《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》45話 戦う力をマジで我が手に

……

「はい、これで書類は全て完了です。検査に何も異常はございませんでしたのでご安心ください」

病院のメインホール、付窓口にて退院の手続きを味山は行っていた。

清潔のあるホール、大きな水槽の中ででかい亀が揺う。

「あざす。あー、そりゃ良かった。あんだけ何度も検査されたんでなんかあったのと思いましたよ」

味山の検査を行なっていた顔見知りのスタッフにぼやく。

「申し訳ないです。最近、探索者組合から帰還後の探索者への検査を増やせとお達しがあったたもので」

「ああ、いえいえ、ごめんなさい。嫌味言うつもりはなかったんです。お互い、お上のよくわからん指示には苦労しますね」

「ふふ、ご寛容なお言葉ありがとうございます。じゃあ、味山さん、お気をつけて。もうあまり來ちゃダメですよ」

にこりと完璧な営業スマイルを浮かべたスタッフに、味山も會釈する。

こういう上っ面のやりとりは嫌いじゃない。

「ええ、そうするように気を付けます。お世話になりました」

「こちらこそ、では、良い探索を」

頭を下げ、そのままパーカーとジャージズボンのいつもの格好で味山が病院を後にする。

空を見上げれば、高く高く、ただ青い秋空が在る。雲一つないに照らされた空を眺めてると、眩しくなった。

「さて、ここからどうするかなー……」

グレンやアレタの退院はまだしばらく先の事らしい。なくともそれまでアレフチームはオフという事だ。

依頼達の報告はソフィが終わらせていたし、報酬についての段取りもみんなが揃った後の方がいいだろう。

となると……

ーーそれは、キミの探索の助けとなるだろう。

「神の殘り滓ねえ……」

どこを探せばいいか、手がかりは2つ。

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1つはTIPSが告げた貴崎についての報、そしてもう一つは、キュウセンボウのミイラを手にれたあの店だ。

家に帰る前に、一度寄っておくか……。

味山は探索者街の中華地區へと歩みを向けていた。

……

「おっす、王さん、店まだやってる? 潰れてない?」

味山は寂れたラーメン屋の外観の店へ足を運んでいた。

は薄暗く、オレンジの電球がわずかに足元を照らす。田舎の駄菓子屋みたいな雰囲気。

「そんな心配しながらってくるなんて、イヤな客ね!! って、アイヤー、味山さん! 久しぶりねー、まだくたばてなかったアルか」

店の中央、レジ機の奧から現れたのはまたコテコテの中國人のじいさん。この店、王龍の店主、王が現れた。

「誰がくたばるかよ。久しぶり、王さん。元気にしてました?」

「元気よ、元気いー。店が暇だから疲れもないしねー、アレ、もしかしてやばいアルか?」

「うーん、人間としては問題ねえ。商売人としてはやばいんじゃね?」

「むむむ、でも私は! 人間として、生きたいよ!!」

力強くぶ王を目に味山は店を見回す。ホコリ臭い雰囲気だが、不思議と居心地は悪くない。

「あ、そうすか。王さん、それより最近何か面白いモン荷してない? この前のカッパのミイラみたいなやつとか」

「おお!? どしたか味山さん。ついにとうとうイカレタか? うちのインチキ商品を求めてくるとは」

「本音、本音、本音。れてるとかいうレベルじゃねえよ、もう。まあいいや、とりあえず商品見てもいいですか?」

「おっけー、おっけー、オールおっけーよー。じゃんじゃんお金落としていてね。味山さんはうちの経営の予算にっているお客様だからね」

「1人の探索者への売り上げを予算にれるのはやめといたほうがいいと思うけどよお」

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味山がぼやきながら、商品棚に向かう。薄暗い店は商品のさを誤魔化すためか? いや、あの店主のことだ、そんなこと考えずに単純に照明の換をケチっているのだろう。

