う。

でかい! 魚影が濃く、水の唸りとともに泳いでいるようだ。

「キュ、きゅぎうー!!」

「おお、よしよし、キュウセンボウ。大丈夫、キミの誇りは失われていない。あれはキミですら1人では手に負えない、おそらくこの河のヌシだ」

涙目のキュウセンボウをガス男があやす。

俺の夢の中ヌシいんのかよ、味山は溢れるツッコミを我慢して焚き火の準備をする。

夢の中だから便利なものだ、焚きつけも、薪も、ライターもしいものはしい瞬間に存在していた。

「ふむ、なかなか火おこしも板についているものだ。さすがは探索者というところかな」

「これは探索者になる前から得意だったよ。たまの休みに気合れてキャンプ行ってたからな」

「きゅきゅ」

「お前、かっぱなのに火大丈夫なのか? サンキュ」

キュウセンボウがどこからともなく持ってきた枯れ葉を味山がけ取る。

麻紐をほぐしたものや、開いたまつぼっくり、松の枯れ葉から煙が上がる。

もくもくと広がる白い煙、その中に赤い火が現れる。松の枯れ葉が赤熱し、麻紐が溶けるように燃え盡きた。

「キュウセンボウ」

「キュッキュッ」

キュウセンボウが細めの薪を焚きつけの上へ置く。勢いを増していく煙が薪を飲み込み、舐めるように火が広がっていく。

「きゅきゅきゅ!!」

「キュウセンボウ、煙吸うぞ、気を付けろよ」

「ぎゅー……」

鼻? を摘みながらキュウセンボウが味山の膝に飛び込んでくる。煙を避けるために味山がキュウセンボウを抱えたまま風上へと位置を変えた。やっぱり、し濡れているがひんやりしている。

ぱち、ぱち。弾ける火を囲み、味山とガス男が切り株のイスに腰をかけて向かい合う。

「なあ、キュウセンボウみたいな神の殘り滓を集めろって言ったよな? 他にどんなやつがいるんだ?」

膝の上で味山の服をよじって遊ぶキュウセンボウをあやしながら味山が問う。

「いくらでもいるさ。元よりこの世界は人間だけのものじゃなかった。人が力をつけ世界の支配者となる過程で、その殆どが亡ぼされ、駆逐されていったものの、中にはお伽話の存在として未だに語り継がれているものも存在する」

「お伽話…… 河とかの怪談みたいにか?」

「ああ、その通り。それは例えば水より生まれし大いなるモノ。西洋においては悪魔、東洋においては神と呼ばれたモノ、"竜"あるいは、"龍"、または"ドラゴン"」

ガス男が、タクトを振るように人差し指を揺らす。黒いガスの軌跡が空中に殘り、それは竜の形の絵となった。

「うお」

「それは例えば、人のに寄り添う貴種。吸鬼、"ヴァンパイア"と呼ばれ、ある時は人の世に紛れ、ある時は人と共に戦い、そして、人により滅ぼされた存在。この星の夜の現化」

コウモリと踴る、マントを被った人の絵、黒いガスを絵にして、空中にまた絵が描かれる。

キュキュ、とキュウセンボウが目を輝かせながら短い手を絵にばす。コロンと勢を崩して、そのまま転んだ。

「ふふ、それは例えば、自然の力の現。頭に角を誂えし、力強きモノ。東洋において、"鬼"と呼ばれた彼ら。東洋最強の化け狩り、源頼と、東洋最恐の化け殺し、"鬼裂"により討たれたモノたち」

角を誂え、金棒を振るうその姿が描かれる。昔話でもなじみ深い鬼の姿がそこにあった。

「他にも多數、世界中の言い伝え、お伽話、それらを読み返してみるといい。それは創作だけではない。中には今日まで殘っている実話も存在するのだよ。人間、キミはそれを集めるべきだ」

「またカレーにして食うわけか。凡人はやること多くて困るな」

「それが唯一、キミが耳に呑まれずに、この箱庭の探索を全うするための方法だよ。キミという人間の長限界はとうに訪れている。キミに才能はない。戦士として純粋な長はもうないだろうからね」

「わかっちゃいるが、他人にこうまではっきり言われるとぐさりと來るな。やっぱり俺、才能ねえの?」

「ああ、ない。才能だけでなく、キミにはすべき宿命も、選ばれし運命も、貫くべき信念も、何も無い。只、生きて、只、死ぬだけのどこにでもいる凡人、大凡の人間だよ」

「………ショック」

「何を落ち込む必要がある? 宿命、運命、信念、それがない。ただ、それだけのことだ。だからこそキミは多くの神の殘り滓に適応する。持たざるモノには持たざるモノなりの利點もあると言うことさ」

