《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》48話 帰路ニテ
………
……
…
〜ニホン街、目抜き通り。旅館からの帰路〜
「味山さん、今日はありがとうございました! ごめんなさい、途中私、眠っちゃって」
帰路の途中、歩きながら貴崎が頭を下げた。
「いや、悪いな。疲れてるところ時間もらって。溫泉も、てか本當にタダでよかったのか?」
「ふふ、問題ありませーん。私の家の旅館ですから。……あの、味山さん、その……」
貴崎は結局あのあと1時間以上眠り、味山はその間ずっとその場からかずにぼーっとしていた。
「ああ、うん。またう。まだ聞きたいことあるし、それに今日は奢られっぱなしだったから。今度は俺がご馳走かなんかするよ」
「ほんとですか?! うそじゃないですよね! ふふ、ふふふふ。噓だったらやですよ!」
貴崎が無邪気に笑う。
日本人街の大通り。數々の店が並ぶ通りには人がたくさんひしめき合う。
すれ違う人間の大多數が隣に歩く貴崎に目を引きつけられていた。
そのうちの何人かは貴崎を眺めた後、味山を見て驚いた顔をするか、剣呑な目つきを向けてくる。
怖いので全部味山は気付かないフリをしていた。
「噓じゃねえよ。まあ、貴崎も忙しいだろうし」
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「ふふ、味山さんがってくれるなら予定は空けますよう。あー、でも確かにこれから先し重めの仕事の準備があるんです」
「重めの仕事?」
「はい。味山さん、先日起きた多數の探索者が同時に行方を絶った事件、ご存知ですか?」
「行方……」
貴崎の言葉に味山が空を眺めながら記憶を馳せる。15時、高くなった空はし、夕焼けの気配を醸し出すしていた。
行方不明…… 同時、多數……。
「あ、あれか」
思い起こすのは、あのソロ探索。確か大鷲の特異個の駆除依頼を終えた後に向かった探索だ。
知らせ石を手にれたあの日の、奇妙で、しかし強烈に印象に殘っているセーフハウスでの一件を思い出す。
「ご存知でした、味山さん?」
「ああ、つーかあの日俺も普通にソロで自由探索に出ててよ。尖塔の巖地で起きた奴だろ?」
「え!! あの日探索に出ていた? ……もしかして、あの日に未確認怪種の片を持ち帰った日本人探索者って、味山さんですか?」
「片。あー、あのブヨブヨしたホースみたいなのか! そーそー、思い出した。組合に持ち帰ったらすぐ接収されたや、そういえば。なんだ、貴崎も知ってたのか」
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「知ってたも何も…… いえ、これはご存知でしたか? 最近、1日あたりの未帰還探索者の數が異常な數字に上昇していること」
「うわ、それ初耳。いやな報だな」
味山が顔をしかめる。
「組合は現在、この事態の調査に力をれています。実は味山さんがあの片を持ち帰って以降、各階層、各エリアで同様の怪種の痕跡が見つけられているみたいなんです」
「あのブヨブヨが? それはあまり想像したくねえな……」
「……あの、言いにくいことだったらごめんなさい。私が報告書で読んだ容なんですけど、そのブヨブヨって……」
貴崎が言葉を言い淀む。報告書、つまりあのブヨブヨのホースがどんな攻撃をしてきたのかも知っているということか。
味山は歩みを止めずに、なんともなしに答えた。
「ああ、お前が読んだ通り。多分アレ、探索者の死骸に寄生かなんかしてたぞ。その死骸をストラップみたいに振り回して辺りをめちゃくちゃに攻撃してた」
「うわ、あの報告書ほんとだったんですね。それはドン引きですね」
「あー、あまり見ていて気持ちの良い景じゃないな。でも、アレ、やっぱたくさんいるわけか」
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「うーん、どうなんでしょう。実は近く組合は大規模な調査作戦を行うみたいなんです。本格的にこの未確認怪種の駆除に乗り出すようですね」
「じゃあ貴崎もその調査に?」
「はい、多數の上級探索者と指定探索者を投する予定らしいです。実はもう一部の指定探索者は調査に乗り出してるみたいで、怪の生息地も後もうしで割り出せるみたいな」
「でも、たくさんあのブヨブヨいるんだろ? なかなかローラー作戦だな、それ」