「さて、掘り出しモンはねえか?」

目を細め、商品棚に雑に並べられているガラクタを眺める。

小さな貍の置に、木彫りの招き貓、なんか明な石など、外國のウサンくさいお土産屋にこどもが河原で拾ってきたものを並べているような……

「ああ、ここまんまウサンくさい外國の土産屋か」

「オウ、コラ、どこか胡散臭いガラクタ屋アルか?」

「自分でガラクタって言ったら世話ねえよ」

笑いながら味山は品を探し続ける。ほんと、この人商売向いてねえな。

味山が笑いを噛み殺しながら、怪しい棚をしていると

「ん? また、なんかこりゃ怪しい……」

それはボロボロの包帯で包まれていた。破れた包帯の隙間から見えるのは乾いた流木のようなザラザラしてそうな表面。

「でけえな……」

値札には3萬円と毆り書きされている。味山は両手でそれを抱えて確認する。

包帯に包まれた棒狀の何か。

これはいったいなんだ?

「おほー、アジヤマさん。またアンタ妙なもの見つけたアルネー、それはネー、猿の手あるヨ!」

「猿の手?」

「アイヤー、アジヤマさん知らないアルか? 願いを葉える猿の手。魔力をめた猿のミイラの手アル。なんでも3つ願いを葉えてくれるあるヨ」

「なるほど、つまりガラクタか」

味山がため息をついて猿の手を商品棚に戻す。

「アイヤー?! 話聞いてたか?! 願いを葉えるマジックアイテムね、マァジックウアアイテエムウ!!」

「3萬で葉う願いなら、普通に3萬で贅沢するわ。だいたい王さんの事だ。その願いを葉えるって話も、どうせなんかのリスクがあるんだろ?」

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「ぴゅー、ピピピー。なんの話か分からないアルネー。猿の手の原作読んでみればいいアル」

「口笛の音を口で言うな。せめてきちんと吹いてよ。……まあ、一応聞いてみるか」

味山は口笛の吹けない王から目を背け、商品棚に置いた猿の手へとれる。

目を瞑り、無意識に、片方の手を耳へと添えた。

聴かせろ、クソ耳。このアイテムのTIPSを。

味山は気づかなかった。

王が一瞬、その眉に潰された糸のような目を、見開いたことに。冷徹に実験を観察する研究者のようなーー

そして

TIPS€ "はじまりの火葬者の腕" 今は忘れられた神の殘り滓の1つ。そのに取り込めば偉大なる火葬の業を再現する資格を得る。

「っ!!」

まじかよ、アタリだ。

味山は表を変えないまま、更にTIPSに耳を傾ける。

TIPS€ はじまりの火葬者の決して焼ける事のない腕。いつからか彼は火に救いを見出した。群れの長たる彼は滅びゆく種族に何もしてやれることはなかった、その滅びは運命だった。

歌のように紡がれる殘り滓の語を耳が拾う。味山はただ、靜かにそれを聴き続けた。

TIPS€ 長たる彼は最後まで生き殘り、仲間たちの亡骸を火で葬り続けた。いつからか彼は火に願った。同胞の魂が火により天に昇るように、あるいはもう2度とこの殘酷な世界に生まれ落ちて來ぬように。

「……王さん、これ買うよ。3萬円ですよね」

「……アイヤー!! アジヤマさん、ほんとにいいアルか? ぶっちゃけこれ、猿の手がどうかも分からないノミの市のゴミ捨て場で拾ったやつアルけど」

「んなもんに3萬の値札よくつけてたね!? ……はあ、でもいいよ、値段が3萬なんでしょ? えーと、今手持ちあるかな…… お、ギリギリある。はい、王さん、ぴったりで」

「おおう、まじアルか、アジヤマさん。うう、この店を救うためにこんなガラクタ買ってくれるなんて…… なんてチョロ…… なんてカモ…… なんて、良いお客さんアルか。ワタシしてるアルよ、毎度ありアル」