「オカルトだな。ま、実際キュウセンボウに助けられたとすりゃ信じるしかないか」

「きゅ!」

元気に手を振り上げるキュウセンボウに手を振り返し、味山はガス男に話しかける。

「ヒントを聞くこの耳、これもお前の言う神の殘り滓なのか?」

「いいや、違う。似ているが、"腑分けされた部位"と"神の殘り滓"は全くの別だ。起源が異なるのだよ」

「ふーん…… まあ、今のところは俺の役に立つんならそれでいいや。おっと、火が弱くなった」

味山が足元に置いてある細い薪を焚き火に放り投げる。ぱし、木が軋んで、あっという間に火に飲まれた。

「バベルの大の中で手にる取得、アイテムやら、と同じようなものってことか」

その質問にガス男が、また小さく首を橫に振る。

「神の殘り滓は元よりこの星とともにあったものだ。星が時を重ねるにつれ、現れ、消えたもの。キミ達がダンジョンと呼ぶ箱庭由來のはまた別のものなんだよ」

「ややこしいな…… つーかお前、やっぱりバベルの大についても何か知ってるな。バベルの大、アレはなんなんだ?」

「人間、キミは探索者なんだろう。それはキミが自ら降りて、探すべき答えだよ」

「……へいへい。わかったよ」

味山が、大きめの薪を適當に炎の上に置く。蓋をされたように炎が一度その勢いを弱め、しかし徐々に、薪の表面を舐めていく。

「ふむ…… 人間が火を熾す所を見ていると、アレを思い出すな」

「あれ?」

「キミの集めるべき神の殘り滓の1つさ。アレはキミ達人間の源流に近いモノであり、この世界で1番初めに火葬を行なったものだった」

「へえ…… そいつなにもんだ?」

「猿、あるいはヒトに近いモノ。のちにつけられた學名はホモ・エレクトス。はじめに火を扱ったとされる存在だよ。彼は、小規模の群れのリーダーだった」

「名はない。そして殘すものもない。誰も彼のした偉業を覚えるモノはいない。だが彼は殘り滓としてまだこの世界に殘っている」

「そいつなにした奴なんだ?」

「言ったろう? 彼はこの世界で初めて弔いに火を用いた存在だ。はじめの火葬者。群れの長だった彼は、生存競爭に敗れ滅びゆく同胞の亡骸を火で手厚く葬った。誰も覚えていない偉大なる業だよ」

「ほーん、なんか凄えな。それ見つけたらどうなるんだ?」

「適応さえすれば、彼の業の一部をキミは扱う事になるだろうね。どのような形でこの世に再現されるかは、わからないな」

「探索の手段が多くなるのはありがたいな。現狀、次耳と出會えば無事で済む気はしねえし」

「ふふ、よく考え、よく集めることだ。ああ、そうそう、目覚めた後にTIPSに耳を傾けたまえ。キミの近くに存在する神の殘り滓について聞かせてくれるはずだ」

「そりゃどうも。お前なんかゲームのチュートリアルみたいな奴だな」

何気なく放った一言。ガス男のき、その全てが一瞬止まった。

「……ふふ、そうかい。ああ、それは今回のキミがそうんだからだろうね」

「あ? なんだそりゃ」

「……もう目覚めの時間だ。次の探索まで力を集めたまえ。探索を全うするために」

「おい、まだそうやって誤魔化しやがって。俺がんだ? どういう意味…… あ、くそ……眠……」

頭とまぶたに直接來る強い眠気。逆らうことは出來ない。ここでの眠りは現実への帰還を意味する。

「これはアドバイスだ。"鬼裂"の子孫とキミは縁を紡いでいる。"鬼裂"、東洋最恐の化け殺しの殘り滓を探したまえ。キミの探索の助けとなるだろう」

「お、に……さき?」

微睡む脳に、ガス男の言葉を刻む。

「うん……? ああ、今は読み方が変わっているみたいだ。"鬼裂"、キサキの骨はおそらく近くに在る」

「く、そ…… 次の夢で、きちんと説明してもら、うぞ」

「ああ、また會おう。ほら、キュウセンボウ、彼に挨拶を。我らが生家の主人の出立だ」

「きゅきゅきゅ!! キューバイ!!」

「はは、キュウセンボウ…… なんだ、そりゃーー」

まぶたがどうしようもなく重たい。から力が抜ける覚がどうしようもなく心地よい。

味山はそのまま、目を瞑った。

………

……

TIPS€ あと2年と11ヶ月

ちゅん、ちゅぴ、ちゅピピピ。

窓の外から聞こえる小鳥の鳴き聲。海を渡ってここまで來たのだろうか。

「……朝……」

むくりと味山がを起こす。病室の窓からってくる朝日に脳が痛む。

朝が來た。

1日が始まる、やることも多そうだ。

「……退院手続きしねえとな……」

味山が背びし、こうと布団を払いーー

TIPS€ 鬼裂はそのを各地にした。長く続いた戦でその殆どの筋は消え失せたが、長くったモノもある。

ガス男が夢の中で言ってた、TIPSか。味山はくのをやめてそのヒントに耳を傾けてーー

TIPS€ 鬼裂、雪白、白面。人とわった神は未だ、そのしている。

TIPS€ 鬼裂は名前を変え、生き殘った。鬼裂の一族は今や、貴崎と呼ばれ化け殺しの業を剣としてしている。

「え」

TIPS€ 貴崎は"鬼裂"の手がかりとなる。

「……まじかよ」

探しモノは意外なところに現れる。味山はいろいろ考えた後、とりあえず退院手続きのために病室から出ていった。

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