《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》49話 鬼裂 渓流 再會
……
…
〜21時ごろ、貴崎とのデート後、味山宅(築3年、探索者用アパートにて〜
「47.48.49.ごおおおじゅううう!!」
腕が引きつる。腕の後ろのが膨れ上がるような覚。肩が重たく、疲労が全へと広がる。
ダンベルを両手で握り、持ち上げ、ゆっくり振り下ろす。
日課の筋トレを終えた味山は、ダンベルを収納スペースへと置き、大きく息を吐いた。
「筋トレ! ヨシ!」
ーー探してるそうです。
味山の頭の中には別れ際の貴崎の言葉が張り付いて離れない。
「まあ! ビビってねえけどこれでヨシ!!」
味山は自室にて、パンツ一丁で仁王立ちし、強くんだ。必要以上のテンションですでには清めた。47度の熱目のシャワーを浴び、塩でを絞めた。
「ヨシ!」
部屋の四隅、大皿に乗せられた盛りに盛った塩へ指差し確認。
「ヨシ!」
玄関の窓や、部屋中の窓をうめつくさんばかりにられたお札に指差し確認。お札は帰りしに、日本人街の神社で大量に購していた。
[仏説・訶般若波羅多心経観自在菩薩・行深般若波羅多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。不異空、空不異、即是空、空即是。・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無、無・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・・意、無・聲・香・味・・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明盡、乃至、無老死、亦無老死盡。無苦・集・滅・道。無智、亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅多故、心無罜礙、無罜礙故、無有恐怖、遠離・一切顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虛。故説、般若波羅多呪即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経]
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「ヨシ!」
端末で永遠にループされている電子購した般若心経の音聲を指差し確認。
「ふふふ、ビビってねえ、ビビってねえが、アレだ。備えあれば憂い無し。鬼裂だか生首だが知らねえが俺のこの霊的防が為された部屋! いや、要塞にり込める隙間はねえ!」
腰に手を當て仁王立ちする味山が笑う。どこかその様子にはから元気さが目立っていた。
「手斧! ヨシ! 知らせ石! ヨシ!」
ベッドの枕元にはホルダーにれた手斧、パンツのゴム部分に知らせ石を紐で縛り括り付ける。
かつてここまでダンジョンから手にれたアイテムをアホな事に使う人間はいなかったことだろう。
「猿の腕! ヨシ! 頼む、なんかあったらあの時みたいにマジお願いします!」
テーブルにはろうそくと達磨で飾り付けたあの猿の腕が置かれている。包帯にグルグル巻きにされているソレは、よく見なくても何かの呪いの儀式に見える。
「電気、ピッカピカ!! ヨシ! はい、もう今日は寢ます。はいおつかれっしたー、あざっしたー」
ざぶん、ベッドに味山は潛りこみ目を瞑る。ご丁寧に布団を頭まで被りこみ、隙間という隙間を布団を丸め込んでロックする。
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「寢ます、オレマジ寢てるんで、ほんとにきても意味ないから」
誰に言っているか分からない言葉を1人で喋りながら味山は照明をつけたままの明るい室で眠る。
數秒もしないうちに、味山の意識は布団の中に溶けた。
………
…
河の音は聞こえない。
自分が浮かんでいるような、沈んでいるような奇妙な覚。
くらやみ。
眠りと覚醒の狹間。
TIPS€ 條件たっセい
Tぃp S€ きサき リんとおンセん二はィる。鬼裂ノ言をキく。
t IぷS € えNでィNグ LすTO かIhおU
€ーーさん……
腕に抱いたはつめたい。命を失ってからもうだいぶ時間が経つ。
か細く、己の名前を呼ぶ聲はかすれ、空気に阻まれ消えてしまいそうだ。
のからはもう、は流れない。哀れな人形。死してなお、休むことすら許されぬ人形のに赤いは必要なかった。
「aじーヤーさん」
聲。彼が聲を絞り出すたびに、仮初の命すらその骸から消えていく。
を殺した腕で、の骸を抱きながら、が終わっていくのをただ見ている。
アじYaまにはそれしか出來ることがない。
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€ねえ、ーーyaまさん。もし…… 次がーー
€私の家、りょカん、溫泉ーー
€一緒ニ、モっと、おシゃべりーー
€もし、もしね、葉うのなら
€ ツぎが、あルならーー
聞こえない。
腕に抱いた人形の言葉は聞こえない。
誰だ。これは、俺は誰を、誰の言葉を聞いている?