王がお札をけ取り、素早い手捌きで數え、すぐにレジの中に仕舞い込む。こういう作だけは早いな、このおっさん。

味山は心しながら、王へつぶやく。

するより先にもっと訂正するところあると思うけど…… まあいいや、レシートいらないです」

味山はその包帯に巻かれた棒狀の品を紙袋へと押し込む。他にもいろいろしてみたかったが、財布の中がもうない。

「王さん、ちなみにここカードとかって使えんの?」

「あいやー 申し訳ないけど、ウチはニコニコ現金払いのみあるヨー。組合に商売の許可は得ているけど、組合直屬の店じゃないアルからねー」

予想通りの答えに味山が頷き、紙袋を抱えた。

「やっぱりかー、絶対王さんカードの機械とか使えなさそうだもんなー」

「かー、アジヤマさん、失禮しちゃうアルねー、こう見えてもワタシ、パソコン通信とか得意アルから、かなり機械強いアルよ。でもカードとかめんどいからいやアル」

「ほら、やっぱり。てか、王さん」

「ナニアルか?」

王が首を傾げる。味山は真剣な眼差しを王に送り、

「パソコン通信ってなに?」

「オウ…… ジェネレーションギャップというやつね」

この後王に、パソコン通信のことを教えられた味山は店を後にする。

味山を見送る王、その瞳の中に隠されたに味山が気づくことはなかった。

………

……

〜ニホン街、噴水広場にて〜

「うま」

まぐり。

ふわふわのパンに包まれたとトマトとレタス。噛み潰すとトマトの酸味との旨味、レタスにまぶれたマスタードのツンとした辛味が絡む。

「まじうめえ」

粒マスタードの辛味もさることながら、ハムにわずかに振られた黒胡椒のパンチが食を刺激する。

おまけにこのポカポカ気。なにを食べても味い。

「あー、ごちそうさま。もう一個買っときゃよかったなー」

ものの二口で味山は噴水のそばに出ている出店で買ったサンドイッチを平らげた。

目の前で噴水が飛沫をあげ続ける。辺りにあまり人はいない。味山は日のを浴びたベンチに深く腰を預けて、大きくびをした。

「さて、どうしたものか」

味山は探索者街の日本街、噴水広場のベンチに腰掛けぼやいていた。

「あー、どうしよ」

呟き、手のひらに収めたものを眺める。

手に持つのはスマートホン型の探索者端末、電子畫面に表示されてるのは貴崎凜という名前。

TIPS 神の殘り滓"鬼裂の骨"の報を集めろ。貴崎凜は、鬼裂の末裔だ

「わかった、わかったから、そういうのはこっちのタイミングでやらせろ」

ふー、味山がTIPSを聞き流し、一度端末を切る。味山の目的に、貴崎から話を聞く必要かあるのは分かる。

しかしものすごく億劫だ。正直、よく分からなくて怖かった。

「うーんむ、面倒くせえ。貴崎が嫌いなわけじゃねーんだけどなあ…… 微妙に気まずいし、どこに地雷あるかわかんねえから怖いんだよなあ」

貴崎凜。

味山の元パーティメンバーにして、歴代最速で上級探索者になった天才。

學生のうちからその適正を認められ、"推薦組"として探索者資格を與えられた數十人のうちの1人だ。

「うーむ…… あいつ妙に底知れねえとこあんだよな…… でも、TIPSの他に手がかりもねえしよー」

目下のところ、アレフチームとしての活を再開する前に出來る準備は全部しておきたい。

"耳"との偶発的接がこの先また起こるとも限らないし、それがなくても、探索者を続ける限り、怪との殺し合いは避けて通れない道だ。

自分は弱い、このままでは遅かれ早かれ、死ぬ。そんな予が味山にはあった。

「でも、まあ、王龍で掘り出しに出會えたし、最悪これだけあればなんとかなるか?」

味山はベンチの橫に置いた紙袋を覗き込む。包帯に包まれた棒狀の何か。耳が伝えるヒント、TIPS曰く、"はじまりの火葬者の腕"らしい。