「うーん、たくさん…… 実はこれまだ確定じゃないんですけど、この怪種、もしかしたら全て同一個の可能が高いみたいなんですよ」
貴崎の言葉に、味山が目をし剝いて、え、と聲を上げた。
「でも、貴崎、さっき々な地域で発見されてるって言わなかった?」
「うーん、そこなんですよね。そこが組合も把握出來てないんです。同時に各地に出現しているのに殘る痕跡から得る伝子報は全て、同一個のもの…… 謎ですよねえ……」
貴崎も歩きながら頭を捻っている。
聞けば聞くほど妙な話しだ。味山がぼんやりとあの時のことを思い出していると、
TIPS 人知竜は、己の管を箱庭のほぼ全域に張り巡らせることに功した。なくとも人類が到達している地點において、ヤツの管が屆かぬ場所はもう、ない
「oh……」
悩んだ途端、頭を悩ます正解が耳に屆く。
「ど、どうしたんですか、味山さん。急に外國人みたいな嘆詞を……」
「いや、なんだ。人間、本気でohとじると、ohとしか出ないもんなんだよ」
「そ、そうなんですか…… 深いような、それでいて、まったく深くないような……」
「貴崎、多分これ、俺の勘だけどブヨブヨのホース野郎は一だ。んで、どこかに本が居ると思う」
「ええっ!? なんですか、その急な閃き?! さっきのohから味山さんに何があったんですか?!」
「男にはたまに天から聲が屆くことがあるんだ。多分貴崎が言う通り、そのブヨブヨは本のパーツにすぎねえ」
「すごい確信! で、でもあの日、巖地地帯から帰還して怪種の片を持って帰った人が言うとなると説得力があるような…… うーん」
さらに首を傾げる貴崎。その様子を見ていると、普通のの子。年頃の當たり前の子どもに見えて來る。
「貴崎、お前そんな顔もするんだな」
「味山さんこそ、変なこと言ったりするんですね」
互いにニヤリと笑い合う。班を組んでいた時には互いが互いに見せない顔を2人ともしていた。
風が吹く。
秋の風は冷える。真正面から吹き付ける風に味山がわずかに貴崎の前に出て歩く。
「……ありがとうございます」
「ん、湯冷めしたらいけないからな。まあ、貴崎、仕事頑張れよ」
人知竜、味山だけが知るその怪の名前。TIPSが伝える斷続的な報だけでもその危険さは伝わる。
しかし、貴崎に行くなとは言えない。
探索者に危ないから探索にはいくなとは、あまりにも思い上がった言葉であると味山は理解していた。
「ふふ、わかりました。でも本格的にこの仕事が始まるのはもうし先ですね。指定探索者が怪を発見してからが、私達の出番ですから」
「見つけた指定探索者がそのまま始末すればいいな」
「えー、それはそれでつまらないですよう。未だ誰も知らぬ獲を斬る。探索者冥利に盡きる愉しみじゃないですか」
風に混じり聞こえる言葉。そのうちに孕む狂気に味山は安心した。
ああ、やはりこの子もきちんと探索者だ。いい合に正気で、ちょうど良く外れている。
2人が歩く。目抜き通りを抜けるとそこは待ち合わせと同じ広場だ。
人はまだ多く、探索者やバベル島の従事者などたくさんの人種がりれる。
「ついちゃいましたね…… ねえ、味山さん。最後にしお話ししていいですか?」
広場にゆっくり近づきながら貴崎が呟く。
「ああ、大丈夫」
「……鬼裂のことなんですけど。1つおじいちゃーー 祖父の言葉を思い出したんです。味山さんに鬼裂のことを話してたら、ふと思い出したんです」
「鬼裂のこと?」
味山と貴崎は手近なベンチに座り込む。人の波を眺めながら、貴崎がゆっくりと話す。
「はい。首のない納屋の骸骨。"鬼裂の骨"には、首がありません。その理由です」
「……処刑だから、斬首されたんじゃねえの?」
「いいえ、記録では鬼裂は腹を裂かれ、心臓を抉り出されて死んだそうです。彼は腕を斬り飛ばそうが、足を斬り飛ばそうがすぐに繋がったみたいですから」
「バケモンだな」
「鬼ですから、そのぐらいできるのかもしれません。……その、言うかどうか迷ったんですが……」
「なんだ? 正直鬼裂の話ならなんでも聞きたい。教えてくれ」
鬼裂の話はかなり聞いたが、結局肝心の、骨をどうやって手にれるかはまったく進行していない。
鬼裂の力を得るのなら、それを食べなければならないはずだ。さすがに貴崎に直接、先祖の骨をくれとは言えない。
味山は何か狀況が進行するヒントを貴崎から得ようと言葉を待っーー
「探してるそうです」
ぽつり。風に混じり貴崎の呟きが舞う。
「探す? 何を?」
味山の問いに、貴崎がこちらをじっと眺める。
「鬼裂の首は死んだ後、突如消えたそうです。言を殘し、貴崎の當主達がし目を逸らした瞬間、首だけなくなっていたそうなんです」