これは、なんだ?
TIPS€ E NでィNぐなんBER 28 人形の願い
「ふがっ……!」
意識が戻る。いつのまにか、眠っていたらしい。
何か、何か、夢みたいなものを見ていたような。
おぼろげな記憶、それを思い返そうとした途端、ひどくが乾いていることに気づいた。
「、乾いた……」
寢ぼけ眼でベッドから起き上がる。1つ作を行うたびに、微睡の中にみた夢の記憶は噓のように消えていく。
水を飲みに、暗闇の中を手探りで味山が進む。
たしか機に端末を置いていたはずだ。ライトで照らしながら冷蔵庫まで進もうとしてーー
ぞわり。全に怖気が立つ。
くらやみ?
何故?
味山は寢る前に電気をけしていなかったのにーー
異変に気づき、歩みを止めた。その時だ。
ぱ、チ、ん。
電気が唐突に點いて部屋が明るく。
闇に慣れた瞳に景が戻る。
「う、わっ」
悲鳴。それも途中で搔き消える。
何故か。
閃くのは、一筋の。それが剣閃だと理解したのは味山の右腕、ひじから先が宙を舞った後の話だった。
「は」
れる聲、悲鳴にすらならない。脳の理解が追いつかない。
右腕、何かかれる、熱い、熱い、無い。
赤。
ぼた。跳ねた右肘の先、手のひらが音をたてて床に落ちる。
飛沫が、築3年の部屋の壁、天井を濡らす。
くらり、意識が遠のく。の中から一気にがなくなり、脳への酸素供給が滯りーー
「う、があ!!!」
足を踏み締める。腹に力をれる。
味山は倒れない。を捻り、まだ殘っている左腕、拳を握りしめ、突き出した。
「あああ!!」
確かな。
ようやくここで味山は視覚報を、本格的に認識出來た。
左の拳、拳骨の皮がめくれる。
い。自分の拳が命中した相手を見て、味山は息をらした。
「ほ、ね……?」
窪んだ眼窩に、景を寫す瞳はない、その者には皮すら故に。
顔の中心、突き出るはずの鼻はなく、窪んだが覗く。鼻なぞ、とうに腐り落ちている故に。
むき出しの歯がずらりと並ぶ。それらを隠すもなく。
骸骨。がいこつ。骨。
やつれ、れた骸骨がそこにいた。
頭蓋骨は黃ばみ、それ以外のの部分は赤黒く染まっている。まるで、が固まっているかのように。
味山の腕を斬り飛ばした刀を、のない指で握りしめたその姿。
「驚いた。腕を斬り飛ばした直後に毆られるとは。熊次郎以來か」
骸骨が口を開かずに喋った。
その聲はしわがれ、かすれ、だがそれでいて腹の底に響く膽のあるものだ。
「っ!!」
味山が瞬時に後退、ベッドに背中から倒れ込み、枕元の手斧を手に取る。
スプリングの跳ね返りそのままに、カバーも取らず手斧を思い切り上段に振りかぶる。
考えはない。反による反撃。
やらなければ殺される。それだけは分かっていた。
「型もなし、才もなし、もなし。筋はそこそこ、しかし天賦のものでなく練によるもの。弱い、弱すぎる。だがーー」
「死ね、がいこーー」
剣閃。骸骨の持っていた刀が味山の視界から消えて。
「だが、瞬時に殺しにかかる、その膽やよし、惜しむらしくは」
閃き。音もなく、部屋の電燈の明かりを刃がけ、が走った。
「っぁゑ」
ぽんっ。
反転、反転、回転。
視界がめちゃくちゃにくるくると廻る。どちゃっとした水音が呑気に耳に屆く。
なんの覚もない。腕を振り上げる覚も、斧を握る覚も、全てが消えて、離れた。
あれ、おかしいな。
あれ?