「うーむ、でもそういやこれ食わんといけねえんだよな…… え、これ、食えんの?」

味山が思わぬ障害に気づく。そういえば、食事がどうのこうのガス男は言っていた気がする。

いや、でもこれどう見ても食いもんには見えないし……

味山が考えを巡らせていたその時。

ふわり。

花の匂い。どこかで嗅いだことのあるような甘くて、らかくて、優しい匂いが屆いた。

ふと目線を上げると、細が味山の前を橫切る。

肩までびるしい金の髪に、白い、ほんのしアレタ・アシュフィールドに似ていて。

ぱさ。

「あ」

ハンカチが、彼のスカートのポケットから落ちた。

味山が反的にそのハンカチを拾う。ふわり、また甘い匂いがした。

の生地に、黃い刺繍、蔦? 観葉植の刺繍がわれている。

落とした金髪のは気付いていない。やべ、早く渡さないとーー

「あ、すいませーん、そこのお姉さーん、これ、落としましたよ!」

金髪のが、歩みを止める。細い肩、細い首、くるりとこちらを振り向きーー

「あは」

「え」

その顔に、いや、その表に味山は見覚えがあった。

ぞわり。背筋に鳥が立つ。

違和に気づく。

広場に、誰もいない。

さっきまでちらほらいたはずのカップルや、犬の散歩をしていたおっさんやら、みんな居なくなっていた。

「噓だろ、てか、サンドイッチの出店も…… どこに……」

異常をゆっくりと、理が理解していく。噴水のそばにあったはずのサンドイッチの出店が噓のようになくなっている。

ありえない。ついさっきまで、ほんのついさっきまで、サンドイッチの出店がーー

「あは…… 粒マスタードのにおいだあ…… 辛いもの好きだったよね」

眼前に突如現れた蒼い瞳。ぞっとするほどに整ったの顔。まんまるの碧眼がくりくりとき、くんくんと、小さな鼻がく。味山の匂いを嗅いでいて。

ハンカチを落とした金髪のが、いつのまにか目の前にーー

「なーー」

「あは、驚いた顔。ほんと、そっくり。嵐の私が言ってた通り、そこにいるんだね」

「お前……まさか」

「あは。今日は塩、持ってないよね」

あのだ。

アレタ・アシュフィールドになり変わろうとしていたあの。ニセフィールド。

「ど、どうして、お前、なんで」

「んー? 教えてもらったの。見つけたって」

目の前のは初めて見る。アレタ・アシュフィールドによく似た金髪碧眼の白人。でも中は、あいつだ。

「いや、だって、そんな」

「ふふ、怯えないで…… でも見に來て良かった…… ああ、見つけた、ようやく見つけた」

が一歩、味山に詰め寄る。反的に味山があとずさりーー

どん。

「あは、危ないよ。こけたら怪我しちゃう」

「は?」

背中を誰かに抑えられる。背後から響いた聲に味山が後ろを振り返り、目を見開いた。

短めの金の髪、味山より頭ひとつ高い長、そしてまた同じ蒼い瞳に、白い

誰だ、こいつ。

「あは、近くで見たら意外と可い顔してるんだね」

「あは、そのまま支えておいてあげてね。こけたら怪我しちゃうから」

「は?」

頭がパニックになってきた。

なんだ、この狀況。

ありえない。目の前にあると、いつのまにか背後に立っていたこの長の高い、2人から同じ気配をかんじる。

「あは、嵐の私は抜け駆けしようとしてたんだね」

「でも面白いよね。まさか塩を投げられて追い払われるなんて。悪霊みたい」

くすくす、くすくす。味山を挾んで2人が小さく笑う。

やばい、なんかやばい。

味山はベンチに置いてある紙袋を一瞥する。なんとかあれを回収して、ここから早くーー

「ねえ、これあなたの?」

「っ?!」

がさり。紙袋が差し出される。橫、いつのまにか現れたのは、金髪碧眼の小さなの子。

フリルのついた服裝に大きな赤いリボンをつけたその様子、まだこども。でも、その目は味山を挾むたちと同じものだ。