「くび、だけ……」
「はい、首だけになった鬼裂は、貴崎の前にいつか現れる待ち人を自分でも探しているそうなんです。そして、鬼裂の言はその目印と言われています」
「めじ、るし……」
味山がごくりと、いつのまにか溜まっていた唾を飲み込む。風が冷たい。秋だからね、それ以外に理由はないはずだ。
貴崎が、微笑む。
「はい。言は今日確かに伝わりました。もしかしたら、消えた鬼裂の首も気付いたかもしれません」
貴崎の目が、三日月のように歪む。しい者にしが許されない魔の表。
「探しモノがどこにあるかを」
貴崎の人差し指が、味山を指して……
「お前だあああああああ!!」
「うわばばばああああああ?!」
覆い被さるように貴崎が両手を広げる。味山は思わずあとずさり、ひっくり返りそうになった。
「あはははははは!! ご、ごめんなさい、味山さん、そんな、ふふふふ、驚くなんて!!」
「おま、お前、お前ほんとよお。いい格してんなあ、貴崎ぃ」
味山がベンチの腰掛けに寄りかかり大きく息を吐く。
始めはどこかおぼつかなかった貴崎との會話も気づけば何も考えずともうまくやれるようになっている。
ケラケラと笑う貴崎。きっとこの子の素はこれなのだ。
自信家でプライドが高く打算的で、イタズラ好き。
きっとその姿は々なモノが邪魔をして表には出せないものなのだろう。特別な人間には特別な人間なりの苦労もあるのだ。
「ふふふ、お嫌いですか?」
「いや、そっちの方が好きだ。俺は」
「すっーー?! いえ、ふふ、そうですか」
ケロリと答える味山に貴崎が目を見開き、それかららかく笑った。
「じゃあ、味山さん。私そろそろ帰ります。これからチームのみんなと打ち合わせがあるんです」
ひとしきり笑ったのち貴崎が、ベンチから立ち上がる。味山は背もたれにを預けながら手を振った。
「おーう。坂田やらなんやらによろしく伝えといてくれや」
「ふふ、それは荒れますよー。打ち合わせどころじゃなくなっちゃう。でも、味山さんがチームにってくれるなら、みんな黙らせちゃいますけどね」
可憐なが振り返りながらウインクする。長いポニーテールが彼のを巻くように翻った。
自分がどこからどう見ればかわいく見えるか理解してるような所作に味山は笑って返す。
「おっかねえ。化けよりも恨まれてるチームメイトの方が怖いよ」
「ふふ、いつでもうえるかむですからね、まあ、でも味山さんが來なくても、私が迎えにいきますから」
「迎えに?」
味山がキョトンと目を開いた。
貴崎が遠近の摑めない足取りで、ふわりと座ったままの味山に詰め寄る。
ばらりとまとめられた黒い髪が味山の頬にれてしまうほどに近い。
貴崎の整った顔しか、味山の視界に映らない。薄く潤った小さなが、いた。
「指定探索者に私はなります、使える権限、力、発言力、権力、実績。今はまだあの星と比べるべくもないけど。必ずあの星から貴方を奪いますから」
ふわり。柑橘系のフルーツに似た爽やかな匂いが味山の鼻にれ、離れる。
すっと、貴崎がその場から一歩下がり、おどけて敬禮しながら、にかりと笑った。
「だから、まってて下さいね。私の味山さん♪」
その笑顔は、話している容のヤバさを除けば文句なし100店満點のものだった。
「じゃあ、名殘惜しいですがこれにて。またってください! ってくれなかったら、私がいますので!」
貴崎が去る。
味山は口を開けてひらひらと手を振ることしかできない。
「あ! そうだ! 味山さん」
くるり、貴崎が踵を返し何か思い出したように戻る。
「あ、はい」
「鬼裂の首の話ですけど、あれ全部ホントの話ですから」
「え、首? え、噓、あれ、マジなんか?」
「マジです。祖父、おじいちゃんが昔、貴崎に伝わる鬼裂の首塚を掘り返したことがあるんですけど」
「お前のじいちゃん、ロックすぎねえ?」
「ふふ、あなーきーでしたから。で、おじいちゃんが掘り返した首塚はね、やっぱり空っぽだったそうですよ」
「空っぽ」
「空っぽです。……だからもしかしたら今夜辺り、探しにくるかもでーす。よし、言いたいこと全部言えた。じゃあ、味山さん、今日はありがとうございました! またね!」
すっきりした顔で、貴崎が今度こそ走り去る。
味山は口を開けたまま、ぽかんとぼやけるだけ。
「え、今夜探しにくんの?」
そのつぶやきに返ってくる返事はなかった。
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