味山の視界に最後に映る景は、首のない。パンツ一丁で、右肘から先のないが膝をつき崩れる景。
首の斷面図から冗談ではないかと言うほどにが噴き出し、部屋をの海に変えた。
あれ、おれ、首、どこいってーー
「惜しむらしくは、弱過ぎる、その才の無さだ」
ぶじ。
首だけになった味山のこめかみに、刀の先が突き刺さった。
くら、くららららららららーー
………
……
…
「首イイイイイイイ!!! ……い?」
サアア、ざああ。
水音。膨れて弾けて、流れて染み込む。
河の音が聞こえる涼やかな渓流の側で、味山はがばりと起き上がった。
「はあ、はあ!! あ? ここは……いつものか。首…… ある。右手……ある」
起き上がり、何度も何度も首をさする。頭を摑んでぐらぐら揺らしても外れることはなさそうだ。
「生きてる…… 首、ある…… あー、マジか、なんだあの夢……」
味山は力が一気に抜けたそのままに、その場に座り込む。
流れる巖清水、河の流れを彩る大巖、時折跳ねる魚。
いつもの、渓流の夢だ。
「やあ、人間。こんばんは。いや、この場ではおはようの方が正しいのかな。どうあれ、再び會えてよかったよ」
「おーう、ガス男、お疲れ。あー、なんかお前の聲聞いたら無に安心してきたわ。あ、ちなみにおれ、首繋がってるよな」
いつものモヤで象られた顔の見えないガス男がふっと現れる。こいつに関してはもはやいつものメンバーすぎて、安心さえ覚えてきていた。
「よっと、おや、どうしたんだい? ひどく疲れている様子に見えるが。あちらで何かあったのかな?」
「あー、あった、あったよ。ひでえ夢……。部屋の中に突然よ、なんか日本刀持った骸骨が現れて、見事に斬り殺された。いやあ、見事だったな。本當に斬られても大して痛くねえんだわ、いやー、あっぱれな骸骨だったぜ」
味山はケラケラとから元気で笑った。
笑ってないとやっていられない。あまりにもリアル過ぎる死の覚。し思い出そうとすると、吐き気すらこみ上げる。
宙を舞う首から見た視界。自分の首のないがおもちゃのように崩れ落ちる景。
「うえ」
思わずえづく。吐きはしなかったものの、気持ち悪さが込み上げてきた。
「おっと、大丈夫かい? ほら、水でも飲むんだ」
ガス男が竹筒を差し出す。け取るとチャパリと水音がした。
「水筒か? 悪い、貰う」
中を煽ると、冷たい水がに流れ込んでくる。味い、ただ味い水だった。
「っぶはー!! 生き返る、すまん、マジで味い」
「ふふ、お気に召して何よりだ。ここでの時間は穏やかだからね。私も何かを作ることなんてしたことがなかったから得難い経験だったよ。水もここからさらに上流から汲んでいるんだ」
「ほーん、なんかスローライフってじでいいなー。俺も、探索者引退したら、そんな生活がしてえよ」
「できるさ、きっとね。そうだ、人間。キミを斬り刻んだ骸骨…… もしかして、あそこでキュウセンボウと遊んでいる彼の事かい?」
「できたらいいなー、ああ、そうそう、あそこでキュウセンボウと遊んでるアイツツツツツツツツツツ、ハァ?! キュウセンボウと遊んでる?!」
ガス男の指差す先、ここより下流の岸部の木のもとで小さなカッパがキュッキュッと楽しそうに鳴いていた。
著のような服を纏った骸骨にあやされながら。
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