くすくす、くすくす。

「あは、みんな來たんだ」

「気になってるんだよ、みんな」

「やっと、見つけたから」

くすくす、くすくす、くすくす

「う、わ」

気付いてしまったのは視線。広場の樹木の木、湧き上がる噴水、空を揺う雲、ベンチの隅、建の窓。

何かがいる。

目には見えない、決して姿を現す事がなくとも、何かがいて、それら全部は味山を見ていた。

「ねえ、これ何買ったの? たべもの?」

がさごさ。

「あ、おい!」

「わあ…… へんなの…… ああ、なるほど、そういうこと……」

紙袋の中、包帯に包まれた腕をがまじまじと眺める。

「あー、いけないんだぁ。かんじわるーい。せっかく私が々箱庭に用意してあげてたのにい」

「くすくす、ねえ、だれにきいたの? こいつらから力を借りようとしてるんだ」

「どうする? うばっちゃう? 今なら私好みに出來るんじゃない?」

「えー、でも、やっぱり自然だからこそあの人だよ。余計な事やめとこーよ」

「そうかー、でも嵐の私みたいに追い払われても面白くないなー、そうだ、癖だけでもいじっちゃう? 金髪碧眼でしか興出來ないようにしちゃうとか」

「あ、それならいいかも」

頭がクラクラしてきた。なんだこいつら、似たような顔、似たような聲でまったく同じ話をしている。

しかも容がクソ邪悪だ。癖をいじるってなんだ、まじで。

味山が本気で逃げようとして

「あ?」

目を剝く。

まただ。が、かない。あの時と同じように、足に力がらず、いうことを聞かない。

「あ、逃げようとしたー」

「なんであなたが私から逃げるの?」

「また私の前からいなくなるの?」

三者三様の整った顔から一斉に表が抜け落ちる。

こっわ! たまにアシュフィールドや貴崎がする表じゃん。マジで怖いから。味山がいよいよ焦り始めた時だった。

「あは、ほんと、そっくり……」

が、王龍の紙袋を持っていたが味山に手をばす。

そのしなやかでらかそうな手が味山へと向けられてーー

あ、やば

がくり、味山の膝が折れる。意思と関係なしに、小さなの手が頭に屆くようにが、いた。

なん、だ、これ。

「ふふ」

「あは」

ニヤニヤしながら見下ろす、そしてが恍惚とした貌で、味山の顔を包み込むようにーー

ぼおぅ。

「え」

「あら」

「まあ」

「へ」

の手が味山の顔にれることはなかった。

代わりに味山がじたのは熱、頬に熱をじる。

ぼおおおおう。

「へえ、すごい。私から守ったつもり?」

「うお、まじか」

味山に手をばしたが、燃えている。火がその小さなを包み、赤々と燃えたがっている。

「あは、すごい。燃えてる」

「うふふ、おもしろーい」

なんで、急に……? 味山はふとその燃えているを観察し、あ、と小さく聲をらした。

腕だ。包帯に包まれた猿の腕。いや、神の殘り滓が、ひとりでに紙袋から飛び出しての細い首を摑んでいた。

ギリギリと干からびたヒトに似た腕が、の白い首を締め上げる。

あれが、燃えている。あれが味山にれようとしたを燃やしていた。

「この中でけるんだ。ちょっと邪魔だね」

「うん、じゃま。一度きえて」

ぱちん。味山の背後のが手を叩く。

「あ」

一瞬で、を燃やしていた火は初めから存在していなかったように消えた。

「もー、こののコが可哀想。首に痕ついたらどうするの? セキニンとってくれる?」

普通じゃない。

とす。がなんのこともなく、自分の首を摑んでいた猿の腕を紙袋に戻した。ベンチへとそれを置いてとててと再びこちらへ駆け寄る。

そのフリルの服やリボンに一切の焦げた痕はみられない。

「あは、こんなものどこで手にれたんだろ」

「あなた、何をしようとしてたの?」

「だめだよ、あんなものに頼っちゃあ。箱庭のモノを使いなよ」

くすくす、くすくす、くすくす。

地面に膝をつき、けない味山をが見下ろし、笑う。

「な、なんなんだ、お前ら」

超越。頭が事態についていかない。あの猿の腕が熾した火も、の手拍子一つで消えてしまった。

こんな時に、肝心の耳はなにも拾わない。しいヒントはなく、味山はただ一杯首をもたげてを睨みつけるだけ。

「お前…… お前たち、なんだ、一誰だ……?」

問うことしかできない。

味山の絞り出した言葉に、達はニヤニヤと笑い続けるだけ。

三日月に吊り上がった口角、薄ピンクのが言葉を紡いだ。

「「「「「さて、だれでしょう」」」」」

「「「「「わたしは、あなたのことをみています」」」」」

「「「「「ずっと、ずうっと、待っています」」」」」」

「「「「「はやく、貴方になってね」」」」」

達が、味山へ近づいて、そしてーー

「またね」

「あ……」

聲がれる。

「……あ?」

蒼い空、白い雲。吹き続ける噴水に、サンドイッチ屋の呼び込みの聲。

犬の散歩をしている何人かが、噴水の近くで談笑している。

「……は?」

いない。先ほどまで味山を囲んでいた達はもう、どこにもいない、

代わりに噴水広場の景がもとに戻っている。多數の人たちの憩いの場。そこには味山を見つめる視線などなく。

がさ。

「っ、うお、なんだ、紙袋か」

王龍の紙袋が、そよ風に揺れる。味山が座っているベンチにきちんと置かれていた。中を確認すると、きちんとっている。

「えー…… まじで、なに…… 夢……?」

どこかで眠って寢ぼけていたのか? あの不気味な金髪の達や、見つめてくる視線などどこにもない。

まるで現実がない記憶に、味山は安易な結論をつけようとして、

ずり。

腰がる。ズボンの下に何かが敷かれていた。

腰をうかして、それを確認する。

「まじかよ」

の生地に、黃いツタのような植の刺繍。

あのハンカチ。金髪のが落としたハンカチが、ズボンの下に敷かれていた。

「っあーー、ほんとやめて、まじで、やめてほんとに」

夢ではなかった。

自分に起きて、どうしようもなかったさっきの怪奇現象は夢ではなかったのだ。

あいつらは、今もどこかにいる。この街のどこか、人々のいるどこかに潛み、歩き、まだこちらを見ているのかもしれない。

「まじでやばいパターンのやつじゃん」

なにも出來なかった。逃げることも、立ち向かうことも。ただ、止まり、膝を折った、それだけだ。

「あの火が、なかったら……」

れられていたらどうなったのだろう。味山は想像に怖じける、ろくなことではないだろう。

あの火、自分がけない中、神の殘り滓だけがあのに干渉出來ていた。

なるほど、これはもう余裕や疑いはない。

マジで戦う力が必要だ。ダンジョンには怪種以外の化けが潛むのかもしれない。

自分の常識とは異なる存在に、生死を握られていた覚、化けに殺されかけるのとはまた違う恐怖を味山は知った。

「……このままじゃほんとにヤバい」

心のどこかで頼っていたTIPS。それはなぜか何も言わない。

恐怖はだめだ。放っておくと、それは自分を殺す。

だから、恐怖は殺さないといけない。戦う力を、恐怖を殺す力が必要だ。

的に味山は探索者端末を取り出し、連絡先を呼び出した。

「もしもし、貴崎。味山です。いきなりごめん。明日どっか飯食いにいかね? 暇?」

恐怖に煽られた味山の行は早かった。

読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非ブクマして続きをご覧ください!

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